ぼくが青年期に聴いた80年代の音楽の中から、いまだに好きでたまらない曲をいくつかあげてみよう。
①Durutti Column “Sketch for Summer” 1980
ヴィニ・ライリーのワンマンユニット、ドゥルッティ・コラム。ファーストアルバムの1曲め。イントロの鳥の囀りとリヴァーブが聞こえてきたら、いつでもぼくはあの永遠に続くような夏の午後に回帰(Return of)する。
②The Sound “I Can't Escape Myself” 1980
典型的な英国産ポストパンクだが、いま聴いてもソリッドでクールだ。ワイヤー、スウェル・マップス等々こういうタイプのバンドは星の数ほどあったけど、その中でもひと際カッコよかった。
③U2 “October” 1981
大御所U2にもルーキーの時代があったのだ。大物の片鱗はうかがえるが、まだ未完成のセカンドアルバムよりタイトル曲を。後のベスト盤には隠しトラックでラストに収録されていた。
④The Gist “Love At First Sight” 1982
ヤング・マーブル・ジャイアンツ関係だったかな。自主制作の7インチシングルはこういうヘタウマな(?)絵が多かった。内容も手作りの粗い感じ。でもシロウトくささが、切実さにつながっていた。
⑤Scritti Politti “Faithless” 1982
85年のデジタル仕様になる前のスクリティ・ポリティ。グリーンの書く変化にとんだメロディーと哲学的な歌詞は一筋縄ではいかないが、この3連のソウルバラードは比較的わかりやすい。後の「ウッドビーズ」につながる路線。
⑥Ben Watt “You're Gonna Make Me Lonesome When You Go” 1983
のちにトレイシー・ソーンとエヴリシング・バット・ザ・ガールのコンビを組むベン・ワットの、駄作が皆無の傑作『ノース・マリン・ドライヴ』より最終曲の、ボブ・ディランをボサノヴァ仕立てにした秀逸なカヴァーを。
⑦Tears for Fears “Pale Shelter” 1983
これも後にビッグネームに成長するローランド・オーザバルとカート・スミスのコンビだが、出たての頃は繊細さを売りにした素朴なエレポップだった。青空に吸いこまれるようなサビの処理が既に巧い。
⑧Thomas Dolby “Screen Kiss” 1984
シンセポップの雄として一般に認識されているが、実際は過去の音楽に詳しいS.S.W.的な側面もあった。視覚に訴える映画のような音作りを認められ、翌年トーマスは(彼の尊敬する)ジョニ・ミッチェルをプロデュースする。
⑨The Blue Nile “Heatwave” 1984
スクポリ⑤、プリファブ・スプラウトと並んで、私的に80年代を代表する三大グループの一つ、ブルー・ナイルのデビューアルバム。ポール・ブキャナンの渋い喉は(先日ようやく苦手意識を克服した)トム・ウェイツをほうふつとさせる。夜の街の灯を描写する手腕が、とくに。
⑩Julian Cope “Me Singing” 1984
近年はしたたかな親父ライダーと化したジュリアン・コープも若い頃はポキンと折れてしまいそうなか細い青年だった。大亀の甲羅に身を隠すの図はシド・バレットを連想させる。転調をくり返すとりとめもない曲展開も、また。
はて、ぼくは1985年に何を聴いていただろう。ZTT?
⑪David sylvian “Silver moon” 1986
言わずと知れた元ジャパンのリーダー、デヴィッド・シルヴィアンの二枚組『ゴーン・トゥ・アース』から、とりわけカラフルな楽想の「シルヴァー・ムーン」を。R.フリップ、H.シューカイなど大勢の大御所らが彼との共演を望んだ。
⑫It's Immaterial “Driving Away From Home” 1986
リバプール産のしぶとい(昨年も新譜をリリースしている現役)ユニット、イッツ・イマテリアル。彼らの描くシュールな世界はシャガール的だと評されるが、ぼくはむしろケルアック的なビートニク志向ではないかと思っている。
⑬The Lilac Time “Trumpets From Montparnasse” 1987
スティーブン・ダフィ率いるライラック・タイムはオーガニックなアンサンブルが魅力。ぼくはこのインスト「モンパルナスのトランペット」が好きで。Twitterに投稿したら、弟のニック・ダフィが「いいね」をくれた。
⑭The Style Council “Changing Of The Guard” 1988
ポール・ウェラー、じつは好みではない。聴いていて面白く思えないのだ。が、この『コンフェッション・オヴ・ア・ポップ・グループ』は別。世評はどうだか知らないが、青春期に惜別を告げる、大人のための音楽である。
⑮The Christians “Words” 1989
クリスチャンズはR&Bマナーを備えた英国のコーラスグループ。マヌ・カッシェとピノ・パラディーノのリズム隊が、トラディショナルな楽曲に複雑な印影を与えている。80年代を締めくくるにふさわしい曲だった。
お気づきだろうか? 今回ぼくは英国勢に絞った。米国産を加えたら、トーキング・ヘッズからR.E.M.まで、この倍の数を紹介しなければならない。XTCやエルヴィス・コステロみたいな大物も割愛した。また、最近デュラン・デュランやカルチャー・クラブやワム!などは、やはり凄かったのだなぁと再認識したこともお伝えしておきたい。
なお、「マッドチェスター・ムーヴメント」も視野に入っていたが、ザ・ストーン・ローゼズ等をぼくが聴いたのは、ずいぶん遅れて90年代に入ってからだった(当時はロックに飽いていた)。
最後に。4月27日に日本公開された映画『Call Me by Your Name(邦題:君の名前で僕を呼んで)』の音楽は、80年代の時代設定を強く意識させるものだ。あの頃に特有の空気や色彩が真空パックされているようで、観ていて眩しく、やたらと息苦しくなるのだ。
Call Me By Your Name | Official Trailer HD (2017)
蛇足。ピーター・キャメロン 著『ウイークエンド』(訳:山際淳司、装画:山本容子、筑摩書房1996年)に描かれた、清潔で空虚な週末の終末と静謐を思い起こさざるをえない。
【追記】この映画もそうだな。
summerfeeling.net-broadway.com
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