鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

マッカートニー 見過ごされがちな50の傑作

さて、これからポール・マッカートニーのことを書こうと思う。簡単ではないが、やってみようと決心したのは、あるカヴァーヴァージョンを聴いてのことだった。※

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アメリカの二人組ファンクユニット、スケアリー・ポケッツが、凄腕ギタリストとして注目されているマディソン・カニングハムをヴォーカルにフューチャーしたこのシングル、ぼくはしばらく誰の曲だか分からなかった。中盤のブラスセクションのあたりで、ようやく「ポールだ! ロケストラのテーマの前の曲だ」と気づいた。このように「あれ? 誰の曲だったっけ」と意表をついた選曲は、夭折したノルウェーのシンガー、ラドカ・トネフがカヴァーした、ポール・サイモンの「It's been a long long day」以来だった。

しかし「アロウ・スルー・ミー」は、なんてメロディアスで、しかも独創的な曲だろう。念のためにポール(とウイングス)のオリジナル版を聞いてみたが、アレンジはほぼ変わらない。つまりぼくは1979年に作られた楽曲のおもしろさに、40余年後になってようやく気づいたのだ。そうなると俄然、他にもあるんじゃないかと無性に気になりだした。まだ他にもきっとあるに違いない、見過ごされがちな名曲が。

こうして、ポール・マッカートニーのアルバムをおさらいする旅が始まったのである(あーなんて長い前置きなんだ)。

そこで、この稿を書くにあたってSpotifyにふたつのプレイリストを作成した。そのリストに挙げた47曲に3曲を足した50曲を順番に紹介していこうと思う。

 

◆プレイリスト⑴ 『魅力再発見 20世紀編』

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1.「ホット・アズ・サン〜グラシス」

“Ⅰ”と呼ばれる最初のソロアルバム『マッカートニー』に収録された陽気なインストルメンタル。じつはビートルズ関連で最初に知った曲である。ぼくが小学生のころ、郷土のデパートのコマーシャルソングに(おそらく無許可で)使われていたからだ。まさか数年後にポールのアルバムで再会するとは思わなかった。

2. 「リトル・ウーマン・ラヴ」

シングル「メアリーの小羊」のB面。中学生のころポールのシングル盤を買い漁ったが、裏面の方にむしろおもしろい曲が多かった。アップライトベース奏者をゲストに迎え、ごきげんなピアノはポール本人かな。このノリの良さはちょっと他に類を見ない。

(ウイングスのファースト『ワイルド・ライフ』はさすがにパス。あれは練習曲集だね。)

3. 「リトル・ラム・ドラゴンフライ」

レッド・ローズ・スピードウェイ』に収録されているが、傑作『ラム』のアウトテイクらしい。ゆっくりと曲想が変化していく、時が経てばたつほど好きになっていく、穏やかで牧歌的な歌だ。

4. 「ミセス・ヴァンデビルト」

人気曲が居並ぶ『バンド・オン・ザ・ラン』のA面の中では、比較的地味なナンバーだけど、ぼくはこの「ホッ、ヘイホ」ってコーラスが大好きなんだ。最初はここに「西暦1985年」を入れてみたが、最近は隠れた名曲の上位に数えられているので、その他を選んだ。

5. 「磁石屋とチタン男」

豪華な『ヴィーナス・アンド・マース』の中では埋もれがちな曲だが、単体で聴くと着想の奇抜さとアレンジの巧みさに唸らされる。このようなコミカルを描けるのは、ポールと、キンクスのレイ・デイヴィスくらいだな(と、当時レコードを購入したときに付属の小冊子に書いてあったことを受け売り)。

6. 「ビウェア・マイ・ラヴ」

スピード・オヴ・サウンド』再リリース時のボーナストラック。いわゆるリハーサルだけど正規ヴァージョンより数等おもしろい。理由は明白で、ドラムをジョン・ボーナムレッド・ツェッペリン)が叩いているから。ボンゾの爆走をポールが「オーライ、オーライ、ワン、ツー、スリー、フォー、イェー」と強引に遮るところなんか最高だ。

7. 「ドント・レット・イット・ブリング・ユー・ダウン」

ウイングスにおいて、デニー・レインの存在は重要だ。彼がリードヴォーカルの「アイ・ライ・アラウンド」や「君のいないノート」も良い曲だった。彼がいたからこそ、ポールは英トラッドを意識するようになったし、この曲も少し温めの『ロンドン・タウン』に、ピリッと辛い風味を添えているように思う。

8. 「アロウ・スルー・ミー」

ウイングスのラストアルバム『バック・トゥ・ジ・エッグ』は、とりとめのない印象だったから、この曲の存在も殆ど覚えていなかった(※ 冒頭を参照)。ひねった旋律、凝ったコード進行、時おり変拍子。ポールは誰を意識したのだろう。ドゥービー? ダン? いや、やっぱりスティーヴィー・ワンダーだろうな。

9. 「ブルー・スウェイ」

マッカートニーⅡ』。あの時期の録音で最大の成果といえば、あの有名な「ワンダフルクリスマスタイム」だろうが、ぼくのお気に入りは(たぶん)没曲にリチャード・ナイルズがオーケストレーションを施したコレだ。すこぶる視覚的な音像だと思う。

10. 「ボールルーム・ダンシング」

ジョージ・マーティンをプロデューサーに招いて入念に制作された『タッグ・オヴ・ウォー』は、前作と違ってさすがに隙がない。この曲も随所に細かい細工が見受けられる。けど、こんな賑やかしいニューオリンズ・スタイルのピアノを鳴らされると、そんな些事は気にならなくなってしまう。

11. 「ドレス・ミー・アップ・アス・ア・ラバー」

フュージョン風味はジョージ・マーティンの差し金かもしれない。英国一の名手デイヴ・マタックスのドラムや、ポールみずからが弾くガットギターの爪弾きもすばらしいが、ぼくはデニー・レインのギタープレイに敢闘賞をあげたい。彼のカッティングは絶妙だよ。

12. 「スウィート・リトル・ショー」

パイプス・オヴ・ピース』は全体的に落ち着いた印象があるけど、暗くはない。曲調の変化にしたがって、いろんなタイプのコーラスが楽しめる。↙︎

13. 「アヴェレージ・パーソン」

続くこの曲もアレンジとコーラスがすばらしい。これほど緻密に構成された曲はポールのキャリアでも滅多にないだろう。そして、彩り豊かなコーラスの決め手は、リンダ・マッカートニーの声質による。

14. 「アングリー」

プレス・トゥ・プレイ』にはがっかりした。資質の似たエリック・スチュワート(10cc)でケミストリーは得られまい。とはいえ、ポールはどんなアルバムでも聴きどころを作る。何に怒っているかは判りかねるが、とにかく疾走感がカッコいい。ちなみにギターはピート・タウンゼンド、ドラムスはフィル・コリンズ

15. 「ワンス・アポン・ア・ロング・アゴー」

当時でたベスト盤に収録された単発シングル。フィル・ラモーンのプロデュースは中途で頓挫したらしいが、このベタだけどシルキーな仕上がりを聴くとアルバム全編を任せたらどうなったろうと想像してしまう。

16. 「ディストラクションズ」

エルヴィス・コステロとのコラボレーションばかりが取りざたされるが、『フラワーズ・イン・ザ・ダート』はもう少し顧みられてもいい作品だ。とくにこの曲はラテン風味のメロディーもストリングスアレンジメントも最高ではないか。故ロバート・パーマーあたりがカヴァーしたら似合っただろうなぁ。

17. 「プット・イット・ゼア」

ポールお得意の、この種の素朴でフォーキーなナンバーには抗いがたい魅力がある。ジョージ・マーティンのストリングスもツボを心得たもので、余計なものは何もない。こちらから添える言葉もとくにない。

18. 「明日への誓い」

カリプソふうの明朗なナンバー。『オフ・ザ・グラウンド』は、やや厚化粧だった80年代を反省したのか、バンドアレンジを意識しているようだ。これはまさしくライブ向きというか、一緒に歌いたくなるような曲調だ。

19. 「バイカー・ライク・アン・アイコン」

こないだ出た『Ⅲ』を聴いていて、なぜだかこのカントリータッチの曲を連想した。最初は地味に感じていても、噛めばかむほど味がでる、スルメのような楽想だ。演奏している本人たちがいちばんおもしろがっているような感じというのかな。それは何回も聞いてから、ようやく同調できる種類のものじゃないかと思うんだ。

20.  「ピース・イン・ザ・ネイバーフッド」

ポールの作曲ってスタンダードなようでいて、意外と他の誰にも似ていないものだ。この曲も淡々と始まったかと思いきや、ラテン風味のピアノに乗せて景色が次々と移り変わる。聞き流していると気づかれないような転調を、さらりとやってのけている。

21. 「サムデイズ」

胸を締めつけられる、さびしく厳しい歌だ。『フレイミング・パイ』は全体に寂寥感が漂っている。

22. 「カリコ・スカイズ」

ハリケーンに遭遇し停電中に書かれた曲だという。ポールの非凡さは、こうした逆境にめげず、むしろ不慮不足の状況に活路を見出し、ひとつの仕事を成し遂げてしまうところである。そのポジティヴな姿勢を(コロナ禍にある現代人も)見習いたいものだ。

23. 「ヘブン・オン・ア・サンデイ」

最初このプレイリストを締めくくるのに、僚友リンゴとのリレーションシップが麗しい「ビューティフル・ナイト」を据えていた。が、見過ごされがちな傑作を発掘するという目的から、あえてこの切なくも悲しいナンバーを選んだ。

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今回とくに顧みた6枚のアルバム(鰯所有)

追記:ポールのアルバム、だいぶん少なくなったけど、B◯◯K◯F Fの CDコーナーなんかでは、まだ容易に中古を探しだすことができる。汚れ等を気にしなければ、20世紀にリリースされた何枚かは約500円以下で購入可能だから、これを機会に買い揃えてみてはどうだろう。ポールの駄作は凡百の傑作よりも聞き応えあるぞ。

 

さて、ニつめのプレイリストに移る前に、もう一つ別のプレイリストを掲げておきたい。

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24. 「ハニー・ハッシュ」

25. 「ラン・デヴィル・ラン」

ラン・デヴィル・ラン』は、リンダが生前に発案したカヴァーアルバムで、ギターにミック・グリーン(ジョニー・キッド&ザ・パイレーツ)と、デイヴ・ギルモア(ピンク・フロイド)、ドラムにイアン・ペイス(ディープ・パープル)といった凄腕を引き連れてポールは歌とベースに専念、激しくも艶やかなシャウトを聞かせる。プレイリストの冒頭と末尾に選んだ二つを、他の優れたロックンロールと比較してみてほしい。このバンドが、いかに突出したポテンシャルを持っているかが理解できよう。

 

◆プレイリスト⑵『前人未到の荒野 21世紀編』

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26. 「ヘザー」

何かと評判の悪い二番めの別れた妻の名前をタイトルにした曲を冒頭に持ってくるとは、我ながら人が悪いなあと思う。でも、ブルース・ホーンズビーを思わせる雄大な楽想は、他のポールのレパートリーにない魅力を放っているとも思う。

27. 「ドライヴィング・レイン」

同名のアルバムが発表された2001年は、個人的に音楽から離れつつある時期だった。だからか不明瞭なジャケット写真のように、ポールの音楽もくすんでいるように感じた。今回聞き直しても、当初の印象は覆らなかった。が、ポールには珍しくMajor7主体のコードをあしらったタイトル曲には、渋い味わいがある。

28. 「タイニー・バブル」

ドライヴィング・レイン』は、工夫するのを途中でやめたような演奏が多い中、粘りあるリズムを強調し、ちょっとU2のONEにも似たこのソウルフルなナンバーは、一聴の価値がある。このアルバムからポールの声質はあきらかに衰えはじめるが、その枯れた喉を無理なく活かしている。

29. 「ジェニー・レン」

今回の聞き直しで個人的にもっとも収穫があった盤は、『裏庭の混沌と創造』である。「ブラックバード」タイプの歌の中でも、これは最高の出来ではないか。サビで展開するアコギのコードの、歌うような低音の移り変わりはさすがだ。

30. 「アット・ザ・マーシー

ポールは内省的な傾向を上手くコントロールするスキルを身につけたようだ。レディオヘッドを手がけたナイジェル・ゴドリッチの起用により、作品に複雑な陰影が加わった。それは、

31. 「ライディング・トゥ・ヴァニティ・フェア

のような、辛辣で悔恨に満ちた内容の歌詞にふさわしい、妖しげでオブスキュアな音像を提供していることでも分かる。これはあきらかに新境地だったのだと、今になってようやく理解できる。

32. 「プロミス・トゥ・ユー・ガール」

ポールのマルチな才能が全開のナンバー。ひとりで全パートを演奏しているわけだが、こんなに巧いドラマーは滅多にいないぞ。コーラスワークも才気が迸っている。

33. 「エヴァー・プレゼント・パスト」

追憶の彼方に〜』の2曲め。これはYouTubeを観てもらったほうがいいだろう。

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ぼくの歌はこんなに単純な構造なんだよ、とインターネットの時代に対応したポールが教えてくれる。それにしても、こんなに愉快なメロディーを、よく思いつくなあ。

34. 「オンリー・ママ・ノウズ」

嗄れ声を上手にコントロールしている。バンド演奏の醍醐味みたいなものを見せつけてくれる。決めがライブ映えする、堂々としたロックナンバー。

35. 「ホワイ・ソー・ブルー」

とはいえ『追憶の彼方に〜』は全体に大味で、前作ほどの出来ではないように思う。これはデラックスエディションにのみ収められた曲。どうやらぼくは、やや沈みがちなポールの側面に惹かれているようだ。

 

36. 「マイ・ヴァレンタイン」

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ここでプレイリストから外した曲を一つ挿入する。2012年の『キス・オン・ザ・ボトム』に収録されたオリジナルナンバー。この盤はダイアナ・クラールをはじめとした面子による、極上の演奏が堪能できる、ニルソン『夜のシュミルソン』を思わせる、ジャズ・スタンダードのカヴァーアルバムだ。

 

37. 「アーリー・デイズ」

この『NEW』が発表されたころ、ポールを師と仰ぐプロのベーシストが、「聴いていてつらい。才能は枯渇するもんだね」とぼくに漏らしたことを覚えている。が、それは聴く側の受けとり方によるものかもしれない。ポール本人はいろいろと新しい試みに挑戦しているが、結句ぼく(ら)の心に残るのは、この曲のような「ふり返りもの」だったりする。

38. 「アイ・キャン・ベット」

だけどポールは、まだ賭けると自分に言い聞かせている。自分がこなせる範囲を限定しない彼だが、衰えを自覚もしている。この曲に表れた普段着の装いは、何回か聞いているうち、自然と身になじむ。

39. 「ロード」

ポールはアルバムの終盤に、やや長尺で展開の多い曲を置く。それは『レッド・ローズ・スピードウェイ』からの習慣だが、そこには必ず実験の要素が加味される。ここでは、今までに使わなかったコード進行やベースラインといった土台の部分を変えてみようと試みている。その飽くなき探究心が、次につながると確信して。

40. 「ホープ・フォー・ザ・フューチャー」

2014年、コンピューターゲーム「Destiny」のテーマソングとして書かれた。120名もの壮大なオーケストレーションには仰け反るが、曲の着想そのものは素朴なものだ。

(そして翌年、ポールにとって21世紀最大のヒットシングル、「フォー・ファイヴ・セカンズ」がリリースされる。もっともこの大ヒットは、カニエ・ウェストとリアーナの人気に依るところが大きい。)

41. 「アイ・ドント・ノウ」

エジプト・ステーション』の先行シングルで、ニール・イネスみたいな作風のこれを聞いたとき、ぼくは「枯淡の境地だ」と覚え書きした。嗄れた歌声もやや緩んだリズム感も、全てが良いふうに収まっていて、辛くならない。それにベースとドラムのコンビネーションなどに丁寧な仕事が施されており、ポールの復権を強く感じた。

42. 「ハンド・イン・ハンド」

アリスみたいな題名はともかく、美しいメロディーのバラード。だが勿体つけたところはなく、素直な表出だ。これはポールが、自らの老境と向きあった末に会得した、老人力だと思う。

43. 「ドミノズ」

エジプト・ステーション』は捨て曲なしの佳作。どの曲も好きだから選ぶのに苦心した。この地味なナンバーにも多くの人が注目してほしいと思う。ありきたりで標準的なロックの道筋をたどりながらも誰の真似にもならない、曲作りの極意がそこにある。

44. 「バック・イン・ブラジル」

ポールは世界中のさまざまなジャンルを横断して自らの音楽に取り入れているが、とくに中南米からの影響は大きい。あからさまなサンバやボサノヴァは作らないが、それらの本質をヒョイと掴みとる。結果、剽窃に陥らない(イチバンを連呼するあたりマルコス・ヴァーリの洒脱を連想するけど)。こういう明るい曲、やっぱりもっと聞きたいな。

45. 「ゲット・イナフ」

オートチューン(音程補正用ソフトウェア)を積極的に用いている。一ぺんは使ってみたかったのだろう。この年流行ったチャーリー・プースなんかにも通じる、フットワークの軽さもポールの身上だ。

追記:ポール・マッカートニーはサービス精神が旺盛で、人を楽しませ、喜ばすことが生き甲斐のように見える。けれども、この数年でリスナーへのもてなしを減らしはじめ、より自然な表現を心がけているように感じる。と同時に、自分の中にある疑問や諦念や後悔や憤怒を隠さなくなってきた。一般的には負の感情とみなされる、そうした心の働きを、オブラートに包まず、正直に打ち明けるような歌詞が増えてきているように思う。

46. 「ロング・テイルド・ウィンター・バード」

47. 「プリティ・ボーイズ」

48. 「ディープ・ディープ・フィーリング」

49. 「ザ・キス・オブ・ヴィーナス」

50. 「ウインター・バード/ホエン・ウィンター・カムズ」

さて、現時点(2021年1月)での最新作、『マッカートニーⅢ』に、あまり多くの説明は要らないだろう。31年ぶりに全英1位を獲得したこの完全ソロアルバムは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウンの最中に制作された。ひじょうに引き締まった、無駄な装飾を削ぎ落とした録音で、本質が剥きだしになったような音楽である。トラッドからDTMまで、音楽の歴史がポールの肉体を通して一つに統合されている。彼に先行するランナーはもはや居らず、彼の目前に広がるのは前人未到の荒野である。その光景そのままを映しだしたような「ウインターバード」の厳しい響きに、澱んだ空気が一掃される。さらに、「ディープ・ディープ・フィーリング」で、ポールはぼくたちに呼びかける。もっともっと深くまで到達するんだ、ぼくの深層に潜むフィーリングを、きみにも共有してほしいんだ。こっちに来いよ、一緒に行こう。果てしなく続く、音楽は旅だ、と。錯覚かも知れないが、ぼくにはそう聞こえる(きみはどうだい?)。そしてようやく理解する、ポール・マッカートニーの音楽は、受動的に聞いているだけではなく、リスナーみずからが参加することによって、完成する種類のものだということを。それはたぶん、ポールが全キャリアを通して常づね訴えてきたことだ。バンドは荒野を目指す。人類はこれから先どこまで行けるだろう。彼の前に道はなく、彼のたどった跡に道ができる。が、その気さえあれば、ぼくたちは歌を通じて、ポールが目にする原風景を見ることだってできるんだ。We can work it out. 

 

 

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