アウトテイク集『21世紀の外伝』は本編の布石にすぎぬ
『21世紀の外伝』岩下啓亮 Sardine 配信日:2025年11月30日

このジャケット写真は拡大して見ていただきたい。いろんな情報が詰まっているから。
※ たとえばトライアングル、フィンガーシンバル、サンバホイッスルは『21世紀のプロテストソング』の収録曲に使われている。
2002年制作のラストアルバム『21世紀のプロテストソング』は最重要作品であり、かかった労力も並大抵のものではなかった。私は直前にリリースした『chicane』でバックトラックの稠密さを示したが、続くこの『外伝』では楽曲の成り立ちを明かし、『21世紀のプロテストソング』の構造を立体的に捉えることが可能ではないかと考えた。 『21世紀の外伝』では6曲の簡素なデモと2曲のアウトテイクに加えて、同時期につくった(アルバムとは無関係の)2曲を収録した。 ジャケット写真はアルバム制作に費やしたカセットテープとCD-Rを並べたものである。(TuneCoreのリリース説明文より)
「Good morning Good morning Good morning」を録音したときに、中間部にアカペラパートを設けようと試みた。アルバムの締めくくりに各タイトルを織り込んだら、回想シーンみたいになると思って。しかし、何度もダビングするとノイズも増大し、全体のバランスを損なうので諦めた。今となれば、多少聞きづらくなっても決行すべきだった、と悔やんでいる。 これは、ひとり多重録音をくり返したら、どれだけノイズが乗るかをテストした、いわば試し録りである。今回、載せるにあたってイコライジングで補正した。
歌詞は割愛。タイトルを連呼するだけで記すまでもないから。
どこまでも遠くまで晴れわたる 青い空
永遠にいたるまで続いてる 青い空
ひとりぼっちになりたい
過去の過ちから自由になりたい
希望なき街から
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
ぼくの記憶すべてを託した 野を駆ける子どもたち
昨日より高くなり低くなり 走りだす
呼び覚ます声となり風となり うたいだす
ひとりぼっちになりなさい
捨てがたい想い出も忘れてしまえば
もはや眠りの中
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
ぼくの記憶すべてを受け継いだ 野を駆ける子どもたち
くりかえす営みの刻まれる 記憶装置
あゝ壊してしまえ 役立たずの一枚岩なんて!
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
今あらゆり記憶は消えゆく 解き放ってやろう
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
今あなたに新たに伝える 追いかけていくがいい
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
「4000マイル」の元曲である。以前「Dのバラード」としてつくった没曲の、コード進行とミドルエイトを再利用した。「Dのバラード」自体は悪くないのだが、歌詞がナイーブすぎるので、発表するのをためらったわけだ。ファルセットが苦しげでやや聞きづらいが、寂しい夕景を反映した曲想は悪くないと思う。
待合室で知らんふりしてた
いつものきみと違う顔してた
他人行儀な横顔
考えている
嫌いじゃないけれど
気づいてくれるかな
きみは
何事もなく町は賑わってら
優しくきみはされどつれないから
同じところで何度もしくじってしまう
時どきでいいからさ
気づいてくれてたら
いいな
もっと自由に話すことがある
交わすことばに変わることも
ある
孤独な人で溢れそうじゃないか
寂しそうだな 聞こえているのかい?
たぶん大事な自分のことばっか考えている
近くの扉ひらく
深いとこまで響く
返事はないけど
気づいてくれるなら
いいさ
いいさ
「ワルツ・アメリカ 1」は、かなり早くにできあがっていた曲で、1999年にはほぼ完成していた。このデモをあるレコード会社のディレクターに聞かせたところ「悪くないけど、最後の一行の前に休符を挿れたほうがいい」とアドバイスされた。アルバムに収録する際はその助言にしたがった。 ちなみに、『21世紀のプロテストソング』のカバー写真で歌っている曲は、「ワルツ・アメリカ 1」である。
窓をぬけ出しておいで 月あかり照らす通り
いらないものなど置いて 必要なものだけもっておいで
おー ワルツアメリカ
動きだす このダウンタウントレイン
そう なにもいらない 答えなど 用意せずに
世界は大きなお祭り 友情 愛 満ちあふれた
誰かがきっと待ってる その気配 呼び覚ませば
おー ワルツアメリカ
真鍮の警笛が 始まりを告げる
帆船が 港 離れる そのとき
一筋の雷 ひたはしる轟き
夜の空ひらめき からだじゅう貫き
幾千の花火が 咲きほこる喜び
もたれかかっているきみが 眠ってるあいだに
ぼくはこのうたをかいた 手探りで 深く 柔らかいところまで
おー ワルツアメリカ
飛び乗った このダウンタウントレイン
ああ 自由の女神 開拓者 アドベンチャー
もう なにも考えず
おやすみ ぐっすり 今夜は
なんてことない、ありきたりの歌をつくってみたかった。歌詞は苦渋に満ちているけど。 デモの出来は悪くないが、いかんせん退屈になるので、編集で途中をバッサリと端折って短縮した。
着の身着のまま 昨日着たシャツのまま
うずたかく積まれたビール 空き缶の山
好きな時間に起きて 好きなものに囲まれ
好きな場所に寝転がり 好きなときに眠る
きみがいなくなって何日が過ぎ
独りになって何を失ったんだろう
誰も文句いわない 忠告することもない
誰もぼくの自堕落 咎めようとはしない
(中略)
ああ ありあまる自由の意味を知った ああ 自由はまるで牢獄みたいだ
ああ 何度も 何度も思い知らされる 今ここには きみがいないことを
なあ 自由と孤独の引き替えだ ああ いいとも ひとりぼっちともだち
「あなたの影になりたい」は、公募に応じてつくった楽曲だが、指定された女性の音域=E♭で録音する前に、自分で歌ったらどうなるかを試してみた。それがこのCのデモ版である。 幸薄い女性の歌だのに、この歌を好む女性は少なくない。このキーで歌うと、真剣に聞いてくれる。
夜中にそっとぬけ出して駆けつけるわたし
二十四時間あなたに寄りそっていたい
たまに躰を交わすくらいで
恋人と呼ばれるはずもない
冷たいひとと他人はいうけど
違うでしょ、違うでしょう
愛情のない行為 それでもいいと思ってる
ああ そういうことをする
あなたの影になりたいわたしだから
あなたのことを何でも知りたがるわたし
二十二、三の娘みたい 嫉妬してみたい
いつもだれかにこころ奪われ
笑うでしょ、口惜しいはずなのに
そんなあなたの微笑みみつけ
笑うでしょ、笑うでしょう
愛情の表現は わたし以外を向いていたっていいわ
だいじょうぶ
あなたの影になりたいわたしだから
こんなに近くにいるのに
気づかないそぶり 何故
いつわりつぶやきため息
うそついてばかり 勝手
きっと
愛情のない方向へ あなたこれから彷徨うでしょう
そういうことをする……
だいじょうぶ、だいじょうぶよ
あなたの影になりたいわたしだから
トラッド的だと評されたが、確かにオープンチューニングで、ドローンを意識した演奏はトラッド的なのかもしれない。私はただ、空間を押し広げたいとの思いから、この響きを模索したのである。「悔しい思いしたと思います」の一行は、常套句みたいなので、アルバム版では変更した。
この世の中の秩序を素手で
ひっくり返すと願ったとして
何ができよう でき得るだろう
怨念だけで 怨念だけで
悔しい思いしたと思います
不当な扱い受けたのだから
生きる理由が復讐ならば
たたかう理由が復讐ならば
ルサンチマン・・・
それは虚しい あまりにも辛い
生きる理由がそれだけならば
たたかう理由がそれくらいならば
怨念だけで 怨念だけで
この世の中の秩序をすべて
ひっくり返すと願っていても
決してそれは成就できない
怨念だけで 怨念だけで
一度はOKテイクとしたものの、どうもグリッター感が足りない、もっとギラギラさせたいと思い、録り直したのをアルバムには収めた。それに、このテイクには致命的な欠点がある。「たたずまい」を「たちずまい」と歌詞を間違えて歌っている。 しかし冒頭のおちゃらけやミドルエイトのネタ晴らしを含め、なぜか憎めないバージョンなので、ここに開陳しました。
あいつにあった印象 神経質なキザ
立ちずまい? たちふるまい 見逃せまい
無視したってムダ 目が離せなくなった
どうしたらいいのか
惹きつけられ いかれてる そう
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイートインスピレーション
これは?
あいつの悪影響 悩める優等生が
そのしぐさ しなやかな身のこなし
マネしまくってるって「不良になる」そうです
苦労してるみたいな
おいかけても おいつかなさそう
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイート スイート スイート ベイビー
あまいシミュレーション
異動してるあいだ バスや電車の中
思いだしてるんだ ね、yeah,yeah,hoo!
忘れたくても忘れられないよ
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイートインスピレーション
スイートイマジネーション スイートイマジネーション ワンダフル
スイートイマジネーション スイート スイート スイート ベイビー
あまいシチュエーション
悩ましいのがスイートイマジネーション
いとし恋しやスイートインプレッション ベイビー
Ah
Let's go!
演歌でもつくってやれ、と半ばやけくそになって書いた。旋律の落としどころが決まらないまま録音に臨み、あえなく沈没した。以来、この曲を記憶から抹殺していたけれども…… この年齢になってみると、歌に込められた諦念が沁みる。それに、頼りなげな歌唱もジム・オルークのうたう「矢切の渡し」みたいで悪くない。というわけで、みなさんにお聞かせしようと決心した次第です。
十年前はまだ 自信に満ちあふれ
まわりに煽てられ 生きいきしてた
置かれる立場など 知りたくもなかったよ
泣くもんか 男は涙 みせぬもの
泣くもんか 笑い飛ばすまで
やりたいことはなく 虚ろな殻となり
周囲のいいなりに流されました
弱音を吐くなんて 聞きたくはなかったな
泣くもんか 男の意気地 見せてやれ
泣くもんか いつか笑いあかそうな
辛抱のしどころさ くさるなよ わかるだろう
泣くもんか こらえるたびに思いだす
泣くもんか いつか語りあかして
笑おうと
郷里クマモトで、高校の同窓会がイヴェントを開催した。私は旧友たちと一夜限りのバンドを再結成し、青春のグラフティ的な新曲を披露した。結局それが私のラストライブとなったが、同世代の仲間たちを励ます歌が出来たので、報われた気持ちだった。キャリアの最後を締めくくるにふさわしい、雄大なナンバーだと思う。
昨日、鏡をみて ちょっと愕然とした
眉間のたて皺が深くなっていた
額にも一つ 目じりにもう一つ
笑いすぎたのか 怒りすぎたのか
1977年 おれたちは出会うだろう
ホテル・カリフォルニアが響く運動場で
おれはダッシュといった やつは莫迦かといった
それでもいつの間にやら おれらつるんでた
ふわふわ 綿菓子のような柔らかい毎日
ふわふわ 砂糖みたいな甘ちゃんの日々
1979年 おれたち歌うだろう
声をからして怒鳴り続けてた
ホントのことなんて てんで分かっちゃなくて
ただやみくもにイライラ叩きつけた
1980年 おれたち別れるのさ
四方八方散りぢりバラバラになって
感傷も後悔も未練もなにもなかった
正直なところちょっぴり寂しかった
だけど
ふわふわ 綿菓子のような日々にさようなら
ふわふわ 砂糖菓子は口のなかで溶けてった
昨日、鏡をみて 独り語ちていました
これまでの生き方 間違っていたのかと
バブルに酔いしれた ライバル蹴落とした
二十何年もありゃ そりゃいろいろあるだろう
Time waits for no one 長い月日が去った
おれもやつもあんたも それぞれの人生
あるいはうらぶれて あるいは家を建て
新しい生命を授かったりしてな
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
久しぶりだといった 久しぶりだといった
ノスタルジーなんかじゃないぜ、そうだろ四十代
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
ふわふわ それッ
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
ふわふわ
前の『chicane』で、これなら私の声が苦手な人でも安心して聞けるだろう、と書いた。これは皮肉でもなんでもなく、自分自身が私の声質を好んでいないからだ。このアウトテイク集を聞いていても、歌が決定的にダメだなと感じる。とくに「Dのバラード」で声が裏がえる箇所なんて最悪だ。リリースした端から、出さなきゃよかったと後悔している。
いったい私の音楽なんて誰が聞くのだろう? 聞いてくれるまではいいが、好まれていると感じたことは一度もない。以前知り合いに「また世の中に必要ない音楽をつくってしまったよ」と自嘲したところ「そう思うんなら世の中に出さないほうがいいね」と諌められたことがある。ほんとうにそうだな。私の歌を世の中の誰も求めちゃいないんだから。
先日、私のショート動画が一万回を超えた、という通知が来たけれど、私のショート動画がそれほど見られているという実感はない。YouTubeチャンネルの登録者数は50人に満たないし、再生回数の最高は1700回程度だ。とすれば、誰かが私の音源を使ってショート動画をあげているんだろう。どうやら「病院」がTikTokで使われているようだが、私はTikTokに配信していない。だからとても微妙な気分だ。
次に『21世紀のプロテストソング』の本編を再リリースして、今年を締めくくろうと思う。『chicane』も『〜外伝』も、そのための布石にすぎぬ。このアウトテイク集に価値があるとすれば、後半の二曲が収録されていることだ。私は最近「泣くもんか」が愛おしくてしかたがないんだ。誰にも理解してもらえない悔しさが滲みでているから。鰯 (Sardine) 2025/12/06
5曲入りEP『シケイン』は侮れない作品集だ
"chicane and 4-tracks (Instrumental)"は、11月17日にリリースされた岩下啓亮 Sardineの5曲入りEPである。

わが家の玄関に棲まう2匹のヤモリのシルエット
前アルバム『変身』を2001年に制作した際、アレンジが簡素すぎると感じた私は、次の作品集ではもう少し工夫をこらそうと考えた。その結果、2002年制作の『21世紀のプロテストソング』は、かなり複雑なアレンジが施されることとなった。
このたび私は、ビーチボーイズの『Stack-O-Tracks』に倣って、『21世紀~』の16曲のうちから、バックトラックに冒険心にとみ、傾聴する要素が多い4曲をチョイスしてみた。加えて、昨年2024年に「G.T.E.D」として配信したインストゥルメンタルの、ケチャ&アジテーション入りバージョンを新たに発見したので、タイトルを「chicane(シケイン)」とあらため、ここに収録した。
人力エレクトロニカとして、気楽に聞いていただければ幸いである。(TuneCoreに掲載の紹介文より)
私の歌声や歌詞の内容が苦手な方もこれなら安心して聞けるでしょう。人力エレクトロニカとして気楽に聞き流してください。
Ⅹで<この人は基本的に自分のことが大好きで、アーティストの良さを伝えたいという思いが微塵もないのだろう>という或る音楽評論家への痛罵を目にした。記事や発言を見るにつけ、いわれてもしゃあない人だとは思うが、まぁ私も似たようなもんだ。<基本的に自分の音楽が大好きで、他のアーティストの良さを伝えたいという思いが今や皆無に近い>から。 私の新譜はテクノ・ダンスのジャンルにカテゴライズされているが、実際かなり実用的だと思う。私は朝の散歩で聴きながら歩いている。自分でいうのもなんだが、かなり気持ちいい音響とパルスが得られる。iTunesで458円だ。ぜひ購入&ダウンロードしてエクササイズやチルアウトなどに使い倒してください。
私のつくった歌無しのトラックに、歌や楽器のソロをつけ加えてもいいし、なんならAIを使ったオリジナルトラックをあらたに作成してもらってもかまわない。存分に遊んでほしい。私は透明人間のように無視されるのがいちばん辛いんだ。
……いや、自嘲はほどほどにしてほんとうのことをいおう。私は自分のつくる音楽にかなり自信を持っている。いろんな先人達の業績に似たところがあるかもしれないが、音の核心には他の誰にも似ていない、岩下啓亮の個性としかいいようのない魂=ソウルが宿っていると自負している。それは歌やソロパートを抜いたバックトラック(伴奏と言い換えようか?)を聞いてもらえればわかる。私は自分の音楽が誰よりも好きだから、歌無しでも楽しめる。その私だけのひそかな愉しみを皆さんにもおすそ分けしたい。あなたに聞く耳さえあれば、伴奏にでさえオリジナリティが見出せるはずだ。私が心血注いでつくりあげた音楽は、四半世紀程度の歳月で廃れるほど陳腐なものではない。そのことを証明したかったんだ。鰯 (Sardine) 令和7年11月17日
【追加情報】
やったー! なんとiTunesストアのテクノ トップアルバムで『chicane』がチャート1位を獲得だ。局地的かつ瞬間風速なのかもしれないが、1位は1位。素直に嬉しい。購入してくださった方々、どうもありがとう。感謝 thanks 캄사함니다!

『変身』は私にとってやっかいな作品集だ
色調はヒプノシスを多少意識した
2001年秋に制作した『変身』は、そのころ新しく導入したベリンガーのミキサーとCD-Rを併用して録音した。音質がクリアになった反面、低音域が瘦せている印象があったので、2025年版で補正した。また、基本となる11曲の構成は変更しないまま、「Any other man」の弾き語りバージョン、ウェット過ぎるので没にした「Oh, No ことばにならない」の初期テイク、3つのアウトテイクの断片をつなぎ合わせた「メドレー:もっともっと生きるチカラをあなたのクスリで」、打ち込みリズムが全体から浮くので没にした「旅に出よう リズミックバージョン」の4曲を新たに加えた。これでアルバム『変身』の全体像がより明確になったことと思う。なお、新装ジャケットの写真は、遺跡発掘の代理人・太郎ちゃんが府中市にて撮影した。
『変身』はタイトルを『東京』にしてよかったかもしれない。11曲のどれもが、街の情景を浮かびあがらせるから。
『変身』をつくった動機は単純で、「そういえばオレはまだ、ストレートなラブソングをあんまりつくってないな」と思ったからである。ならばいっちょうつくってみるかと書きはじめ、ノート三冊分くらい歌詞を書き、かなり短い期間でこの11曲を録音した。が、乏しい恋愛経験を元にしているため「これじゃ自分の感情が丸出しじゃないか」と、あとで聞きかえすのがたいへん恥ずかしかった(いまだにそうだ)。けれども、これほどまとまりのある作品集は自分のなかでも稀だ。ぜひ、制作した2001年当時のムードをそのまま感じとっていただきたく、今回『変身』をリリースした次第である(2024年版より転載)。
最初の印象がよくない相手。しかし気になる。憎まれ口をたたきながらも、男はいつのまにか女に惹かれている。「オレのこと好きじゃないなら他をあたれば?」という突き放した態度は、他の曲でも頻出する「ふてくされ男」のポーズ。ホントはもっとオレの方を向いてくれと願っているくせ、素直じゃないヤツ。長くうねるメロディーとヒーカップ唱法はジュールス・シアーの影響だ。切れ味勝負のロックンロール。
I saw you Baby blue
ちょっとだけ目を離してたら
その瞬間
誰だ
おれの椅子でタバコふかしてるのは
Kiss me Baby please
油断もスキもありゃしないぜ
まったく
誰か
おれの居場所を奪おうとしている
これはずっと治らないな
きみは病気さ
Any other man Any other man
どこか欠落してる
気持ちを満たす
Any other man Any other man
I know you Baby blue
こんなことはもう慣れっこだよ
平気さ
誰と
楽しそうに喋っていようと
Kiss me Baby Please
いつものことさ
傷ついちゃいられないよ
いちいち
誰が
おれのベッドで
這いつくばっていようと
これは一生、治んないなって
きみはいった
Any other man Any other man
今夜どいつが空っぽの
うつわを満たす
Any other man Any other man
I like you Baby too
そんなふうにふるまってられるのは
いつまで
おれは
きみの傷害保険なんかじゃないのに
Kiss me Baby please
ときどきは戻っておいで
待っているから
誰が
きみの心まるごとさらっていこうと
かならず帰ってくれるなら
Any other man Any other man
星の数ほどオトコを
カウントするがいい
Any other man Any other man
恋の数だけきみは
きれいになればいい
Any other man Any other man
もうどれくらい指折り数えた もうどれくらい待ち続けた
溢れだすそうだ流れ出す涙 漏らすため息に窒息しそうだ
今日のこの星は 少しだけくたびれる
街に響くは恋の歌
ありふれたことばかりだ
考えてほしいといってるようだ
ぼくやあなたに なるべくみんなに ああ
もうこれ以上必要ないくらい もうこれ以上なくたっていい
今さら誰かが上書きしなくても もう十分さ筋書きは読める
ちょっとだけ余白が欲しいと思ってた
街に響くは恋の歌
あけすけなことば綴った
抱いてほしいと願ってるのか
ぼくやあなたに あまねくみんなに ああ
もうどれくらい愛してるっていった もうどれくらい星の数くらい
誰もが彼もが悲しみを抱えてる 満たされぬ憂鬱を持て余して
今日もこの星はなんとか回ってる
街に響くは恋の歌
響き渡るは誰の歌
あなたが好きといっているんだ
ぼくやあなたに それともみんなに?
ラララ......ラララ
街に響くは恋の歌
それよりぼくは あなたの声が聞きたい
だんだん自分が自分でなくなって
なんだかぼくがぼくじゃなくなるよ
カンタンにきみは近くにやってきて
頑丈に閉めた扉を開いた
昨日 鍵を忘れた
今日 駅で定期券おとした
どっかおかしいな ふだんと違う
ふわふわ浮ついて たぶん Heaven 明日
変身したんだ陽気で能天気
なんだか以前のぼくじゃないみたいだ
心臓の中に羽が生えてきて
血管の中にきみが泳いでいたんだ
ヘンテコな柄のシャツ着てみたり
包丁で指の先 切ってみたり
どうしたんだ おい 冷静になりな
みんなだって気づくさ「おまえヘンだよ」
Ahh
きみのせいさ あまりにも無防備な
きみのせいさ Ah, 罪はないけど
存在するだけで 犯罪ものさ
だんだん自分が自分でなくなって
なんだかぼくがきみみたいなキャラになる
カンタンにきみは自然にふるまって
感情を秘めた言葉 引きずりだした
だんだん自分が自分でなくなった でも、
そういう自分が好きになっているんだ
Hey
華奢な指先をみていた はにかむ笑顔みつめた
私の好きになるひとは みんなどっか似ている
どうして笑っていられるの 楽しかったっていうの
好きだといってくれたひと みんな私以外を選ぶ
Oh, No これから先どうしよう Oh, No どこへ行こう
Oh, No 考えられないよ 今はあなたしかみえない
優しい瞳をしていた 恥ずかしそうに喋ってた
私の好きになったひとは 面影だけを置いてゆく
Oh, No 逢いたくなったらどうしよう Oh, No さびしいよ
もう 連絡できないの それをあなたにはいえない
限られた場所 わずかな時間 探し求めていた
許されないと 分かっていても 愛を育てていた
どうして帰ってしまうの 私をひとり残して
好きだといってくれたひと ぎこちなく抱きしめる
Oh, No これからずっとどうしよう どうやって生きていこう
Oh, No なにも欲しくない 今はあなたしか要らない
Oh, No Oh, No
Oh, No ことばにならない 二度とあなたに逢えない
もっと話したかった もっとここにいたかった
もっと続くはずだった もっともっともっと
ポケットの携帯電話 すっかり鳴らなくなった
お喋りしていたかった ずっとずっとずっと
真夏の花火さ 夜の帳を焦がす
人混みに紛れて ダイナマイトを仕掛けた
きみが視えなくなった 身勝手なお願いでした
会わない約束をした でもきっときっといつか
秋葉原の灯りは曇り空映し出す
人いきれかきわけ ダイヤモンドの星空
きみが改札に消えた 別れた後で気がついた
前より好きになってた もっともっともっと
もっと時間があれば もっと一分間でも長く
もっと一緒にいれば もっともっともっと
もっともっともっと
もっともっと
やってくれるぜきみは 大胆すぎるんじゃない
きっと買うぜひんしゅくを おんなたちの反感を
おーヨーコ おーヨーコ 真夏の空の太陽
おーヨーコ おーヨーコ 光り輝く娘
勝手気まますぎるんだ 誰彼なくなれなれしい
きっと火傷するかンな おとこを甘くみてっと
おーヨーコ おーヨーコ パラシュートは開いてるぜ
おーヨーコ おーヨーコ 香りあふれる娘
きみを独り占めしたい
相手にとって 不足はないぜ
信じてないな ヨーコ
クールになんて かまえてないで
行くしかないぜ もう
躊躇わないもんね
やってくれる目くばせは 自覚なさすぎるんじゃない?
きっと誘ってんだな ハン思わせぶりじゃないか
おーヨーコ おーヨーコ おとこ狂わす毒を持った
おーヨーコ おーヨーコ 油断ならない娘
おーヨーコ おーヨーコ それでもいいさ ぜんぜん
おーヨーコ おーヨーコ 甘い蜜にありつけば
たどり着いたらいいな ヨーコ
きみを独り占めしたい
なにやってんだ まったくおれは どうしちゃったんだろう
生きるチカラ
ぼくにください
生きるために
もっと
もっと
誰かさんを手伝ってあげること
誰かさんの役にたつこと
わたしあなたの
チカラになれるよ
そんな気がする
目の前には弱気になっているひと
ひとりぼっち離れてるひと
わたしあなたのクスリでいいよ
元気をあげる
だからいいよ
遠慮しなくったって
いってあげる
名前呼んでくれたら
もしも
もしも
つらいことがあったなら
迷惑じゃないから
話しかけておいでよ
なにかしらしてあげたいと思うこと
手を貸さずにいられないこと
わたしあなたに優しくなれるよ
そんな気がする
目の前には弱気になっているひと
じぶんじしん見失っているひと
わたしあなたのクスリみたいでしょ
ラクになったかな
たぶんいいよ
だいじょうぶ得意よ
助けてあげる
電話かけてくれたら
もしも
もしも
よろこんでくれるなら
気づいてくれるかな
わたしもうれしいよ
だからいいよ
なんだっていってみて
応えられる
みつけてくれるから
ちょっとだけ
好きになってもいいよ
クスリじゃ不満かな
毒になってもいいよ
旅立とうぜBaby 迷ってんだねMaybe
思いつくまんま 旅に出よう 今すぐに
Hallo, how are you きみが大好きだ
ゆうべもきみのことを考えた
今朝がた見た夢 ぜんぶ話そうか
Singer song new thing 大切なことは
望むがままに生きてゆくことさ
生身のきみを抱きしめていたい
仕事が済んだら待っているから
旅立とうぜBaby 知られないさMaybe
行くあてないまんま 旅に出よう 未知の国
Can you hear the music? いつも感じてた
近づくきみに胸は高まった
幸せすぎて 少し怖かった
だけど毎日このまま 過ぎてゆくのなら
旅しようぜBaby
Hallo, how are you きみが大好きだ
ゆうべもきみのことを思ってた
名前を呼んだ 確かめていたい
ホントの自由が待っているから
旅立とうぜBaby 愛育てるにはMaybe
時間があんまりないぜ 旅に出よう
今すぐ
出かけようぜBaby 迷ってんだねMaybe
気持ちの向くまんま 旅に出よう 陸奥に
暖ったかいな 何度も
スマイル 交わしあえば
毎日 なんかステキ
会ってたいな いつでも
スタイル 気にしなくちゃ
戸をたたく まるい声
こころの芯を溶かす
まるで魔法みたいだ
ありのままを伝える
明日またあえるかな?
なんて なんて不思議な
ドライブ 走りだせば
成り行きに任せるだけ
なんで なんで どうして
答えるんだ 間延びして
信じらんない くらい
こころの花を咲かす
飾りのないことばは
あたりまえを届ける
明日またあえる?
このまま続いてくと いいね
好き ここにおいで
好き そばにおいで
好き 腕が触れて
好き 胸が揺れて
暖ったかいな いつもの
スマイル 交わしあえば
毎日 すごくステキ
こころの芯を溶かす
なにげないその仕草
ありのままを伝える
明日またあえる
明日も逢いたい
このまま続いてくと いいね
夢 すべては夢
夢 すべては夢
夢 すべては夢
夢 すべては夢
こころに記したしあわせを
とりだしては眺めている
覚えていますかほほえみを
柔らかだった頬の色
覚えてる? 覚えてる
きみのこと 忘れないよ
いつまでも
今夜もいたずらなささやきを
思いだしては笑っていた
覚えてしまったんだ Siamese Dream
教えてくれたたからもの
覚えてる? 覚えてる
ぼくはずっと 忘れないよ
悲しみの在処 繋がっているのか
ぼくの心臓に(心臓に)
Yes 心臓に(心臓に)
この痛みの住処 永遠に続くのか
きみの心臓に(心臓に)
とても慎重に(慎重に)
Oh, 心臓に
ふたりが好きだったひとときの
欠片を拾い集めてる
覚えていますかまぼろしを
あざやか過ぎた空の色
きみのこと 忘れない
ぼくのこと 忘れないで
いつまでも
忘れないで
生きているなんて 息してるだけで
幸せじゃないな きみはそういった
生きていることで いいことがあると
信じてるなんて 信じられない、と
勝手にすりゃいい 束縛するつもりはない
黙ってたって いずれ去ってゆくのなら
好きなようにすればいいよ
かまわないさ
自分のこと信じてれば
好きなように生きていける
ここからは思いおもいに歩いてゆこう
つまらないことは どこにでもあって
喜びはないな きみはそういった
つまらないことで 笑ってるだけで
特別じゃないよ 転がってます、と
勝手にすりゃいい でもきみのこと嫌いじゃない
黙ってないで なにも変わらないのなら
好きなようにすればいいよ
かまわないさ
自分のこと嫌わないで
好きになってくれりゃいいな
ここからは思いおもいに歩いてゆこう
きみのことが好きで
時間は滑りすぎて
ここにたどり着いた
運命の曲がり角
人生のピークはいっぺんじゃないぜ
わからないさ なにが起こるか待っているのか
好きなように すばらしいじゃないか
真の自由だ
軽く手を振って別れようか
これからは思いおもいに歩いてゆこう
さあ、行くんだ
【ここからはボーナストラック】
歌詞は1曲めと同一
歌詞は4曲めと同一
3曲の没テイクを編集で短縮し、つなぎ合せたものだ。
「もっともっともっと」はベタなロッカバラードだった。「生きるチカラ」はもともと独立した曲だった。「あなたのクスリ」も最初は素朴なアレンジだった。私は楽曲の成立過程をリスナーに知ってほしかったのだ。
①
きみが視えなくなった 身勝手なお願いでした
会わない約束をした でもきっときっといつか
秋葉原の灯りは曇り空映し出す
人いきれかきわけ ダイヤモンドの星空
②
生きるチカラ
ぼくにください
生きるために
もっと
もっと
③
誰かさんを手伝ってあげること
誰かさんの役にたつこと
わたしあなたの
チカラになれるよ
そんな気がする
目の前には弱気になっているひと
ひとりぼっち離れてるひと
わたしあなたのクスリでいいよ
元気をあげる
たぶんいいよ
だいじょうぶ得意よ
助けてあげる
電話かけてくれたら
もしも
もしも
よろこんでくれるなら
気づいてくれるかな
わたしもうれしいよ
だからいいよ
なんだっていってみて
応えられる
みつけてくれるから
ちょっとだけ
好きになってもいいよ
クスリじゃ不満かな
毒になってもいいよ
歌詞は8曲めと同一
かように、この『変身』はひとつのコンセプトに貫かれた作品集だ。全体を通して聞くと、ひと組の男女のラブストーリーが容易に思い描けるだろう。ともあれ、『変身』についての過多な説明は避けたい。聞いた人それぞれが、私の提示した2001年ごろの東京を舞台にした恋愛物語に、自分の経験を照らし合わせてもらえばいいな(2024年版の記事より転載)。
『変身』は、聞くたびに新たな発見があるアルバムだ。前年に私は、〈アコースティックギター一本と歌だけで楽曲を成立させる〉という課題をみずからに課したけれども(その時代の録音は『Cassette Gadget 4q』に収録されている)、この『変身』も基本的にはアコギ一本の弾き語りで成立しうる楽曲が大半である。ゆえにアレンジも極力簡素にするを心がけた。が、今の耳で聞くと、そのストイックさが窮屈にも感じられる。もう少し遊びの要素があってもよかったかもと思うのだ。アルバムの後半に収めた「忘れないで」など、つくった当初はやりすぎかなと思っていたが、今となっては編曲の工夫に面白みを感じる。もう二度と戻らない、未練と諦念が入れ混じった精神状態を、歌詞以上に音響が示しているように聞こえるのだ。何度もいうが私の声質は人を和ませない。自分でも「硬いなあ」と感じることしばしばだ。裸の私をさらけ出すのもほどほどにするべきだ。そんな複雑な感情を抱いてしまう『変身』はやっかいな作品集なのである。
ともあれ、残された時間はわずかだった。つくったとき、私はすでに39歳、40歳を目前にしていた。もう一作つくってみてダメだったら諦めよう、そんな思いが日に日につのる2001年の冬、生活を含めて私は窮まっていた。旅立とうにも旅立てる余力がもはやなかった。『変身』で恋愛というテーマを自分なりに修めた私は、残る気力を振り絞って『21世紀のプロテストソング』の制作に着手した。
鰯 (Sardine) 2025年11月14日
