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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

加藤ひさしの「ソングアプローチ」

 

昨夕、NHK-FM「ソングアプローチ」の最終回を聴いた。ザ・コレクターズ加藤ひさし氏がJ-POPの歌詞に辛い注文をつけ、近藤サト氏がフォローするという痛快な番組だった。歌詞(と言葉)の今日性とは何か?という問題をいろんな角度から捉えていた。毎週日曜日帰宅中の楽しみがなくなって残念。しばらくロスだな。

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ぼくは加藤ひさし氏をあまり詳しく知らなかった。ザ・コレクターズの歌といえば「世界を止めて」しか知らなかった。あの昔のジャックスみたいなヘアスタイルの、モッズスーツで決めたバンドだろ?程度の認識だった。

2013年の年末に、NHK-FMでJPOPの歴史をたどる特集番組があって、加藤氏がナビゲーターを務めていたが、ザ・モッズ、ナンバーガールサンボマスターとビートバンドを続けてかけたあとに、「音圧が年代を追うごとに増大してるけど、3つのバンドの演奏力に大差はなくて、あるとすればミキシング技術の向上です」とした上で、

「だけどモッズの『崩れ落ちる前に』は、80年代的『反抗する若者たち』のステロタイプをなぞったふうな歌詞なのね。それが曲にきゅうくつな印象を与えていると思う」

とつけ加えた。この独自の視点にぼくは舌を巻いた。

その加藤氏がレギュラーでナビゲーターを務めている番組があると知って、「ソングアプローチ」を聴きはじめた。当初はずいぶん歯に衣着せぬ物言いで、俎上にあげた歌の詞の欠点をズバズバ指摘していた。彼が問題視するのは次の3点である。

  1. 具体性のなさ
  2. 身体性のなさ
  3. 時代性のなさ

具体性とはつまり、抽象概念に結論を委ねるな、という意味である。ゆるふわを許さない。なんでそうなの?との問いに答えない歌詞を批判した。

「愛とか恋とか。聞くほうが知りたいのはそれがどんな愛なのか、ってことだよ。それを空や宇宙に放りなげて済ますのはマズいでしょ。ちゃんと生活圏内に着地させないと」

身体性とはつまり、活きた表現。状況がよく分かる描写、イメージを結びやすい言葉のチョイス、表現の工夫には賛辞を惜しまなかった(言い換えれば若手の斬新さには甘かった)。反面「昨今の日本語の歌詞ってどれも詰めこみ過ぎじゃない?情報量が多すぎて行間がないよ」と苦言を呈してもいたが。

そして時代性。彼は今を確実に反映しているかどうか?を常に重視した。あるビッグネームの「組織に縛られない自由な生き方」といった内容の歌詞を、「古いよ。今は『俺たちに仕事を寄こせ』って時代だぜ?なに無責任なこと言ってんだって話ですよ」と一刀両断していた。

しかし、こうした言葉への厳しい態度は諸刃の刃でもある。加藤氏はたびたび番組内で、「歌詞を批評するたびに他人に投げかけた疑問が、歌詞を書くときの自分に跳ね返ってくるよね。後進に模範も示さなくちゃならないし、ハードルが上がるあがる」と冗談めかして告白していた。


地球の歩き方 / THE COLLECTORS

加藤ひさし氏の書く歌詞はひじょうにロジカルで、近年に発表した作品は整合性の度合いが増している。冒頭に提示した問いには必ず納得のゆく結論が用意されている。あいまいさは回避され、具体的な情景が周到に用意される。だけど情報を詰めこみ過ぎず、ユーモアの要素も忘れない。そう、サービス精神満点なのだ。

けれどもその理詰めのソングクラフトは、ともすればきゅうくつさにつながりかねない。突き抜け感とでも言おうか、彼の愛するロックンロールに不可欠な「理屈ぬき」の要素は、論理的に捉え拵えようとすればするほど手からすり抜けてしまう。でも、そんなこと本人が一番分かっていることだ。宿願だった武道館の単独ライブも無事に成功させ(3月1日)、コレクターズのリーダーである加藤ひさしは、次の展開に想いを馳せているはず。そう考えると番組終了は潮時だったとも言えるだろう。

では、加藤ひさし氏が「ソングアプローチ」で最後にかけた曲を次に掲げよう。彼は、

「ジーザスだよ(笑)言わないってば普通は。けど言葉がサウンドにバッチリはまってる。意味不明でいいんだよ、ロックンロールの歌詞なんてのは(大意)」

と番組を締めくくった。


N'夙川BOYS/ジーザスフレンド inclメイキングver.

「ソングアプローチ・ロス」はしばらく続くだろうけど、ぼくはこの番組を通じてたくさんの日本語のポップスに触れることができたし、また、送り手がどんな意図を言葉に含ませているか?を考えるヒントにもなった。とにかく加藤式アプローチでJ-POPを聴けば、そうそう騙されやしない。加藤ひさし近藤サト両氏と番組制作の方々に感謝の意を捧げたい。 鰯(Sardine)2017/04/03