鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

『フランクのヴァイオリンソナタ』について私が知っている二、三の事柄

 

f:id:kp4323w3255b5t267:20150518172603j:plain Kozolupova, Tamarkina

やあ鰯です。さきほど自分の処女作を書き写し終えたばかり。細かいところを何箇所か修正したけれど、基本的には初稿のまんま。悶絶しながらキーボードを叩きましたよ。なんとまあ説明的な文章だとか、これほどクサくて典型的なシチュエーションを描いてしまって恥ずかしかねえのか?とか、ぶつくさいいながら、12年前に書いた文章に向きあっておりました。

言い訳はしたくないけど。ひとつだけいっておこうかな。ぼくは『二重奏』を書く際に、ある種の制約を課しました。それは鋳型に流しこむこと。形式を逸脱しないこと。「フランクのヴァイオリンソナタ」の堅牢な構造は、作品の骨格を形成するのにとても都合がよかったのです。だからあまり悩まずに書き果せた。全体に懐古趣味が横溢しているのは、調和をなによりも重視したから。だからお行儀のよい、諧調になったんですね。

そのころ好きだった山本周五郎の小説だとか、小津安二郎の映画だとか、そういったものに影響されたのだと、振り返ってみれば思うのです。審査委員の高橋源一郎さんが、「手練のジジイが書いたのだと思ったよ」とおっしゃってましたが、そういう老成した雰囲気があったんでしょうな、たぶん。

や、言い訳し始めたらきりがないや。このへんでやめとくか。

なお、『二重奏』には続編があります。第二作は『わたしのお気に入り』という500枚の長編で、これは陽子の親友・浅川朱美が主人公。柏木先生と祐二の兄貴が登場します。そして第三作が『コンセール』。大人になった陽子が少女を感情教育するお話。これは200枚くらいだったかな。一部をこのブログにも載せています。

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

他にも、スピンオフとして『パストラル』(400枚)とか、ミュージカル仕立ての未完の小説とか、いくつかあるけど、いずれも公開するつもりはありません(スマぬ)。

 

さて、ぼくは『二重奏』を書き写しているあいだ「フランクのヴァイオリンソナタ」をひっきりなしに聴いておりました。もちろん何枚もCDやレコードを持っているわけではなく、ユーチューブをはしごしたのですがね。いろんなヴァージョンがあって、どれも楽しめたんで、いくつか紹介します。あ、そうそう、この「ソナタ」はヴァイオリン以外にも、チェロやヴィオラやフルートでも演奏されています。至高のチェリスト、ピエール・フルニエのやつ〈 Pierre Fournier plays Franck - LIVE! - YouTube 〉なんか、もうホントにサイコーです。が、ここはヴァイオリンに絞りましょうか。

 

クリスティアン・ツィマーマンpf とカヤ・ダンチョフスカvn。けれんみのない演奏で飽きません。いつ聴いてもこころ安らぎます。


②ジャック・ティボーvnとアルフレッド・コルトーpf。パブロ・カザルスvcと音楽史上に燦然と輝く三重奏団を組んでいたおふたりです。パリのエスプリといいますか、優雅な響きですね。フランスの事情には私とんと無知ですが。

 

イヴリー・ギトリスvnとマルタ・アルゲリッチpf。ギトリスの独特のハスキーな音色とアルゲリッチの大胆な抑揚のコントラストがおもしろい。けれども全体の印象は端正。

(残念なことに音源は削除されてますね。)

追記:もっと凄まじいレコードを教わりました。アルゲリッチがリッチvnと組んだ、1979年カーネギーホールでのライブ録音。あまりの激しさに(第四楽章を待たず曲の途中て)拍手がわき起こるという。私はもっと落ち着いた演奏が好きだけど、この技の応酬は確かにスリリング。

 

ルノー・カピュソンvnとカティア・ブニアティシヴィリpf。むかしの名匠ばかりではナンですので、いまどきの人気演奏家を。画質も音質もキレイだし、はじめての方にはコレをお勧めしておきます。いやあ巧いね、それに色っぽいね彼女。

 

⑤若かりしころのチョン・キョンファvn。pfはアンソニー・ゴールドストーンという人。まさに「針の穴に糸を通す」という形容が相応しい、カミソリみたいに鋭利な演奏ですね。

 

⑥ユーディー・メニューインの優雅な音色。穏やかで落ち着いた演奏は聴いていてまったく疲れない。リラックスできます。pfの女史はどなたか不明。

ちなみに私は晩年になってラヴィ・シャンカールステファン・グラッペリと共演した彼の柔軟な姿勢が大好きです。

(残念ながらブロックされておりますね。) 

 

ダヴィッド・オイストラフvnとスビャトスラフ・リヒテルpf。言わずもがなの巨匠ふたりですが、これも奇をてらったところがまるでなく、誠に実直な演奏です。


⑧イツァーク・パールマンvnとヴラディーミル・アシュケナージpf。このTVドキュメンタリーには、世界を掌中に収めつつある二人が克明に記録されています。この人たちがプレイバックを聴いて「ビューティフル♪」だと自画自賛するのはしゃあないよな。

 

⑨さて、最後にご紹介するのは、伝説のpfローザ・タマルキナとマリーナ・コソルポワvn。

これにはちょっとびっくりしました。いままでに聴いた「フランクのソナタ」の概念がふっ飛びそうな、粗削りだけどスリリングな演奏です。これを聴いてもらいたいがために、今回のエントリーを投稿したくらいです。なんだろう、この生々しさは。第二楽章の激しさは他に類を見ません。

 

 

【追加】

⑩さっきNHK・FMを聴いてたら、オーギュスタン・デュメイvnとジャン・フィリップ・コラールpfによる演奏がかかった。んー、やっぱええわ。

Amazon.co.jp: デュメイ(オーギュスタン), フランク, マニャール, コラール(ジャン=フィリップ) : マニャール&フランク:ヴァイオリン・ソナタ集 - 音楽

下に貼ったYoutube、ピアニストはマリア・ジョアン・ピレシュと違うけど、ぜひ聴いてみてください。

 

 ⑪で、最後にやっぱり着想の源となった愛聴盤を再掲しておきます。

(が、これも残念ながらyoutubeは削除されておりました。)

たぶんぼくが『二重奏』という小説を書いたほんとうの理由は、この「フランクのヴァイオリンソナタ」という珠玉の作品を、より多くの人たちに知ってもらいたかったからだと思います。そして、その目的がかないさえすれば、それだけでぼくは満足なんだよ。

ダーリン、わかってくれるかい?

 

【言い訳はほどほどに】

したいところなんだけど、二つ三つ、つけたしておこう。往生際の悪いやつだと呆れていただきたい。

①『二重奏』を読んでいただいた後にいちばん多かった感想は、『のだめ』みたい、だった。いちおう断っておくと、ぼくが『のだめカンタービレ』を読んだのは、『二重奏』を書いてしばらく後のことである(すでに連載中で評判を呼んでいたが)。したがって影響を受けるわけがない。が、クラシックをカジュアルに取りあげるという一点において、共通する要素があるのは否めない。その後ぼくは、子どもが夢中になって読んでいたのを横から取りあげて、全巻読んだ。書く前に読んでいたら、こういう題材を選ばなかったかもしれない。

②感想は人それぞれだし、意見も人によりけりだ。たとえば、「輸入楽譜を販売している楽器店が存在するとなると、地方都市だと少なくとも県庁所在地、しかも人口百万程度の規模の街ではないか。しかし第三章で父と娘がばったり出くわすのは偶然が過ぎるように感じる。人口2,3万人程度の小都市ならいざ知らず」といった鋭い指摘もあった。つまり設定が杜撰で行き当たりばったりに書いているのが丸見えなのだった。

③だが、なによりも堪えた批評は、松山市で行われた「坊っちゃん文学賞」授賞式の席上で、審査委員の早坂暁(2017年12月16日、88歳で死去)さんが、「今回エントリーされた作品のいずれもが、青春小説という条件にもかかわらず、青春の真っただ中を描かずに、門の前でさ迷っているだけである印象を受けました。要するに、たたかっていないのですね。たたかう手前で立ちどまっているのですよ」と、指摘されたことだった。

 

――え、上の映像リストにハイフェッツVnが入ってないのはおかしいって?そんなこと言いだしたらきりがないぞホントに!

 

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