鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

究極の9曲(ぼくの選んだジョン・レノン)

 

ビートルズのこと、みんなさんざん書いているからなあ。いまさらぼくがなにか上書きすることもないと思うけど、根っからのジョン派として、これだけは言っておきたい。

ぼくは初期のレノン・ナンバーが大好きだ!

言わせてもらいますとね、過小評価されすぎなんだよ。なので今回はぼくが聴くたびに「サイコー!」と叫んじゃう歌を何曲かピックアップしましょう。あ、有名なのは省きます。それとポール色が強いのも(や、マッカートニーも好きさ。でも本稿の趣旨はレノンの魅力を伝えることだから)。

f:id:kp4323w3255b5t267:20161003143453j:plain

それでは最初のカード。セカンドアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』より「ナット・ア・セカンド・タイム」。

You're giving me the same old line
I'm wondering why
You hurt me then You're back again
No, no, no, not a second time

「また前と同じこと言いやがって。理解できないな。おれを傷つけて、戻ってきて。ノー・ノー・ノー・二度目はナシだ」

 

お次はレノン・ナンバーが満載の『ア・ハード・デイズ・ナイト』から切れ味抜群の1分50秒、「ぼくが泣く "I'll Cry Instead"」。

And when I do you'd better hide all the girls
I'm gonna break their hearts all 'round the world
Yes, I'm gonna break them in two
And show you what your loving man can do
Until then I'll cry instead

「女のこたち、みんな隠れていたほうがいい。ぼくは世界じゅうの女性の気持ちを壊すつもりだから。そう、まっぷたつに引き裂くぜ。そしてきみは恋する男の仕打ちを見る破目になる。それまではぼく、泣いている」

 

『フォー・セール』シブいなー。あまりにも好きだから2曲貼っちゃおう。まずは「アイム・ア・ルーザー」を動画で。ジョンがハーモニカを吹いたあと、ジョージに横顔を向けて目くばせする瞬間が最高にカッコいい。


The Beatles - I'm a Loser

What have I done to deserve such a fate
I realize I have left it too late
And so it's true, pride comes before a fall
I'm telling you so that you won't lose all

「どうしてこんなに不運なんだろう。身を引くのが遅すぎたみたいだ。プライドが身を滅ぼすって、それホントだから。あんたに忠告しとくよ、いずれぜんぶ失うぞ」

 

続いてはカントリーフレーバー漂う佳曲。邦題「パーティーはそのままに」って、そのまま直訳じゃんか!

I don't want to spoil the party so I'll go
I would hate my disappointment to show
There's nothing for me here so I will disappear
If she turns up while I'm gone please let me know

「パーティーの途中だけどオレ先に抜けるわ。ガッカリしてるとこ見られたくないもんね。ここにいたってしゃあないでしょ、だからオレ消えるわ。もしかの女が戻ってきたら、頼むオレに報せてくれ」

 

『ヘルプ』にはジョンの代表作が詰まっているけど、ぼくのイチ推しナンバーは、ジョン自身が嫌っている「イッツ・オンリー・ラヴ」。

(今はなき)さいたま市ジョン・レノンミュージアムの展示品で、ボブ・ディラン「ラモーナに」の楽譜の裏に、この歌の詞が走り書きしてあるのを観た。でも、歌詞は載せないでおこう。ジョンはたぶん、ありがちな韻を踏んだのがこっ恥ずかしかったんだと思う。

 

ラバー・ソウル』にもジョンの名曲が目白押しだね?だけどもぼくがいちばん好きなのは、ジョンみずからが失敗作と認める「浮気娘 Run For Your Life”」なんだ。

You better run for your life if you can, little girl
Hide your head in the sand little girl
Catch you with another man
That's the end ah little girl

「さっさと逃げるがいいさ小娘。砂の中に頭から突っこめ小娘。他の男と一緒のところを見つけたら、一巻の終わりだぜ、小娘」

※ジョンは、エルヴィス・プレスリーの「ベイビー・レッツ・プレイハウス」の一節をまるごといただいてるんで、気まずかったみたい。

 

リボルバー』にもジョンの切れ味勝負のナンバーが揃っている。シングルB面の「レイン」もいいし、「シー・セッド・シー・セッド」もいい。ポールとの共作だろう「ドクター・ロバート」も痺れる。だけどぼくは、これまたジョンの嫌いな「アンド・ユア・バード・キャン・シング」が一等好きなんだよなあ。

When your prized possessions start to weigh you down
Look in my direction, I'll be 'round, I'll be 'round

「ときにきみの地位や財産は、きみ自身の重荷になるだろう。そんなときはぼくの方を向いてごらん。ぼくはいるよ、きみの周りに」

 

さて、ここで引き返そう。66年にツアーを中断したビートルズは、スタジオの迷宮で精神世界の探求に耽る。それはそれでまた面白いし、オノ・ヨーコと出会った後に変わった作風もぼくは大好きだ。ただ、初期にあった辛辣さ、皮相さ、荒っぽさ、激しさ、嫉妬深さは次第に影を潜める。それが正直いって物足りなく感じるところだ。ビートルズは一般的にお行儀のよいバンドだと思われがちだが、実際にはリバプール出身の「街場のアンちゃん」だったし、とくにジョンの素行は「(ローリング・ストーンズの)ミックやキースよりもずっとおっかない」ものだった〔要出典〕。隠しようのない不良のたたずまいは、むしろカヴァーに表れているのかもしれない。

Well, he put thumb-tacks on teacher's chair
Put chew'n gum in li'l girls hair
Now, Junior behave yourself

「そうさ、先公の椅子に画びょうを仕込んで、女のこの髪にチューインガムくっつけて。おっと小僧、やりすぎなんだよ」

ラリー・ウィリアムズの暴力と性的暗喩に満ちたアブナい歌をビートルズは3曲も録音している。自分が書きたくても書けないワルな側面を端的に表した歌詞とメロディーが、ジョンの声質と気持ちにフィットしたのだろう。

 

さあ、あと10曲くらいは容易に挙げられそうだが、ジョンゆかりの番号にちなんで9曲で打ち止めとする。ラストナンバーはジョンのソロアルバムといっても過言ではない※『ア・ハード・デイズ・ナイト』から選ぼう(ポールの作品が3曲しかなく、残りはぜんぶジョン主導の歌ばかりだ)。デル・シャノンふう哀愁のロッカバラッド「アイル・ビー・バック」にしようかと迷ったが、やっぱりジョン・レノンにしか書けないシニカルなロックンロールで締めくくりたい。

I got something to say that might cause you pain
If I catch you talking to that boy again
I'm gonna let you down
And leave you flat
Because I told you before, oh
You can't do that

「おまえには耳の痛い話だろうけどさ、もしあいつともう一度話しているのを見かけたら、おれは失望するね。そして部屋を出ていくさ。前にも言ったはずだ。おまえの仕打ちったらないぜ」

くーっ、カッコいい。これだけ情けない心情をさらけ出してンのに、弱音というよりかむしろ強がりに聞こえる。これってやっぱりツッパリとしか言いようがないね(でも実はジョン、中産階級出身のお坊ちゃまだったんだ)。

 

 

 

【関連記事】


 

 

【おまけ】

以前2曲削除されていたので、格好の口実とばかり2曲追加します。


The Beatles - Help! [Blackpool Night Out, ABC Theatre, Blackpool, United Kingdom]

この「ヘルプ」は出色の出来。歌もコーラスも演奏もばっちり決まってる(ジョージの下降フレーズもピタッとはまってる)。スタジオ録音より良いかもしれないね。

ジョンのシブいソウルナンバー。紹介できたのが嬉しいよ。

 

ムーディー・ブルース 7枚の旅券

 

iPhoneのアプリでYouTubeを観るのは限界がある。が、はてなブログに画像を貼りつけると(理屈は不明だけど)観られる場合もある。

たまに聴きたくなるムーディー・ブルース。連作ともいえる7枚の(フル)アルバムで試してみよう。

註;けれどもムーディー・ブルースの場合、YouTube動画をブロックされることが多いのでSporifyに切り替えました。ご了承ください。

 

①「デイズ・オブ・フューチャー・パストDays Of Future Passed


The Moody Blues - Days Of Future Passed (1967) (Full Album) (Original Mix)

open.spotify.com

1967年。ジャスティン・ヘイワード(ギター・ヴォーカル) とジョン・ロッジ(ベース・ヴォーカル)を新メンバーに迎え入れた第2作。シングル「サテンの夜」が世界中でヒット。オーケストラの音質がすばらしい。クラシックを録る際の技術を使っているのだろう、たぶん。

 

②「失われたコードを求めてIn Search Of The Lost Chord

open.spotify.com

親しみやすいアルバム。「ライド・マイ・シーソー」やレイ・トーマス(フルート・ヴォーカル)が活躍する「ティモシー・リアリー」など、入門盤に最適。68年。 

 

③「夢幻On The Threshold Of A Dream

f:id:kp4323w3255b5t267:20160919072054j:image

open.spotify.com

傑作とされているが、私的にはいまいちピンとこない。アルバムの末尾を飾る「ハヴ・ユー・ハード」の組曲はマイク・ピンダー(キーボード・ヴォーカル)の操るメロトロンMkⅡをたっぷり堪能できる。69年。

 

④「子供たちの子供たちの子供たちへTo Our Children's Children's Children
Moody Blues - To Our Children's Children's Children Vinyl LP

open.spotify.com

私のいちばん好きなアルバム。出だしのロケット発射音&グレアム・エッジ(ドラムス・ヴォーカル)の朗読からワクワクする。ドラムは巧くないけど彼は詩人であり、グループの精神的支柱である。69年。

 

⑤「エスチョン・オヴ・バランスA Question Of Balance

open.spotify.com

冒頭の「クエスチョン」は、これぞジャスティン・ヘイワードと言いたくなる雄々しい曲調。が、中間部の旋律に、さだまさしの「関白宣言」を連想してしまうのは私だけだろうか。70年。

 

⑥「童夢Every Good Boy Deserves Favour

open.spotify.com

日本でもっとも有名な一枚だろう(とくに邦題が)。アルバム全体の印象は牧歌的。ぶ厚いコーラスに5人の団結を感じる。白眉はやはり末尾の「マイ・ソング」(ピンダー作)かな。71年。

 

⑦「セヴンス・ソジャーンSeventh Sojourn

open.spotify.com

連作の最終章。次のスタジオアルバム『オクターヴ』まで6年のインターバルが開き、その間にピンダーは引退してしまう。冒頭「失われた世界」のサビは「いい日、旅立ち」を連想するし、ラストの「ロックン・ロール・シンガー」(ロッジ作)はロシア民謡みたいだけれども、その非ロック的な佇まいがムーディー・ブルースの真骨頂といえるだろう。72年。

 

どう?

ムーディー・ブルースは熱烈なマニアが多いのでうかつなことは書けないが、できればこの7枚、ぜんぶ揃えてほしい。楽しみが倍増すること保証します。

叙事詩に綴られた精神遍歴はあたかも黙示録のようであるし、スペキュレイティヴ・フィクションのようでもある。

聴くばかりではなく「読む」や「識る」も大切だ(それは何も歌詞に限らない)。そのことを私はムーディー・ブルースから教わった。

なーに気負うことはない。日本のGSにも影響を与えた、穏やかで優しい歌がほとんどなんだから。

 

 

追記

パトリック・モラーツをキーボードに迎えいれて制作された『オクターブ』を、私はそれほど熱心には聴かなかったけど、それでも泣けてくるほど好きな歌がある。「ハッド・トゥ・フォール・イン・ラヴ」

open.spotify.com

 

ジャスティン・ヘイワードって『童夢』⑥がそのまま老境まで持ち越した感のある人だけれども、ジャスティン爺さんの瞳には今でもおとぎ話のような田園風景が映ってるんだろうな。


Justin Hayward - The Story In Your Eyes ft. The Quartetto Euphoria

 

※2018年にムーディー・ブルースはロックの殿堂入りを果たしたが、その報せを受けてまもなく、レイ・トーマスは旅立ってしまった。追悼に代表曲を。かれの死生観はここで既に示されていた。


THE MOODY BLUES-R.I.P. RAY THOMAS-LEGEND OF A MIND (TIMOTHY LEARY'S DEAD)-1968

 

葬儀のときにかけてほしい音楽?

 

父が亡くなったので、ささやかながら葬式をあげました。 

f:id:kp4323w3255b5t267:20160928142714j:image

支払いはさっさと済ませたけど、こじんまりとした式でもけっこう費用がかかるもんです。打ち明けると集まった香典の倍近くかかった。もちろん香典返しを含まず、だ。

先日、こんな記事が(葬儀にお金をかけられなくなっている現状を誤魔化すなと批判的に)紹介されていた。

多くを語るつもりはないけど、自分が死んだときに葬式はナシでいい。祭壇はいらないし、坊主の読経もいらない。わざわざ親類縁者に集まってもらわなくてもいい。イワシは亡くなりましたよと連絡してもらうだけでいい。霊安室から火葬場に直行してもらって散骨してもらえればそれでじゅうぶん。仏壇も位牌も納骨堂も墓も不要だ。

 

よく、「自分の葬式のときにかけてほしい音楽」という話題を音楽愛好家は好むけれども、式をあげない以上、かけてほしい音楽もへったくれもないものである。だってさ、自分の好きだった音楽を葬儀場で流してもらうのって亡くなった本人の自己満足だし、参列者に「あゝイワシはこのような音楽を好んでいたのだなあ」と故人を偲ばせるってのもいかがなものかと思う。かりにぼくが《この際だ、生前どいつも聴こうとしなかったオリジナルをとっぷり聞かせてやれ》とばかりに自作の歌を延々と流しでもしたら、それこそ居たたまれなくなるじゃんか(そんな無粋なマネはしないよ)。

ちなみに父の葬儀では、喜多郎の『シルクロード』を流してもらった。オヤジが以前に聴きたいと所望していたのを思いだし、知人からいただいたCDをかけたんだ。したら式場の雰囲気とぴったりマッチしていたねえ。まるで会館そなえつけのBGMに聞こえたよ。

話を戻すと、むしろ好事家たちは「自分のいまわの際に流してほしい音楽」を言及したいのではないか。これをかけながら永久の眠りにつきたいという願望。ラモーンズのヴォーカル、ジョーイ・ラモーンは死ぬ間際にU2の“In a Little While”を聞いていたというが、そういう物語を胸中に思い描くんじゃないだろうか?うん、それなら理解できる。

ぼくも以前に「葬式にかけてほしい音楽」を挙げていたけど(過去記事参照)、これからは「死に際に聴きたい音楽」に変更しようと思う。 

この記事にはビートルズの「ビコーズ」とビル・エヴァンスの「スーサイド・イズ・ペインレス」を挙げていて、どちらも有力候補だ。また他の記事ではシンガーズ・アンリミテッドの「フール・オン・ザ・ヒル」を引き合いに出している。天国的なナンバーを聞きたい欲求は常日ごろからあるけれども、さて、いざ死ぬ間際になったら、存外にぎやかしい・騒々しい音楽が聴きたくなるやも知れぬ。いずれにせよぼくは「死に際に聴きたい音楽」のリストを、思いついたら当記事に随時追加していくつもりだから、もしもぼくが死んだときには、一晩くらいつきあってもらえればありがたいなと思っている。②③④

 

 ボノいわく、「飲んだくれの歌だったのがジョーイのおかげでゴスペルになっちまった」。


U2 (In A Little While) 

 

 『アビーロード』収録のクラヴィコード入りではない、ア・カペラヴァージョンで。

Beatles Because - YouTube

 

 映画『M*A*S*H』のテーマソング。アルバム『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』の収録曲はどれも残酷なくらい美しいんだけど、とりわけこの最終曲で文字通り天国に連れてかれる。


Bill Evans - MASH Theme (Suicide is Painless)_ 

 

 シンガーズ・アンリミテッドの『ア・カペラ』はプログレッシヴなアレンジだよね。ヒップホップのサンプリングに用いられるのも肯ける精度の高さ。過去記事で既に貼っているので、そちらをご参照ください。 

" FOOL ON THE HILL " SINGERS UNLIMITED

 

 

あゝそうだ、もう一つ追加しておこう。

 

 チャーリー・ヘイデンの“The Ballad of the Fallen”。カーラ・ブレイドン・チェリー等、「リベレーション・ミュージック・オーケストラ」の仲間たちが集った、傑作アルバムの7曲目。


Charlie Haden - Silence

 

葬送の間じゅう、この音楽があたまの中でエンドレス・リピートしていたんだ。