『変身』は、岩下啓亮 Sardineが2001年に制作した作品集である。
私は『変身』のリリースをためらっていた。なぜなら、あまりにも赤裸々に感じていたからだ。この曲集には自分の恋愛体験がかなりレアな形で投影されている。その姿をさらけ出すのは、恥ずかしいと思ったのだ。
が、かのポール・マッカートニーは「まずは羞恥心をすてることだ」と語った。ロックン・ロールを書き、つくり、歌うことには恥ずかしさがつきまとうが、その遠慮を乗り越えなければ表現の達成など不可能なのだ(意訳)と。
それに倣って、私も恥じる心を捨てようと思い、この作品集『変身』を配信しようと決めた。今さら恥ずかしがっても一緒だ。私がどんな性格で、どんなふうに人間を観察してきたのかは、ここに寄せた11のラブソングを聞けば、ぜんぶ丸わかりなのだから。(TuneCoreの紹介文より)
4. Oh, No ことばにならない New!
恋愛の只中にいる人の感情をストレートに描こうと思った。その狙いは達成したが、いかんせんアレンジが70年代の日本語ロックみたいで、録音後に顧みるたび、気恥ずかしさを感じていた。でも、しょせん私の歌は古くさいのだし、今さら新しさを装うこともできない。開き直ってリリースしようと決めた。『変身』の枠組の中に収めて。
追記:なんと「こと“ぽ ”にならない」とタイポミスしている! けれども、配信中につき訂正はできない、とのこと。どうしても訂正したい場合は、いったん配信停止し、新たに登録し直さなければならない。つまり手数料がかかるので、今回は仕方なく「ママ」にします。翌年の更新時まで「ことぽ」のままじゃ!
【歌詞】
華奢な指先をみていた はにかむ笑顔みつめた
私の好きになるひとは みんなどっか似ているどうして笑っていられるの 楽しかったっていうの
好きだといってくれたひと みんな私以外を選ぶOh, No これから先どうしよう Oh, No どこへ行こう
Oh, No 考えられないよ 今はあなたしかみえない優しい瞳をしていた 恥ずかしそうに喋ってた
私の好きになったひとは 面影だけを置いてゆくOh, No 逢いたくなったらどうしよう Oh, No さびしいよ
もう 連絡できないの それをあなたにはいえない限られた場所 わずかな時間 探し求めていた
許されないと 分かっていても 愛を育てていたどうして帰ってしまうの 私をひとり残して
好きだといってくれたひと ぎこちなく抱きしめるOh, No これからずっとどうしよう どうやって生きていこう
Oh, No なにも欲しくない 今はあなたしか要らないOh, No Oh, No
Oh, No ことばにならない 二度とあなたに逢えない
6. おーヨーコ New!
この曲をつくったころ、私は午前中に書類配達のアルバイトをしていた。大手町から丸の内あたりのビジネス街を、幌つきの台車を押しながら走り回っていたんだ。ある日、「おーヨーコ」と連呼するサビの部分がいきなり降りてきた。仕事中にもかかわらず私はメモ帳に音符を書きなぐり、携帯電話を持っていなかったから、自宅に電話をかけて、留守電に録音したんだ。公衆電話に向かって配達員が歌っている姿を、エリートサラリーマンたちが奇異な目で見ていたのを、今でも覚えているよ。音楽的にはやや粗雑だね。勢いで録音したって感じがするな。
【歌詞】
やってくれるぜきみは 大胆すぎるんじゃない
きっと買うぜひんしゅくを おんなたちの反感をおーヨーコ おーヨーコ 真夏の空の太陽
おーヨーコ おーヨーコ 光り輝く娘勝手気まますぎるんだ 誰彼なくなれなれしい
きっと火傷するかンな おとこを甘くみてっとおーヨーコ おーヨーコ パラシュートは開いてるぜ
おーヨーコ おーヨーコ 香りあふれる娘
きみを独り占めしたい相手にとって 不足はないぜ
信じてないな ヨーコ
クールになんて かまえてないで
行くしかないぜ もう
躊躇わないもんねやってくれる目くばせは 自覚なさすぎるんじゃない?
きっと誘ってんだな ハン思わせぶりじゃないかおーヨーコ おーヨーコ おとこ狂わす毒を持った
おーヨーコ おーヨーコ 油断ならない娘おーヨーコ おーヨーコ それでもいいさ ぜんぜん
おーヨーコ おーヨーコ 甘い蜜にありつけば
たどり着いたらいいな ヨーコ
きみを独り占めしたいなにやってんだ まったくおれは どうしちゃったんだろう
【追記】このアルバムの楽曲は相互に連携している。たとえば「おーヨーコ」の最後の6thコードは、次の「あなたのクスリ」に引き継がれる。さらに「もっと もっと もっと」の歌詞が引用されている、というふうに。
僕らは軽く手をあげるだけで死ぬまで別れられるのである