鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

Back to 90'sの趣き/トッド・ラングレン『ホワイト・ナイト』

 

『ホワイト・ナイト』は、トッド・ラングレンが2017年に発表したアルバムである。

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トッドと誕生日が1日違いの)リュウジが持ってきてくれたCDを、ぼくはクルマの中で何回も聴きながら、感想を書かなきゃなと焦りつつ6月をすぎ、7月に入ってしまった。

『ホワイト・ナイト』とは英語で「白騎士」の意味。日本においては「白馬の騎士」と意訳される場合が多い。M&A(企業の買収や合併)における「敵対的買収を受ける企業にとって友好的な第三者(企業もしくは人)」を指す。2005年のライブドアによるニッポン放送買収問題でフジテレビのホワイトナイトだと北尾吉孝氏が評されたことで、日本でも普及した経済用語である(経済に疎いイワシ、付け焼刃の解説)。

トッドがアルバムのタイトルに定めた理由は、狭義の意味ではなく、コラボレーション・アルバムであることを婉曲に表明したかったのだろう。窮地を救ってもらったというよりも「友だちにちょっと手伝ってもらった(With a Little Help from My Friends)」くらいのニュアンスではなかろうか。

というわけで、これはワンマンなトッドのキャリアでも珍しい、他者を招き入れた作品集である。クレジットは下記参照。

1. Come
2. I Got Your Back feat. KK Watson with Dam Funk
3. Chance For Us feat. Daryl Hall with Bobby Strickland
4. Fiction
5. Beginning Of The End feat. John Boutte
6. Tin Foil Hat feat. Donald Fagen
7. Look At Me feat. Michael Holman
8. Let’s Do This with Moe Berg
9. Sleep with Joe Walsh
10. That Could Have Been Me feat. Robyn
11. Deaf Ears feat. Trent Reznor & Atticus Ross
12. Naked & Afraid feat. Bettye LaVette
13. Buy My T
14. Wouldn’t You Like To Know feat. Rebop Rundgren
15. This Is Not A Drill feat. Joe Satriani with Prairie Prince & Kasim Sulton

トッドのファンには馴染みの名前もちらほら見かけるが、やはり話題の中心は、かのスティーリー・ダンを率いたドナルド・フェイゲンをヴォーカルに起用した、6曲目の「ティン・フォイル・ハット」だろう。先日も偶さか民放エフエムでかかっているのを聞いたが、二人のヴェテランが久しぶりの(ポテン)ヒットを放ったって感じだ。

聴いてみようか?


Todd - Rundgren - Tin Foil Hat (feat. Donald Fagen) [Official Video]

Because the man in the tin foil hat
Is gonna drain the swamp tonight
And fill it up with alternative facts
And it's gonna be great, tremendous, amazing, and all that

まあ、ドナルドがドナルド(トランプ)を歌うという、タイムリーだけど何の捻りもない企画ではあるが、ぼくはこれ、曲が先に出来てしまったんではないかと睨んでる。で、トッドのことだ、「しまった、これじゃまんまスティーリー・ダンじゃん」と舌を打ちつつも、にわかにプロデューサー根性を発揮、「だったらドナルド本人に歌わせりゃいいんじゃ?」とアイディアが閃いたのではなかろうか。ちなみに二人の初顔合わせは2006年で、名ソウル歌手アル・グリーンの“Rhymes”をカヴァーしている(アルバム“Morph The Cat”のアウトテイク。2012年の“Cheap Xmas:Donald Fagen Complete”に収録。今年8/23に日本盤が発売)。

話が脱線してしまったが、トッドの割りきった粗めのアレンジが、いささか高級すぎてアウト・オヴ・デートになりがちなドナルドのパブリック・イメージに、いい感じの今日性をもたらしている。なんでもワイアード誌によれば最近の全米ヒットは、

イントロ短く(5秒前後)、曲名短く、唐突にリフ(開始後30秒以内)、間奏はなく、曲自体短く、ミックスは安っぽく、認識しやすい。

という特徴があるのだそうだが、この歌は、最新型ポップの条件を(結果的にだが)見事にクリアーしている。職人気質で、どちらかといえば冷笑派の二人も、思わぬ出来映えに苦笑いしただろう。

ちなみに「錫の・ホイルの・帽子」とは「陰謀論者」のスラングだというブログ記事を見かけた。真相は分からないが、トッドはインタビューでトランプ大統領の政策を烈しく非難していたから、ヴィデオを確かめるまでもなく、オルタナ・ファクトを振りかざす「誇大妄想狂・ドナルド」を徹底的に茶化した歌詞であることは間違いあるまい。

 

でもリュウジ、この調子で一曲ずつ解説していたら日が暮れちまうよ。あとは大まかな印象でお茶を濁してもいいかな?

 

『ホワイト・ナイト』は全体的にリラックスした曲調が多いから、旧知のファンにも新参のリスナーにもとっつきやすい作品だといえる。

今のところベストトラックと思うのは2曲めの「アイ・ガット・ユア・バック」。トッド唯一無二の浮遊感あふれるコードによる抑制された4小節ループ。元祖テクノ男がデトロイトテクノ的な要素をようやく自家薬籠中のものとした感じがする。これは前作『グローバル』のツアーで身につけたセンスだろう。EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)とトッド流ソウルテイストが良い塩梅に融合していて、裏切りがない。

それはアルバム前半の旧友ダリル・ホールとの共演や、続く女性ヴォーカルによるお得意の3連バラードにも言えることだが、衰えた部分を他人に補ってもらうことで、無理なくメロディーに没入できる。トッドはなんでも一人でやれるし、一人でやりたがる人だったけど、ときにそれは聴く際の負担にもなりかねなかった。

しかし、このスムージーな感覚はなんだろう?誰かが80年代洋楽ポップス的だと評していたけど、EDMをトッドなりに咀嚼したサウンドの肌触りは、むしろ90年代のそれに通じないだろうか。具体的に誰みたいだとは言わないが、あの物議をかもしたインタラクティヴCD、“TR-i”の前後に、今回の『ホワイト・ナイト』みたいなトッド流R&Bがリリースされていたら、より広範囲な支持を獲得できたかもしれないと想像してしまう。もちろん四半世紀前に戻れるはずもなく、トッドは安直な道を選ばないチャレンジャーだから、その夢は果てしなくもはかないものだが。

アルバムも後半になると少々だれる。CDのフォーマットでは仕方ないことだが、それでもナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーが参加した「デフ・イヤーズ」は後半のハイライトともいえる秀逸な仕上がりだ。ただ、その音響デザインは、どちらかといえばNINとよく比較されるレディオヘッド(それも“Kid-A”)により近い。ひょっとしたらトッドは「絶対にありえない共演」を、デスクトップに仮構したのかもしれない。

あと、ラストナンバーだけど。「トッドくんのかんがえたさいきょうメンバー」による演奏はあまりにも予定調和的で面白くなかった。この3人ならこれくらい楽勝だよねーと聞き流してしまう。もっと10分ぐらいの長尺で、転調&リズムチェンジしまくりの、陽気なプログレハード・ロックを展開してほしかった。もっともトッドも御年68歳、あんまり無理はきかない齢だから、ま、健在ぶりを確かめられただけでも良しとしなくっちゃなあ……

 

ああそうだ。日本盤にはもう一曲、『グローバル』ツアー時のハイライトナンバー、「ワン・ワールド」が収められている。

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

 「オハイオ・トゥ・トキオー」じゃなくて「クリーヴランド・トゥ・トキオー」だけども。「ワン・ワールド」ってシンプルだけど飽きがこない、トッドの代表曲だね。

 

さて、そろそろ不出来なエントリーをリリースしようか。トッド、それからリュウジ、遅ればせながら「誕生日おめでとう」。