最左翼の“オザシン”イワシ、ヘイトデモ・カウンターの頭数になる(初出:Medium 2月10日)
2月3日(日)、熊本市で日本第一党の主催によるデモが行われた。俗に言う「ヘイトデモ」である。連中の旗印は「日韓断交」。こいつは許せん、看過せないな、とおっとり刀で駆けつけた。
しかし、デモ隊の集合場所が特定できない。私はTwitterを開きっぱなしにして、
[ #0203熊本ヘイトデモを許すな ]
というハッシュタグを見た。すると、鶴屋デパート裏・旧小泉八雲邸横の公園にデモ隊が集結しているという情報を得た。
ただ今到着。#0203熊本ヘイトデモを許すな
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
鶴屋裏、小泉八雲旧家横の公園。
頭数になりに来ました。
今日は警察官が多数。
駆けつけると、既に数名のデモ隊が集まっていた。そして、これも数名のカウンターが集まっていた。カウンターとは、ヘイトスピーチを許さないという意思のもと、排外主義の団体に対抗する者たちの呼称である。私が公園の中に入ると、カウンターの一人が、あのーと声をかけてきた。ぼくは、
「頭数になりに来ました」
と符丁を告げた。それで緊張した面持ちがやや緩んだ。彼は「プラカード、持っていますか? お貸ししますよ」と言った。私は好意に甘え、ありがたく受け取った。なにせ、カウンターに行こうと決心したのは、数時間前のことだったから、準備していなかったのだ。
「警官、多いね。去年はいなかったのに」
「あー、10月14日の熊本駅前ですね。わずか10分で解散したという。いらっしゃったんですか?」
「うん。カウンターは2度目です」
福岡から来たらしい彼と話している間にも、県警の青いジャンパーを着た方が、ぴたっと近づいてくる。何だなんだ、なんでボクらを警戒するんだ? と私は不愉快になった。
「降ってきたわねー」
昨年秋に見かけた方が駆け寄ってきた。軽く会釈して、相手の様子を窺っていると、通町の方角からデモ本隊らしきが合流してきた。
「いよいよ、始まりますよ」
カウンターの一人が注意を促した。彼は簡易スピーカーを肩から下げ、あらかじめ録音した音声を流している。「沿道の市民のみなさま、お騒がせしています。このデモ隊は差別と偏見に満ちた、ヘイトスピーチをする団体です。私たちは人権を侵害するヘイトデモに対して抗議します。しばらくご迷惑をおかけしますが、ご容赦ください……」。
午後2時すぎ。
デモ隊が列をなして行進し始めた。人数は20名前後だが、それと同じくらいの警察官が、デモの周りを取り囲んでいる。警察に護衛されたヘイトデモ。なんという倒錯だろう?
昨年10月にお世話になった見覚えある男性が合流した。けれどもカウンターの人数がやや少ない気がする。やがてデモ隊と警察、それにカウンターは、熊本の繁華街、下通パルコ前に移動した。そこにはさらに大勢が集結していた。前回のデモ隊は10数名だったが、今回はその3倍ほどに膨れ上がった。さらにデモを警護する警官の数が、デモ隊よりもさらに増えていた。
ただいま下通入口パルコ前です。#0203熊本ヘイトデモを許すな
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
だけど、カウンターは怯まなかった。のそのそと進みだすデモ隊に負けないように、鋭い抗議の声を上げる。
差別をするな! 仲良くしようぜ! ヘイトをやめれ! お家へ帰れ!
デモ隊に接近しようとすると、警官に静止される。2, 3人がかりで、押さえつけられるのだ。私は割とヘタレで、少しデモ隊と離れていたから、警官と揉めることはなかったが、それでも離れてください、通行の邪魔をしないでください、と女性警察官に再三注意れた。私は反論しなかったが、しばらく睨みあった。そしてデモ隊に聞こえるように「差別を、するなー!」と大声で怒鳴った。彼女は、目を逸らした。
デモ隊は下通アーケード街を進む。何ごとか良からぬことを言っているようだが、カウンターの抗う声に遮られ、沿道まで届かない。銀座通りの交差点で、周りを見渡してみた。奇異な目を向ける市民。その蔑んだ目は旭日旗を掲げる団体に向けられたものか、それとも声を荒げるカウンターに向けられたものか。中高生の男子が奇声をあげていた。二十歳前後の娘さんたちが眉を顰めていた。中高年のおじさんたちが「迷惑」そうな顔をしていた。私と同じくらいの年齢のオッさんたちは、排外主義を唱えるエセ右翼と、私たちカウンターの、どちらを嫌っているのだろう? 今の日本社会をみれば、敵意はむしろ、私たち「サヨク」に向けられているのかもしれないと感じる。
ぼくは #0203熊本ヘイトデモを許すな のカウンター側にいて、切れぎれに聞こえる日本第一党側の主張に、首を傾げていた。彼らの主張の要である「日韓断交」が、あまりにも御国のためにならぬ、経済を停滞させるだけの、合理性に欠けたものだからである。愛国心があるのかさえ疑わしい。彼奴ら莫迦だ。
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
新市街に入って、デモ隊が止まり、カウンターと対峙する形になった。私は彼らに問うてみた、
「君たち、それでも“愛国者”か? おれにはそうは思えない。韓国と国交を断絶して、交易がなくなったら、日本の経済は沈んでしまうぞ。それでも、いいのか?」
返事はなく、連中はせせら笑うばかりだった。その代わり、辛島町電停の交差点を渡るときに、こんな罵声が投げかけられた。
「この、共産党員奴(め)が!」
ぼくは反射的に言い返した。
「生憎だな、おれは自由党だ!」
何人かがギョッとした。自由党が「自民党」に聞こえたのかもしれない。
見てはいよ、こん人たちの凶々しさば。お巡りさん、二重に取り囲んどらすけん、のさん。なんさま大げさか。#0203熊本ヘイトデモを許すな https://t.co/YgeJGrZBGo
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
辛島公園に陣取ったデモ隊は、何人かの弁士が入れ替わり立ち替わりで、覇気のない声で莫迦げた主張を繰り返していた。「朝鮮人の侵略を許すな、万世一系の日本を守れ」。すぐさまカウンターから「天皇を利用するなよな」と茶々が入る。悔しげな顔をするヘイトスピーカー。しばらくすると奴はカウンターの一人を指して、
「障害者を、利用するなぁ」
と叫んだ。車椅子に座った彼は、前回10月にも来ていた。利用? とんでもない、彼自身の意思でカウンターに臨んでいるのだ。何てこと言いやがる!
弁士の暴言に、カウンター勢は一斉に憤った。どういうことだ⁉︎ と詰め寄ろうとした。しかし、ヘイトデモ隊を二重に取り囲んだ警官が詰め寄るを阻止する。どうして止めるんだ、とカウンターが叫ぶ。
「あいつら、明らかに差別してるだろうが。ねぇお巡りさん、差別を撒き散らすヤツらをなぜ護る?守られるべきは、弱者の、市民の側だろうよ!」
ヘイトスピーチはなおも続く。日本政府は弱腰だ、いざとなれば我々は戦争も辞さない覚悟があると。ハッ、何が「覚悟」だ、軽くなったもんだ、覚悟とやらも。
そして宮崎から来たという青年が、ついに「戦争反対」を連呼した。
戦争反対! 戦争反対! 戦争反対!
カウンターの声が一つになって、辛島公園じゅうに鳴り響いた。雨は激しさを増し、身体の芯まで凍えそうだったが、心は熱かった。ヘイトデモの一人がカウンターに向かって「くるくるパァ」の仕草をしていた。立派な仕立てのスーツを着ていたが、その初老の男の姿は見すぼらしかった。警察官が困惑した表情で、静かにしなさい、と我々を諌めた。私はさすがに文句を言った。静かにさせるべきはあっちでしょう? と。警察官は「もうすぐ終わりますから」と苦笑いした。
ヘイト団体デモ、解散。#0203熊本ヘイトデモを許すな
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
今から気をつけて帰りますが。
許せないスピーチがあった。カウンターに車いすに座っている方がいたのだが、弁士の一人が指をさし「障害者をダシに使ってる」と嘲笑したのである。追いつめられてホンネが露呈したのだ。醜く最低のヘイトスピーチ。
3時45分、警察の説得もありデモ隊は解散した。その様子を見届けたカウンターも、辛島公園から一人ひとり去っていく。
顔見知りの男性にあった。忙しいさなか、途中から急きょ駆けつけたのだ。喉が涸れたでしょうと言って、のど飴をくれた女性もいた。イワシさんのツイッター見ていますよとおっしゃったので、照れた。そういや私のすぐそばにはツイッターで相互フォローの青年もいた(あとで分かった)。私たちは軽く会釈を交わしながら、方々に散っていったが、そのとき、私は警察官に「ちょっと」と呼びとめられた。
「みなさん、前からのお知り合いなんですか?」
私は、いいえ、と首を横に振った。
「誰とも交流ありません。SNSでヘイトデモの報せがあったから、それぞれが自由意志でカウンターに参加している。……と思いますよ、知らんけど」
それから私は踵を返し、下通アーケード街の人混みに紛れた。
今回またも急遽のため手ぶらで赴き、いろんな方々から助けてもらった。福岡から来熊した方や前回の熊本駅前で会った方からプラカードを貸してもらった。宮崎から駆けつけた方もいたし、喉が涸れたでしょうとのど飴くれた方もいた。#0203熊本ヘイトデモを許すな カウンターの皆さん、どうもありがとう。
— 岩下 啓亮 (@iwashi_dokuhaku) February 3, 2019
それにしても、と思う。もう少しカウンターの人数が必要だと。30人程度のヘイトデモ隊よりも、カウンターは僅かに少なかったし、それより警察官の動員が半端なかった。おそらく50名は下るまい。警察は、ヘイトデモを護衛し、私たちカウンターを退けた。この圧倒的な不均衡に対抗するには、もっと「頭数」が必要だ……
守られないカウンターは、守られるデモよりもはるかに辛い。私は数年前に熊本で初めて参加した、秘密保護法反対のデモを思い出していた。
kp4323w3255b5t267.hatenablog.com
それから「梯団」の先頭を仕切っていた若者たちのことをふと考えた。彼・彼女らは今どこにいるのだろうと。例え党派や思想の隔たりがあっても、ヘイトスピーチの邪悪に対抗する意志は、君たちにも分かってもらえると思うんだけどな。
もうすぐ57歳を迎える初老のおっさんは帰りしなそんなことを考えていた。鰯 (Sardine) 2019/02/10
【はてなブログ転載にあたっての注釈】
①オザシンとは(自由党代表・小沢一郎を盲信する)小沢信者のこと。ぼくがインターネット上で初めて「オザシン」の文字面をみたのは、野間易通氏のツイートだった。あれからずっと、ぼくは小沢の支持者であって、信者呼ばわりされる筋合いはないと思っていたのだが、晴れて昨日2/10、存じあげぬ方から小沢信者の称号をちょうだいしたので、タイトルに使うこととした。
②今回の記録は、できるだけ個人的な視点で描くことにした。いろんな方の視点を持ちこめば(たとえば〈基本的人権と表現の自由との衝突について〉など)資料としてより充実したものになるだろうが、それは他の、これらの事情に精通した方々の手に委ねたい。
③インターネットにおいては右傾化をささやかれ、現実社会では左傾化を心配されている。が、ぼくはただの、自由人に過ぎない。