ピンク・フロイドといえば、押しも押されもせぬビックネームであり、ぼくも御多分に洩れず、中二のころ『狂気』に出会い、いまなお大好きなプログレッシヴ・ロックバンドの筆頭に位置するが、たまに、この1967年に発表されたファーストアルバム『夜明けの口笛吹き』を聴きたくなる。そして、こんなことを考えてしまう。
《これがもし、「ピンク・フロイド」でなかったら、どう評価されていただろう?》
さらに踏みこんでいうなら、「あの伝説のシド・バレットの……」という冠を外して聴いたら、どうだろうと。
先入観をとり払って、まったく(当時の)新人のバンドとして、接してみてはいかがだろうか。
1967年のスウィンギン・ロンドンに登場した、サイケデリックロックのニューカマーとして聞いてみたら、印象はガラッと変わるんじゃないかな?
全体の印象としては、フーやキンクスの同時期の作品に近いと思うし、もっというなら、スモール・フェイセスの傑作『Ogden's nut gone flake』に、すごく肌ざわりが似ているじゃないか。
(フロイドの連中は、スティーヴ・マリオットと交流があった)
つっ走るビート、エッジの効いたカッティング、寓話性の高い歌詞、アトモスフィアなサウンドメイク、それでいて人懐っこいメロディー。
宝石箱をひっくり返したようなカラフルな3分間ポップス。万華鏡をのぞいたときの眉間がむず痒くなる感じ。
それはTレックスになる前の、ティラノザウルス・レックスにも似た、摩訶不思議なお伽話の世界だ。
(フロイドとマーク・ボランは、UFOクラブでしのぎを削っていた、いわば盟友だ)
アビーロード・スタジオの、ノーマン・(ハリケーン)スミスが、どこまで音響効果に寄与したのかはわからないけれど、「星空のドライブ」におけるパンニングなんて、完全にイッちゃってる。その振り切れ具合が、後年の構築的なサウンドと比較したら、荒削りに聴こえてしまうのかもしれないけれども。
(フロイドは、このアルバムを制作中に、隣のスタジオで『サージェント・ペパーズ』を録音中の、ビートルズを訪問している)
つまり、なにが言いたいのかっていうと、
《『夜明けの口笛吹き』は、サイケデリック・ロックの傑作であり、たとえそれが「ピンク・フロイド」の作品でなかったとしても、ロック史に燦然と輝いていただろう》
ってこと。
まわりくどい説明はこれくらいにして、シド・バレット率いる「サイケデリックの新鋭」のサウンドに、さあ身を浸してくれ!
ヒットシングル「See Emily Play」 。アルバム未収録。
Pink Floyd See Emily Play 1967 HD 0815007
【蛇足】
シド・バレット脱退後のピンク・フロイドは、しばらく模索し続ける。
ぼくがとりわけ興味深く思えるのが、1969年に構想されたという『The Man & The Journey』と一般に呼ばれている「幻のコンセプトアルバム」だ。
YouTubeで当時のライブの模様を聴くことができるが、これがもう、ゆるゆるへろへろのアシッドフォークとフロイド式(現代音楽風)ミュージックコンクレートのオンパレードであり、そのまま進めばピンク・フロイドはカルト的なアンダーグラウンドバンドになっていたかもしれない。
The Man & The Journey - YouTube
その後ピンク・フロイドは『原子心母』で巻きかえしをはかり、素人にも理解し易いコンセプトを提示しつつ、ヒットチャートの最前線へと踊りでるのだが、あのまま「オーグジマインズの迷宮(The Labyrinths Of Auximenes)」を彷徨っていたとしても、それはそれで、おもしろかっただろうなと思う。