2月上旬、家族3人でイタリアへ旅行した。
The day before the flight
じつは旅客機を利用するのがあまり好きではない。
Actually I don't like to use airliners.
あんな重い金属の塊が空を飛べるわけがないじゃないか、と19世紀の人みたいなことを平気で口にする私。
Like a person of the 19th century, I brag that such a heavy metal mass can not fly through the sky.
なので、国内を移動する際はなるべく鉄道を利用している。
So, when traveling in the country, I use railways as much as possible.
ところが、海外に行くためには旅客機を利用しないわけにはいかない。いや、利用しなければならない。
However, it is impossible not to use passenger aircraft to go abroad. No, I have to use it.
あの狭い空間に、何時間も、窮屈な座席に座っていなければならないと想像してみたまえ。
Just imagine that you have to sit in a cramped seat for hours in that narrow space.
フライト前日から私はすでに憂うつだ。
From the day before the flight, I'm already depressed.
鰯(Sardine)2017/02/01
I just arrived at NRT.
Vado in Italia a partire da oggi.
では、また帰国後に。鰯 2017/02/02
註:なお、機内で観た映画については、翌月のMediumに書いている。
Live at Pompeii
(ポンペイの格好)
「お、色っぽい姐ちゃん発見。一枚押さえとくか」「こら天使、なに勝手にウチの娘を撮ってんのさ」「あ、スミマセンお母さん。お嬢さんがあまりにもステキだったもので、つい」
のっけからデタラメな解釈をゴメンなさい。だけど私には、どうしても上の壁画は(不躾な観光客よろしく)天使がスマフォをかざして写真を撮っているようにしか見えなかったのです。
写真は秘儀荘(Villa Del Misteri)と呼ばれる城外の邸宅の壁画である。ガイド氏の受け売りをそのまま書きおこしてみる。
ここは「食堂」と言われてますけれども壁画に描かれた物語は女性のいわゆる婚姻、よりあけすけに言いますと、当時は処女の時分に婚前交渉を済ませた後に嫁がせる風習がありました。酒を飲ませて正体不明にして。そういう儀式があったとされる部屋。左の壁面に描かれた幼気な少女が、儀式を経て右の成熟した女性になる過程を、ギリシア神話に登場するディオニュソスの秘儀に擬えた格好になります。有力な考古学者の解読なんですが、ま、諸説あるので帰国したら各自インターネットで調べてみてください。
天使が掲げているのはスマフォではなく手鏡であるらしい。また、娘の側にいる女性は母親ではなく侍女であるようだ。いずれにせよこの壁画は生々しい事情を背景に描かれたもので、そう考えると色鮮やかな赤(Pompeii Red)さえもが俄かに息苦しく感じられる。
其処彼処の柱に男根(ファッロス)が象どられ、細い路地を分け入ると娼館が待ちかまえている(教会が支配する前の古代ローマ時代は性的におおらかな社会であった)。公衆浴場、奴隷が粉を挽く石臼、パンを焼く石窯、縦横に張り巡らされた上下水道、馬車道の轍。当時の市民生活を真空パックしたような格好で、現在に甦った廃墟の街。それがポンペイである。
私の頭の中ではピンク・フロイドの「エコーズ」がずっと鳴り響いていた。映画の舞台となったコロッセオ(競技場)へは時間の都合でたどり着けなかったが、その代わりにギリシア様式の円形劇場で余韻に浸る格好となった。
Pink Floyd - Echoes [Live at Pompei (Directors Cut)] HD
さて、今回の記事では「格好」を3回も使ったが、これは遺跡を案内してくれた方の口ぐせである。
彼は終始「◯◯ということです」というところを「◯◯という格好です」と言っていた。その「格好」の使い方がすこぶる印象的だった。(2月10日)
註:このような旅行記を載せるのに、Mediumは格好のSNSだと思っていたが、上に貼った記事の冒頭でも書いたように、書こう書こうと思い煩っているうち、書く機会を逃してしまった。
庵点(Iori-Ten)
庵点(いおりてん)「〽」とは、日本語で、歌のはじめなどに置かれる約物のひとつ。歌記号ともいう。古来能の謡本や連歌などにおいて目印として使われていた。(Wikipediaより)
Iori-Ten: “〽︎” is one of the punctuation marks placed in Japanese, at the beginning of a song. It’s also called a song symbol. Japanese used it as a marker for the ancient Noh songbooks and Renga texts etc.
ある程度の年齢に達した日本人なら、民謡の小冊子や演歌のレコード等で見かけたことがあるかもしれない。
If you are a Japanese who has reached a certain age, you may have seen something in a lyrics collection of folk songs or a record of Enka.
私はかねがね歌詞を記す際、冒頭に「♪」でなく「〽︎」を使いたいと思っていたが、「〽︎」を何と呼ぶのか、どのように入力すれば良いかが、長らく分からなかった。
I wanted to use 〽︎ instead of ♪ at the beginning of the lyrics, but for a long time I could not figure out what to call 〽︎ and how to enter it.
しかし私は今日、二つのことを覚えた。
- 記号「〽︎」は「庵点」と呼ぶ。
- ひらがなで「いおりてん」と入力すればスマフォでも「〽︎」に変換される。
But, I learned two things today.
- The symbol “〽︎” is called “庵点(point of hermitage) ”.
- If you type “いおりてん” with hiragana, even smartphones will be converted to “〽︎”.
知ることができてとても嬉しい。では、さっそく「〽︎」を使ってみよう。
I am very happy to know it. Let’s try using “〽︎” at once.
〽︎あなたお願いよ 席を立たないで〜
著作権協会よ、どうかお見逃しの程を。
JA◯RAC, please miss it. (2017/02/14)
註:あまり注目されないけれど、私はこういう肩の凝らない記事をもっと書きたいのだ(ホントだよ)。
クライド・スタブルフィールドが亡くなった。享年73歳。
彼の叩く鋭角的なビートは他に類を見なかった。とりわけジェイムス・ブラウンの“Cold Sweat”における鮮烈なリズムパターンはファンクナンバーを叩く際の基準となった。ピンポイントでグルーヴの芯を貫く刻みは正しくファンキードラマーの称号に相応しかった。
論より証拠。聴いてみようか?
James Brown - Cold Sweat / Ride the Pony (medley)
私はアート・ブレイキーよりマックス・ローチを、スティーヴ・ガッドよりクリス(トファー)・パーカーを選ぶ派なので、クライドのソリッドなスティックさばきは好みにずっパマりなんだけど、鉈で切ったように大胆なジャボ(ジョン・スタークス)と錐で穿つようなクライドとの対照的なスタイルのドラマー2名を配置し楽曲に応じて使い分けたJ.Bは、おそるべきディレクターだったのだなあとあらためて感じいるのだ。
下の記事に詳細な解説が載っている。
あのボンゾ(ジョン・ボーナム)でさえもクライドからの影響は隠しようがなかった。彼程度に技術の達者なドラマーは世界中に五万といるだろうし、東京に限ってみても五百人は下るまい。しかし彼のように革新的なパルスを発明したプレイヤーは滅多にいない。パーカッションの歴史を見渡しても稀であろう。
クライド・スタブルフィールドはポピュラー音楽におけるリズムの構造を塗り替えたオリジネイターである。そのことをどうか心に刻んでほしい。(2017/02/20)
註:なんだかな……ひと月に一回は訃報記事を書いているな。
Medium Japanのこと(私にとっての)
昨年の2月だった、私がMediumに投稿し始めたのは。ちょうどTwitterが一万文字に対応することを検討している云々と報じられた頃に、Twitterには長すぎてブログに書くには短すぎる材料を収める場所として、Mediumを選んだのだった。
どうしてnoteではなかったのか。いや、noteも検討したんだけど、Mediumの方により惹かれたんだ、直感的に。誰に勧められたわけでもないし、相談したわけでもない。だけど使ってみて、書くに特化した仕様がずいぶん気に入った。あんまりすらすら書けるものだから、あべこべに文体を抑制する始末だった。
で、2週間後には早速「アウェイだ」とボヤきはじめる。
今ふり返れば手探り状態なのが正直おっかなかったんだよ。けど、そんな私の投稿をMedium Japanのキューレター諸氏は温かく見守っていた。海のものとも山のものとも分からない地方在住の中年男の書く変り種をたびたびチョイスしてくれ、Twitterのアカウントでも注目記事として知らせてくれた。
そして4月、私は災害に見舞われた。
私は震災直後からTwitterにたくさん投稿したけれど、まとまった記事としてはMediumに書いた二つがもっとも正直な心境を書き表していると感じる。余計な装飾がなく、かといって不足もない、あの混乱のさなかによくもまあ書けたものだ、と我ながら感心する。たぶんそれは、Mediumの書きやすさ、編集のしやすさが大きな要因ではないかと思うのだ。Twitterでは推敲が出来ないし、ブログではサクサクと切り貼りできない(実を言うと私はMediumの記事はぜんぶiPhoneで入力している)。要するに「Mediumによって書かされている」側面が大なのである。そのくらいライティングツールとしてのMediumは優れていると思う。
だが、その書きやすさをアピールしてもMediumユーザーの輪は一向に広がらない。私のTwitterフォロワーが私のMediumでの投稿を読んで、「おもしろそうだな、じゃあ私もやってみよう」という具合にはなかなかならない。いわゆる客層の違いかしらと訝しがったが、どうやらそうではなさそうだ。では、広まらないのは一体何が原因なんだろう。
気がつけばMediumに「Medium論」が多く投稿されるようになった。私はそんな状況を冷ややかにみていた。それは「そのうちユーザーが増えれば、この牧歌的な雰囲気も早晩なくなりますよ」という「希望的観測」によるものだった。
はっきり言って私は、この楽園を誰が維持し、管理しているかに全く思いが及んでいなかった。
どこかのお大尽が「よし、理想のSNSを思う存分展開してみたまえ」と言いながら潤沢な資金を注ぎこんでいるとでも想像したんだろうか。おそらくMedium Japanの中の人たちは、私たちの無責任な感想を読む度、事情も知らないで何を呑気なことを、と歯がゆい気持ちでいたに違いない。
秋になり、父が亡くなった。このときも正直な心境を素直に書き表せたのは、旧くから使っている「はてなブログ」ではなかった。私は遺品を整理するように、Mediumに文字を淡々と並べていった。
この頃から年末にかけてが、私が一番熱心にMediumに投稿していた時期だろう。「はてな」で書くようなシリアスな材料も、Mediumで試すようになった。私はMediumを自分の本拠地だとして、大事な文章を残す場所にしようと決心しかけていた、ところが。
12月に入ったころからか、Your personal listに並ぶ記事が、あきらかに変質し始めた。率直に言うと、下世話になった。成功する・儲かる・セミナーの・ご案内的な「物語」が、日を追うごとに増えているように感じた。
私はかねがねイノベーションにもスキルアップにも興味はないと唱えていたので、かかる状況の変化が愉快ではなかった。広告や宣伝のないMediumの長閑で上品な環境が損なわれた気がしたのである。
だから散々イヤミを言った。田舎者特有の僻みやコンプレックスも含んでいた。けれども私には、Mediumのおすすめする物語どもが、どうしても山手線の円内でしか通用しないように思えてならなかった。起業家と志望者、Establishmentおよびその候補生、“success”storyしか欲さない野心家のみに開かれた劇場のように見えた。Gated community、それがMediumの指向だと言うのなら私(ら)は用無しだな?そんな苦々しい思いが、先月の二つの記事を書かせたのだ。
私は「選ばれし者の言葉が正解とは限らない」と書いた。私には、Mediumが「選ばれし者の物語ばかりをかき集めている」ように映ったのだが、それはあながち間違ってはいなかったようだ。
創業者エヴァン・ウィリアムズは「書かれたものの価値」に重きを置き、Mediumを設計した。
Mediumをつくった男、エヴァン・ウィリアムズの7つの教訓|WIRED.jp
Mediumでは記事を“story”と称す。が、その「優れた物語」が生成される過程においてエディターのキューレーションは大きな要因となる。物語は、アルゴリズムによって示された「傾向」から原型が自然と浮かび上がってくるほど、おめでたいものではない。ある種の意図的な引っ張り上げ、クローズアップがなされなければ、価値は付加されないと考えられる。他ならぬMedium自体がEditer’s choiceを設けていることからも、それは明らかである。
Mediumは巨大な電子雑誌になりたがっているように私には思える。そう、先に掲げたWIREDのように、優れたライターがしのぎを削る。しかも建設的な、古代ギリシアのアゴラのごとく闊達な論議が交わされる、意見や感想が書き手とイーヴンの立場である場所を夢想しているように感じる。まるでお伽話みたいな理想の言論空間だけど、はたしてスポンサーのサポートなしでは成立し得ないものなのか。いずれユーザーへの課金が必要となるシステムなのか。私には分からない。分からないが今後も優れたテキストを読みたいし、できれば書き手として参加していたい。
Mediumに携わる人びと、私のように肩入れしたユーザーが、Mediumそのものを論じたくなる誘惑に抗えない理由は、エヴァン氏の夢想したビジョンがあまりにも眩しいからかもしれない。そしてその理想主義が、新参には入りにくい敷居の高さにもつながっているのかもしれない。
いずれにせよ、日本におけるMediumの第1章は今日をもって終わりを告げた。私はTwitterに以下の二つを投稿した。
要約<Mediumは本年よりすべてのオペレーションを本社サンフランシスコに集中させるため、これまで2年に渡って運営、キュレーションしてきた各公式パブリケーションやTwitter、Facebookを本日を持って止めることを決定した。>
ぼくは、@Medium に肩入れしていたから(あれこれ注文していたのも、もっと良くなってほしいという気持ちの表れだった)、この決定には残念だし不服だ。けれども今一番悲しくて悔しがっているのはMedium Japanのスタッフだろうな。ぼくは引き続き何かと活用しようと思っています。
しかしMedium本体は存続している。サービスが停止したわけではないし、この一年で結ばったフォロワー諸氏との間柄が切断されたわけでもない。関係は維持できる。ならば手放す謂れは何もない。
用心深い私は、Mediumに記した文章をダウンロードしたり、「はてな」に抜粋を移植したりすると思う。が、今後も思いついた軽い内容の事柄を書き留めたり、毒にも薬にもならない身辺雑記を綴ったりする場所として活用するつもりだ。
それともう一つ、私は「鰯の英文練習帖(Sardine’s English practice note)」を立ち上げたばかりなのである。私はエディターとして、このパブリケーションの維持に努めなければならない。
As an editor, I must strive to maintain this publication.
ここで私は、日本語のMediumでは封印してきた政治的な主張を明確にしている。ちょうどいい機会だから、今の日本がどうであるか、自分なりの視点で、良いも悪いも交えながら、海の外に向けて拙い英文で発信してみようと試みる。先ずはサンフランシスコのエディター諸氏の目にとまるまで。Is not it a bad target?
さあ、第2章の始まりだ!(2017/02/21)
註:この“story”につけ加える事柄はあまりない。しいて言えば、このような事態はどのインターネットサービスにも起こりうるということだ。Twitterでも、はてなでも。
Mediumが日本で今いち広まらない理由?
そりゃあ、政治色が希薄だから、です。
政治談義が交わされないから「居心地がいい、穏やかなコミュニティ」なんだ。
文体ではないと思うね。
私も、政治の話題に倦んだときのシェルターとして、Mediumを利用していたし。あまり強く批判はできないが。
最近ようやくマスメディアがしぶしぶ報じはじめた大阪・森友学園(いわゆる安倍晋三記念小学校への許認可を含む)への国有地格安価格払い下げ問題についての記事なんかも皆無じゃないですか。
つまり、浮世離れしているんですよ。いま一番ホットな話題が、何故だか取りざたされない不思議。
侃々諤々が発生しないように、ユーザー同士の暗黙の了解として、Mediumで政治話は注意深くオミットされているもん。
そこが日本でMediumの広まらない最大の理由ではないでしょうか。
Should we talk about the weather? Should we talk about the government?
R.E.M. “Pop Song 89"
まあ、私的には一つくらいそういうSNSがあってもいいとは思ってますが。
私はむしろ、「声高に政権批判をしない人びと」が、どのような意識で社会にコミットしているかを知るためにMediumは格好の場所である、と考えています。
私の見るかぎり、皆さんタフだよ。どこにも倚りかからず、だ。鰯(2017/02/24)
【追記】
語学に堪能で情報収集能力に長けた日本のMediumユーザー諸氏は否が応でも外電経由で本件を知ることになるでしょう。
Japanese Medium users who are familiar with languages and have excellent information gathering skills will recognize this problem in foreign newspaper articles.
Japan’s Shinzo Abe under fire over ultra-right school
Japan PM's wife cuts ties with school at centre of political scandal | Daily Mail Online
Bigotry and Fraud Scandal at Kindergarten Linked to Japan’s First Lady - NYTimes.com
Shinzo Abe and wife under pressure over ties to ultra-nationalist school | World news | The Guardian
Japon: Shinzo Abe mêlé à un scandale
私は、こういう腐った土壌の上にいくら立派な建物を建てようと、経済は発展しないし、文化は育たないと思いますね。
I think that no matter how good a building is built in such rotten soil, the economy will not develop and culture will not grow.
鰯(Sardine) 2017/02/24
註:ここに至って、私はMediumで政治的な傾向を隠さなくなった。
さて、2017年3月以降の記事は来年またアーカイヴしようと思う。数少ない「はてな」の読者が、これ以上減らないうちに。