『21世紀の外伝』岩下啓亮 Sardine 配信日:2025年11月30日

このジャケット写真は拡大して見ていただきたい。いろんな情報が詰まっているから。
※ たとえばトライアングル、フィンガーシンバル、サンバホイッスルは『21世紀のプロテストソング』の収録曲に使われている。
2002年制作のラストアルバム『21世紀のプロテストソング』は最重要作品であり、かかった労力も並大抵のものではなかった。私は直前にリリースした『chicane』でバックトラックの稠密さを示したが、続くこの『外伝』では楽曲の成り立ちを明かし、『21世紀のプロテストソング』の構造を立体的に捉えることが可能ではないかと考えた。 『21世紀の外伝』では6曲の簡素なデモと2曲のアウトテイクに加えて、同時期につくった(アルバムとは無関係の)2曲を収録した。 ジャケット写真はアルバム制作に費やしたカセットテープとCD-Rを並べたものである。(TuneCoreのリリース説明文より)
「Good morning Good morning Good morning」を録音したときに、中間部にアカペラパートを設けようと試みた。アルバムの締めくくりに各タイトルを織り込んだら、回想シーンみたいになると思って。しかし、何度もダビングするとノイズも増大し、全体のバランスを損なうので諦めた。今となれば、多少聞きづらくなっても決行すべきだった、と悔やんでいる。 これは、ひとり多重録音をくり返したら、どれだけノイズが乗るかをテストした、いわば試し録りである。今回、載せるにあたってイコライジングで補正した。
歌詞は割愛。タイトルを連呼するだけで記すまでもないから。
どこまでも遠くまで晴れわたる 青い空
永遠にいたるまで続いてる 青い空
ひとりぼっちになりたい
過去の過ちから自由になりたい
希望なき街から
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
ぼくの記憶すべてを託した 野を駆ける子どもたち
昨日より高くなり低くなり 走りだす
呼び覚ます声となり風となり うたいだす
ひとりぼっちになりなさい
捨てがたい想い出も忘れてしまえば
もはや眠りの中
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
ぼくの記憶すべてを受け継いだ 野を駆ける子どもたち
くりかえす営みの刻まれる 記憶装置
あゝ壊してしまえ 役立たずの一枚岩なんて!
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
今あらゆり記憶は消えゆく 解き放ってやろう
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
今あなたに新たに伝える 追いかけていくがいい
野を駆ける子どもたち 野を駆ける子どもたち
「4000マイル」の元曲である。以前「Dのバラード」としてつくった没曲の、コード進行とミドルエイトを再利用した。「Dのバラード」自体は悪くないのだが、歌詞がナイーブすぎるので、発表するのをためらったわけだ。ファルセットが苦しげでやや聞きづらいが、寂しい夕景を反映した曲想は悪くないと思う。
待合室で知らんふりしてた
いつものきみと違う顔してた
他人行儀な横顔
考えている
嫌いじゃないけれど
気づいてくれるかな
きみは
何事もなく町は賑わってら
優しくきみはされどつれないから
同じところで何度もしくじってしまう
時どきでいいからさ
気づいてくれてたら
いいな
もっと自由に話すことがある
交わすことばに変わることも
ある
孤独な人で溢れそうじゃないか
寂しそうだな 聞こえているのかい?
たぶん大事な自分のことばっか考えている
近くの扉ひらく
深いとこまで響く
返事はないけど
気づいてくれるなら
いいさ
いいさ
「ワルツ・アメリカ 1」は、かなり早くにできあがっていた曲で、1999年にはほぼ完成していた。このデモをあるレコード会社のディレクターに聞かせたところ「悪くないけど、最後の一行の前に休符を挿れたほうがいい」とアドバイスされた。アルバムに収録する際はその助言にしたがった。 ちなみに、『21世紀のプロテストソング』のカバー写真で歌っている曲は、「ワルツ・アメリカ 1」である。
窓をぬけ出しておいで 月あかり照らす通り
いらないものなど置いて 必要なものだけもっておいで
おー ワルツアメリカ
動きだす このダウンタウントレイン
そう なにもいらない 答えなど 用意せずに
世界は大きなお祭り 友情 愛 満ちあふれた
誰かがきっと待ってる その気配 呼び覚ませば
おー ワルツアメリカ
真鍮の警笛が 始まりを告げる
帆船が 港 離れる そのとき
一筋の雷 ひたはしる轟き
夜の空ひらめき からだじゅう貫き
幾千の花火が 咲きほこる喜び
もたれかかっているきみが 眠ってるあいだに
ぼくはこのうたをかいた 手探りで 深く 柔らかいところまで
おー ワルツアメリカ
飛び乗った このダウンタウントレイン
ああ 自由の女神 開拓者 アドベンチャー
もう なにも考えず
おやすみ ぐっすり 今夜は
なんてことない、ありきたりの歌をつくってみたかった。歌詞は苦渋に満ちているけど。 デモの出来は悪くないが、いかんせん退屈になるので、編集で途中をバッサリと端折って短縮した。
着の身着のまま 昨日着たシャツのまま
うずたかく積まれたビール 空き缶の山
好きな時間に起きて 好きなものに囲まれ
好きな場所に寝転がり 好きなときに眠る
きみがいなくなって何日が過ぎ
独りになって何を失ったんだろう
誰も文句いわない 忠告することもない
誰もぼくの自堕落 咎めようとはしない
(中略)
ああ ありあまる自由の意味を知った ああ 自由はまるで牢獄みたいだ
ああ 何度も 何度も思い知らされる 今ここには きみがいないことを
なあ 自由と孤独の引き替えだ ああ いいとも ひとりぼっちともだち
「あなたの影になりたい」は、公募に応じてつくった楽曲だが、指定された女性の音域=E♭で録音する前に、自分で歌ったらどうなるかを試してみた。それがこのCのデモ版である。 幸薄い女性の歌だのに、この歌を好む女性は少なくない。このキーで歌うと、真剣に聞いてくれる。
夜中にそっとぬけ出して駆けつけるわたし
二十四時間あなたに寄りそっていたい
たまに躰を交わすくらいで
恋人と呼ばれるはずもない
冷たいひとと他人はいうけど
違うでしょ、違うでしょう
愛情のない行為 それでもいいと思ってる
ああ そういうことをする
あなたの影になりたいわたしだから
あなたのことを何でも知りたがるわたし
二十二、三の娘みたい 嫉妬してみたい
いつもだれかにこころ奪われ
笑うでしょ、口惜しいはずなのに
そんなあなたの微笑みみつけ
笑うでしょ、笑うでしょう
愛情の表現は わたし以外を向いていたっていいわ
だいじょうぶ
あなたの影になりたいわたしだから
こんなに近くにいるのに
気づかないそぶり 何故
いつわりつぶやきため息
うそついてばかり 勝手
きっと
愛情のない方向へ あなたこれから彷徨うでしょう
そういうことをする……
だいじょうぶ、だいじょうぶよ
あなたの影になりたいわたしだから
トラッド的だと評されたが、確かにオープンチューニングで、ドローンを意識した演奏はトラッド的なのかもしれない。私はただ、空間を押し広げたいとの思いから、この響きを模索したのである。「悔しい思いしたと思います」の一行は、常套句みたいなので、アルバム版では変更した。
この世の中の秩序を素手で
ひっくり返すと願ったとして
何ができよう でき得るだろう
怨念だけで 怨念だけで
悔しい思いしたと思います
不当な扱い受けたのだから
生きる理由が復讐ならば
たたかう理由が復讐ならば
ルサンチマン・・・
それは虚しい あまりにも辛い
生きる理由がそれだけならば
たたかう理由がそれくらいならば
怨念だけで 怨念だけで
この世の中の秩序をすべて
ひっくり返すと願っていても
決してそれは成就できない
怨念だけで 怨念だけで
一度はOKテイクとしたものの、どうもグリッター感が足りない、もっとギラギラさせたいと思い、録り直したのをアルバムには収めた。それに、このテイクには致命的な欠点がある。「たたずまい」を「たちずまい」と歌詞を間違えて歌っている。 しかし冒頭のおちゃらけやミドルエイトのネタ晴らしを含め、なぜか憎めないバージョンなので、ここに開陳しました。
あいつにあった印象 神経質なキザ
立ちずまい? たちふるまい 見逃せまい
無視したってムダ 目が離せなくなった
どうしたらいいのか
惹きつけられ いかれてる そう
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイートインスピレーション
これは?
あいつの悪影響 悩める優等生が
そのしぐさ しなやかな身のこなし
マネしまくってるって「不良になる」そうです
苦労してるみたいな
おいかけても おいつかなさそう
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイート スイート スイート ベイビー
あまいシミュレーション
異動してるあいだ バスや電車の中
思いだしてるんだ ね、yeah,yeah,hoo!
忘れたくても忘れられないよ
スイートイマジネーション スイートイマジネーション
スイートイマジネーション スイートインスピレーション
スイートイマジネーション スイートイマジネーション ワンダフル
スイートイマジネーション スイート スイート スイート ベイビー
あまいシチュエーション
悩ましいのがスイートイマジネーション
いとし恋しやスイートインプレッション ベイビー
Ah
Let's go!
演歌でもつくってやれ、と半ばやけくそになって書いた。旋律の落としどころが決まらないまま録音に臨み、あえなく沈没した。以来、この曲を記憶から抹殺していたけれども…… この年齢になってみると、歌に込められた諦念が沁みる。それに、頼りなげな歌唱もジム・オルークのうたう「矢切の渡し」みたいで悪くない。というわけで、みなさんにお聞かせしようと決心した次第です。
十年前はまだ 自信に満ちあふれ
まわりに煽てられ 生きいきしてた
置かれる立場など 知りたくもなかったよ
泣くもんか 男は涙 みせぬもの
泣くもんか 笑い飛ばすまで
やりたいことはなく 虚ろな殻となり
周囲のいいなりに流されました
弱音を吐くなんて 聞きたくはなかったな
泣くもんか 男の意気地 見せてやれ
泣くもんか いつか笑いあかそうな
辛抱のしどころさ くさるなよ わかるだろう
泣くもんか こらえるたびに思いだす
泣くもんか いつか語りあかして
笑おうと
郷里クマモトで、高校の同窓会がイヴェントを開催した。私は旧友たちと一夜限りのバンドを再結成し、青春のグラフティ的な新曲を披露した。結局それが私のラストライブとなったが、同世代の仲間たちを励ます歌が出来たので、報われた気持ちだった。キャリアの最後を締めくくるにふさわしい、雄大なナンバーだと思う。
昨日、鏡をみて ちょっと愕然とした
眉間のたて皺が深くなっていた
額にも一つ 目じりにもう一つ
笑いすぎたのか 怒りすぎたのか
1977年 おれたちは出会うだろう
ホテル・カリフォルニアが響く運動場で
おれはダッシュといった やつは莫迦かといった
それでもいつの間にやら おれらつるんでた
ふわふわ 綿菓子のような柔らかい毎日
ふわふわ 砂糖みたいな甘ちゃんの日々
1979年 おれたち歌うだろう
声をからして怒鳴り続けてた
ホントのことなんて てんで分かっちゃなくて
ただやみくもにイライラ叩きつけた
1980年 おれたち別れるのさ
四方八方散りぢりバラバラになって
感傷も後悔も未練もなにもなかった
正直なところちょっぴり寂しかった
だけど
ふわふわ 綿菓子のような日々にさようなら
ふわふわ 砂糖菓子は口のなかで溶けてった
昨日、鏡をみて 独り語ちていました
これまでの生き方 間違っていたのかと
バブルに酔いしれた ライバル蹴落とした
二十何年もありゃ そりゃいろいろあるだろう
Time waits for no one 長い月日が去った
おれもやつもあんたも それぞれの人生
あるいはうらぶれて あるいは家を建て
新しい生命を授かったりしてな
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
久しぶりだといった 久しぶりだといった
ノスタルジーなんかじゃないぜ、そうだろ四十代
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
ふわふわ それッ
ふわふわ 風みたいにさりげなく漂ってこうぜ
ふわふわ
前の『chicane』で、これなら私の声が苦手な人でも安心して聞けるだろう、と書いた。これは皮肉でもなんでもなく、自分自身が私の声質を好んでいないからだ。このアウトテイク集を聞いていても、歌が決定的にダメだなと感じる。とくに「Dのバラード」で声が裏がえる箇所なんて最悪だ。リリースした端から、出さなきゃよかったと後悔している。
いったい私の音楽なんて誰が聞くのだろう? 聞いてくれるまではいいが、好まれていると感じたことは一度もない。以前知り合いに「また世の中に必要ない音楽をつくってしまったよ」と自嘲したところ「そう思うんなら世の中に出さないほうがいいね」と諌められたことがある。ほんとうにそうだな。私の歌を世の中の誰も求めちゃいないんだから。
先日、私のショート動画が一万回を超えた、という通知が来たけれど、私のショート動画がそれほど見られているという実感はない。YouTubeチャンネルの登録者数は50人に満たないし、再生回数の最高は1700回程度だ。とすれば、誰かが私の音源を使ってショート動画をあげているんだろう。どうやら「病院」がTikTokで使われているようだが、私はTikTokに配信していない。だからとても微妙な気分だ。
次に『21世紀のプロテストソング』の本編を再リリースして、今年を締めくくろうと思う。『chicane』も『〜外伝』も、そのための布石にすぎぬ。このアウトテイク集に価値があるとすれば、後半の二曲が収録されていることだ。私は最近「泣くもんか」が愛おしくてしかたがないんだ。誰にも理解してもらえない悔しさが滲みでているから。鰯 (Sardine) 2025/12/06


