鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

つぶやけなくて

 

①先日、「人生に、文学を。」という日本文学振興会の新聞広告が物議をかもした。「どうやって人生を想像するのだ(アニメか?)」なんて挑発的な()内の強調や、「男の落魄、女の嘘」といったクサい文句が槍玉にあがっていた。鼻持ちならないコピーはぼくも不快に感じたし、結局は二大文学賞の権威を強化したいだけとの意図が見え見えだったから、その広告を引っ込めざるを得なくなった事態に同情の余地はない。

②けれども逆張りのようだが、ぼくは文学に頑張ってほしい。文学にしかできない領域が絶対にあるはずだ。たとえば人の心理の掘り下げなどは、やはり他のジャンル、音楽や絵画や映画や詩歌やマンガよりも、文学に任せたほうが上手くゆく。その気になれば文学はどこまでも深いところまで到達する。文字のみですべてが表され、本という媒体で著者と読者が対峙するという閉じた関係性を持つ小説は、制約の多いがゆえに受け手(読者)が能動的にならざるを得ない構造を持つ。その閉じた環であればこそ自由な表現は担保されよう。その特性を利用し、人間の感情やら行動やらを余すところなく書き尽くしているかどうか?其処が単なる小説と文学とを隔つ分水嶺であらうと思ふ。

③これは前にも書いたが、ぼくはかつて文芸評論家の斎藤美奈子氏から「文学とお話は違うのだから」と講評された。その意味がここ何週間かでようやく分かってきた。前の記事を書いた際に「ぼくがやさしくない」理由の具体例を示そうかと考えたのだが、それをブログに記すのはためらわれた。書き手と読み手の協定が結ばれていないインターネットにおいて記録を残すのは危険でもあるし、赤裸々に表せば表すほど書くほうも読むほうもダメージをこうむる。私小説の体裁にするか寓話的にほのめかすかは題材の選択と著者の手腕によるが、いずれにせよブログで書くには限界があり、「それから先」は文学の領域である。

④が、それもこれも斎藤美奈子氏が最近二つのコラムで迷走したからこそ気がついたことだ。切り結ぶのに得意な批評家がああも現状を把握できていないとは意外だった。かの女が文学を衰退させた張本人との誹りには与しないけれども、野党共闘と全体主義とを混同した頓珍漢な解釈にはやはり落胆せざるを得ない。

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⑤こういうことは波風が立つのでツイッターでは黙っているが、個人的に宇都宮健児氏を支持したことは一度もない。前回、他に候補が見当たらないなら宇都宮さんでいいのでは?と消極的に推したことはある。消極的である理由は自分が小沢一郎の支持者であるからだ。小沢さんが世にいう「陸山会事件」において謂れのない嫌疑を受けているとき、当時の日弁連会長だった氏は、検察の強引な捜査手法にダンマリを決めこみ、一言の批判コメントもなかった。弁護士のモットーである「疑わしきは罰せず」の理念は何処へ?あのときの感情的なしこりは今だに払拭できない。だから今回の(鳥越氏陣営との)確執についても、さもありなんと思うばかりである。

⑥そして都知事選が終わった今でも、野党候補は誰なら勝てたか?などとの未練がましい意見があとをたたない。ふん、誰が起とうがコイケに勝てたもんか。あのマスメディア総動員による追い風ムードに対抗するなら、なまじっかな候補者を連れてきてもダメで、古舘伊知郎でも久米宏でも万全ではない。可能性があるとすれば、吉永小百合か。あのやんごとなき・マスコミも徒や疎かに扱えぬ・庶民の象徴であらせられる小百合さまでも担がないかぎり、今回みたいなポピュリズム選挙で、護憲派リベラル野党共闘サイドに勝ち目はなかっただろうねえ(誤解されちゃかなわんから断っておくと、ぼくが東京都民だったら迷わず鳥越氏に投票しただろうな)

⑦ぼくは昨夜、ジェニファー・ウォーンズ92年の傑作アルバム『ハンター』を聴いていた。なぜ思い出したかというと、レナード・コーエン師の記事をみて連想したからだが、それ以上にメガネをかけたジェニファーの容貌が、なんとなく今回の組閣で防衛大臣に就いたあの女史に似ていると思ったからさ。だけど、イナダはジェニファーのセン狙ってんじゃないか?なんて冗談でも書いたら、幻滅する方が現れるやもしれぬ。いろいろ下書きしてみたけど、ぼくも今回の人事には強い危惧を抱く一人であるため、結局ツイッターに放るのは止しにした(追記:結局ガマンできずにポストしちゃった)。

🔗 イワシ タケ イスケ on Twitter: "@midorinotom @feedback515 横入り失礼。イナダボーエーデージンは、ジェニファー・ウォーンズ(ジョー・コッカーと「愛と青春の旅立ち」をデュエットした女性歌手)をお手本にしていると思います。 https://t.co/MT8QC9o9v7"

『ハンター』は今聴いても楽曲も音質も演奏もすばらしい。CD見かけたら迷わず買うべし。

⑧あー、山下達郎が「サンデーソングブック」で発言した「候補者の偏りがある報道」についての批判だけど。あれを手放しに喜ぶのは如何なものか。だって「あの三人には死んでも入れません」なのでしょ?その他の入れたい候補者がかりに桜井某だったらどうすんのさ。ぼくは音楽家としての「達郎」を尊敬はするけど、氏の社会へのまなざしには懐疑的だな。かなりコンサバティブな人だと思うよ、「ヘイ、リポーター」の昔から。 

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……な、つぶやけないさンなこと。だって嫌われたくないもん。えゝ酔ってますよ、缶ビール一本で。酔わないとこんなことも書けないほどのチキン野郎だから。文学なんざ到底ムリ。書けねえよ。今回も我慢できなくて小出しにしちゃったぼくは、てんで堪え性がないんだよ。