鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

『変身』は私にとってやっかいな作品集だ

変身 (2025 edition)
岩下啓亮 Sardine

f:id:kp4323w3255b5t267:20251021171002p:image 色調はヒプノシスを多少意識した

2001年秋に制作した『変身』は、そのころ新しく導入したベリンガーのミキサーとCD-Rを併用して録音した。音質がクリアになった反面、低音域が瘦せている印象があったので、2025年版で補正した。また、基本となる11曲の構成は変更しないまま、「Any other man」の弾き語りバージョン、ウェット過ぎるので没にした「Oh, No ことばにならない」の初期テイク、3つのアウトテイクの断片をつなぎ合わせた「メドレー:もっともっと生きるチカラをあなたのクスリで」、打ち込みリズムが全体から浮くので没にした「旅に出よう リズミックバージョン」の4曲を新たに加えた。これでアルバム『変身』の全体像がより明確になったことと思う。なお、新装ジャケットの写真は、遺跡発掘の代理人・太郎ちゃんが府中市にて撮影した。

『変身』はタイトルを『東京』にしてよかったかもしれない。11曲のどれもが、街の情景を浮かびあがらせるから。

『変身』をつくった動機は単純で、「そういえばオレはまだ、ストレートなラブソングをあんまりつくってないな」と思ったからである。ならばいっちょうつくってみるかと書きはじめ、ノート三冊分くらい歌詞を書き、かなり短い期間でこの11曲を録音した。
が、乏しい恋愛経験を元にしているため「これじゃ自分の感情が丸出しじゃないか」と、あとで聞きかえすのがたいへん恥ずかしかった(いまだにそうだ)。けれども、これほどまとまりのある作品集は自分のなかでも稀だ。ぜひ、制作した2001年当時のムードをそのまま感じとっていただきたく、今回『変身』をリリースした次第である(2024年版より転載)。
Hen-Sin (2025 Edition)

Hen-Sin (2025 Edition)

  • 岩下啓亮 Sardine
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  • ¥1222
1.Any other man

最初の印象がよくない相手。しかし気になる。憎まれ口をたたきながらも、男はいつのまにか女に惹かれている。「オレのこと好きじゃないなら他をあたれば?」という突き放した態度は、他の曲でも頻出する「ふてくされ男」のポーズ。ホントはもっとオレの方を向いてくれと願っているくせ、素直じゃないヤツ。長くうねるメロディーとヒーカップ唱法はジュールス・シアーの影響だ。切れ味勝負のロックンロール。

Any other man

Any other man

  • 岩下啓亮 Sardine
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  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

I saw you Baby blue
ちょっとだけ目を離してたら
その瞬間
誰だ
おれの椅子でタバコふかしてるのは
Kiss me Baby please
油断もスキもありゃしないぜ
まったく
誰か
おれの居場所を奪おうとしている

これはずっと治らないな
きみは病気さ
Any other man Any other man
どこか欠落してる
気持ちを満たす
Any other man Any other man

I know you Baby blue
こんなことはもう慣れっこだよ
平気さ
誰と
楽しそうに喋っていようと
Kiss me Baby Please
いつものことさ
傷ついちゃいられないよ
いちいち
誰が
おれのベッドで
這いつくばっていようと

これは一生、治んないなって
きみはいった
Any other man Any other man
今夜どいつが空っぽの
うつわを満たす
Any other man Any other man

I like you Baby too
そんなふうにふるまってられるのは
いつまで
おれは
きみの傷害保険なんかじゃないのに
Kiss me Baby please
ときどきは戻っておいで
待っているから
誰が
きみの心まるごとさらっていこうと

かならず帰ってくれるなら
Any other man Any other man
星の数ほどオトコを
カウントするがいい
Any other man Any other man
恋の数だけきみは
きれいになればいい
Any other man Any other man

 

2.街に響くは
もてあます感情のありかを探る過程で、男は自分が恋していることに気づかされる。ちまたに流れる、ありふれたラブソングを耳にしたことで。 このほろ苦い歌詞が生まれたきっかけを記そう。商店街を歩いていたとき、そのころヒットしていた三木道三の「一生一緒にいてくれや」という歌が流れてきて、私は不覚にも泣いた。 「あ。オレもう無理して人に気に入られるための歌を書く必要ないんだな、だって、そんなの星の数ほどあるんだし、もうこれ以上世の中にラブソングは必要ない」と思った。 つまり、これは諦念の歌だ。
街に響くは

街に響くは

  • 岩下啓亮 Sardine
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  • ¥153
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もうどれくらい指折り数えた もうどれくらい待ち続けた
溢れだすそうだ流れ出す涙 漏らすため息に窒息しそうだ
今日のこの星は 少しだけくたびれる

街に響くは恋の歌
ありふれたことばかりだ
考えてほしいといってるようだ
ぼくやあなたに なるべくみんなに ああ

もうこれ以上必要ないくらい もうこれ以上なくたっていい
今さら誰かが上書きしなくても もう十分さ筋書きは読める
ちょっとだけ余白が欲しいと思ってた

街に響くは恋の歌
あけすけなことば綴った
抱いてほしいと願ってるのか
ぼくやあなたに あまねくみんなに ああ

もうどれくらい愛してるっていった もうどれくらい星の数くらい
誰もが彼もが悲しみを抱えてる 満たされぬ憂鬱を持て余して
今日もこの星はなんとか回ってる

街に響くは恋の歌
響き渡るは誰の歌
あなたが好きといっているんだ
ぼくやあなたに それともみんなに?
ラララ......ラララ
街に響くは恋の歌
それよりぼくは あなたの声が聞きたい

 
3.変身
恋する対象がみつかった人間は、たいてい尋常じゃなくハイテンションになる。その熱病にうなされたような感覚をポップなメロディーとアレンジで表した。 キャッチーなイントロ。三声コーラスも含めて、全体にビートリッシュ。恋愛初期の高揚した感情を素直に表出している。「定期券をなくした」のは実話だけど定期券は今や死語に近い。歳月の経過は歌詞に現れるものである。 大好きな歌なんだけど退屈に感じることもある。ビートルズでいえば「ユー・ウォント・シー・ミー」みたいなポジションか。
変身

変身

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  • ¥153
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だんだん自分が自分でなくなって
なんだかぼくがぼくじゃなくなるよ
カンタンにきみは近くにやってきて
頑丈に閉めた扉を開いた

昨日 鍵を忘れた
今日 駅で定期券おとした
どっかおかしいな ふだんと違う
ふわふわ浮ついて たぶん Heaven 明日

変身したんだ陽気で能天気
なんだか以前のぼくじゃないみたいだ
心臓の中に羽が生えてきて
血管の中にきみが泳いでいたんだ

ヘンテコな柄のシャツ着てみたり
包丁で指の先 切ってみたり
どうしたんだ おい 冷静になりな
みんなだって気づくさ「おまえヘンだよ」

Ahh
きみのせいさ あまりにも無防備な
きみのせいさ Ah, 罪はないけど
存在するだけで 犯罪ものさ

だんだん自分が自分でなくなって
なんだかぼくがきみみたいなキャラになる
カンタンにきみは自然にふるまって
感情を秘めた言葉 引きずりだした

だんだん自分が自分でなくなった でも、
そういう自分が好きになっているんだ
Hey

 

4.Oh, No ことばにならない
恋愛の只中にいる人の感情をストレートに描こうと思った。その狙いは達成したが、いかんせんアレンジが70年代の日本語ロックみたいで、録音後に顧みるたび、気恥ずかしさを感じていた。でも、しょせん私の歌は古くさいのだし、今さら新しさを装うこともできない。開き直ってリリースしようと決めた。 通常の悲恋の歌は、最後の一節でかすかな希望を提示するものだが、この歌はただただ最後まで、悲嘆に明け暮れている。
Oh, No ことばにならない

Oh, No ことばにならない

  • 岩下啓亮 Sardine
  • フォーク
  • ¥153
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華奢な指先をみていた はにかむ笑顔みつめた
私の好きになるひとは みんなどっか似ている

どうして笑っていられるの 楽しかったっていうの
好きだといってくれたひと みんな私以外を選ぶ

Oh, No これから先どうしよう Oh, No どこへ行こう
Oh, No 考えられないよ 今はあなたしかみえない

優しい瞳をしていた 恥ずかしそうに喋ってた
私の好きになったひとは 面影だけを置いてゆく

Oh, No 逢いたくなったらどうしよう Oh, No さびしいよ
もう 連絡できないの それをあなたにはいえない

限られた場所 わずかな時間 探し求めていた
許されないと 分かっていても 愛を育てていた

どうして帰ってしまうの 私をひとり残して
好きだといってくれたひと ぎこちなく抱きしめる

Oh, No これからずっとどうしよう どうやって生きていこう
Oh, No なにも欲しくない 今はあなたしか要らない

Oh, No Oh, No
Oh, No ことばにならない 二度とあなたに逢えない

 

5.もっと もっと もっと
仕事帰りに秋葉原を歩いていた私は、駅に向かう人並みを眺めていて、この人たち一人ひとりに愛する人がいるんだろうか、もしかしたらいない人のほうが圧倒的に多いんじゃないかと想像した。すると、駅へと急ぐ無表情な顔した人びとが急に愛おしく感じられた。 ギターのオブリガートは、われながら巧く弾けたと思う。使用楽器はギブソンSG(72or73年)。
もっと もっと もっと

もっと もっと もっと

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  • ¥153
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もっと話したかった もっとここにいたかった
もっと続くはずだった もっともっともっと

ポケットの携帯電話 すっかり鳴らなくなった
お喋りしていたかった ずっとずっとずっと

真夏の花火さ 夜の帳を焦がす
人混みに紛れて ダイナマイトを仕掛けた

きみが視えなくなった 身勝手なお願いでした
会わない約束をした でもきっときっといつか

秋葉原の灯りは曇り空映し出す
人いきれかきわけ ダイヤモンドの星空

きみが改札に消えた 別れた後で気がついた
前より好きになってた もっともっともっと

もっと時間があれば もっと一分間でも長く
もっと一緒にいれば もっともっともっと
もっともっともっと
もっともっと

 

6.おーヨーコ
おーヨーコ

おーヨーコ

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やってくれるぜきみは 大胆すぎるんじゃない
きっと買うぜひんしゅくを おんなたちの反感を

おーヨーコ おーヨーコ 真夏の空の太陽
おーヨーコ おーヨーコ 光り輝く娘

勝手気まますぎるんだ 誰彼なくなれなれしい
きっと火傷するかンな おとこを甘くみてっと

おーヨーコ おーヨーコ パラシュートは開いてるぜ
おーヨーコ おーヨーコ 香りあふれる娘
きみを独り占めしたい

相手にとって 不足はないぜ
信じてないな ヨーコ
クールになんて かまえてないで
行くしかないぜ もう
躊躇わないもんね

やってくれる目くばせは 自覚なさすぎるんじゃない?
きっと誘ってんだな ハン思わせぶりじゃないか

おーヨーコ おーヨーコ おとこ狂わす毒を持った
おーヨーコ おーヨーコ 油断ならない娘

おーヨーコ おーヨーコ それでもいいさ ぜんぜん
おーヨーコ おーヨーコ 甘い蜜にありつけば
たどり着いたらいいな ヨーコ
きみを独り占めしたい

なにやってんだ まったくおれは どうしちゃったんだろう

 

7.あなたのクスリ
歌詞を読んでもらえばお分かりのとおり、気弱な男性を励ます女性という設定の歌だ。私は当時ミュージカルに凝っていたから、その影響もあるけれど、自分の猫撫で声がこっ恥かしくて、聞きかえすたびに赤面していた。ところがあらためて聞き直してみると、(錯覚かもしれないが)今風に聞こえた。削ぎ落とされたアレンジとシンプルなメロディ、そして他人を思いやる繊細な歌詞が今の世の中に通じるものがあるのか​​なと思った。今では好きな曲の一つだ。
あなたのクスリ

あなたのクスリ

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生きるチカラ
ぼくにください
生きるために
もっと
もっと

誰かさんを手伝ってあげること
誰かさんの役にたつこと
わたしあなたの
チカラになれるよ
そんな気がする

目の前には弱気になっているひと
ひとりぼっち離れてるひと
わたしあなたのクスリでいいよ
元気をあげる

だからいいよ
遠慮しなくったって
いってあげる
名前呼んでくれたら
もしも
もしも
つらいことがあったなら
迷惑じゃないから
話しかけておいでよ

なにかしらしてあげたいと思うこと
手を貸さずにいられないこと
わたしあなたに優しくなれるよ
そんな気がする

目の前には弱気になっているひと
じぶんじしん見失っているひと
わたしあなたのクスリみたいでしょ
ラクになったかな

たぶんいいよ
だいじょうぶ得意よ
助けてあげる
電話かけてくれたら
もしも
もしも
よろこんでくれるなら
気づいてくれるかな
わたしもうれしいよ

だからいいよ
なんだっていってみて
応えられる
みつけてくれるから
ちょっとだけ
好きになってもいいよ
クスリじゃ不満かな
毒になってもいいよ

 

8.旅に出よう
陸奥は未知の国。「スズラン」なんかもそうだけど、北の国への憧憬はつねにある。インパクトには欠けるけれど、個人的にひいきしている歌。マイナーキーなのに歌詞が明るい。ジャパニーズ・トラッドの趣きがあるよね。
旅に出よう

旅に出よう

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旅立とうぜBaby 迷ってんだねMaybe
思いつくまんま 旅に出よう 今すぐに

Hallo, how are you きみが大好きだ
ゆうべもきみのことを考えた
今朝がた見た夢 ぜんぶ話そうか

Singer song new thing 大切なことは
望むがままに生きてゆくことさ

生身のきみを抱きしめていたい
仕事が済んだら待っているから

旅立とうぜBaby 知られないさMaybe
行くあてないまんま 旅に出よう 未知の国

Can you hear the music? いつも感じてた
近づくきみに胸は高まった
幸せすぎて 少し怖かった
だけど毎日このまま 過ぎてゆくのなら
旅しようぜBaby

Hallo, how are you きみが大好きだ
ゆうべもきみのことを思ってた
名前を呼んだ 確かめていたい
ホントの自由が待っているから

旅立とうぜBaby 愛育てるにはMaybe
時間があんまりないぜ 旅に出よう
今すぐ
出かけようぜBaby 迷ってんだねMaybe
気持ちの向くまんま 旅に出よう 陸奥

 

9.あした また あえる
あまりにも素朴なラブソング。でも、その陽だまり感は悪くないと思っている。私は「オーガニック」の概念がいまいちわからないが、この曲なんかはオーガニックに近いんじゃなかろうか。
3種類のギターソロは、それぞれ工夫した。とくに2回めのツインリードのハーモニー、3回めのメセニーもどきのアドリブ。「ろくに弾けないキミが、ずいぶんがんばったね」と友人から慰められたっけ。 だけど、アウトロには恋愛の多幸感を完全に信じきれない、この喜びは夢マボロシなんじゃないか、という不安の忍びよる気配がある。
あした また あえる

あした また あえる

  • 岩下啓亮 Sardine
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暖ったかいな 何度も
スマイル 交わしあえば
毎日 なんかステキ

会ってたいな いつでも
スタイル 気にしなくちゃ
戸をたたく まるい声

こころの芯を溶かす
まるで魔法みたいだ
ありのままを伝える
明日またあえるかな?

なんて なんて不思議な
ドライブ 走りだせば
成り行きに任せるだけ

なんで なんで どうして
答えるんだ 間延びして
信じらんない くらい

こころの花を咲かす
飾りのないことばは
あたりまえを届ける
明日またあえる?
このまま続いてくと いいね

好き ここにおいで
好き そばにおいで
好き 腕が触れて
好き 胸が揺れて

暖ったかいな いつもの
スマイル 交わしあえば
毎日 すごくステキ

こころの芯を溶かす
なにげないその仕草
ありのままを伝える
明日またあえる
明日も逢いたい
このまま続いてくと いいね

夢 すべては夢
夢 すべては夢
夢 すべては夢
夢 すべては夢

 

10.忘れないで
感情がダダ洩れなので永遠に封印しておこうと思ったが、演奏に他の作品にはない長所もある。 聞けばお分かりのとおり、これもスマッシング・パンプキンズへのオマージュが随所に散りばめられている。私は、遅れてきたグランジの聞き手だった。恋愛感情は永遠に続かない。ある瞬間を境に霧散してしまい、あとは取りだしては眺めるだけになる。 喪失感と、透明な悲しみが、歌詞となって残る。
忘れないで

忘れないで

  • 岩下啓亮 Sardine
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  • ¥153
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こころに記したしあわせを
とりだしては眺めている

覚えていますかほほえみを
柔らかだった頬の色

覚えてる? 覚えてる
きみのこと 忘れないよ
いつまでも

今夜もいたずらなささやきを
思いだしては笑っていた

覚えてしまったんだ Siamese Dream
教えてくれたたからもの

覚えてる? 覚えてる
ぼくはずっと 忘れないよ

悲しみの在処 繋がっているのか
ぼくの心臓に(心臓に)
Yes 心臓に(心臓に)
この痛みの住処 永遠に続くのか
きみの心臓に(心臓に)
とても慎重に(慎重に)
Oh, 心臓に

ふたりが好きだったひとときの
欠片を拾い集めてる
覚えていますかまぼろし
あざやか過ぎた空の色

きみのこと 忘れない
ぼくのこと 忘れないで
いつまでも

忘れないで

 

11.好きなように
曲全体に漂う諦念が執着からの解放を感じさせる。ミドルエイトで少しウェットになりかけるが、すぐに持ち直す。 アコースティックギターストロークとベースの定型フレーズが巧くかみ合っている。易々と弾いているけれども、同じことを今やれといわれてもできない。時間を遡及することは不可能だし、過去は眺めることしかできない。
彼は何に失恋したのか? それは音楽に。だが、夢見ることを諦めたがゆえに、不思議と明るい歌になった。 フィナーレはめそめそせずに、カラッと締めくくりたかった。清水哲男の詩、「ミッキー・マウス」みたいに。
僕らは軽く手をあげるだけで 死ぬまで別れられるのである
好きなように

好きなように

  • 岩下啓亮 Sardine
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  • ¥153
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生きているなんて 息してるだけで
幸せじゃないな きみはそういった
生きていることで いいことがあると
信じてるなんて 信じられない、と

勝手にすりゃいい 束縛するつもりはない
黙ってたって いずれ去ってゆくのなら

好きなようにすればいいよ
かまわないさ
自分のこと信じてれば
好きなように生きていける
ここからは思いおもいに歩いてゆこう

つまらないことは どこにでもあって
喜びはないな きみはそういった
つまらないことで 笑ってるだけで
特別じゃないよ 転がってます、と

勝手にすりゃいい でもきみのこと嫌いじゃない
黙ってないで なにも変わらないのなら

好きなようにすればいいよ
かまわないさ
自分のこと嫌わないで
好きになってくれりゃいいな
ここからは思いおもいに歩いてゆこう

きみのことが好きで
時間は滑りすぎて
ここにたどり着いた
運命の曲がり角

人生のピークはいっぺんじゃないぜ
わからないさ なにが起こるか待っているのか
好きなように すばらしいじゃないか
真の自由だ
軽く手を振って別れようか
これからは思いおもいに歩いてゆこう
さあ、行くんだ

 

【ここからはボーナストラック】

12.Any other man (Acoustic Version)
これは音楽活動をやめる直前の録音だ。今になって聞き直すと、捨て鉢な気分とユーモアでやり過ごす部分との両方がせめぎ合っていて、なかなか興味深い。 私はギター演奏が得意じゃないから、穏やかな語り口とか繊細なアルペジオとかできない。どうしてもこんなふうに乱雑になっちまう。
Any other man (Acoustic Version)

Any other man (Acoustic Version)

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歌詞は1曲めと同一

 

13.Oh, No ことばにならない (Early Take)
最初に録音してみて、いったんは完成版としたが、情緒過多気味で聞き苦しいので、再び録音し直したのが、track4だ。 ギターソロはこっちのほうが泣いている。聞き比べてほしい。
Oh, No ことばにならない (Early Take)

Oh, No ことばにならない (Early Take)

  • 岩下啓亮 Sardine
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歌詞は4曲めと同一

 

14.もっともっと生きるチカラをあなたのクスリで (Medley)

3曲の没テイクを編集で短縮し、つなぎ合せたものだ。

「もっともっともっと」はベタなロッカバラードだった。「生きるチカラ」はもともと独立した曲だった。「あなたのクスリ」も最初は素朴なアレンジだった。私は楽曲の成立過程をリスナーに知ってほしかったのだ。

もっともっと生きるチカラをあなたのクスリで (Medley)

もっともっと生きるチカラをあなたのクスリで (Medley)

  • 岩下啓亮 Sardine
  • フォーク
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きみが視えなくなった 身勝手なお願いでした
会わない約束をした でもきっときっといつか

秋葉原の灯りは曇り空映し出す
人いきれかきわけ ダイヤモンドの星空


生きるチカラ
ぼくにください
生きるために
もっと
もっと


誰かさんを手伝ってあげること
誰かさんの役にたつこと
わたしあなたの
チカラになれるよ
そんな気がする

目の前には弱気になっているひと
ひとりぼっち離れてるひと
わたしあなたのクスリでいいよ
元気をあげる

たぶんいいよ
だいじょうぶ得意よ
助けてあげる
電話かけてくれたら
もしも
もしも
よろこんでくれるなら
気づいてくれるかな
わたしもうれしいよ

だからいいよ
なんだっていってみて
応えられる
みつけてくれるから
ちょっとだけ
好きになってもいいよ
クスリじゃ不満かな
毒になってもいいよ

 

15.旅に出よう (Rhythmic version)
「旅に出よう」もこちらの編曲を先に録音したが、「パーカッションが目立ちすぎて楽想を損っている」という妻の意見を受けて、翌日ふたたび録りなおした。正直いうとどちらのヴァージョンが良いのか、自分ではわからないので、リスナーのみなさんに判断してほしい。
旅に出よう (Rhythmic version)

旅に出よう (Rhythmic version)

  • 岩下啓亮 Sardine
  • フォーク
  • ¥153
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歌詞は8曲めと同一

 

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かように、この『変身』はひとつのコンセプトに貫かれた作品集だ。全体を通して聞くと、ひと組の男女のラブストーリーが容易に思い描けるだろう。
けれども、ロックオペラと呼ぶほど大げさなもんじゃない。むしろ中期キンクスの「ソープオペラ」に近いかな、独立した楽曲が相互に関連しあうという。
ともあれ、『変身』についての過多な説明は避けたい。聞いた人それぞれが、私の提示した2001年ごろの東京を舞台にした恋愛物語に、自分の経験を照らし合わせてもらえばいいな(2024年版の記事より転載)。

『変身』は、聞くたびに新たな発見があるアルバムだ。前年に私は、〈アコースティックギター一本と歌だけで楽曲を成立させる〉という課題をみずからに課したけれども(その時代の録音は『Cassette Gadget 4q』に収録されている)、この『変身』も基本的にはアコギ一本の弾き語りで成立しうる楽曲が大半である。ゆえにアレンジも極力簡素にするを心がけた。が、今の耳で聞くと、そのストイックさが窮屈にも感じられる。もう少し遊びの要素があってもよかったかもと思うのだ。アルバムの後半に収めた「忘れないで」など、つくった当初はやりすぎかなと思っていたが、今となっては編曲の工夫に面白みを感じる。もう二度と戻らない、未練と諦念が入れ混じった精神状態を、歌詞以上に音響が示しているように聞こえるのだ。何度もいうが私の声質は人を和ませない。自分でも「硬いなあ」と感じることしばしばだ。裸の私をさらけ出すのもほどほどにするべきだ。そんな複雑な感情を抱いてしまう『変身』はやっかいな作品集なのである。

ともあれ、残された時間はわずかだった。つくったとき、私はすでに39歳、40歳を目前にしていた。もう一作つくってみてダメだったら諦めよう、そんな思いが日に日につのる2001年の冬、生活を含めて私は窮まっていた。旅立とうにも旅立てる余力がもはやなかった。『変身』で恋愛というテーマを自分なりに修めた私は、残る気力を振り絞って『21世紀のプロテストソング』の制作に着手した。

鰯 (Sardine) 2025年11月14日