鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

Twiitin' the Night Away(あれから35年)

 

昨日12月8日はジョン・レノンの命日だったのでツイッターでこんな発信をしてみた。

twitter.com

 

今日12月9日に24時間経って確認したら1票しか入っていなかった(笑)。

まあ、イワシの影響力なんぞ、たかだかそんなモンだ。過大評価はよくないぞ、諸君。

 

さて、ジョン・レノンにかんしては、人一倍思いいれの強いぼくである。たとえかれの実態が、しょうもないヤツだったと知ってしまっても、10代の最も多感な時期に受けた影響は覆らない。昨年も、こんな記事を投稿したくらいだ。

 

だけど、毎度まいどしめやかになるのは趣味じゃない。第一、当のジョンがいやがるだろう。おれを神格化するな、いやおれ以外の誰をもだ、というのが、「God/神」というナンバーの言わんとしたトコロではなかったか。

だから、こんなツイートをした。

おれは平和のシンボルとしてのジョン・レノンが、いちミュージシャンとして正当に評価されていないことにいつも不満を覚えるのだ。ひょっとすると、ジョージ・ハリスンよりも、音楽的にはマトモに論じられていないような気がしてならないので歯がゆい。と、いうわけで。

いまからレノンのユーチューブ映像を貼りまくります。それぞれに解説つき。ツイッター始めたころはよく二時間ぶっ続けで連続投稿していたが、あの頃のノリで。目ざわりでしたら、どうぞスルーを。

で、月末にスマフォの回線速度が遅くなるのも厭わず、ユーチューブの動画を探してはツイートしたんだ。12月8日の夜は、そんなふうに過ごしたかった。ツイッターを自分のものとして取り戻したかったんだ。

今回の記事は、それをそっくりそのまま貼りつける。

 

①「ビ・バップ・ア・ルーラ」

『ロックン・ロール』アルバムは、通販レーベルの廉価盤で売りたかったそうだ。ジョンの「即席でやっつけたい」思わくは、フィル・スペクターのマスターテープ持ちだし逃亡事件などでうやむやになってしまうのだけれど、身に沁みついたロックンロール・ナンバーを、ストレートに歌いとばしたかったのだろうなと想像する。

 

②「ギミー・サム・トゥルース」

アルバム『イマジン』のサウンドの特徴として、a:分離の良くないモコモコの音質、とb:アラン・ホワイト(のちYESに加入)の繰りだすシンプルで重たいビートが挙げられる。時系列は前後するが、シングル「インスタント・カーマ」におけるホワイトのドラミングは、ロック史上屈指の名演といえるだろう。


John Lennon - Instant Karma-Offical Video-HQ

 

③「ワーキング・クラス・ヒーロー」

ホントはここで、ジョンみずからが「リッチー・ヘヴンズみたいにドライヴしている」と自慢した、「I Found Out/悟り」を貼りたかったんだが、スマフォで観られる映像がなかったので、これに変更した。あと『ジョン魂』でたまげるのは「ウェル・ウェル・ウェル」。ギターの破壊力ときたら! あれを弾けるギタリストには素直に脱帽する(静岡のハヤシさんは完璧に弾けた)。

 

④「ホワット・ユー・ガット」

ジョンは、ソウルの興隆を横目で睨んでいたふしがある。ファンキーであろうと躍起になっていた。それはデヴィッド・ボウイと共作した「フェイム」を聴けば一目瞭然だけど、悲しいかな、「ウラ」と「抜き」のニュアンスがいまいち表現できなかったように思う。グルーヴ感が良くも悪くも直線的なんだよね。楕円の軌道が巧く描けないんだ。

 

⑤「ワン・デイ(アット・ア・タイム)」

ジョンは『マインド・ゲームス』で、ニューヨークの腕利きミュージシャンを雇って、新境地を開拓しようとした。具体的にはコード進行の拡大。それはこの「ワン・デイ」や、佳曲「アウト・ザ・ブルー」に顕著だ。おれだってこういう技巧的な曲が書けるんだよと、知らしめたかったのかもしれない(誰に?)。

 

⑥「リメンバー」

だからリンゴは、ジョンの歌詞を慎重に聞きながら叩いていただろう。『ジョンの魂』のほとんどは一発録りだから、この曲だと「Today -ay. 」から「So,Don't You Worry. 」のブレイクに着地するまでは、ジョンの様子を窺いながら淡々と2ビートを刻むしかない。

※蛇足だが「Remember The 5th of November」と締められる「11月5日」とは、ガイ・フォークス(祭)を指している。だからアルバムのヴァージョンには、ドカーン、と爆音が炸裂している。

 どうする?もうちょい続けてもいいかな?(誰に訊いてる?)

 

 ⑦「ウォッチング・ザ・ホイールズ

このアルバムじゃ、暴れん坊のアール・スリックgですら大人しい(ヨーコの曲では自由闊達に弾いているけど)。ところで、バンドリーダーを任されたギタリスト、ヒュー・マクラッケンは、セッションの初っ端に「きみはポールのアルバム(『ラム』)で弾いてたんだよね?」とジョンに訊かれたらしい。それで信頼されたのだそうな。なんだ、しっかり意識してたんじゃん、ポール・マッカートニーの仕事を。

 

⑧「オールド・ダート・ロード」

『心の壁、愛の橋』は、ぼくが最初に手に入れたジョンのアルバムだったので、愛着もひとしお。だけど、ジョン本人にとっては「失われた週末(Lost Weekend)」と呼ばれる不遇の時代で、夜な夜なL.A.のバーを、ニルソンとはしごして飲んだくれていたという。アルバムの終盤を飾る「愛の不毛/Nobody Loves you (When You're Down And Out)」しか書けなかったくらい落ちこんでいた理由は、オノ・ヨーコと別居していたから。

 

⑨「ジョン・シンクレア」

『サムタイム・イン・ニューヨーク・シティー』は、いまいちつくりが雑で、残念なアルバムである(個人の感想です)。原因はバックをつとめるエレファント・メモリーの粗削りな演奏だろう。ジョンの曲って実はどれも、ひじょうに技巧を要するデリケートな構造だから。ただ、この歌だけは別。数あるレノンのナンバー中、五指に入る快演だと思う。

 

⑩「オー、マイ・ラヴ」

このツイートには説明が必要だね。叙情派プログレッシヴロック、ルネッサンスのピアニスト、ジョン・タウトが参加しているとインナースリーヴに記されているが、パートはギターになっている。まさか。で、どうやらかれは、辛らつな歌詞を軽妙に歌った「クリップルト~」のラグタイム風ピアノを弾いているらしい(いまいちキャラクターに合わないけれども)。

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「オー、マイ・ラヴ」さびの部分。ノルウェーの作曲家・グリーグの作品に顕著な「リディア旋法」が用いられている。♮記号のあたりを辿ってみてほしい。これはオノ・ヨーコの抽斗から取りだされたものだ。

で、「オー・マイ・ラヴ」の演奏風景を観てごらん。ジョージ・ハリスンの対位法的なオブリガート、ニッキー・ホプキンスのもの思いにふけるようなアルペジオ、このデリケートさがジョンの楽曲には要求されるんだよ。

 

⑪「コールド・ターキー」

この連続ツイートを喜んだのは、ほとんど「おなじみさん」の、しかも男性ばかり(笑)だったけど、唯一、こんなメンションを送ってきたお若い方がいた。嬉しかったねえ。

初めて聞いたんすけどこの曲ヤバいっすね!クラプトンに良いイメージ無かったんすけど食わず嫌いを恥じている所です… 

いや、こういう反応を待っていたんよ。未知との遭遇。出会いがしらの衝撃。

 

⑫「マインド・ゲームズ

そろそろ、ぼくの意図が伝わってきただろうか?

そう、ぼくはジョン・レノンを他のロック・アーティストと同様に扱いたかったんだ。フラットに、音楽そのものを語ってみたかった。それはカンタンなことじゃないけれど、やってみる価値はあると思う。その見地からみてはじめてジョンの凄み、他人にはとうてい真似できない境地、あべこべにトホホな部分が浮かびあがってくるんじゃないかな。その視座を獲得すれば、「私どうもヨーコが苦手なんですが……」みたいな断りを入れずに済むかもしれないよ。

ツイッターでは、ごあさん(bombay2goa )が、「マインド・ゲームス」について、<ホテル・カリフォルニアマインド・ゲームスの共通点=レゲエのリズムを取り入れているのに色々とすき間なく重ねすぎて全然レゲエに聞こえない>と書いていた。それそれ、そういう意見がもっと読みたいのだよ、ぼくは。

追記;『マインド・ゲームス』はフェイドアウト部分の一行が好きなんだよね。

Iwant you to make love, not war Iknow you've heard it before

(戦争やめてメイク・ラヴしようよ これ、前にも聞いたはずだよ)

こういう「ジョン・レノンセンス」、ぼくはかれの歌詞から学習したのだろう。

 

⑬「ウーマン」

そのうえで。

やっぱりジョン・レノンは存在そのものが唯一無二だったから、楽曲の善し悪しに注文つける人もあまりいなかったんだろうなぁ。口出しできたのはビートルズ時代ではポール、解散後ではヨーコ、その二人だけ。でもほんとうは、自分の作る音楽に辟易していたんじゃないかな。あーもうマンネリだ。むかしの焼き直しばっかりじゃねえかオレ!と地団太踏んでディレンマに陥っていたかもしれない。『ロックン・ロール』から『ダブル・ファンタジー』にいたるまでの長い沈黙は、やはり音楽への情熱が薄れかけていたからだと思う。

 

だけどジョン、あなたはすごい人だ。「イマジン」ひとつとってもそうだ。あんな無防備な歌詞、誰にも書けない。かりに書けたとしても、あんなふうにナチュラルに、まるで鼻歌みたいに歌えやしない。あれは誰がカヴァーしても成立しない。みんなが歌える簡単な音階とコードなのに、誰ひとりとして模倣できない。あの天国から降りそそぐような、捉えどころのない、茫洋とした残響は――


John Lennon - Imagine (official video)