鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

アンソロジー第二集『鰯の告白』全曲解説

2024年3月23日、アンソロジー第二集『鰯の告白 Sardine's confession』をお届けします。 今回のも20曲入り 1時間26分と盛りだくさんです(適当に休みやすみ聞いてください)。内容は前のほどキャッチーではなく、シブくてフォーキーなビタースイートで、音質が悪かったり音量が低かったりする曲も一部ありますが、全体に統一感があり、聞くたびにおもしろさが発見できるアルバムだと自負しております(Blueskyへの投稿より)

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ディストリビューターの)TuneCoreにアルバムを登録する際、楽曲の自己紹介文を記入したが、今回はそれをアレンジしてみた。やや硬めだけど、簡潔にまとまっている解説と思うから。できれば音楽を聞きながらナナメ読みしてください。

Sardine's Confession Anthology II

Sardine's Confession Anthology II

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥1833


意外と地味じゃないんだよ、聞いているとワクワクするんだ。ホントさ。大きな音でかけてみて

 

1. 放蕩息子の生還 1995年
「放蕩息子の生還」は職を失って故郷へ帰った男の失意を描いたもので、寓話的な要素を含んでいる。楽曲の構造はブルース形式だが、アメリカっぽいコーラスを加えたことによって、楽観的な雰囲気も漂わせている。この曲を作った当時、私は仲間たちと路上ライブを敢行していたけど「放蕩息子」は重要なレパートリーだった。飛躍するメロディにジャズの要素がある、といって管楽器のプレイヤーたちが好んだんだ。

 

2. 藍を染めあげ 1999年
プログレッシブロックふうのアレンジと、工夫を凝らした転調。会心の出来だと自負していたものの、某ユニットの何々に似ているという評価にすっかり落胆し、私は以後この曲を長らく顧みなかった。

聞いたことがない歌でも、どこかで耳にして、知らず知らずのうちに影響を受けたかもしれない。この曲やっぱりいいじゃん、と見直したのはごく最近。

自分の書いた曲でコード進行が凝っているものの筆頭にあげられよう。二転三転する転調が「とりとめのない不安と届かぬものへの憧憬」を表した、スケールの大きな海洋音楽である。

以前、「藍を染めあげカヴァーしたいから」といわれたので、慌てて書いたコード譜を掲載します(結局カヴァーしてくれなかったけどさ)。

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3. 遠い渚 1991年

1983年、東京神田の楽器店でアルバイトしていたころに作った。高熱でうなされているのに看病してくれない恋人の薄情さを嘆いている友人をモデルにした。歌詞の一部に、ポール・ニザンの「アデン・アラビア」が反映している。

このヴァージョンは1991年に再録したもので、演奏した本人は、遠い渚の風景を描写したつもりだが、いかんせん後奏が長すぎる。 けれども、ブリリアントなピアノのリフレインと、印象派ふうの凝った和声構造は、当時としては気が利いているほうだと思う。

 

4. かりん 1992年

この曲を世間にさらすのは今回が初めてだ。

きわめてドメスティックな表現である。 かりんという、実際は生で食べられない果実を思い焦がれる女性に喩えるという歌詞は、男性側の視点のみで描かれた、完全に時代遅れなものだ。けれども私は選曲する際に、恋愛時における狂おしいまでの感情の起伏と透明な哀しみを捉えたドキュメントとして、この曲を外すわけにはいかなかった。

 

5. Baby it's so hard. but I don't mind 1992年

自己憐憫は私の得意分野だが、これも狂おしいまでの片想いソングだ。「私を好きになれないのなら恋敵のところへ行けばいい」という、男性特有のエゴイズムが如実に表れている。 だが、人は多かれ少なかれ、私生活での迷走をくり返しながら、経験を積んでいくのではなかろうか?

ゴドレイとクレームみたいなピアノのアルペジオが陰惨に陥りそうな歌のムードをかろうじて救っている。

ところで気がついたかい? ミドルエイトのコード進行が、「藍を染めあげ」に再利用されているってことに。

 

6. 三月の雨 1997年

頭脳警察3的なナンバー。使用機材のTEAC製4trkカセットテープレコーダーは、録音を重ねるごとに音質が劣化する。「三月の雨」がローファイなのは何度もピンポン録音したからだ。

だけど意外とポップなメロディー。子どもがまだ小さいころ、「♪三月の雨なら〜」と歌っていたっけ。そう、どこからともなく「入れといたほうがいいかも」という声が聞こえたんだ。前作のアンソロジーに収めた「フェアリーテイル」同様、ほとんど忘れかけていた歌だ。滑りこみセーフ。

 

7. はじめまして 1993年

恋愛の只中に作られた、多幸感に包まれた音楽。結婚式に配った「ひきでもの」のカセットテープに収録した。

ブギウギとビックビートのアマルガム。ぼくは偏狭な洋楽マニアだから、フィル・スペクターのセッションにボンゾがドラムで参加したらどうなるかな、なんてしょっちゅう夢想している。録音の最中がいっとう楽しい、ロイ・ウッドみたいなものさ。ま、コーダのプラントふう「ウーイェー」シャウトは蛇足だったな。
じつは、昔からぼくの歌、いわゆる洋楽マニアには大層うけが悪い。今回の配信でも「無視」の気配はひしひしと感じる。
それと、こういった底抜けに明るい曲調は、仕事で全国の幼稚園や保育園を訪問していて、童謡や子ども向きの歌にやたらと詳しくなったから、その反映だ。

 

8. えくぼ 1993年

ありのままを歌った曲。つき放したように感じる言葉の裏にも、優しさと思いやりがうかがえる。私も経験を積んで、少しは成長したのかもしれない。

音楽的にはアイディア一発勝負。アコギとスリットドラム。音がスッキリしているのは重ね録りしていないから。もちろんジョニ・ミッチェルは私のオールタイムお手本、だ。

じつはギター弦を張り替えたとき、適当に遊んでいるうちにできた即興曲だ。それで展開がなく構成も単純なんだ。

 

9. 午前3時 1993年

アルバム唯一のインストルメンタル

二声のコーラスは、カーツウェルK1200とローランドJD800のシンセサイザーに入っている「アー」という合成音を使った。

真夜中に精霊たちがささやいているように聞こえないか?

 

10. 新世紀行進曲 1993年

20世紀末に作られた、21世紀への希望と期待を託したマーチ。四半世紀を経た今日の惨状を鑑みれば、残念としか言いようがない。だが、それでも生きていくからには、よりよき明日に希望をつなぐしかないと思う。それはラストの英詞にも表れている。ピーター・ハミルのフューチャー・ナウを引用した。and make life worth more than dreams.

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11. スーパーマーケット 1998年

私もいちおうプロの作曲家になるべく、各方面にアプローチしてはみた(人一倍の努力は怠ったけれども)。その過程でさまざまな人間模様を垣間見た。詳細は省くが、「市場」の中の一商品であることに私は耐えられそうになかった。

晦渋や皮肉をふり払うように、陽気なアレンジをほどこした。初期のトーキング・ヘッズXTCみたいに知性と衝動がうまく噛みあったギターアンサンブルを参考にしたつもりだが、スケッチにとどめずにちゃんと録音しておけばよかったと後悔している。

 

12. 鐘の音が聞こえる 1995年

男は失意に囚われてはいるが、希望の道標がないかと模索している。すると突然、街の時計塔から鐘の音が鳴り響いた。鐘の音を聞いた男は、そこに光を見出した。女性との出会いかもしれないし、新たな職を得る手がかりを掴んだのかもしれない。

90年代中盤に、私はブルースロックの形式を何度か試みた。ハーモニカを学んでいる若者にブルースハープを手伝ってもらった。クレジットに加えたいが名前を忘れてしまった。この歌をどこかで聞いたら連絡してほしい。

 

13. 好きになってください 1999年

これは「みんなから認められようと躍起になったけど、誰からも認められなかった」歌だ。まあ、しかたない。楽曲の展開がA-B-Cで、あまりにも図式通りだし、細部まで注意深く作っていても、かんじんの歌と演奏に覇気がないもの。や、いい歌だから選んでいるんだけどさ。迷える鰯くんって感じだよね。でも、サブスクで流すぶんには悪くないな。楽曲のポピュラリティーだけが濾過されて聞こえてくる。

ところで気がついたかい? この曲の前奏がアンソロジー第一集に収録の「空の下のリベルテ」を再利用しているってこと。

 

14. シンパシー 1999年

架空のミュージカルナンバー。なぜメッセージソングは素朴でなければならないのか、もっとドラマチックに表現してもいいのではないか、と私は考えていた。結果、自作中いちばん技巧を凝らしたものになった。

この曲にはローラ・ニーロの影響が色濃く表れている。『鰯の告白』というアルバムタイトルからして『イーライと13番目の懺悔』のオマージュなのだから。

 

15. 裸足で踊って 1999年

まるで童謡みたいに素朴な旋律だ。しかし企図はある。私はこの「裸足で踊って」を、自分が書いた小説の主人公(亜沙美と名づけた)が生まれて初めて作曲した歌だと構想している。最終的に彼女はこの歌の著作権を放棄するという設定だ。素朴な意匠をまとっていても、成り立ちがややこしいことこの上ないのが、鰯の音楽なのである。

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写真は、小説のために書き起こした「亜沙美の記した楽譜」。

 

16. マルガリータ 1998年

作曲家になるステップで、私はさまざまなデモ作品を制作した。「マルガリータ」は構想の段階で早々に没を食らった。出資者からパロディだと思われたのだ。J-POPの文脈でタンゴやハバネラやマリアッチのムードを導入するのは遊びが過ぎると判断されたのだろう。おかげさまで今日、誰にも憚らずこの音源は使えるわけだけど。

私はいつも、いたって真剣だったよ。

 

17.  街に響くは 2001年

このほろ苦い歌詞が生まれたきっかけは、商店街を歩いていたら、そのころヒットしていた三木道三の「一生一緒にいてくれや」って歌が流れてきて、ぼくは不覚にも泣いたんだ。あーオレもう無理して人に気に入られるような歌を書く必要ないな、だってもうそんなの星の数ほどあるんだし、もうこれ以上世の中にラブソングは必要ないよな、と思った経験から。つまり、諦念の歌だ。

もうこれ以上必要ないくらい
もうこれ以上なくたっていい
いまさら誰かが上書きしなくても
もうじゅうぶんさ筋書きは読める
街に響くは恋のうた……

ああ、確かにコーラスが「Killing Me Softly With His Song」で「So Sad About Us」だ。が、それがどうしたい?

 

18. もっと もっと もっと 2001年

仕事帰りに秋葉原を歩いていた私は、駅に向かう人並みを眺めていて、この人たち一人ひとりに愛する人がいるんだろうか、もしかしたらいない人のほうが圧倒的に多いんじゃないかと想像した。すると、駅へと急ぐ無表情な顔した人びとが、急に愛おしく感じられた。

人が思うほど、計画して曲づくりしているわけではないんだよ。たとえばこの歌はファルセットと地声が交互に現れるけども、シナリオのセリフよろしくヴァースごとに役割分担しているわけではなく、もっと自然にこうなった。
一回めに録音したときは、このテイクよりも重心が低く、フリーみたいなアレンジだった。あまり伝わらないなとパートナーにいわれたんで、もっと風通しのよい簡素な演奏に変えて、その過程で、絞りだす声から裏声に変えた。
うん、カーティス・メイフィールドは意識したかもしれないね。あと、ギターのオブリガートは、われながら巧く弾けたと思う。使用楽器はギブソンSG(72or73年)です。

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19. 好きなように 2001年

これもJ-POPの誰かを彷彿とさせるが、曲全体に漂う諦念が、執着からの解放を感じさせる。ミドルエイトで(私はミドルエイトづくりが得意だ)一瞬ウェットになりかけるが、すぐに持ち直し、後はドライなままだ。クルマを走らせながら聞くとなおさらさらりと聞き流せるし、ヤングマンみたいな(本人はBB5の「プリーズ・レット・ミー・ワンダー」のつもりで書いている)さびもゴキゲンだ。

アコギのストロークとベースの定型フレーズが完璧にかみ合っている。易々と弾いているけれども、同じことを今やれといわれてもできない。ヴォーカルのレベルを目盛り0.5 下げればより聞きやすくなったかもしれない。が、ミキシングもやり直せない。時間を遡及することは不可能だし、過去は眺めることしかできないのだ。

彼は失恋した。今度こそ徹底的に。何に失恋したのか? それは音楽に。だが、夢見ることを諦めたがゆえに、不思議と明るい歌になった。そしてこのアンソロジー第2集も、ようやく大団円を迎える。

 

20. ふわふわ 2002年

私もついに40代を迎えようとしていた。溢れんばかりの着想の泉も、もはや涸れはてて。ちょうどそのころ郷里クマモトで、高校の同窓会がイヴェントを開催した。私は旧友たちと一夜限りのバンドを再結成し、青春のグラフティ的な新曲を披露した。結局それが私のラストライブとなったが、同世代の仲間たちを励ます歌が出来たので、報われた気持ちだった。アルバムの最後を締めくくるにふさわしいナンバーだと思う。

キャプテン・ビーフハートはご存じ? 彼の「ブルージーンズとムーンビームス」を聞いてみてごらん(サブスクには見あたらないけどね)。

 

 

Mediumにて英文でも全曲解説しております。

medium.com

もちろん翻訳機能を使っているのです。

 

また、ツイッター等で交流のあるwalnutさんが、穏やかな中にも鋭い洞察を示した感想を連続投稿しておられたので、これもMediumにまとめて収録した。

iwashi-dokuhaku.medium.com

また、walnutさんは音楽の造詣深い方で、JTばりにギターも達者だ。

そのように、ネットで知り合った人たちが、自分の拙い音楽を聞いていてくれることは、めちゃくちゃ励みになる。できれば、どんな形でもいいから、メッセージを送ってほしい。辛らつな批判でもかまわない。反応のないのが、いちばん堪える。

 

さて、

21st Century Protest Songs

21st Century Protest Songs

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  •  

4月27日に、第三弾『21世紀のプロテストソング』をリリースする。配信開始まで、YouTubeの1分間試聴をぜひ聞いてみてほしい。2002年制作の、岩下啓亮Sardineのラストアルバムをーー


www.youtube.com

鰯 (Sardine) 2024/04/10

 

 

【あわせて聴きたい、岩下啓亮 Sardineのアルバム】

Catchy 22 Anthology

Catchy 22 Anthology

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥1833

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