鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

Anymore For Anymore ロニー・レーン 漂泊する魂

今日もペタペタ貼っつける、つもりなんだけど…… 

Youtubeが有料化されるかもしれない、のだそうだ。 「YouTube有料化」説が広がる 実際は「YouTubeが有料会員サービスの導入を検討」報道なので注意 - ITmedia ニュース

となると、今みたく気軽に貼りつけられなくなるのかな?定額サービスを払ってもいいが、カード決済だと困るなあ。

ホントは辛いんだけど、フルアルバムとか長時間のライブ映像とかは有料であっても仕方ないかなと思う。それらに払うのは、やぶさかではない。が、個別のコンテンツに課金すればいいのではないかしら。今だって映画とか300円取っているでしょ、あんなふうに。その代わり、今後は邦人アーチストも積極的にアップすればいい。30秒スポットばっかりじゃ、あまり効果的なプロモーションではないよ。

だってさ、昔はFM放送でアルバム丸ごとかかってたのをカセットテープに録音してさ(エアチェックと称していた)、それでも満足できなくって結局レコード買ってたよ。ああいった流通はもはや望めないにしても、無料で音楽ソースが楽しめる経路を繋いでおかないと、認知が広がらずに、市場の幅がますます狭まっていくと思うんだけど。

そんなつぶやきを先日こぼしたばっかりなのだが、Youtubeから授かった恩恵はあまりにも大きい。ぼくなんか、Youtubeで知ったさまざまなジャンルの音楽を購入したし、認識をあらたにしたアーティストもたくさんあった。たとえば、大嫌いだったジノ・ヴァネリを好きになったり、カルロス・クライバーの華麗な指揮にあらためてため息をついたり。映像で観ると、音だけとはまた違った魅力を発見できるものね。

 

その「認識をあらたにした」の代表格が、スティーヴ・マリオット。

まあ、これを観てくださいよ。ぼくはノックアウトされちまったぜ。 

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なぜイギリス本国で、スティーヴ・マリオットの評価が高いのか、ハンブル・パイのレコードを聴いただけでは分からなかったが、この映像を観た刹那、疑問が一挙に氷解した。これほどエネルギッシュなパフォーマーはそうそう見あたらない。この溌剌とした身のこなし。全身リズムとソウルの塊のような男じゃないか。

 

もちろんスモール・フェイセズは昔から好きだった。しかしハンブル・パイから遡って若いころのスティーヴを観てみると、また違った魅力を発見するのだった。

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率直に言って「かわいい」。そう、スモール・フェイセズは、本格的なR&Bスタイルのモッズバンドであるのと同時に、全英のティーンエイジャーを夢中にさせた、小柄でキュートな4人組の、アイドルグループだったのである。 

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P.P.アーノルドVoとしのぎを削るスティーヴ。マイム(あて振り)だけど、マイクに齧りつくようなアクションが痛快だ。けれどもぼくは、二人の後ろに控えるベーシストの、ひょうひょうとしたたたずまいが気になりだした。

ロニー・レーンが。

f:id:kp4323w3255b5t267:20150910180451j:plain バンジョーを抱えているのがロニー・レーン。

ちなみにいちばん前で猫と一緒のベビーフェイスは、kbのイアン・マクレガン。

 ロニーがリード・ヴォーカルを取った歌は、スモール・フェイセズにも何曲かある。代表的なのが、コレ。

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火の玉みたいなスティーヴのシャウトに比べたら少し線が細いけれども、声質になんとも言えない風情があって、No.2のポジションにしとくのが、もったいない気がする。 

 

さて、スティーヴ・マリオットは、ピーター・フランプトンらが結成したハンブル・パイに加入するために、スモール・フェイセズを脱退してしまう。しかし、ロニー、イアン、ケニー(・ジョーンズDr)の残された三人は、ロッド・スチュワートをヴォーカルに、ロン・ウッドをギタリストに迎えいれ、バンド活動を継続する。

小柄じゃなくなって)スモールのとれた、フェイセズの誕生だ。

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フェイセズは、のちにソロ歌手として成功したロッドと、ローリング・ストーンズに加入したロンの在籍したバンドとして、日本のロックファンにも馴染み深いので、多くを語る必要はないだろう。

イワシ タケ イスケ@cohen_kanrinin 9月8日

The Faces - Maybe I'm Amazed ポール・マッカートニーの原曲をよりラフにアレンジ。このころのフェイセズには全員文句ナシだけど、とくにロニー・レーン!切々たる歌声とブンブン唸るベースライン。あーなんも言えねえ。

先日こういうツイートを投稿したことだけお伝えしておく。たとえば上に示した映像の完全版も、Youtubeにアップされているので、興味ある方はご覧ください。もう、サイコーだから(スクィーズのグレン・ティルブリックが前説をしている)。

The Faces - BBC Crown Jewels 10-26-1971 (Full Show) - YouTube 

しかし、ロニーは73年にフェイセズを脱退する(後任ベーシストは山内テツだった)。そしてNo.2の立場から一転、フロントに立つことを決意、スリム・チャンスを結成する。

シングル「ハウ・カム」のスマッシュヒットもあって、幸先のいいスタートを切った。

スリム・チャンスのテレビ出演時の映像は、Youtubeにたくさん掲げられている。

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ここにいたって、ぼくはようやく気づく。スモール・フェイセズが『オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク』で披露した、ユーモアと諧謔と皮肉の利いた寓話的世界観も、フェイセズの音楽に顕著な「計画的なだらしなさ」も、ロニーの思惑がからんでいたのだ、と。

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スリム・チャンス時のロニーは、気負いなく、楽しそうに演奏している。構えが自然で作為的なところが一つもない。それって見過ごされがちだけど、稀なことなのだ。 

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スリム・チャンスのファーストアルバム、『エニモア・フォー・エニモア』のビニール盤がYoutubeにアップされている。聴いてみてごらん。木綿のシャツのような風合いと洗いざらしの肌触りが楽しめるから。

イワシ タケ イスケ@cohen_kanrinin 5月12日

さっき近くのスーパーまで買い物に出かけたとき、ロニー・レーンの『エニモア・フォー・エニモア』がカーラジオから流れてきた。ジョージ・ハリスンロッド・スチュワートを足して二で割ったようなロニーの声には抗いがたい魅力がある。紹介していたのが奈良美智さんだと知ってなおさら嬉しくなった。

このアルバムを聴くたびに、ぼくはアナリーゼする悪癖を、すっかり忘れてしまう。楽曲の出来不出来とか、アレンジがどうだとか、演奏技術がどうだとかが、いっさい気にならない。ロニーと仲間たちが作った音楽の鳴っている状態に、ただ浸っているだけで心地よくなるんだ。

それは、じつは理屈先行型のピート・タウンゼンドにも良い影響を与えている。この競演(共演とは言い難い)アルバムは、二人ともメハー・ババという宗教家を信奉していた繋がりから作られたが、どちらもリラックスしたなかにも適度なテンションを保った楽曲を提供している、佳作だといえよう。

 

だけど、幸福な時間は長くは続かない。

ご存知の方も多いだろうが、ロニー・レーンはこのアルバムを発表した直後に、多発性硬化症multiple sclerosis; MS)と診断された。その病は終生かれを苦しめ、80年代になると、音楽活動は沈静化せざるを得なくなる。多発性硬化症の研究機関を支援するためのチャリティー「ARMSコンサート」も開催されるが、1997年、その短い生涯を終える(註:スティーヴ・マリオットも1991年に自宅の火災で焼死している)。

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これは、BBCが制作したロニー・レーンの生涯を追ったドキュメンタリー番組である。冒頭の「エイプリル・フール」(『ラフ・ミックス』に収録)から、もうジーンときてしまう。

ぼくは何度か、考えごとの進まないとき、気分の塞ぎがちなとき、この映像をボーっと眺める。英語は半分しか理解できないけれども、かれが本当に英国人から愛される存在だったということが、これを観るとよく理解できる。そしてちょっとだけ寂しくなるけれども、ロニーのひょうひょうとした歌声が、丘陵地帯を駆けぬける風のように耳を掠めると、それはやっぱり、幸せな気持ちになる。

ロニー、きみの魂は、いろんなところを漂泊している。 

信じられるかい? この東洋の島国にも、きみの歌は届いているんだぜ。

身体が動かなくなっても、肉体が滅びてしまっても、その精神は、永遠に残るのだ。

f:id:kp4323w3255b5t267:20150910174939j:plain Anymore For Anymore

※ ロニー・レーンについて詳しく知りたいかたは、コチラ< RONNIE LANE(ロニー・レイン)について  >をぜひご覧ください。

『RONNIE LANE  ~ 牧歌と酒と郷愁の泣き笑い音楽へ』というタイトルの、愛情あふれたロニーの紹介が素晴らしいブログ。データもバッチリの、これぞファンのお手本です。

 

ぼくはYoutubeから、たくさんの音楽を授かった。

ロニー・レーンがこんなにイカしたやつだったなんて、動画を観もしなければ、やはり分からなかっただろう。

有料化の流れを遮ることはできないかもしれないが、ぜんぶを持っていかずに、せめて少しだけは残していってくれないか?

たまにともだちに会いに行くための道を――