鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

『Cassette Gadget 3 1985-1987』 どん底でもイワシの音楽はいつだってポップだ

岩下啓亮 Sardineは、2025年3月22日にカセット・ガジェット(通称カセガゼ)シリーズ第三弾、『Cassette Gadget 3 1985-1987』をリリースしました。

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丹前を着て、セブンスターをくゆらせながらくつろいでいる私。奥にSANYOのラジカセがみえる。卓上のシンセサイザーコルグのPOLY-6、アルバムはたぶんエコー&ザ・バニーメンの『ポーキュパイン』。

カセットガジェットシリーズ第3弾は、1985年の東京での6曲と1987年の熊本での5曲の、2時期の音源を収録した。その間の1986年のアルバムは名盤(だと自分だけ思っている)「Everything/Nothing」に収録している。

1985年は精神的にも技術的にも限界を迎え、1987年は宅録という概念自体に疑問を感じていた時期である。だからこの2年間の作品はあまり好きではない。が、まとまりに欠ける作品集ではあるものの、個別に見れば各曲それぞれに魅力がある。最低のときでもイワシの音楽はいつだってポップだ。偏見なく聴いてほしい。

追記。今の私は喫煙者ではない

Cassette Gadget 3 1985-1987

Cassette Gadget 3 1985-1987

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥764

【曲目紹介&歌詞】

◆ 1985年・東京
1. Baby Understand

長いこと忘れていた曲だ。あまりにも単純でひねりのない歌詞が、自分でも照れくさかったんだろう。ストレートな曲調も、たぶんマイナーコードを明るく響かせようと意識していたからだ。そのような習作だが、旧い友だちがなぜかこの曲を気に入り、トリオで何度かスタジオ入りしたこともあった。おぼろげな記憶をよみがえらす、音楽はまるでタイムマシンだ。 むろん今では気に入っている。同主調転調のところが、とくに。

Baby Understand

Baby Understand

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

もう忘れてしまえよ 辛いことみんな
過ぎたことをいうのは ぼくの趣味じゃない
きみを愛してるのさ それは変わらない
ぼくはここにずっといる そうさ Baby Understand

時が経てばきみの 傷は癒えるだろう
いつの日か爽やかに笑えることだろう
きみを愛してるのさ きっと心から
だから泣くのをやめて そうさ Baby Understand

ずっと待っていたのさ 分かりあうひとを
ずっと探してたのさ 分かちあうひとを
きみを愛してるのさ それは嘘じゃない
ぼくはもう迷わない そうさ Baby Understand

泣かないで泣かないで どうか泣かないで Baby
笑ってよ笑ってよ ぼくの大事な Lady Blue
きみを愛してるのさ たぶんこれからも
あー それがぼくの真実さ だから Baby Understand
Baby Understand

歌詞の表記は「ぼく」で統一しているが、実際は何箇所か「おれ」と歌っている。確かこの歌は歌詞を詰めずに、要旨だけ書き留めたメモを見ながら録音したのだった。スティーヴィー・ワンダー的な、というかジャヴァンの「サムライ」的な雰囲気の曲だね。

 

2. 思い出は甘くない
KAWAI製の電気ピアノKP-705を購入して、すぐに作ったもので、ノスタルジックな曲調だけど歌詞は辛らつだ。何事にも懐かしがる女性に対して、思い出に酔うなよと忠告している男性という構図は、松田聖子の「SWEET MEMORIES」を意識したものに他ならない。 それから約40年を経て、自分の過去音源を聞きながら懐かしむようになるとは、二十代前半の私には想像もつかなかっただろう。
思い出は甘くない

思い出は甘くない

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

なつかしいときみはいうが おれはとてもそんな気にならない
なつかしさに酔っぱらうなよ Oh, I Love you Oh, I Love you I Love you so

いつかこんなときがくると 気づいていた騙しだましてた
とてもたやすくきみは忘れる But I Love you Oh, I Love you I Love you more

古い古いふるい歌を つくり奏でた人たちが 忘れられても想いだけは残る

そうさ Baby Oh, Baby 歌えよ Sugar Pop
はやく Baby Oh, Baby 優しく Sugar Pop
おれの Baby Oh, Baby 思い出は甘くない
Yeah

過去のことときみは笑う おれは未だ卒業できない
青いたわごとくり返してる Oh, I Love you Oh, I Love you I Love you more

きみの好きな古い歌は 憎むことを知ったブルース
それも知らずきみは口ずさんでる Yeah

それでいいさ Oh, Baby 歌って Sugar Pop
時が経てば Baby 全てが Sugar Pop
おれと Baby Oh, Baby 思い出は甘くない
Yeah

なつかしいときみはいうが にがい味が口のなかを離れない
いまもおれはこだわってる Oh, I Love you Oh, I Love you I Love you so

Oh, I Love you Oh, I Love you I Love you so

Yeah Oh, I Love you Oh, I Love you I Love you more

この皮肉めいた歌詞もまた聞きようによっては、若さ特有の強がりとして、懐かしさを感じられる要素に聞こえるかもしれない。
 
3. かくも長き不在
往年の名作映画と同じ題名は気取っているけれど、私的にはお気に入りの一曲だ。ア・カペラの導入部も、プロフェット-5の硬い音色も、イメージ先行で未消化な歌詞も、覚えたての分数和音も、いずれもがチャレンジ精神に満ちあふれている。 ただ、歌詞が暗示しているように、こんな歌ではどこの誰にもアクセスできない。人が求めるような音楽を作れないのではないか、という疑念にとらわれた私は、失意のうちに東京を離れ、故郷へ戻った。1985年の冬のことである。
かくも長き不在

かくも長き不在

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

からっぽな操縦士 漕ぎだせない航海士

待合室で ぼくは時計とけんかする
煙草を嚙みしめ 小刻みにかかとでビートを刻む

いつの間に乗ってた?
行方知れず
霧の中につつまれ 切立った崖のうえ
地図にもない道を 転がりつづける バスの中

朝の新聞受け 窓越しにみえる氷の結露
午後の定期便 鳴りやまぬ不在の電話のベル

いつか見たこの町
行方不明?
そうだ夢に出ていた ぼくの死亡通知だ
間違いだと訂正する気にも もう なれない

つまるところ ぼくはいない ここにいない どこにもない
バスのなかに 閉じこめられ ぼくはもう 帰ってこない だろう

15分ごとに きみのことを思いだしている
揺れる路面から 気味の悪いエンジンの割れる音

「どちらまで行くのですか?」
わからないよ!
年老いた車掌が ぼくに切符を手渡す
その切符に書かれた行く先は Nowhere Nowhere Nowhere to go

とどのつまり ぼくはひとり ここでもなく どこでもない
会社はなく 家庭もない ぼくは孤立して生きてる
たぶんきみは 知らないけど ぼくはいない いつの間にか
バスのなかで 揺られつづけ ぼくはもう 帰る術さえ もう、ない

「氷の結露」みたいにおかしな表現はあるものの、そのころ私が書いたものの中では、もっともイマジナリーな歌詞だと思う。
 
4. Girl Hunt '84 (in the city, on the beach)
イワシ唯一のエレクトリック・ボディー・ミュージック(EBM)。ローランドTR707でバックビートを鳴らし、シーケンシャルサーキット・プロフェット-5を即興でテキトーに弾き、頭悪そーことを喚き散らしただけの、飽きる前に終わらせた2分半である。 昨年5/4にシングルでリリースしたが、それと同じでは芸がないので、ボツにした曲の前口上をイントロにくっつけてみた。
歌詞は割愛する。これはYouTubeのTopic版(30秒間視聴)で聞いてみてください。このイントロをおもしろがったリスナーが、少なくとも7人はいたみたいだ。
 
5. こわさないで
アニメーション映画『風の谷のナウシカ』を観た直後に作った歌。だから、イワシ唯一の「アニソン」といえるかもしれないね。 あまりにも直截かつ何のひねりもない内容なので、リリースするのをためらっていたが、この際、開陳することにした。 この曲をクルマで再生したときリュウジが、ハンドルをあわてて対向車線側に切ったことを思いだす。「あーびっくりした。オマエなんて曲を聞かせンだ」と呆れていたっけ。 サウンド的には、ティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」の影響が露骨で、コルグのモノ/ポリでつくったエフェクト音がヒャンヒャンと効果的に鳴っている。
こわさないで

こわさないで

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes
こわさないで こわさないで わたしのほし こわさないで

ころさないで ころさないで ともだちなら ころさないで

こわさないで こわさないで

青い空の下で 愛を交わし 燃える大地の上で 光と戯れる

わすれないで わすれないで わたしたちが ここにいること
わすれないで わすれないで わたしたちが いきてること

揺れる雲よ 乾く この土地をなぐさめて
遠いとこへ 風よ わたしを連れてゆけ

こわさないて こわさないで わたしたちの うつくしい星
ころさないで ころさないで もうこれ以上 争わないで

こわさないて こわさないで わたしたちの うつくしい星
ころさないで ころさないで もうこれ以上 傷つけないで

風は運ぶ 遥か彼方の 海の歌 耳をすまし あなた 答えて もう一度

わすれないで わすれないで わたしたちが ここにいること
わすれないで わすれないで わたしたちが 生きてること

こわさないで こわさないで わたしのほし こわさないで
ころさないで ころさないで ともだちなら ころさないで

こわさないで こわさないで わたしたちの うつくしい星
ころさないで ころさないで もうこれ以上 ころさないで

今回、リリースするにあたって歌詞を書き起こしてみたんだが、これはまがうことなき反戦歌だと感じた。冗長だが、真摯で、雑じりけのないメッセージソングだと思う。
 
6. こんなたくさんのラブソング
東京を離れる直前は、部屋から一歩も出られなくなるほど、対人恐怖に陥っていた。そんな状況で音楽をつくれる筈もなく、やっとの思いで録音したのが、未完成のこの歌だ。自分には他人が聞いて楽しめる曲は書けないと、失意のうちに悟ったのだ。東京から離れてから半年、私は地元熊本の音楽短期大学に入学する準備に費やし、私はその間、創作活動を封印した。
こんなたくさんのラブソング

こんなたくさんのラブソング

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

こんなたくさんのラブソング 誰が聞くのか?
誰のためにおれはつくったんだろう おー
こんなたくさんのラブソング 誰が欲しがる?
嘘で塗り固められた歌ばかりだ

まがいもののヒット曲 つくられたニューヒーロー
もう 聞きたくない
ひきつったポートレート とってつけたアレンジ
もう 聞きたくない たくさんだ

ティーンエイジは群がる 拍手を送り続ける
もう 聞きたくない
走ってゆく 走ってく 新しい刺激のために
もう 聞きたくない たくさんだ

こんなたくさんのラブソング 街にあふれてる 巧みに操られた 電波からの

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ごちゃごちゃしすぎているので没にしたジャケット写真。1985年に世田谷区代沢のアパートにて撮影。押入れを利用したスタジオで「こわさないで」を録音したころの機材(プロフェット600やコルグmono/poly)が写っている。疑似アルバムの場所に置かれていた(お気に入りの3枚の)レコードは、マーヴイン・ゲイ『ホワット・ゴーイン・オン』、ジョン・レノン『ロックン・ロール』、ルー・リード『コニー・アイランド・ベイビー』。上のほうには私の描いた女性のイラストもみえる。

 

◇ 1987年・熊本

7. アンソニーにくちづけ
前トラック「こんなたくさんのラブソング」を書いてから2年後、同じポピュラーソング批判でも正反対の辛らつな歌詞ができた。アンソニーとはアンチ・SONYの意味で、その当時ヒットチャートを席巻していたソニー製のJ-popを皮肉っている。 各所に欠点があり、落ち着きがない曲調だけど、勢いだけはある。救いはそこだけだ。
アンソニーにくちづけ

アンソニーにくちづけ

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
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Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ

Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ

油を売っていたいよ みんなあくせくしすぎじゃないの
ジャングルジムによじ登って パパとママにはキスしてグッバイ
その気になればここは遊園地 カネの要らないパラダイス
Everybody feel so good, Alright

遊び呆けていればいいのさ 悩みすぎたらビョーキになるぜ
ぼくはいつでもオポチュニスト ストレス以外はなんでもオッケー
その気になればこの世は変わる 常夏のWally Place
Everybody feel so good, Alright

ぼくはきみたちに 生き様なんかを 教えてもらいたい
なーんて思わないよ

Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ
Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ
好きなように歌えばいいさ 誰に遠慮してるのさ
Everybody feel so good, Alright

ぼくはきみたちに 説教されないよ
考えなしのメッセージ もう やめちまえ

フェンスを越えておいでよ たくさん仲間を連れておいで
そしてあの子の悩みを聞け ティーンエイジのオーディエンス
その気にさせりゃすべては変わる 思いこめばユートピア
Everybody feel so good, Alright
Everybody feel so good, Alright

Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ
Chu Chu Chu アンソニーにくちづけ

Wooly Placeと歌いたかったところを、Wally Placeと間違えて発音してしまったが、大筋の内容に沿った意味なので、訂正しなかった。
 
8. ハンマークラーヴィア
この歌を公表するつもりは、さらさらなかった。あまりにも見えすいたメロディーと歌詞だからね。だけどアルバムのジャケット写真を喫煙する私の横顔にしたときに「ハンマークラーヴィアも入れとくか」と方針変更したんだ。 人前でピアノを弾いた経験のある方なら、誰しもが思いあたる心境を描いていると思う。
ハンマークラーヴィア

ハンマークラーヴィア

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
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サッと階段 駆けのぼれ 登りつめたら 息を詰め
なめらかに滑るのだ しくじらぬように

きっと今夜は眠れない 明日のことが気になって
痙攣する指先を止めてよ、ナイチンゲール

この重い空気は いったい何なんだろう 誰がぼくに期待するもんか
弾く前に祈る ひたすらに願う ぼくの意志のまま 動いてください

ずっと考え続けてた 窓の端に腰をかけて
ひどく華奢で細い腕をふり回しながら

きっと明日をしくじれば まるで信用なくすのさ
もっとぼくは厚かましさが欲しいよ、マチルダ

空まわりしている 息が詰まりそうだ どうか力を与えておくれ
弾く前に祈る ひたすらに願う ぼくの意志のまま 動いてください

タバコを吸うとさ 指先が冷えるって 知ったことじゃないぜ、ルードヴィッヒ
ルードヴィッヒ!

弾く前に祈る ひたすらに願う ぼくの意志のまま 動いてください
弾く前に祈る ひたすらに願う ぼくの意志のまま 動いてください
弾く前に祈る ひたすらに願う ぼくの意志のまま 動いてください

自分でいうのもなんだけど、このころがいちばん指が動いた。派手なアルペジオだが、それほど運指は難しくない。

 

9. マイ ガールフレンド
しょうもない曲だ。手だけはこんでいる。音楽学校に行って楽理の知識は得たけれど、そのぶん多重録音が楽しくなくなってきた。予測のつかない、もっとスポンティニアスな音楽がつくりたくなっていた。とはいえ、ティーンエイジ・シンフォニー、今様フィル・スペクターをイメージしたこの歌に、かけた労力は他の数倍だ。マスターテープは消失していたが、このたびカセットにダビングしたものを発掘したので、それをデジタル化した(だから異様に音質が悪い。高音域が割れてしまっている)。
ライブの際、女性三人をコーラスで手伝ってもらったことがある。あれは愉快な経験だった。
マイ ガールフレンド

マイ ガールフレンド

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

教えてくれ なぜさ マイ ガールフレンド
目をそらすのは なぜさ マイ ガールフレンド
ぼくがいったい なにをしたのさ
どうしてきみは ねじれてるのさ オー マイ ガールフレンド

さっきから泣いてる なぜさ マイ ガールフレンド
睨みつけるのは よせよ マイ ガールフレンド
だいたいきみは 情緒不安定
頭痛の種さ 困ったもんだぜ オー マイ ガールフレンド Do you know

マイ ガールフレンド 気まぐれなロンリネス
まわりはみんな振り回されっぱなし
マイ ガールフレンド 迷惑なことばかり
つきあってられないよ やってられないよ 勝手にすればいいだろ

マイ ガールフレンド
マイ ガールフレンド
きみはズルいぜ 知ってるんだろ
意地の悪い娘に ぼくが弱いのを オー マイ ガールフレンド Do you know

マイ ガールフレンド ひとの気も知らないで
世界はきみを真ん中に回ってるのさ
命取りさ 優柔不断なぼく
そんなに すねるなよ 負けた つきあうよ 気が済むまで ずっと

さっきまで泣いてたくせに マイ ガールフレンド
そうだった? 忘れたわ だって マイ ガールフレンド
笑ってるのさ まいっちゃうよな
結局ずっと 離れられない オー マイ ガールフレンド オー マイ ガールフレンド

オー マイ ガールフレンド

この歌の姉妹編が『50 / 50』に収録した「エミリーはプレイガール」。私は少女マンガ的ラブコメソングを、ティーンエイジのころからひんぱんにつくっていた。
 
10. 長い日曜日
1987年は不作の年だった。前年の『Everything / Nothing』を凌駕する作品ができていないように感じていた。新しい何かを探りあてるべくあれこれ模索したが、まだ機が熟していなかった。
そんな中、この曲だけはなんとか合格ラインに達した。32ビートの細かな刻みと後ろ向きな歌詞が前進していないもどかしさを表現できていたから。
なるほど、「フランク・ザッパを一日中、聞いてられるかい?」の一行が効いている。が、このころ日本でのザッパの評価は、今日ほど尊敬される対象ではなかった。
長い日曜日

長い日曜日

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

きみの望んでいるのは ぼくじゃない
ここに座っているのは ぼくじゃない
きみの目の前のやつは ぼくじゃない
きみの探しているのは ぼくじゃない

てんで優しかないぜ 面白くもないぜ
退屈を酒とタバコで やり過ごすだけ
カネもない 海に連れてく車さえない
気難しいだけの頼れない男さ

きみの探しているのは ぼくじゃない
ここに座っているのは ぼくじゃない
きみの目の前のやつは ぼくじゃない
きみの望んでいるのは ぼくじゃない

フランク・ザッパを一日中 聞いてられるかい?
月夜の晩に突然 屋根によじ登れるかい?
猫の見つめる部屋で 眠りに就けるか?
きっときみが望む以上に ぼくが望むだろう
ぼくが望むだろう ぼくが望むだろう
きみがどこかへ 行ってしまうのを

ぼくが探しているのは きみじゃない
ここに座るべきなのは きみじゃない
ぼくの目の前のひとは きみじゃない
ぼくの望んでいるのは きみじゃない

きみの欲しい安らぎは ここにない
きみが探しているのは ぼくじゃない

束縛を厭い、停滞に倦んだ男の脱出願望が込められた歌詞だ。
 
11. Music in the Air
 
この曲を発表するかどうか、とても迷った。出だしの旋律が「エリナー・リグビー」みたいだからだ。全体に陰うつなムードが漂っているからだ。東京から熊本へ戻る際、まっすぐ帰れずに、数週間あちこち放浪したときのことを赤裸々に告白しているからだ。
「空気の中の音楽、私はいたる所でそれを聞く」というタイトルはザ・バンドの曲「ラグズ・アンド・ボーンズ」の一節を引用している。歌っていたリチャード・マニュエルは1986年に自死を選んだ。そのニュースは私をひどく滅入らせた。ひとつの時代の終焉を痛感したので。
Music in the Air

Music in the Air

  • 岩下啓亮 Sardine
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

途中下車 波の音 途絶えぬ宿を求め 酒を飲む

幾つかの 煩わしさを忘れられず 目がさえる

おれはこれから先も流されていく
人知れないどこかの町へ
宛所もない 彷徨い人

仮初めの 仕事を求め探していた 甘かった
常しえの 居場所があるやつはいいね 幸せだ

昨夜 寝た女のことを考える
なぜああも簡単に許せるんだろう
答えはない 止めどもない 彷徨い人

あゝ冷たい風切り刻む あゝ置き去りにした抜け殻
乗り遅れてしまった 拾い損ねてしまった こんなにもう遠くへ来ていた

ガキの頃 こんな場所を想像していたもの 寝る前に
そして今 同じように魘されるおれがいる 眠れずに

おれはザ・バンドのうたを唸り続けて
ピアニストの魂を葬り去った
季節は冬 凍えている 彷徨い人

あゝガラクタになった身体を あゝ未練がましく引きずる
行っちまった魂は どこへ運ばれるんだろう
こんなにもう離れてしまった

乗り遅れてしまった 戻ることもないはずの あなたが今ここにいた気がした

Music in the Air, I hear it everywhere
Music in the Air, I hear it everywhere
Music in the Air
I hear it everywhere

この曲では友人のゴアちゃんから譲られたヤマハDX-7を多用している。名機と呼ばれるデジタルシンセだが、私はあまりうまく使いこなせなかった。でも、硬質な音色が、寒々とした風景を浮かびあがらせているように思う。

open.spotify.com

最初にも述べたが、この時期の録音を私はあまり好んでいない。だから突き放した評価をしてしまった。もっと丁寧に録音すればよかったと思うところも多いが、当時の私はバンドやソロでライブすることに傾注しており、リズムマシンのプログラミングに支配された多重録音を面倒なプロセスだと感じていた。この1年後に私はピアノと歌だけで構成した『50 / 50』を完成させているが、収録曲の大半は1987年に書いたものだった。

私は『カセガセ』シリーズを出すことで「恥」の意識がずいぶん薄らいだ。1年前だったら、ぜったいに「こわさないで」や「マイ ガールフレンド」を世間にさらそうとは思わなかった。が、リリースしてしまった今、後悔はさほどない。どうせたいして聞かれちゃいないのだから、Unlimitedプランで、好きなように配信するんだ。

鰯 (Sardine) 2025年3月23日 63回目の誕生日に