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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

EASTMAN AR-403CE

 
 
 先週、フルアコのギターをいただいた。
 EASTMAN AR-403CEという、美しいギターである。
 
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 もらった経緯を簡単に報告しておく。
 ひょんなことで知りあった方だが、なんとなく波長があい、俵山近くのお宅にも二度ほどお邪魔した。暖炉のある、天井の高いリビングルームは、おそろしく居心地がよかった。
 システムエンジニアであるWさんは、ぼくよりも幾つか歳下だったが、穏やかで落ちついた性格だった。優しげな奥さまと二人ぐらしで、かの女の手料理もまた絶品で、申し分ない生活をしているように感じた。
 Wさんは何本かギターを所有していた。「自宅でたしなむ程度で、人前で弾く度胸はないんです、ただギターは好きでしてね、こうやって飾っている次第です」
 ぼくは数本のうちのひとつに目を留めた。
「これは?」
イーストマンってメーカーのフルアコです。フルアコも欲しいな、と前々から思ってたんだけど、茶水の中古ギターショップでこいつを見つけてね、衝動買いしました」
「へえ、ちょっと触らせてください」
「どうぞどうぞ」
 手にするなり、ぼくの指や手に、ネックがぴったりと馴染んだ。あーこれは弾きやすいやと感じいりながら、好き勝手にストロークしていた。10分くらい弾いていただろうか。そのあいだWさんは一言も口を挟まず、黙ってみていた。
「どうもありがとう、楽しかったー」
「手ごたえを感じましたか?」
「ハハ、なんかすごく弾きやすいもんだから、調子に乗ってしまいました」
 ぼくは、いささか無作法だったなと反省しながら、W邸を辞した。星空のきれいな夜だった。
 
 それから一ヶ月くらい経ったのち、ぼくはWさんからメールを受け取った。
<名古屋に転勤することになりました。ご挨拶する暇もなく、申しわけないと思っていますが、荷物をまとめたりするのに手間取って。
 この際だから、要らないものはどんどん処分してしまおうと、家内と話し合いました。そこで、このあいだイワシさんが弾いていたフルアコなんだけど、良かったら、もらっていただけませんか?>
 ぼくはあわてて返信した。
<せっかく知り合えたのに、転勤とは残念です。でも、国内だし、またお会いできる機会があると思っております。
 ところで、ギターの件ですが。もったいないですよ。ありがたい申し出ですが、もらうわけにはまいりません>
 すると、今度は電話がかかってきた。
「もらってください。はっきり言ってあのギター、私の手に余る感じがするんです。だけどイワシさんはドライブさせていた」
「いえ、だけどあんな高価な」
「そんな高価なものではありません。中古ですし。だけど、弾かれない楽器はただのガラクタだ。弾いてくれる人がいるなら、楽器も喜ぶでしょう」
「しかし……」
「イワシさんのブログ、拝見してます。音楽の話題が、私にはおもしろく感じます。いきいきと書いてらっしゃる。あーこのひと、ホントに音楽好きなんだなあと分かります。
 練習してなくたってあれだけ弾けるんだから。もったいない、はこっちのセリフです。ギター、もらってください。いいですね?」
 ぼくは折れた。正直なところ、いいな欲しいなと思いながら弾いていたのだ。それを見透かされていたのだろう。
 住所を教えてください、とWさんはいった。その数日後に、母親がびっくりするような、どでかいハードケースが自宅に届いた。
 
 雄猫のチャイは、どでかいケースを不審の目でみた。『ぼくよりも大切そうに扱われるものが、部屋に入ってきたのが気にくわない』、そんな様子だった。しかしケースの中に収めっぱなしにしていては、ギターに良くない。留守中に彼奴が攻撃する可能性だってある。壁掛けのホルダーが必要だった。
 次の休日、上通に旧友を訪ねた。
 かつてのバンド仲間であるシバタくんに相談しようと、あらかじめ決めていたのだ。ところがケースを開けるなりシバタくんは、あー熱がこもっている、これはいかん、と口にした。
「こういうギターは、熱ですぐにダメになってしまうよ。気をつけないと」
「後部座席にしばらく置いていたんだ、ほんの一、二時間だよ」
「んー温度と湿度には気を配ること」
 シバタくんはギターを仔細に検分し、でもこれはいいギターだねと頷いた。
「ダキストにデザインがよく似ている。ちょっと弦がビビるけど、いまの状態がちょうどいい感じだよ。これを維持するように」
 そして、とりあえず必要なもの、壁掛けホルダーやストラップ、ヘッドホンアンプや弦を選んでもらった。
「ダダリオの010~にしようか。ジャズを弾くわけじゃないから、フラットワウンドじゃないほうがいいかも。太い弦だと手強いし」
 お任せしますとぼくはいった。昔なじみの「ター坊」が、的確なアドヴァイスをしてくれることに、不思議な感慨を覚えた。
「ただし、弦を張り替えるときは気をつけてね。このブリッジ、ヴァイオリンみたくボディーに固定されていないんだ。弦の張力で押さえられてるだけだから。位置がズレないように、張り替える前に、マスキングテープかなんかでバミっておくんだよ」
 ひえ〜っ。
 
 f:id:kp4323w3255b5t267:20150526223859j:image ちゃんと梁の通った箇所に取りつけたよ
 
 というわけで、ギターを壁にかけたら、ようやくチャイのいらだちもおさまったようである。
 ぼくはヘッドホンアンプを通して弾いてもみたが、自宅では生音でもじゅうぶんかなと思った。どちらにせよ、ジャキジャキっとした硬めの音がする。そこがまた、お気に入りなところでもある。
 ところでぼくは、これまでに何本かのギターを所有した。メインで使っていたのはギブソンSGの72年。これはいま、かつての音楽仲間であったテツローが所有しており、かれに貸しっぱなしのままになっている。ぼくは貸したつもりでいたが、かれはもらったつもりでいるようだ。いまさら返せとはいわないが、数年前に書かれたかれのブログには、「お帰り。」なんて書いてある。「かわいそうに前の持ち主(ぼくのことだ)の扱いが酷かったようだ」とも書かれている。ああ、確かに酷使したし、乱暴に扱ってもいた。だけど人一倍弾いていた。使い倒していたつもりだぜ。
 スズキ楽器製のアコースティックギターも弾きこんだ。ブリッジを削って、弦高を低くしていた。ネックが反り返り、いまでは使いものにならない。だけど、いちばん愛着のあるギターだった。これは福岡営業所のショーケースに飾ってあったのを、三千円で買い取ったのだった。
 今回のイーストマン、もちろん大切に扱うつもりだ。だけど、お嬢さま扱いしようとは思わない。ぼくはガシガシとストロークするのが好きだ。流麗なソロワークを弾くつもりはない。というよりも、そんなふうには弾けないし。フルアコだからといって、ジョー・パスジム・ホールみたいな弾き方をしなければならないという決まりはない。むしろぼくは、ジョン・レノンがJ-160Eやジャンボをかき鳴らすときのようなアプローチで臨みたい。それしかできない。
 今回この<EASTMAN AR-403CE>を検索してみたのだが、その大部分が、以下の3点にしか触れていない。
⑴ 中国で生産されているが、品質はいかがなものか。
ギブソンなどと比較してどうか。
⑶ どういう音楽が似つかわしいか。
 はっきり言おう、ばかばかしいと。いったいなにを心配しているんだろう。中国製だから品質が劣るとでもいうのか?アホくさ。そんなことをいっていたら、何の製品も使えなくなるぞ。一昔前ならいざ知らず、現在の中国製品の技術は驚くほど向上している。腕のよい職人が育っているという。ぼくはこのギターを手にして、その造りと仕上がりに感心した。何年かあとにボロがでるさ、と嘲笑するスペック重視の意見には、偏見しか感じないね。
 もちろん、ギブソンを頂点と位置づけることに異論は挟まない。たしかにエレクトリックギターの歴史はギブソンフェンダーの歴史だともいえるし、ことフルアコにかんしてはギブソンの独壇場である。だからギブソンに尽きるという意見を斥けはしない。
 だけど、ブランド信仰ってツマラないとは思わない?
 先人へのリスペクトは大事だし、ぼく自身も、ウェス・モンゴメリーバーニー・ケッセルに憧れはするが、コピーしようという気持ちはまったく起こらない。
 ぼくは、ぼくなりの弾き方をしたいな。先に挙げたジョン・レノン以外にも、ザ・フーピート・タウンゼンドみたいに、あるいはアイバニーズを変則チューニングでかき鳴らしていたジョニ・ミッチェルみたいに、独自のコードストロークを究めてみたい。誰かのコピーはまっぴらゴメンだ。その愉しみを否定しやしないけどさ。
 だから、イーストマン製のギターを有名アーティストが使っていないことも、むしろ嬉しいね。大好きなリチャード・トンプソンがアコースティックギターを使っているみたいだけど、それくらい。だって先人のいない、歴史の重みのないフルアコだなんて、ステキじゃないか。はたしてポール・マッカートニーは、誰それが使っていたから、という理由で独ヘフナーのヴァイオリン型ベースを手にしたんだろうか? 違うと思うよ。たんにコイツがいちばん使いやすそうだと思ったからじゃないのか?
 エレキギターなんて、そんなもんさ。構えすぎだよ、インターネット内の好事家諸君。きみたちのレビューからは音楽がまるで聞こえてこないんだ。フェティッシュも程々にしたまえ。
 
 f:id:kp4323w3255b5t267:20150526223925j:image ピックアップ部分のクローズアップ。
 
 や、長くなってしまった。こんなに長々と書くつもりはなかった。だけど書いているうちに止まらなくなった。ギターを弾いているときも、ぼくはこんな具合だよ。いつの間にか夢中になっちまう。
 ホントはね、ピアノを弾きたいんだ。だけど居間にあるアップライトピアノを弾くと、親父がうるさそうにするからなあ、自粛してんのさ。
 とはいえ親父、昨日またもや入院したんだが。だからこんなことを書くのも気が引けるというか、心底から楽しめないというか、そんな気分の休日でした。
 嬉しい報告のつもりが、後半は愚痴っぽくなっちまって申しわけない。
 
(Wさんに心から感謝いたします。鰯)