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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

夢を記録する機械が欲しい(Series Of Dreams Vol.4)

 

夢野久作ンごたる(みたいな)人生を送ってきたイワシです。

今日のエントリーは気軽に読めると思うのでご安心を。

さて、夢みがちな少年は、そのまま初老のおっさんになったけど、夢の内容ときたら、未だに現実離れした子どもっぽいものだ。こないだもこんな夢を見た。

① ミュージカル機械

ミュージカルの機械を発明した。頭の中に思い浮かべたメロディーが実際に鳴るのである。ただし、脳波を検出した機械が読みとれるのは音の長短やら音程やらなので、初音ミクみたいに言語には変換できない。思い浮かべた音色に妥当だと判断された音色が自動的に選択される。

これを使えば、オーケストラやバンドがなくても、自分の思うがままの伴奏が奏でられる。いわば究極のカラオケである。しかしそれでは夢がない(笑)ので、ぼくは機械に「ミュージカル ©」と名づけた。そして楽器・玩具・ソフト制作の各メーカーに共同で開発させた。ぼくは大儲けする予定だったが、予想以上に、想像した音楽を具体化させることは難しかった。それは機械の問題というよりも、使う人間の側に問題があった。

「つまり……」と開発担当者は言葉を濁した。「『ミュージカル ©』は使う人間のイマジネーションが問われるんだ。そいつの思い浮かべた音楽が貧相だと、出る音も貧相になるという理屈だ」

「そのへん、ある程度の補正ができないか?」

「やれないことはないが……それだと、きみの思い描いた理想とはかけ離れるよ。たんなるカラオケのヴァリエーションになっちまう。それでもいいのなら改良するけど」

「うーん」

ぼくは考えこんでしまった。この機械の開発を発表したと同時に、演奏家ユニオン(組合)から「発売を中止せよ」と圧力がかかっていた。しかしこの結果だと、商品化もままならないだろう。

「でも、ぼくが試作品を試したときはちゃんと作動したじゃないか」

「それはきみのイメージが明確だったからさ。これはドラム、これはベース、これはオーボエ、これはストリングスと、センサーが簡単に感知できたからね。しかも、これはバーンスタイン、これはルグラン、これはモーリス・ジャールと分かるくらい、細かくヘッドアレンジが施されていたから、あえて補正する必要もなかったってわけ」

「すると、音楽的な素養がある程度備わってないと、使いものにならないってこと?」

「そうだね。楽譜を読み書きできる程度の能力は必要だな。でないと各パートの区別がつかないでしょ。あまりにも漠然としたイメージだと、脳波シグナルをセンサーが感知できないかもしれない」

ふうむ、どうやらぼくは「ミュージカル ©」で儲けそこなったようだ……

と、ほぞを噛んだときに目が覚めた。たぶんこれは、その数日前に『ロシュフォールの恋人たち』をユーチューブで観たせいだ。あんなふうに、歌いはじめた途端どこからともなく華麗な伴奏が流れてきて、それに合わせて歌ったらさぞや愉快だろうなと、観ているあいだに妄想していたからかもしれない。その願望が潜在意識となって、こんな夢みたいな夢を見させたのだと思う。

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だけど、考えてみれば同じタイプの夢をしばしば見ていた。その代表的なものとして、次に10年ほど前に見た夢をご紹介しよう。

② 念写らくがき

ぼくは頭のなかで思い描いた文字を、手を使わずに、つまり書かずに、任意の物体に念写できるようになった。つまり、「鰯の独白・好評につきアクセス数倍増!」と思ったら、目の前の壁やらガラス窓やらに「鰯の独白・好評につきアクセス数倍増!」と写しだされるのである。

ぼくは調子に乗って、公共の建物の外壁にいろんな文字をらくがきしてみた。最初は書道に使う半紙程のサイズでしか書けなかったけど、次第にコツをつかみ、さまざまな書体で、好きなように拡大することもできるようになった。しかも、らくがきの主が誰だかバレないのであるからまことに都合がいい。

そこでぼくは持ち前の正義感(笑)を発揮し、「巨悪を討つ」らくがきを、手当たり次第に書きなぐっていった。都庁に銀行に、新聞社にテレビ局に。らくがきの内容は、おのおの推察してほしい。当ブログの読者なら、おおよそ見当はつくだろう。

(さて、あなたなら、なんて書く?)

反社会的ならくがきによって国会は大混乱に陥った。ぼくはさらにテレビ画面に念写を映しだすことも訓練の成果で可能にした。したり顔したニュースキャスターの顔の真横に、嘘つけ~と吹きだしつきで朱文字を入れると、それだけで報道の権威は失墜するのだった。

溜飲が下がるらくがきだと世間では話題沸騰。得意満面のぼく。だが捜査の手は少しずつ自分の近辺に迫ってきているようだ。警察庁は犯人の思想や背景を徹底的に分析し、関東在住の40代男性と、的を絞ってきている……

 と、不安に駆られたところで目が覚めた。これはおそらく、二週間前にしたためた記事の中に貼りつけた「“スペクタクル社会”らくがき」の影響があるに違いない。 

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しめた、こりゃ小説のタネになるわいとぼくは小躍りしたが、よくよく考えてみるとこれって伏線のない『デス・ノート』(当時大評判だった)みたいな筋書じゃないかとガッカリしたものだ。それに当時ぼくは自宅のパソコンにインターネットを繋いでいなかった。そのころ(2004~5年頃)2ちゃんねるは既に猖獗をきわめていたし、ぼくの想像よりもはるかに過激な言説がネット上に溢れていた(ことを知らなかったが)。さらに動画の画面に文字が躍るのはその少しあと、07年にニコニコ動画が実現させてしまった。

が、

夢と現実の違いは、そうしたネット上に発信された言説のほとんどが、らくがき同然のものとして無効化されてしまっているという点だ。さらにネット内においても、思想信条や立場の違いから、同じ情報を共有し、理解しあうこともなく、細胞分裂よろしく分断されてしまった。つまりぼくが10年前に見た陳腐な夢よりも、10年後の現実のほうが、より奇妙な状況を呈している。

 

夢はシリーズ化される。とボブ・ディランも言っている。最後はつい先日に見た夢だ。最近なだけに細部まで覚えてはいるが、そのぶんスケールも縮小している。やれやれ、夢にも加齢は表れるものなのか。

③ 北欧の自販機 

ぼくは近代的な雰囲気のある広場に設置された自動販売機の前に居る。どうやら自販機は多機能であり、外貨両替もできれば、その国で必要な各種申請書をプリントアウトもできるし、クレジットカードも発行できる。いわば銀行と行政の窓口を兼ね備えた万能の自動販売機のようだ。

しかし北欧語を読めないぼくは操作方法が分からずに自販機の前でおろおろしている。見るに見かねた男性(30歳代、巻き毛と口髭、ブラウンのスーツ)が、あれこれ英語で教えてくれるが、何と言っているのかさっぱり理解できない。すると業を煮やした男性は自販機に備えつきの受話器を手に取り、ぼくの目前にグイと突きだした。

「これで区役所の役人を呼びだせ。すぐに来てくれる。ニホン語でもだいじょうぶだ」

電話で、使い方が分からないと伝えると、「お待ちください、すぐ参ります」と流ちょうな日本語が聞えた。二、三分待っていると、さらりとした金髪を風になびかせた女性が、ぼくの方へつかつかと歩み寄ってきた。どうやら区役所の役人らしい。

「何かお困りですか?」と女性は落ち着いた声で訊ねた。

「使い方が分からないのです」とぼくは答えた。

「この自動販売機はエリクソン社およびノキア社の端末がないと使えません。あなたはどちらかを持っていますか?」

「いいえ。どちらも所有していません」

「何か身分を証明できるものは?」

「パスポートならありますが」

「拝見します」と女性は断り、ぼくのパスポート写真と署名欄を開くと、自販機のスクリーン部分に押し当てて、読みとらせたようである。シャッという歯切れよい音とともに、一瞬だが強い光が走った。女性はにこやかに微笑むと、パスポートを返した。

「これでオッケーです。あなたの照合は完了しました。何にでも利用できますよ。この機械で何をなさいますか?遠慮なくおっしゃってください」

「何をしたいか、じつは分からないのです」

「は?」

「ぼくはただ、この自販機の仕組みを知りたかっただけなのかもしれない……」

すると区役所の女性はあからさまに困惑の表情を浮かべた。後からなりゆきを見守っていた男性が彼女のもとにそっと近づき、北欧語で何ごとかを早口で捲くしたてた。

『日本人には閉口するよ。目的も意志もありやしない。いったいヤツはどういうつもりなんだ?』

『まあ、旅慣れない土地で困惑しているのでしょう。好奇心からかも?』

『にしてもさ。ヤツはぼくらを値踏み、いやグラムで図ってたんだぜ?こころの中でボクのことを585g、キミのことを837gだと想像していた』

『まあひどい!それってなんて失敬』

『だろ? ったく日本人は薄気味悪いよ』

二人のひそひそ話を聞きながら、〈どうしてぼくは彼らの喋る北欧語が理解できるのだろう?声を聞いているというよりも、読心術に近い感覚で言語を捉えられるのは何故だ?ひょっとしてこれは自販機の翻訳機能なんじゃないか?〉などと、ぼんやり考えていた……

【参考】ほら、現実は夢よりも奇異じゃないか。

 

夢は潜在意識を映しだしたものだと思う。いつも考えていること、常日ごろ悩んでいること、あるいは体験したことなどが如実に反映するものだ。③の夢にぼくの無自覚な劣等感やそれとは裏腹の差別意識を発見できるかもしれない。が、ともあれ夢の記述を発端に物語を紡ぐことは可能である。夢は着想の源、それを利用しない手はない。

こうしたSF的/ディストピア的な夢を見たあとで、ぼくはいつも、これを小説にできないものかと考えをめぐらす。が、企みはしばらくすると、すぐに萎んでしまう。夢想をもっともらしいお話に仕立てあげるには、それ相当の努力が要る。努力とはつまり多くの資料にあたり、空想の裏づけをとることだ。

資料をそろえる労が煩わしいなら、②の夢などは①の夢と混合させ、たとえばそうだな「想像した通りの絵を描ける」話をこしらえることはできるかもしれない。それは幻想小説いや童話になってしまうかもしれないが、中途半端に興味のある社会問題や、人並み以上に詳しい音楽を題材に求めぬほうが、小説としての体裁は整うように思うのだ。

けれども、それでもフィクションを書くのはしんどいよ。根気のいる作業だ。

プロの作家はホントにすごいと思う。着想を着実に表現の形にするんだから。

情けないことだけど、根性と情熱と気力に欠ける、今のぼくには到底ムリだ。

◆結論:夢想を具現化するのは難しい。

 

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真夜中に目が覚めたから、鏡に映った自分の顔をしげしげと眺めて、らくがきしていたんです。わりかし似た顔に描けたかなと思う。え、ネクタイ締めて寝てるのかって?(笑)まさか。

「夢が見れる機械が欲しい」と歌ったのはムーンライダーズだけど、〈あー見たままの夢を自動的に記録する機械があればなあ〉と、未明の刻にあてどない空想する五十男のイワシであった。