鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

ゴーイング・トゥ・ランディ・カリフォルニア Kapt. Kopter and the (Fabulous) Twirly Birds

ヘイ、ランディ・カリフォルニアを知っているかい? 

f:id:kp4323w3255b5t267:20160414170103j:image

🔗 レッド・ツェッペリン、「天国への階段」盗作の疑いで訴えられる | Led Zeppelin | BARKS音楽ニュース

このニュースに、「ランディ・カリフォルニアって何者?」と反応した向きも多いと思うが、スピリットを率いたランディ・カリフォルニア、日本では知る人ぞ知るといったマイナーな存在だが、本国アメリカでは信奉者も多い、いわばカルトヒーローの一人に数えられるヴォーカリスト&ギタリストである。

おれが最初にその名前を意識したのは、V.D.G.G.のピーター・ハミルが「トッド・ラングレンと並んで一人多重録音の先駆者である」とインタビューで語っていたからだ。

問題の「タウラス」はファーストアルバムの4曲目に収められているが、ハッキリいって3曲目「メカニカル・ワールド」の後奏的ナンバーである。かれらの本領はこのインストではない。それは1曲目の「フレッシュ・ガービッジ」を聴いたら分かるだろう。

スピリットはアメリカ西海岸のサイケデリックムーヴメントから台頭したが、確かな腕前を持つ「ガチ」のロックバンドであった。とりわけランディ・カリフォルニアの変幻自在なギタープレイに、かのジミ・ヘンドリックスは惚れこみ、イギリスに同行させたがった逸話も残されている。ジミー・ペイジが「天国への階段」の元ネタにしたというだけで語られるには、あまりにも惜しい存在である。

おそらくロバート・プラントは、無名だったバンド・オヴ・ジョイの時代に、スピリットのアルバムをしこたま聴きこんだに違いない。「Ⅳ」にはその影響(エコー)が其処彼処に現れている。そこを押さえておかないと、森の木霊に笑われちまうぞ。

続くセカンドもポップだし、懐深い。なによりも当時の西海岸バンドにありがちなアンサンブルの脆弱さがない。タイトで引き締まっている。だから聴いていてダルくならない。サードのぬめぬめとした肌触りはドアーズとスティーリー・ダンを結びつけるミッシング・リンクだと位置づけてもいいだろう。スピリットの面白いところは、ポップさとアヴァンギャルト志向が無理なく同居しているところ。だから聴いていて飽きない。

4作目はスピリットの最高傑作ではないだろうか。ニール・ヤングのプロデューサーであるデヴィッド・ブリッグスを迎えて作ったこのアルバム、あーフォーキーなのねと油断してたら、エコーかかりまくりのぶっ飛んだスライドソロに一発で持っていかれる。心してかかれ。

1972年の『フィードバック』は未聴なので事情は察せぬが、バンド内でポップなセンスを担っていたジェイ・ファーガソン以下がジョ・ジョ・ガンを結成、それとほぼ同時にランディ・カリフォルニアはソロ・アルバム“Kapt. Kopter and the (Fabulous) Twirly Birds”を制作する。これがもう、スピリットの抑制から解き放たれたような奔放なサウンドで、そのエネルギーの膨大さに圧倒される。

オープニングナンバーを聴いたら分かるが、まあ、ぶっちゃけジミ・ヘンである(ノエル・レディングもベースで3曲に参加している)。しかし、これほど肉体と演奏が無理なく一体化したプレイヤーも珍しい。


Randy California - Day tripper

ビートルズのカヴァーがふたつ収録されている。「レイン」と「デイ・トリッパ―」。どう、至ってナチュラルに演奏しているだけなのに、じわじわ沁みてこないかい?

ポール・サイモンの「母と子の絆」をもへヴィーに聞かせるセンスは他に例を見ない。

それにしてもこのデッドなミキシングにはヤられる。ドラムが、ベースが、ギターがよく録れている。近い近い、耳のすぐ傍で鳴っている感じがする。1972年の録音とは思えないほどリアルな音像。これがロックだ。

今回、おれがこの記事を書いた理由は、このアルバムを紹介したかったからかもしれない。“Kapt. Kopter and the (Fabulous) Twirly Birds”はとにかく必聴である。ランディを「天国への階段」の元ネタ曲を書いたヒトで済ましてはならない。

できれば、全編通しで聴いていただきたい。


バルトークの「アレグロ・バルバロ」をめぐって、EL&Pバルトークの遺族と揉めたこともあったが、楽曲の権利を主張するのは決まって遺族であり、その代理人である。 

これはあくまでも想像だけども、ランディ・カリフォルニア本人は至って淡白だったのではあるまいか。「え、ジミーの野郎がおれのフレーズをパクってるって? かまわねえよ、好きに使いな」って調子だったのではないか。サウンドからうかがえるカラッとしたキャラクターから推し量るに、そう思えてならない。

 

では最後に、おれがジミ・ヘンドリックスのヴァージョンよりもしっくりくる、ビリー・ロバーツがオリジナルの「ヘイ・ジョー」を聴いてくれ!


RANDY CALIFORNIA - Hey Joe

ランディ・カリフォルニア。1997年ハワイにて亡くなる。溺れた息子を助けようとして太平洋の波に飲みこまれてしまった。享年45歳。