鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

レポート 『ゲルギエフ指揮・マリインスキー歌劇場管弦楽団公演』 2014.10.09 於:熊本県立劇場

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 コーエンに貼っていたこのでかいポスターは、おれがもらった。

 

※最近ではTwitter経由でない訪問者がちらほらいらっしゃるので、まとまったツイートをしたときは、このブログにもあげることにした。

 

1)マリインスキー歌劇場管弦楽団、さっき終了。というか、30分前には終わってたんだけど、駐車場が渋滞していて出られなかったんだ。9時40分には終わった。「悲愴」のあとにアンコール演奏はナシ。でも、それで良かった。あの静寂のあとにはなにを持ってきても蛇足だもんね。では、印象をさらっと。posted at 22:22:34

 

2)マリインスキーは、くだけた、まではいかないにせよ、ざっくばらんとした印象だった。だからぼくもざっくばらんに話そう。第1部はプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」抜粋(ソフトバンクのCM音楽ね)でご機嫌を伺ったが、正直、リラックスしすぎじゃねえのと思ってしまうほどのラフさだった。posted at 22:59:41

3)マリインスキーの面々は服装も黒で統一してるけどわりと自由そうだし、楽団員同士がお喋りしているシーンもたびたびみかけた。指揮者のゲルギエフは統率するというより、要所要所を締める親方って感じかな。カリスマ性や独裁的な要素はまったくなかった。それが意外でもあったし、嬉しいところでもあった。posted at 23:06:35

 

4)第1部後半、ドヴォルザークの協奏曲で、バッハふう髪型のコンサートマスターが加わり、俄然演奏が引き締まる。そしてチェリストのナレク・アフナジャリャン。こいつがすごい腕前だった。リズミカルでタイト、マの若いころを彷彿とさせる。歌わせ方にはまだ研鑽の余地があるが、巧いチェロだった。posted at 23:12:42

5)第2楽章で眠くなる場面があったけどこれは演奏のせいというより、私個人とドヴォルザークさんの問題。とにかく良い出来映えのチェロ・コンチェルトだった。さらに、アフナジャリャンはアンコールで独奏を2曲披露したが、1曲目の、これは誰の曲だろう、ひょっとしたら彼のオリジナルだろうかという、posted at 23:19:23

6)むちゃくちゃ刺激的な独奏曲が演奏されたんだ。チェロを弾くのと同時にホーミーみたいなハミングでハモる。ボルタメントを多用した奏法。とんでもなく早いフレーズ。中央アジアの民謡みたいなモチーフ。とにかくユニークな曲。この「おまけ」1曲でも観にきた甲斐があったと思えるほどカッコよかった。posted at 23:25:51

7)舞台袖で、若いナレクの独奏を見守る「音楽監督」ゲルギエフの鋭くも温かい視線が印象的であった。

 

さて、第1部終了で20分の休憩。次のツイートでは頭に浮かんださまざまな感想を一口メモふうに記してみよう。posted at 23:31:05

8)

①ロシア人はさすがに背が高えや。舞台が狭く見えら。

②お、ヴィオラの女性、ブロンドひっつめで、めちゃくちゃ綺麗。

③はっきり言って、金管パート、雑くね? とくにホルン。外し多すぎ。

④て言うかさ、全パート緩いでしょ、パート間の受け渡しフレーズとか。

コンマス、かつらじゃない? posted at 23:40:41

  このほかにもまだ、たくさん思いついたことがある。⑥ティンパニ奏者は流石に巧いけど大太鼓の青年はいまいちだなーとか、⑦前列コンマスから数えて3番目の女性vln、要所しか弾かないけどいったいナニモノ? とか。でも、このくらいにしておこう。 

9)いや、じっさいオケは上手ではない。個々人の演奏能力なら日本のオケの方が断然巧い。が、にもかかわらず、第2部の「悲愴」で、マリインスキー歌劇場管弦楽団は、巧拙を超えた説得力で、詰めかけた満員の観客をうーむと唸らせたのである。そこは策士にして希代のエンターテイナー、ゲルギエフである。posted at 23:55:15

10)ゲルギエフは指揮台を設えさせず、舞台に直接立ち、楽団員と上下関係なくフラットな関係になった。各弦パートの最前列は、まるで室内楽団のように円くなり指揮者を取り囲む。そのサークルの中をゲルギエフはまるで踊るかのごとく指揮をする。その振りのスタイルはカルロス・クライバーを思いださせる。posted at 00:02:57

 ゲルギエフの功績とはつまり、ビジュアルの時代に即応したオーケストラの見せ方だと思う。いま鳴っているパートのどれが重要か、どのパートからどのパートへと旋律の線が受け継がれているか、などなどを観ている側に指し示すのが、指揮者のもう一つの役割だとはっきりと自覚している。あたりまえのことのようだが、それのできない指揮者はあんがい多いのではないか。ワレリー・ゲルギエフは魅せる芸に長けているともいえるし、また、音楽を「視覚化」することに長けているともいえる……

 と、そこまで考えたときに、反応の通知がとどいた。Gからだった。さっきのチェロの独奏曲なんだろう? の疑問にたいする回答である。

@ cohen_kanrinin ロシアの現代音楽の作曲家ミハイル・ ブロナーの「ユダヤ人~生と死」だと思われます。※訂正

 あいかわらず簡潔明瞭な文章だこと。にやりとしながら返信を打って、連続ツイートに戻った。

11)@ __ もう調べたのか、早いな。また詳しく教えてください。posted at 00:04:02

12)となると、ナレクくんはユダヤ系? いやいや、今夜は深入りしないでおこう。

 

話を戻すと、今日いちばんの驚きだったのは、野人ゲルギエフが、優雅な紳士になっていたことだ。もちろん依然エネルギッシュではあるけれど、優雅さのアピールを優先していたように思える。それは自己演出と演奏の両方と。posted at 00:10:16

13)それはやや各楽部の連結がぎくしゃくしていた第1楽章を経て第2楽章に入ったときに強く感じたことで、5拍子の輪郭があいまいになるほどテンポルバートした変速円舞曲は、聴いていてひたすら愉しく、こういう喩えを許していただけるなら、まさに「お花畑で遊んでいるような」心持ちになったのである。posted at 00:16:41

14)それは前日おさらいしたムラヴィンスキーレニングラード響の、引き締まった・直線的なフォルムとは対照的である。ゲルギエフは、細かいことは気にすんな、ほらもっと歌えと各セクションをひたすらあおるのだ。それに応えるかのようにバンドマスターが中腰になって、コンマ0,ン秒はみ出て突進する。posted at 00:23:03

15)華麗なる第3楽章はまさに法悦へ到る走馬灯の如し。早いはやい、滑るすべる。パート毎に検証すれば、ずいぶん粗っぽい処理がなされている。しかしそれがなんだというのだ。この一体感・ドライブ感・言わせてもらえばグルーヴ感。他の澄ました大オケには出せない、マリインスキーならではの味わいだ。posted at 00:28:24

16)そしてすぐさま第4楽章へ移行。管・弦、そして打が、渾然一体となって、一つの旋律に収斂してゆく。渦を巻き、速度をあげ、下降し、断末魔の悲鳴をあげる。やがて光芒は明滅し、次第に暗くなる。消えいるほどの長く・細いディミニュエンド。ぼくは思わず息を呑む。そしてその静寂を破るかのように激しく…… posted at 00:36:26

17)……すみません。最後の最後で咳こんでしまった迷惑者は、じつはぼくです。観客のみなさん、そしてマリインスキーとゲルギエフに申しわけない思いでいっぱいです。息をつめてハンカチで口を塞いで我慢したんだけど、かなりパニックな状態で、咽びが止まりませんでした。ほんとうにごめんなさい。posted at 00:42:38

18)と、最後はホントに悲愴な状態になってしまったが、演奏会は全体を通して、とても楽しいものだった。書かなくてもいいことまで書いてしまったけれど、今夜はほんとうに得がたい、忘れがたいコンサートでした。以上、マリインスキー歌劇場管弦楽団ワレリー・ゲルギエフについての長いレポートを終わります。posted at 00:46:22

19)今夜は気力・体力を使い果たした感があるので、昼に予告しましたブログの投稿は明日以降に更新します。下書きはまだ半分くらい。ご了承ください。では、また明日。再見。posted at 00:49:57

 19)に示した「ブログの投稿」とは、次に書く予定のエントリである。

 こうした記録は、ぼくの「薬を打っているような」連続ツイートを既に見た人にとってはそれこそ何の意味もない、箸休めのエントリに思われるかもしれないが、ぼく個人にとっては、こうやってまとめておくのは意味のあることなのである。

 

 

 

【追伸】

翌日、ぼくの連続ツイートを見た人からの情報によれば、<9日のマリインスキー劇場管の演奏会初日(熊本)に向かうゲルギエフを乗せたプライベートジェット機は、成田に緊急着陸>したのだそうだ。じつは、開場・開演とも大幅に遅れたのだが、あーこれが原因だったのかと翌朝になって知ったのだった。

※ その後の報告によると、このアンコール曲は「ラメンタチオ」というタイトルらしい。

 昨日(11/17)GからもらったCDをいま聴いている。youtubeにもあったので貼っておく。これはクラシックファンのみならず、全ジャンルの音楽好きに聴いてほしい曲、Giovanni Sollima の「Lamentatio」。 ナレク・アフナジャリャンががむしゃらに弾きまくる画像をどうぞ。

Narek Hakhnazaryan - Sollima, Lamentatio - YouTube