鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

2017年5月のMedium

 

5月は忙しかったので自前の記事が少ない。

未明の襲撃!

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(チャイ クリームタビー 雄 約4歳)

午前四時。二階の自室の窓辺で飼い猫のチャイがうーうー唸っている。どうやら外猫が屋根を越えて来、私の部屋を覗きこんでいる様子。私が寝ぼけ眼で身を起こし、網戸を開けてみるやいなや、チャイは凄い勢いで飛びだし、相手の鯖虎雄猫に飛びかかり、組んず解れつ状態のまま屋根を滑り、二匹とも階下に落ちた。

あわてて階段を駆け下り庭先に出てみると、敵猫は既に逃亡。チャイは興奮した面持ちで縁側の物干し台に座っていた。抱きかかえると胴をぶるぶる震わし、息は荒かったが、灯りをつけてみると、何か所か引っ掻かれた痕があるものの、とくにケガはなく、階段を歩く足どりにも変わったところはなかった、ホッ。

しかし、あんなに荒々しい飼い猫の姿を見たのは初めてだった。ちょっかい出してきた鯖虎雄猫も(二階の高さを顧みない)チャイの無鉄砲さにゃさぞやびっくりしただろう。未明に繰り広げられた攻防に私はすっかり目が冴えてしまったが、彼奴は水を飲みカリカリを食べトイレで大小を済ますと、すっかり落ちついて今はスヤスヤ寝てます。やれやれ。〈了〉

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鰯(Sardine) 2017/05/03

 

註)で、その後がたいへんだった。全治するまでに約二週間。Twitterよりいくつかピックアップ。

【5月8日】

チャイ、病気です。鼻の頭が化膿して赤く腫れあがっている。この二、三日は食欲もなく、カリカリ残して水ばっかり飲んでた。慌てて近所の動物のお医者さんへ。鼻のみならず口腔内も荒れており、ケンカの引っかき傷などから菌が入ったとは考えにくい、とのこと。原因は謎だが、ともあれ血液を検査し、抗生剤を注射され、一週間分の錠剤を処方してもらった。医者は食べないようなら一週間待たずに来てくださいと言い添えた。で、今は少し落ち着いている。新しいカリカリを皿に入れたら少しだけ口にした。今までずっと健康だったので油断していた。今朝まで変化に気づけなかった。今日が休みで良かった。

直接的な原因ではなかったかもしれませんが、やはり先日の外猫とのあらそいで二階の屋根から落ちたことはチャイの心の平穏に影響を与えているように思います。とにかく熱が高い(40°以上)ので、水をたくさん飲むようにと先生からは言われました。

(中略。この間、たくさんの励ましをもらう。)

【5月17日】

ようやく鼻の頭の膿が枯れてき、口の中の荒れも治ってきた。このまま無事に回復すればいいな。

【5月18日】

元気が出てきて、カリカリも残さず食べる。動物のお医者さんが言うには、免疫力が自身を攻撃する珍しい皮膚病です、とのこと。ん?それってぼくが患っていた尋常性乾癬とそっくりじゃないか(笑)。

【5月24日】

チャイ、膿んだ鼻のかさぶた、ほぼ完治。

 

This road is a road that passed in the past

Japan protests against U.N. expert’s queries on bill to fight terrorism
(ロイターの見出しより:日本、「共謀罪」に対する国連の質問書に抗議する)

平成29年(2017年)3月21日、第193回国会(常会)に提出された 「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」、一般的に「共謀罪」と呼ばれる法案は、5月19日の衆議院法務委員会で、「強行採決」された。

日本政府は23日にも衆議院で法案を採決する予定だと伝えられている(追記:23日午後4時22分、与党などの賛成多数で衆議院本会議を通過した)が、この問題に取り組んでいる弁護士の海渡雄一氏は自身のFacebookにこのような文章を記している。

「国連プライバシー権に関する特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏による日本政府に対する質問状について」以下掲載。

OHCHR | Special Rapporteur on Privacy
書簡の原文も併せて掲載する。
このことについて菅義偉官房長官は22日の記者会見で、

特別報告者という立場は独立した個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であり、国連の立場を反映するものではない。プライバシーの権利や表現の自由などを不当に制約する恣意的運用がなされるということはまったく当たらない。

との見方を示し、この書簡に対し、

政府や外務省が直接説明する機会はない。公開書簡で一方的に発出した。法案は187の国と地域が締結する条約の締結に必要な国内法整備だ。

と反論した。

jp.reuters.com
が、ロイター英語版での表現はより直裁である。

国連特別調査官「日本政府のこのような振る舞いと性急な保身的抗議は絶対正当化できるものではない」

www.reuters.com
このことについて、より詳細な日本語の情報を得たいのであれば、以下の記事が最も問題点を炙りだしていると思う。

官房長官、国連特別報告者を「個人」呼ばわり、「質問」に抗議(まさのあつこ) - Yahoo!ニュース

菅義偉官房長官は、何か勘違いをしているようだ。 5月18日に国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、 共謀罪法案について安倍首相に送った「書簡」について尋ねられ、22日の 会見 で次のように答えている。 菅官房長官(現在、記事のリンクは無効)

私は、菅官房長官はもう少し頭の良い方だと思っていた。全て承知の上で、役目だと割りきって、あの「木で鼻を括ったような」会見発言を繰り返しているのだとばかり思っていた。

が、どうやらそれは買いかぶりだったようだ。

I thought Suga was smart, but I seem to had misunderstood.

日本は戦前にリットン調査団の報告書に基づく勧告を無視し、国際連盟を脱退した。議会を背にした松岡洋右を、当時の国民は熱烈に支持した。

Japan withdrew from the League of Nations, ignoring the recommendation based on the report of the “Lytton Commission” before the war.

註:松岡の「宣言書」そのものに国際連盟脱退を示唆する文言は含まれていないが、3月8日に日本政府は脱退を決定(同27日連盟に通告)することになる。翌日の新聞には『連盟よさらば!』『連盟、報告書を採択、わが代表堂々退場す』の文字が一面に大きく掲載された。

今回、外務省が国際連合に対し正式に抗議をしたのかは定かではないが、昨日の菅官房長官のコメントを読むにいたって(ありきたりのクリシェをあえて唱えると)私は「いつか来た道」を再び辿っているとの思いを、どうしても払拭できない。

This road is a road that passed in the past.

鰯 2017/05/23

 

3つの追記;

①昨夜、23日の報ステ。約7分間。ご覧ください。

報ステ

共謀罪衆院通過、国連特別報告者から懸念

news.tv-asahi.co.jp (リンク切れ、記事削除)

From the news program “Ho-Do(Media) Station” of Japanese TV station(TV Asahi /5 ch) . with 7-minute video.
What’s “Strong protest”⁉︎

2017/05/24

 

②また、このことはNYタイムズでも報じられた。

mobile.nytimes.com
安倍首相の(自由民主)党は、国連の人権専門家が、「プライバシーと言論の自由のための適切な保障措置に関する十分な議論なしに、この法案を急いでいる」と非難しても、(国会の)投票を求めた。

Mr. Abe’s party called for the vote even as a United Nations expert on human rights accused the government of rushing the measure without sufficient debate on appropriate safeguards for privacy and free speech.

2017/05/25

 

③“5 Global Scandals That Have Nothing to Do with Donald Trump
ドナルド・トランプとはぜんぜん関係ない5つの国際的な醜聞。

タイム誌では第2位に森友学園の問題が。

time.com

2. A school for scandal in Japan
an ideology similar to mine60 percent,

「私と共通の思想を持つ」「60%(の高い支持率)」が赤い文字で強調されていますね。

2017/05/27

 

ル・モンド紙、「共謀罪」を危惧す。
フランスの新聞「ル・モンド」が、安倍内閣が今国会での成立を図る「共謀罪」(「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」)について、5月27日付の記事に危惧を表明している、とのことです。

mobile.lemonde.fr

私はフランス語を読めませんが、内田樹氏が該当記事を翻訳していました。これはまことにありがたい。

内田樹の研究室 (リンク切れ。該当記事は削除かも)

内田樹の研究室

テロリズムと組織犯罪を防止するためという口実の下に、日本政府はきわめて問題の多い法律的な利器を準備している。あらゆる形態の「謀略」に対するこの法案についての採決が5月23日に衆院で行われ、参院では法案は6月中旬に採決される予定である。…
blog.tatsuru.com

一読をお勧めします。

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We have turned off the lights of the night.

鰯 2017/05/29

 

2017年4月のMedium

 

Cabinet to return clock hands before war

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Prime Minister Shinzo Abe has the idea of returning militarism to Japan.

He is planning to revive ideology before World War II by using education.

Minister of Education, Culture, Sports, Science and Technology answered that there is no problem even if reflecting the idea “Imperial Rescript on Education” in the educational guidance essentials.

I think the politics of Shinzo Abe is dangerous because he frequently intervenes in the content of education.

People who say there is also a good part in the “Imperial Rescript on Education” can only be said that the sensitivity is worse.①

Plan to enforce a single “political creed” on education,

The government is trying to deprive you of your freedom.②

You say that “Think too much” about me,

But I feel that the direction the current government is promoting is terrible.

鰯(Sardine)2017/04/02

 

Additional notes;

① Some JP ppl who say “there’s some good thing in the Imperial Rescript on Education, which was used at WW2 period” are not enough sensitive.

② The JP government is trying to deprive your freedom with enforcing a single “political creed” on education.

Translated by Koji Hashimoto

TwitterでNZ在住の方が私の拙い英文を分かりやすく整理してくださった。)

 

加藤ひさしの「ソングアプローチ」

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

鰯(Sardine)2017/04/03

 

A disappointing remark by two novelists.
Mr. Yasutaka Tsutsui, a Japanese novelist known for a novel “The Girl Who Leapt Through the Time” issued a shocking delusion that sexually insults the girl image symbolizing the former Japanese army comfort woman.

Mr. Tsutsui posted remarks that insults the girl image of war comfort women at his twitter.

This topic spread quickly and has already been reported in South Korea.

Chosun Online | 朝鮮日報

人気小説『時をかける少女』で知られる日本の小説家、筒井康隆氏が、旧日本軍慰安婦を象徴する少女像を性的に侮辱する衝撃的な妄言を発した。 …
www.chosunonline.com

www.asahi.com

As I was reading my novels by Tsutsui Yasutaka in my teens, I’m very sad about this delusion.

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Meanwhile, I don’t like this novelist.

百田尚樹氏「中国文化は日本人に合わぬ。漢文の授業廃止を」(NEWS ポストセブン)

日本はなぜ、中国の脅威を感じながらも適切な対抗策を取れないのか。作家の百田尚樹氏 (NEWS ポストセブン)

Author Mr. Naoki Hyakuta insisted that Chinese culture is not suitable for Japanese, so “Kan-bun” class should be abolished.

“Kan-bun” is equivalent to Latin in the West by learning Chinese classics.

It doesn’t respect foreign cultures, doesn’t admit influence, is a narrow-minded attitude.

 

These two prominent novelists accidentally come from the same (Doshisha) university,

If such thinking seems to be a standard of Japanese culture, it’s embarrassing internationally.

鰯(Sardine)2017/04/07

 

クレジット
クレジットカードは大学に入学したと同時に作っておくべきという意見がTwitterに流れていた。自営業やフリーになると作りにくくなるからとの理由も添えられていた。たくさんリツイートされていたが、たぶん賛同した方が大多数なんだろう。私も主旨に異存はない。

でも、返信に「クレカなんか絶対に作ってはだめ」と書きこんだ方もいた。何人かに反論されていたし、

前略)もうクレジットカードがないと留学の学費もアマゾンの本代も払えない時代ですよ…

と、元ツイート主も当惑していたけれども、クレジットカードは借金な上に維持費をカード会社に支払わなくてはならないと、彼女(だと思う)は自分の意見をひるがえさなかった。

ところで。

私は、銀行で勧められるがままに作ったクレジットカードを所有している。

カードを持つことによって個人の信用が担保されることも知っている。

海外では現金よりも、ほとんどカードで支払いを済ませた。

だが私は、返信していた方が言うようにクレジットカードなんて無いほうがいいと思っている。なぜなら、

私がいつ・どこで・何を購入したか、それらの情報をぜんぶ金融機関が把握していると考えたら、やはりあまり気持ちのいいものではないからだ。

「そんなことを言いだしたらグーグルはどうなる?貴方がネットで検索し、閲覧した情報の履歴をすべて掌握している」

分かってるって、そんなの百も承知だ。けれども、その前提で動いている世の中が私にはきゅうくつでならないのだ。

それに「海外でカード所有は常識だ」とされるが、その常識の範囲は、いったい世界のどこまでに及ぶものなのか。

クレジットカード所有者の人口は世界のおよそ何パーセントか?全世界でなくてもいい、ヨハネスブルクウルムチに住む市民の何割が?でもかまわない。

ここで忖度ならぬスーザン・ソンダグさんに再登場願おうか。

少なくとも一日一回は、もし自分が、旅券を「もたず」、冷蔵庫と電話のある住居を「もたない」でこの地球上に生き、飛行機に一度も乗ったことの「ない」、膨大で圧倒的な数の人々の一員だったら、と想像してみてください。

この意見に鼻白む向きもあられるだろうが、私は、クレジットカードを持たない人数は想像するよりもはるかに多いのではないか?と思う。

銀行に口座を持つことも、また然り。

が、

あゝ今もこんな文字が目の前を過った。

クレジットカードは作らない方がいいって言ってる人、自己管理できなくて自己破産直前まで行った超絶ズボラ人間ですってアピールしてて草

他人への想像力の根本的な欠如。誰だ、こんなくだらない冷笑をリツイートしたやつは?

たまにでいいから持てなくなったときのことを想像してごらん。

社会的信用を得るためにもクレジットカード所有は必須だという、固定観念を解いてみたまえ。

あえて言う、

クレカなんてなくても生きていけるさ。

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イタリアで唯一撮影に成功した猫です。

鰯(Sardine) 2017/04/10

 

フォローしていただいた方々へ

私、Mediumでは政治的な側面が露呈せぬよう抑制しておりますが、現政権に反対の基本姿勢がどうしても文字面ににじみ出てしまい、世相の反映でしょうか、最近あまり社交的になれません。また、何故だかアジア諸国のフォロワーが増えておりますが、ストーリーを一編も書いてないアカウントはリフォローしませんので悪しからず。

鰯 2017/04/11

Recently, Asian countries’ followers are on the rise, but those who don’t write a story don’t re-follow. (Sardine)

追記:尚、ストーリーを語っている方は何語であろうが原則フォロー返します。

 

震災から一年が経ちました。

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私は一年前の今日を忘れない。忘れてはいけないし、忘れられるはずもない。

I’ll never forget the earthquake that happened today a year ago.

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

 

忘れるな、あの非日常の日々の記憶を。

Don’t forget that memory of that extraordinary days.

熊本より(From Kumamoto)

鰯(Sardine)2017/04/14

 

ポンコツ・ペーソス・オルタナファクト
Draftsに収めていた別々の文を並べた。
①言葉の使い道には敏感でいたい。たとえば私は人をポンコツと評すのは如何なものかと思うけど、若い方々はわりと平気で人をポンコツ呼ばわりするね。表現の自由を風紀委員よろしく規制するつもりはないが、それって不愉快だよと表明するのも、これまた表現の自由だ。私は型は古いがOSは最新版でいたい。

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②ある著述家のエッセイを読んだ感想に「ペーソス」という言葉をうっかり用いそうになったが、思いとどまってよかった(既存の作家・文化人・ジャーナリストらが洗練の名目で積極的に脱臭してきた「とぼけた味がする」とした)。とはいえ日本語の表現空間から、ペーソスが一掃されてしまった気がする。哀愁と訳すのは、ニュアンスが違うように感じるが、「ペーソス漂う」を奪われた表現は荒涼とした、殺風景なものに感じる。

「ポスト真実」はもう古い!2017年は、「代替可能な事実」が流行へ? | My Big Apple NY | My Big Apple NY

③だから「新しい判断」と呼ばれる権力側が決定する言説に異論を認めない意見を目にしたら、たとえ面倒くさくとも、それが定説化(オルタナティヴ・ファクトとも言うが)しないよう、こまめに指摘していかなくてはならない。ただし私はオルタナファクトと省略するのは好きじゃない。が、オルタナティヴ・ファクトを「代替的真実」と表記すると、これまたニュアンスが伝わらないのだなあ。

以上、三題噺にもなりませんでしたわ。写真は4月14日の夕刻に見上げた空。

鰯(Sardine)2017/04/16

 

ブルーにこんがらがって
(Tangled up in blue)

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今日(4月23日)熊本では「第8師団創隊55周年記念、北熊本駐屯地開設60周年記念行事」が開催された。このイベントの一環として「熊本復興・飛翔祭」が併せて開催され、熊本城上空を航空自衛隊ブルーインパルスが展示飛行した。

私の勤務地の上も編隊は通過したが、みな空を見上げて5つの機影を目で追っていた。聞けば、会場の二の丸広場へ向かう群衆で市内は大混雑だったそうな。大西市長さんも以下のはしゃぎっぷりだ。

予想以上の大盛況。結構なことである。いや、皮肉ではない。

思えば去年の今ごろ、熊本は地震で混乱の極みだった。昨年の同日をふり返ってみると、23日わが家はまだ断水していたし、職場の公園の半分には、関西方面からの支援部隊が駐屯していた。

あの非日常的な日々を思えば、ね。

熊本の人びとは昔から自衛隊に親和的である。防衛大に進学する高校生の割合は全国一位ではなかったか。昨年の熊本地震における懸命な救援活動を経て、その信頼はますます高まった。私はこの地で自衛隊に否定的な意見を殆ど聞いたことがない。

そして私自身も、

災害時の救援活動をふり返ると、

自衛隊に対して感謝の気持ちこそあれ、

否定的な感情は、ない。

に、等しいのだ。

が、

今回「ブルーインパルス、武者んヨカねー」と屈託なく自衛隊の行事を受容する熊本「市民」を見ていると、杞憂かもしれないが、この熱の裏側にひそむ、価値観が一色に染まるような気配を、ひしひしと感ぜずにはおれない。

昨今の社会の様相を鑑み、かような盛りあがりぶりに「危うさ」を感ずる私は、世間一般の常識から、かなり遠い位置にいるような気がする。

そういえばブルーインパルスの行方を仰ぎ見ていたときに、誰かがボソッと、こんなことをつぶやいた。

「こういうイベントを華々しく催せるのは、北朝鮮の危機が差し迫ってないって証拠なんだろうねえ。有事だったら事前に中止するだろう」

〈ああ、昨年の震災はまさに「有事」だった。それゆえ恒例の行事はことごとくキャンセルになったっけ……〉

ならば今は平時か?

北駐屯地の記念式典に出席した方の話も聞いた。彼は複雑な心境だったという。

北朝鮮からミサイルが飛来してくるかもしれない状況のときに、こういう悠長な祭事をしていて良いのかと思ったよ」

私は「平和で何よりではないですか」とあいまいに笑った。

朝鮮民主主義人民共和国が日本に攻撃してくる可能性がゼロだとは言わないが、米国の挑発に耐えかねて自棄になった北朝鮮が一か八かに賭けるとも思えないのだ(Mediumでは深入りしないでおく)。

しかし「北の脅威」に怯えつつ、自衛隊の英姿に喝采を送る。その感情の源は何処からやってきたのだろう。いったい誰から学び、いつ内面化したのだろう。

そして私はどうして国家に自己をアイデンティファイできないんだろう?

どうして「多くの皆さん」と同じように「気持ちを一つ」にできないんだろう?

もの憂い午後に射しこむ陽ざし。ブルーにこんがらがって鬱ぎこむ私。

鰯(Sardine) 2017/04/23

 

【追記】

レスポンス先の記事、1日で290のviewが記録されている。その大部分はTwitterからの訪問で、しかも熊本在住の方々からの反応が多い。私宛への返信をいくつか紹介しよう。

①昨日の熊本のブルーインパルス(騒動)の件。このブログに書かれていることが、一番自分の気持ちに近い。というか、もう、諸手を挙げて共感する!! 大方の反応とは全く違うはずで、この手のことを言うと、沸いた人たちは水を差されたような気持ちになるはずが、そうではなく読後感良い。高等技術!


②同じ思いです。とても複雑でした。更に言えば、戦闘機や戦車をカッコいい!と目を慣らされることに、かつての戦時を思いました。憲法改正をし戦争で儲けたい勢力には流されたくないな、冷静でいたいと感じています。言い辛いことありがとうございました。


③熊本では昨日、復興イベントとしてブルーインパルスが飛びました。命があってよかったね、という場が軍事パレードのようなもので飾られ、それに狂喜してしまう市民感覚を不気味に感じます。あれをカッコイイと褒めそやす大人の後ろ姿をみて、子供たちは零戦をカッコイイと言うようになるのだと思う。


④(記事に)同感です。なかなか言いにくいですけど。少なくともタイミング的に最悪だと思う人は少なくないと思いますが。


⑤軍事的な活動を活発化させると内閣支持率が上がるのは何故?と思ってたけど、こういうことなんですかね。戦闘機とか戦車とかに象徴されるものに高揚するというかウサが晴れるというか……

リツイート(記事をシェアすること)やいいね!の数は、自分の他のツイートに比べたらそれほどでもないけれど、ひとつの記事にこれほどのメンションが来ることは珍しい。23日の記念行事の盛りあがりに違和感を覚えた方が少なくないこと、その違和感を口にするのがはばかられるような市街の雰囲気であったことの二つが返信の文面からも読みとれる。

私は自分の記事にこうコメントした。

昨日の熱をはらんだ雰囲気は、熊本以外の方々にはなかなか伝わりにくいかもしれない。けれど県内在住のアカウントは敏感に反応している。現実で私は「自衛隊の恒例行事が催されることに異存はないけど(視覚的な復興のシンボルとして合意形成されるとなると)、デモ飛行は復興と関係ないでしょ?」とささやかに疑問を呈してます。

また、こんな記事も目についた。

陸上自衛隊:戦車が市街地パレード

(香川 – 毎日新聞

香川県善通寺市に司令部がある陸上自衛隊第14旅団の戦車などが、23日、同市の善通寺駐屯地前の市街地をパレードした。駐屯地開設67周年の記念行事の一環で、敷地外では半世紀ぶり。

こういう話題、Mediumでは触れにくい。世間と同様なかなか言いにくいし、人によっては目ざわりかもしれないが、私は今後も遠慮なく書くつもりだ。鰯 4/25

 

【コメント】

国家と憂鬱と共感と
イワシさんの、

<私はどうして国家に自己をアイデンティファイできないんだろう?
どうして「多くの皆さん」と同じように「気持ちを一つ」にできないんだろう?
もの憂い午後に射しこむ陽ざし。ブルーにこんがらがって鬱ぎこむ私。>
という言葉に、共感をおぼえ、少し書きます。

多くの方々にとって、「国家」というようなくくりに自分を投影し、気持ちまでも「一体化」することはそれほど難しいことではないのかもしれません。

けれども、ぼくのような人間にとっては、それは実に困難なことであり、さまざまな留保をしたのちでやっと、「国家としての立場も分かる」と言うくらいのことがせいぜいで、本音を言えば、現状の「合州国追従擬似国粋主義」政権の国政については、一から九まで疑問が絶えない、というのが正直なところなのです。

けれどもこれは、「現政権や、それを支える多数派の皆さんが間違っている」というような話ではなく、立場が違い、見ているものが違うゆえの「見解の相違」ということなのです。

そしてそのとき、少数派であるがゆえに、多数派の方々とは違う視点を提供できることこそが、民主主義の根本原理の一つである「少数意見の尊重」ということの意義につながるわけですから、少数派であることに「憂鬱」を感じることは、必ずしも必要ではなく、むしろ、先行きの「危うさ」を知った上で、ほがらかに少数派であり続けることこそが、今のような時代には大切なことではないかと考えます。

ここで、ほがらかさを保つために重要と思われるのは、決して「多数派」の方々を「敵」と思わないことです。

「多数派」の方々には「多数派」の方々なりの事情があるわけですから、それを頭ごなしに否定しても互いに得るところは少ないでしょう。

そして、現状の「多数派」の方々が、まだまだ当分の間この国を動かしていくだろうことを考えればなおさら、自分の意見を表明することが、相手に対する「攻撃」にならないように気をつけることは、重要なことに違いありません。

その点において、イワシさんの記事は、実に丁寧に書かれており、「今」という時代の「戦争」を巡る空気を的確に捉えた読み応えのあるエッセイだと感じました。

Medium という場で、このような良質のエッセイが生まれ、そして読まれていくことが、日本の輝かしい未来への架け橋となることを願ってやみません。

いつの間にか霞のようにうっすらとまといつくようになった「戦争歓迎」の雰囲気に対する違和感を共有するものとして、以上、つたない文章をつづらせていただきました。

 【返信】

Tosibee 那賀乃とし兵衛 さま

精読していただき、ありがとうございます。

<少数派であるがゆえに、多数派の方々とは違う視点を提供できることこそが、民主主義の根本原理の一つである「少数意見の尊重」ということの意義につながる>
まったくその通りだと思います。

そして、これは以前から思ってましたが、Mediumユーザーは基本的に強く、個人のスタイルを堅持している方の割合がひじょうに多いように感じます。

福祉、ボランティア活動、学校、地域社会との共生といった個別のテーマについては、それぞれ意識の高い意見を多くみる反面、社会全体の動きや流れについては、意識的に発言を控えている印象があります。

とりわけ時事問題については、政治的スタンスが如実に表れるゆえにか、発言に慎重な態度の方が多いように思います。

現政権の支持率は50%強ですが、私的な肌感覚としても、この数字はリアルに思えます。安倍政権のほうがよい、と考えている方の割合は、このMedium内でも多いのではないかと推察します。できれば、なぜ現状維持がベターなのかを、解説してくれる意見を読みたいものです。

やはり、経済的な理由なのかな? 鰯

 

その後一年の自衛隊をめぐる動きは、とくに安倍内閣の進める改憲への執念とあいまって、イラク派兵における日報隠ぺいの問題から、自衛官3佐による小西議員への暴言にいたるまで、さまざまなかたちで噴出している。

このアーカイヴが「日本における防衛組織について」の参考になるのなら、苦い思いをして書いた甲斐もある。

 

2017年3月のMedium

 

機内で邦画を観た話

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2月上旬のイタリア旅行記を書こうと思うが、なかなか着手できない。書く暇がないというよりも、気が乗らないのだ。とかなんとか言っている間に3月になってしまった。たぶん、このまま書かず終いになるような気がする。

往復した機内で読書しようかと目論んだものの、明かりの暗さを口実に、早々に読むのを断念した。代わりに座席に備えつけのモニターで観られた、映画の話でもしようかと思う。

洋画を3本、邦画を3本観た。洋画の方は吹き替えなしだが、どれもそれなりに満足した。こんなときでなければ、ハリウッド産の映画など観ないが、英語でも筋書きがおおよそ理解できるのは、やはり脚本と演出がしっかりしているからだろう。意味不明なところなど、微塵もなかった。

それにひきかえ、邦画は無惨だった。3本のうち1本は既に観た『シン・ゴジラ』だが、

medium.com
いや、あらためて観ると、粗が目立つというか、ずいぶん強引な展開だなあと思った。勢いで押しきる爽快感はあるものの、帰路で観たせいかもしれないが、はたしてこの内容を、日本人以外が観て楽しめるだろうか?と心配になったのである。日本社会における制度(と弊害)をあらかじめ理解していなければ、このドタバタ劇、楽しめないのではないか。その文化の相違について、あまりにも説明が不足しているのではないかと感じた。たぶん登場人物の中で、日本人以外が心情移入できるキャラクターは、石原さとみ演じるカヨコだけではないだろうか。

news.biglobe.ne.jp

(しかし、残念ながら危惧はあたったようだ。)


他の二本については、タイトルを書くことも憚られる。一本は佐藤健が瀕死の青年郵便局員を演じるもので、函館が舞台である。友人に濱田岳、元カノに宮崎あおいが配されているが、これがもう「日本であること」を前提に観なければ、まるで理解できないだろうとさえ思える程の、内向きな、普遍性に欠ける映画だった。日本文化って何だろう?と観る側が必ずしも興味を持って接するとは限らない。外国の方が観たら、前後の脈絡なくエピソードが羅列されるばかりで、まとまった物語として把握できないのではないか?

一例を挙げると。旅先で出会った友人に先立たれた宮崎あおいが、イグアスの滝まで来て「生きてやるう」と号泣する場面があるけれど、その訴えは物語のテーマと噛み合わないまま、アルゼンチンロケ敢行、に回収されてしまっていた。このシーン要るか?余計なエピソードだ。

それでもまあ、家族への想いやら生きることの意味やら、テーマの軸になるものには沿っているから、失敗作だと断じはしないが、しかし不出来な作品だった。

 

もう一本はさらにひどい出来で、観ている間、なんだコレはと何度もつぶやいてしまった。玉木宏が頭脳明晰な探偵で広瀬アリスが押しかけ助手という、二時間サスペンスドラマみたいな、否、二時間サスペンスドラマよりも杜撰な内容の映画だった。大根役者の大味な演技と偏見にあふれた犯人像の造形に辟易した。舞台は広島県福山市で、私はこの地を何度も訪問してよく知っているが、これじゃ福山の魅力が台無しだ、もしも私の知らない土地ならば、この映画を観て福山に行きたいとは思わない。

aozoraeiga.blog.so-net.ne.jp
(私は、太田隆文さん一連の記事を思いだしていた。地方が「文化」を招聘する際に必ず表面化する問題である「地元の期待」が如何に他力本願であるかが手に取るように分かる。一読されたし。)

おそらく福山市は、映画の舞台となることで、観光誘致の期待を抱いて協賛したのだろう。しかし、私の観たかぎりでは逆効果である。ミステリーだから悪いのではない。湯けむり殺人事件は観光地の宣伝になる。けれども映画の舞台にするなら、それ相応の魅せ方があるだろう。なにもヴィスコンティみたいにヴェニスを撮れとは言わない。が、しかしロケ地をぞんざいに扱えば、それがもろに画面に表れる。鞆の浦の平板な描写はどうだ。そこが鞆の浦であるべき必然性がまるで感じられないではないか。なんのために主人公は鞆の浦に足を運んだのか。そこに犯行の鍵となるヒントが潜んでいるからではないのか。そのことが画面から全く伝わってこない。美男美女の観光地めぐりでしかない。

私はこれでも抑制して書いた。しかしこれほど邦画を観てがっかりするとは考えもしなかった。この二本が日本を代表する映画だと諸外国に思われたくない。この二本(と『シン・ゴジラ』)に共通する負の要素とは一体なんだろう?

私は閉塞感だと思う。外に開かれていない。諸外国に・国際的に・観られることにあまりにも無頓着であり、日本人が・日本語圏内で観ることだけを大前提にしているようにしか思えない。日本製品ガラパゴスと称されて久しいけれども、日本文化の素晴らしさとやらを世界中に知らしめたければ、まずは各表現ジャンルが世界的に通用するような作品を送り出さねばならない。自己満足や内輪受けではダメなのだ。たとえ日本語が理解できなくとも、日本の習慣を知らなくても、観る側がそれだと知れる共通コードを用意するべきだ。共感できる回路と言い換えてもいい。要は土台となるテキストであり、狙い定めた演出である。日本は・日本人は・日本の文化を本気で世界に問わなくてはならない。それは自己愛にまみれた、「日本は素晴らしい」の音頭から最も遠くに在らねばならない。

邦画に倦んだ私は、窓外に目を移した。眼下にシベリアの凍土が広がっている。例えばここに住まう人たちにも共感できるような、普遍的価値を少しでも反映した物語を表出できるか?大げさなようだが、それくらいの気概をもって世界に立ち向かう時期に来ているのではないか、「日本」は。

鰯 2017/03/03

【コメント】

邦画で、世界公開を前提に撮った映画ってあるんでしょうか?
私も偶然にもシンゴジラと、あと殺人事件のやつをアリタリアの機内で見たクチで。アリタリアでも日本路線は邦画入ってるんだな、とちょっと感心したのですが。
Naoki Satoh

 【返信】

極論ですが、ないと思います(笑)。

そしてご指摘の通り、邦画は観る層を絞れば絞るほど、コンテキストの度合いが増し、その言わずもがなから疎外されたら、理解すら到底不可能となりがちです。

私はむしろ、ローコンテキストを意識してはどうかと考えました。もちろん説明過多は禁物ですが、説明ナシも困りもの。(詳しくはありませんが)作劇の方法論は幾通りもあるでしょう。脚本、演出、撮影、配役と。映画を構成する各要素が緊密に噛み合っていれば、たとえ海外を特別に意識しなくとも海外が理解可能な普遍性を獲得できるのではないか、と。

君の名は。」はいいセン行くんじゃないかな。図式的な部分が逆に功を奏すというか。田舎の家のお茶の間に液晶テレビが鎮座する風景。私はあれこそが今の日本をリアルに映しだしていると思う。

私は「もっと他の邦画をセレクトしてよアリタリア航空」と言いたかったんです、たぶん。鰯 2017/03/05

 

日本はちっとも素晴らしくない。
Japan is not as good as it is.

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いつぞや「タクシー運転手のサービスがスゴい日本」という英文の記事をみた。Mediumで、1ヶ月ほど前に。

確かにそうだ。海外からみた、日本の良いところはたくさんあるはずだ。

が、

こういう目で見られていることも、同時に自覚していたほうがいい。

コンビニの書棚にエロ本が並ぶ、日本。未成年の女性を性的対象に扱う、日本。

私は常々<性愛をおおらかに語るのと、性欲をおおっぴらに開陳するのは、まるで違うこと>だと言っている。

I always say that sexuality and sexual desire are totally different.

JKビジネスで世界に恥を撒き散らす国、それが日本。

ことさら自虐的になる必要はないけれども、胸を張って威張れる程でもない。

今の日本に必要なのは謙虚さと正直さ。

I think it’s humility and honesty what is needed for Japan now.

日本はちっとも素晴らしくない。

鰯(Sardine)2017/03/06

 

Mediumにて宣言しておこう。

先月の海外旅行をきっかけに禁煙しています。ようやく1ヶ月が経ちました。このままタバコとオサラバできればいいな。

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プロフィール写真の種明し。セルフィー鰯

【コメント】

私に言わセルフィーか
お、鰯さんの禁煙宣言が出ましたか。ちなみに、何年くらい喫煙されていたのですか?
隆之介(codenetJP)

【返信】

私は禁煙のベテランですよ。もう4、5回はチャレンジしてます。禁煙を破ったときの開放感と一服の清々しさは、他では味わえませんね。だからなんども挑戦します。そのために禁煙するのです。

と、おちゃらけ返答で済ませたいのですが、こればっかりはマジです。タバコ代はばかにならない額です。ときに身もだえしながら、吸えない夜を過ごしてますよ。鰯

 註)1年経過、禁煙は継続中である。

 

名前をさらしてみる。

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「まことに申しわけないけれども」と上司は切りだした。「5年契約の最後の年度ということで、来年の3月いっぱいまででイワシさんは満了となります」

はあそうですか、と返事したものの、やはり心中穏やかではなかった。5年以上雇用したら嘱託を正社員として雇わねばならない。そういう事情からの5年契約だ。社とて、50半ばの中年を新たな正社員に迎えたくはなかろう。退職までに1年間の猶予もあるのだから、その間に次の職を探せるではないか。と色んな理由をつけて納得しようとしたが、やはり無理だ。昼休みになっても気持ちのささくれ立ったままだった。

何か心機一転をはかりたくなった。

Twitterを開いた。私は今までの「イワシ タケ イスケ」というネット上を回遊する名前に終止符を打ちたくなった。本名で行こう。実名をさらそうじゃないか。誰に遠慮がいるものか!

プロフィール欄に漢字で「岩下 啓亮」と記した。ついでに生年月日を詳らかにした。

もやもやした気持ちが少し治った。

勢い任せに、Mediumのプロフィールも漢字表記にした。これで、現実の岩下啓亮とネット上のイワシさんの同一性は明らかになる。

「ネットに実名をさらすのは、ばかだ」との言説が流布されて久しい。とりわけ勤め人には不利であると。人事上取引上の不都合は不可避であると。が、本当だろうか。私たちはそれほど息苦しい世界に生息しているのだろうか。

今まで私は漢字表記による実名を回避していた。その理由は、「検索に引っかからない」ためであった。しかしそのような遠慮や自粛は窮屈だし、無意味であると思うのだ。もしも私の発言があなたの不利益に繋がるなら、どうぞ直言願いたい。私も一社会人として常識ある発言を心がけるので。

今はそういう気持ちでいる。実名をさらすことで、不利益を被るかもしれない。いや今までも損な人生だったが。だから今さらさ。この情報社会、どうせ個人の特定は簡単可能な世の中なんだから。好き勝手に喋らせてもらうよ。

だけど、これからもイワシと呼んでね。

鰯 (Sardine)2017/03/14 at熊本空港

 

『プリファブ・スプラウトの音楽』を読んで

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著者:渡辺亨、刊行:DU BOOKS(ディスクユニオン)、初版:2017年3月24日。

ニューカッスル近郊のプリファブ・スプラウトカーディフ産のグリーン率いるスクリティ・ポリティ、グラスゴー在住のブルーナイルと、一口に英国といってもイングランド北部、ウェールズスコットランドと、土地柄や風土によって、音の響きが違うことを感じる。そして、80年代中ごろのポピュラー音楽シーンにおいて、最も充実した音楽を拵えていたのは、この三つの地方都市出身のグループだったと、個人的には思っている。

この本の著者、渡辺亨氏も、ほぼ同じ考えのようだ。

My case is this.

近所に住むT大生から、プリファブのファーストアルバム“Swoon”と、ブルーナイルの“A Walk Across the Rooftops”を、二枚同時に貸してもらったのが始まりだった。彼と意気投合したのは、スクリティ・ボリティの初期のシングルはいいよねと話したことからだった。もう32年も前の話である。私たちは代沢の旧いアパートで、夜中から朝まで飽きずにレコードをかけていた。

『プリファブ・スプラウトの音楽』を読んでいると、私はあの青かった時代にタイムスリップする。たとえば、

僕は(“Songs to Remember”に収められている)「ジャック・デリダ」を聴くたび、マーク・ボランのことを思いだす(39ページ)

なんて箇所に出くわすたび思わず頰が緩む。そんな「うん分かるわかる」が星くずみたいに随所に散りばめられているけど、油断してはならない。博覧強記の著者は、プリファブのリーダーにして稀代の作曲家、パディ・マクアルーンの歌詞に、どんな謎が秘められているかを解読しようと試みる。ありとあらゆるヒントの糸を引っ張りだし、こうではないか?とあれこれ推理する。それはプリファブの音楽に魅せられた者たちに共通する衒学的な態度とも言えようが、閉鎖的にならぬよう、著者は現代に通底する問題をあえて持ちこみ、プリファブの歌詞に込められた批評性と精神性を鮮やかに提示してみせる。

そのことを伝えようと私は著者に以下のようなツイートを送った。

① @watanabe19toru 先ほど読み終えましたが、今後何度も音楽と一緒に読み返すことになるでしょう。私的には、『レッツ・チェンジ〜』の章に示された“スピリチュアルな音楽”の真摯さは、昨今流行りの“スピ系”とはまったく別種の、峻別されるべきものだ、というふうに読めました。
② @watanabe19toru そして、「エレクトリック・ギターズ」の一節、“quoted out of context”を「文脈外の引用」とルビをふって引用した160頁は、パディ・マクアルーンの批評性にみちた歌詞を、きわめて今日的な視点から再批評しているように感じました。
じつはこの2つのツイート、私は②→①の順番で投稿したのだが、渡辺氏は順番を上のように並び替えてリツイートしていた。さすがプロのライターは違うなあと唸った。

私はプリファブ・スプラウトの音楽を32年も聴いている。いまだに飽きない。こんな記事をブログに書いたくらいだ。

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com
ここに書いたような、「架空インタビュー」は、それこそ二次創作の極みとも呼べそうな遊戯だが、渡辺氏渾身の、ホンモノの評伝を読んだあとでは、公開していることが恥ずかしくなった。畏れいる程度の弁えが私にある。素材の切り貼りを好きでやってると開き直るのは見苦しいことだとも自覚している。だけど他ならぬ渡辺氏は、プリファブの音楽はさまざまな解釈が可能であると書いているので、私は言い訳めいた追記を加筆し、記事を削除するのはどうにか思いとどまった。

お言葉に甘えて、二、三私見を添える。

③ファーストアルバム“Swoon”の粗削りな魅力を私は積極的に評価したい。確かに焦点は絞れていないけれども、作曲の経験の浅いパディ青年が、自分の押さえたコードネームも分からないまま、徒手空拳で拵えたはみだしの多い楽曲は、その後の飛躍を暗示させる、可能性を大いに秘めたものだったと思う。

④トニ・ヴィスコンティがプロデュースしたアルバム、『ガンマン・アンド・アザー・ストーリー』では「架空の西部の物語」が展開されるけれども、ジャック・ブルースはさておき、エルトン・ジョンの“Tumbleweed Connection”は、パディの意識下にあったのではないか?邦題『エルトン・ジョン3』のプロデューサー、ガス・ダッションとトニ・ヴィスコンティの共通項をたどっていくと、もう一人のアメリカ人プロデューサー、デニー・コーデルに突きあたる。司令塔にレオン・ラッセルを擁した、ジョー・コッカーとマッドドッグ・イングリッシュメン。いわゆるスワンプまで射程距離を伸ばしてみたい。この一連の動きは、パディの少年時代の感受性と作風に多大な影響を与えているように私は思うのだ。

とシロウト解釈を加えてみたが、そう、この書籍の最大の魅力というか長所は、このように自然と読者が語りたくなるところだ。プリファブの音楽の感想を語りあかすことは、リスナーにとって至上の喜びだ。渡辺亨氏は、読者に穏やかに語りかけると同時に、読者の声に耳を傾けてもいる。きみの意見をきかせてほしいと。その間口の広さは、それこそプリファブの音楽のようだし、その筆者の真摯な姿勢に、読者は信を置くのだ。

私にとっては小沼純一氏の『バカラック、ルグラン、ジョビン:愛すべき音楽家たちの贈り物』と並ぶ、大好きな一冊となった。

この本を書店に見かけたら一読をお勧めする。

鰯 (Sardine)2017/03/23 55回めの誕生日に

【コメント】

在外邦人は「書店で見かける」という贅沢な体験を持つことが極めて限られます。
書いてくださってありがとう。削除せずに残してくださってありがとう。
bono.carillon

【返信】

返信ありがとうございます。

ベルギーには行ったことないのですが、確かにブリュッセルの書店に、日本語の書籍は殆ど置いてなさそうですね。

私はプリファブ・スプラウトを聴くと、いつも切なくなる。ブルーナイルの歌ではないけど、“Sentimental man”なんです。エヴァーグリーン、透明な哀しみ。複雑な旋律をたどるたび、異郷の街角に立っているような錯覚に陥るのです。

が、

日本は今、ショーニンカンモンに揺れてます。音楽と戯れる気分にはなかなかなれずに困ったなーと思い煩う誕生日です。

p.s.『プリファブ・スプラウトの音楽』は映画好きにもお勧めの本です。正直いって、半分くらいは観たことのない映画が紹介されていました。イワシ

 

今日クレームをちょうだいした

今日、私はクレームをちょうだいした。正確には「ご意見・ご要望」を記入する欄に、こう書かれていたのだ。

私が入園チケットを購入する際、白髪の背の高い職員の方が受付されましたが、私が一万円札を出すと、眉をひそめ、あからさまにため息をついて、おつりを渡しました。このような対応をされたので楽しみにしていた気持ちが台無しになりました。もう二度とここには来ません。30代・男性 3月25日(昨日)

ご意見箱に入っていた紙を読んだ私は、かなりショックを受けた。来園したお客様に対して無自覚ながら苛立ちを露わにしたのだ。きっと私は忙しさにかまけ、釣銭が不足している焦りから、一万円札を出したお客に対し、露骨に嫌な顔をしてみせたのだ。さぞや気分を害されたであろう。100%私が悪い。接客業失格、である。

私はお客さまのご指摘が書かれた用紙をすぐさま上司のもとに提出した。上司は事務室でひと通り読んだのち、分かったと頷いた。そして笑いかけた。

「だけどイワシさん、これ持ってくるとに勇気が要っただろ?」

「あ、はい。とっさに捨てて、証拠隠滅しようかと思いましたよ」

冗談めかして返事したが、顔は強張っていたに違いない。

《ひょっとしてオレ、受付業務には不向きなんじゃないか?》

こないだ、契約はあと1年だと告げられたときから、私の裡に育っていた感情だ。

55歳の爺さんが仏頂面でチケットを販売するのは、どう考えても公園の表玄関には相応しくないだろう。もっと若く、はつらつとした性格の人に交替するべきではないか?今回こうして率直な意見を頂いたけれども、みんな直接口に出して言わないだけで、もしかしたら内心で思っているんじゃないだろうか、『イワシさん無愛想だなあ』と。

被害妄想かもしれないが、他の誰よりも自分が一番向いてないと感じている。

最近ひどく疲れるのだ、無理して笑顔を繕っていることに。

《引き際というが、潮時かもなあ……》

それに、きっとこれはしっぺ返しなのかもしれない。

ツイッターで「現政権の閣僚たちが予算委でみせる横柄な態度を厳しく批判している」ことへの。

調子にのるなよケイスケと私は現実から痛烈な一打を食らったのだと思う。

申し訳ない。書かずには居れなかった。書かないと自分を保てなくなりそうで、明日、職場に赴くのが億劫になることを私は怖れたのだ。
鰯 (Sardine)2017/03/26

【コメント】

公園のおじさんがブチギレ
どうせ、クレームをされるなら、「ふざけるな、この野郎!!公園に諭吉なんか持ってくるんじゃねえよ!!釣り銭なんかあるわけねーだろ!!冗談は顔だけにして、さっさと中へ入れよ。金なんか要らねーわ!!」くらい…
隆之介(codenetJP)

【返信】

お客さまが不愉快に思ってしまったのは事実ですが、私はまったくそれが「記憶にない」のです(流行語)。土曜日曜は陽気のせいか予想をはるかに上回る大賑わいで、来園者一人ひとりの様子や表情を観察する余裕がありませんでした(だからこんな失敗をしたのでしょう)。いや、ひとつだけ覚えがなくもない。ただしそのお客は男性ではなく女性でした。領収書の書き換えを求められた際、面倒くさいなと思った局面が確かにありまして、《あ、今の態度は邪険に扱ったと受けとられたかも……》と自覚しています。でも、だとしたら土曜日の私は二重に過ちをおかしたことになります。

そもそも私は、今の職場で同様のヘマを二度もやらかしてまして。団体客への案内がいい加減だったという投書が一件、ペット禁止の公園にムリやりワンちゃんを連れこもうとする男性と口論になったことが一件と、今回で三件めともなれば、これはもう公園の案内役としては不適格である、との烙印を押されても仕方ない。

私は激しやすい性質ですから今回も抑えていた感情が表出したのでしょう。そして早晩「イワシを受付に立たせるのはいかがなものか」との評価が上の方から下されることでしょう。(マジレス鰯)

【コメント】

ただのお金の受け渡しも奥が深いですね。
数年前、某シアトル系のコーヒーチェーンで働いていました。来てくれるお客様に最高のサービスは何かと考え、お客様のニーズを察し、さりげなく期待以上のことに応えることを目指し、それなりのプロ意識をもって接客…
Minami Toyokawa

【返信】

半月前に書いた記事が、まだ読まれているのだと思うと、面映ゆいし恥ずかしいです。そして、このようなレスポンスの返ってくることが、とても嬉しいです。

接客は、ほんとうに奥が深いと思います。私の場合、窓口の受付ばかりではなく、他の業務も兼ねる何でも屋ですから、なおさら気持ちの切り替えが難しいのです。

トヨカワさんは、日頃から相手の気持ちをよく理解しようと努めているように思えます。文面からGood vibrationを、温かさの波動みたいなものを感じとれます。

思いやりのある返信を、ありがとう。鰯

【コメント】

本当はそこが好きで楽しみたかったからだと思います。
こんにちは...
YEYSHONAN

【返信】

丁寧なレスポンスをありがとうございます。

その通り、クレームを受けた自分の気持ちばかりにこだわるのではなく、お客様がなぜご意見を書いたのかに思いを馳せなくてはなりませんね。他者への想像力が試されるところです。

とはいえ、いろいろ思うところもあり、つい先ほど、配置転換を申し出ました。あと一年、後進に指導しながら、前線から撤退しようと思っております。鰯

註)まあ、こういう「けしからん」投稿ばかりしていたから、「雇い止め」になったのだろうな。

 

2011年11月21日、黄昏時のスケッチ

(昨日、以前したためたツイートのことを唐突に思いだした。Twilogに過去のつぶやきを収めてはいるが、Mediumにコピー&ペーストして少し読みやすくした。)

逢魔が刻、上品そうな老夫婦が散歩していた。バーバリーツイード地のジャケットを着たご主人が車椅子を押している。座っている奥さまに、ご主人は熱っぽく語りかけている。その話の内容が興味深かったので、ぼくは思わず耳をそばだてていた。以下その内容を記す。どうか誤読なきよう願いたい。

老紳士「お前ね。ここ二十年間の日本経済はがたがたで、どうしようもないとされてきたんだが、それは違うんだよ。ぼくは新聞の経済面にずっと目をこらしてきたから判る。日本は低迷期を脱した。これからは飛躍の時だよ。ねえお前、日本はまだ捨てたもんじゃなかったんだよ。」

「日本はね、これから良くなるよ。いままではアメリカの言いなりだったけれども、最近のアメリカにはかつての勢いがないんだ。しかしね、日本は違う。これから金融緩和なんかの政策が効けば、もっと良くなるだろう。これからは日本がアメリカに代わって世界の経済を牽引してゆくんだ。」

「ぼくはね、ずっと新聞の経済面をじっくりと読んできたからそれが分かるんだよ。ねえお前、日本は凄いよ。日本は世界のリーダーになるんだ。いままで辛かった時期も、もうじき脱出できる。そして日本国民みんなが、幸せに暮らせるんだ。ぼくは最近ね、そのことを確信しているんだ……」

老紳士の熱っぽい口調に、車椅子の夫人は、「ええ、そうですか」、「ほんとうに……」、「そうだとよろしいですわねぇ」と頷くばかりだった。ぼくは彼らとしばらく並んで歩いていたが、だんだんご主人の主張を聞いているのが辛くなってきて、足早にその場を逃れるのだった。

老紳士の語る日本は、ぼくの視ている、あるいは見えている日本とはまったく違う。はたして彼は、本気で自分の喋っていることを真実だと考えているのだろうか。理想を述べているのか。それとも、気休めに過ぎないのか。先の不安な奥さんを、安心させたいがための「優しさ」なのか?

わからない。わからないが、ぼくは老紳士のことばを聞いていて、むしょうに哀しくなった。そして、その哀しみの源をたどっていくと、国家と自己との関係という問題に、否応なしにつきあたる。ぼくは彼のように、日本という国家の安泰が自らの幸福に直結するという志向というか思想が、欠落している。

日本が良い国であることが望ましい。もちろんそう思う。しかし自分の属している国だけが栄えていれば済む話でもないし、それで幸せだとはとても思えない。……あーまたしても、抱えきれぬ問題を抱えたまま、結論を書かないまま、持ち越してしまう破目になった。申しわけありません。(了)

朝のツイートに関する、しごく簡単な総括:畢竟ぼくは国家を自己と同一化できない、アイデンティファイできないことを改めて自覚したということ。(念のため言い添えておくと、老紳士のことは嫌いじゃない。むしろ好もしく映った。かれのような思いやりのある老人になりたいと思うほどに。)

老紳士が語っていたのはアベノミクスへの期待である。彼は今も同じ心境でいるのだろうか。

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写真は2013年11月24日、坪井川土手にて。本文とは関係ありません。

鰯(Sardine)2017/03/28