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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

切なくも愛おしい旋律の花束、パート・バカラック

 

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 ぼくが心底くたびれたとき、まいっているときはアメリカ産のポップスを大量に聴く。ことにバート・バカラック。聴いていると荒んでいた気持ちが落ち着く。バカラックの音楽は心の痛みを和らげる特効薬なのである。 

 先日こんな記事をMediumに書いた。

 これは今回の記事に用意していた前振りを流用したものだ。また、こんなツイートもしている。

イワシ タケ イスケ@cohen_kanrinin 6月28日

難曲「マッカーサー・パーク」はグレン・キャンベルがいちばん歌いこなせていると思う。

Glen Campbell and the Boston Pops Orchestra-MacArthur Park Jimmy Webb Arthur Fiedler - YouTube

作曲者ジム・ウェッブの思いをグレン・キャンベルの歌唱は雄大に描きだす。それは「ガルベストン」や「ウィチタ・ラインマン」を聴けば分かるが、この「マッカーサー・パーク」はフィドラー指揮/ボストンポップスの演奏でさらにスケールアップ。中間部、キャンベルのとりとめもないギターソロもまた良し。

 キャロル・キングやジム・ウェッブのような、アメリカンポップスの王道をぼくが聴けるようになったきっかけは、バート・バカラックの諸作に出会ってからである。かれが「入っておいで」と扉を開いてくれたからこそ、興味を持つことができたのだ。

 

 ぼくは音楽のこととなると、どうも説明が長くなる。さっさと本題に入ろう。何枚も貼りつけるぞ。おっと、独断と偏見に満ちたチョイスなんで、これがスタンダードとは思わないでね。それでは、

 Ladies and gentlemen, Mr.Burt Bacharach!

 

① B.J.Thomas - Raindrops keep falling on my head

 子どものころ「ママと遊ぼう、ピンポンパン」だったかな、お姉さんが傘をさして歌うのを耳にして、よく口ずさんでいた。大人になってから、B.J.トーマスのアルバムを100円で手に入れて何度も聴いた。だから「雨にぬれても」は映画『明日に向かって撃て』のヴァージョンしか耳になじまない。イントロがウクレレじゃないと、なんか違うと感じてしまうんだ。

 

② Cilla Black - Burt Bacharach - Recording Alfie in Abbey Road Studios

 

 バカラック自身の作成したリスト( List of songs written by Burt Bacharach - Wikipedia, the free encyclopedia )を紐解くと分かるように、キャリアの初期においてかれはイギリスで成功の礎を築いている。ダスティ・スプリングフィールドやウォーカー・ブラザーズなんかがすぐに思い浮かぶ。ビートルズ(そういや最初のアルバムで「ベイビー・イッツ・ユー」をカヴァーしていたっけ)ゆかりの歌手シラ・ブラックが、生硬な声で譜を縦割りに歌う「アルフィ」は、ジョージ・マーティンの目論見どおりの絶妙な仕上がり。ディオンヌ・ワーウィックが口惜しがったという逸話もあるほど、他に取り替えのきかないアビーロード・マジック(2分40秒あたりから歌が始まります)。

【補足】

ダスティ・スプリングスフィールドについては、この「ルック・オブ・ラヴ(2曲目)」を聴いてみてください。このしっとりした儚さは他の歌手には出せない。

 

③ The Stylistics - You´ll never get to heaven if you break my heart

 骨が蕩けるほどスイートなナンバー。(The Stylistics-You make me feel brand new - YouTube )と並んでスタイリスティックスの最高作に挙げられるんじゃなかろうか?

ディオンヌ1964年発表のシングル( Dionne Warwick - You'll Never Get To Heaven If You Break My Heart (Scepter Records 1964) - YouTube )がオリジナル。

 

④ Dionne Warwick I Say A Little Prayer 1967 Original Million Seller

 ディオンヌ・ワーウィックを軽んじていると誤解しないでね。もちろんかの女こそバカラックのセンスを体現した唯一無二の存在であり、そのことに疑問を挟む余地はない。とくにこの「小さな願い」。アレサの希求( Aretha Franklin - I say a little prayer ( Official song ) HQ version , Photos / Photoshoots - YouTube )も素晴らしいけれど歌詞本来の意図する「さりげなさ」を表現した、快速テンポのディオンヌ版に軍配を上げたい(イントロに耳を澄ませてみよう)。

【追記】

アレサの歌ったバカラックナンバーで出色の出来なのは74年のこれだと思うな。


Aretha Franklin - Don't Go Breaking My Heart

 

⑤ Dionne Warwick - Promises Promises

 もう一丁ディオンヌの凄みを。こんな難曲を易々と歌ってのける歌手がいったいどれ程いるだろう?聴いていてまったく無理を感じさせないけど、たいていの歌手だったら倒れるよ、ミヨー直伝の変則拍子に(バカラックはフランスの「六人組」作曲家ダリウス・ミヨーの薫陶を受けた。つまりジャズ・ピアニストのデイヴ・ブルーベックは同門の兄弟子)。しかしこの曲はいつ聴いても胸が高鳴るなあ。前向きに進む意思というかエネルギーというか。それ、GLEEのこのシーンを観たらきみにも分かるだろ?

 

⑥ Walk On By - Bacharach Medley-The Carpenters-Live


Bacharach Medley-The Carpenters-Live

 4分30秒より始まる「ウォーク・オン・バイ」に耳を傾けてほしい。ディオンヌから長いながいアイザック・ヘイズ、わが最愛のローラ・ニーロストラングラーズ、シール、ダイアナ・クラールまで、さまざまなヴァージョンがあるけれど、切実さではカーペンターズに敵うまい。リチャードとカレンのハーモニーが醸しだす「響き」には、作者が想像した以上の意味が含まれているように感じる。それはバカラック本人にとってあまり愉快ではなかったかもしれない。リチャードのアプローチは他とは違って挑戦的だから(下記の記事も読んでね。追記してますから)。

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

 

⑦ Lost Horizon 1973 - living together , growing together

 ここでみなさんをちょっと困惑させよう。1973年のミュージカル映画『失われた地平線(ジェームス・ヒルトンの小説が原作)』より。これはフィフス・ディメンションがヒット( The 5th Dimension - Living together, growing together - 1973 - YouTube )させていて、もちろんそれも抜群にステキなんだが、バカラックとハル・デヴィッドのチームが、どれほど豊かな楽想を惜しみなく披瀝したのかが(この白人目線により描かれた理想郷の)映画のスコアによく現れている。ほら、こんな可愛らしい曲もあるんだよ( Lost Horizon 1973 - The World Is A Circle - Liv Ullman - Bobby Van - YouTube )。

【補足】

 ひょっとしたら“Lost Horizon”はバカラック/デヴィッドコンビの「創造の極致」なのかもしれない。時間があれば是非、映画全編をご覧になっていただきたい。

 

⑧ Faith No More | This Guy's In Love With You | 2015

「ジス・ガイ」といえば、やはりハーブ・アルバートのオリジナル( Herb Alpert This Guy's in Love with You - YouTube )が有名なんだけど、このおっさんバンドの同窓会みたいなセッションが愛おしいのは、オルタナ/メタルの雄だったフェイス・ノー・モアが、愚直なまでに原曲に忠実だからだ。それは(オアシスの)ノエル・ギャラガー版にも同じことが言える。バカラックとデヴィッドのソングクラフトは、ちょっとやそっとの個性では覆せない(例外はビョーク)。

 

Elvis Costello & Burt Bacharach: God Give Me Strength

「水平的」にメロディーを展開するバカラックと「垂直」に音符を刻みこむコステロががっぷり四つを組むことによって、傑作『ペインテッド・フロム・メモリー』が誕生した。アルバムの末尾を締めるこの楽曲は、80年代にやや停滞気味だったバートに意欲をもたらした。余裕綽々のバカラックに比してコステロの緊張ぶりといったら!だけど懸命に「歌唱」に専念したからこそ、シャルル・アスナブールのスタンダード「She」をモノにして、コステロは一流歌手の仲間入りを果たせたのだと思う。Elvis Costello 'She' - YouTube

 

⑩ WIVES AND LOVERS - Burt Bacharach feat. George Duke (1946 - 2013) and David Sanborn (HQ audio)   

 バート・バカラックのショーは本人のピアノとオーケストラの協奏が主で、曲の合間にかれの軽妙な語りが挟まれるという(ミッシェル・ルグランと共通した)スタイルである。だからスリルとは無縁だが、たまにこういう凄玉が潜んでいる。しかしバカラックの作った楽曲は経年劣化を感じさせない。1963年にジャック・ジョーンズの歌唱によりヒットさせたワルツ( Jack Jones: Wives and Lovers (Bacharach, David, 1963) - YouTube )を、このような極上のインストルメンタルに仕立てあげるんだから、この人の懐はどこまでも深い。

 だけど、フランス仕込みのアレンジを剥ぎとってしまうと、そこには一人のアメリカ人の誠実で朴訥な表情が浮かびあがる。創作の相棒ハル・デヴィッドと綴った歌の数々をバートが技巧の対極である地声でうたうとき、ぼくはなぜだか「この人は本質的にシンガー・ソング・ライターなんだな」と思ってしまう。不器用さも芸のうち?かもしれないが、ぼくは次に掲げる「アルフィ」に、感情のため息みたいなものを覚え、観ていて切なくなる。そして、何度聴いても9thや11thを微妙に掠める捉えどころのない旋律のゆくえを追い続けることに愛おしさを覚えるのだ。

 

Burt Bacharach - Alfie Amazing version

What's it all about, Alfie
Is it just for the moment we live
What's it all about when you sort it out, Alfie
Are we meant to take more than we give
Or are we meant to be kind
And if only fools are kind, Alfie
Then I guess it's wise to be cruel
And if life belongs only to the strong, Alfie
What will you lend on an old golden rule
As sure as I believe there's a heaven above, Alfie
I know there's something much more
Something even non-believers can believe in
I believe in love, Alfie
Without true love we just exist, Alfie
Until you find the love you've missed you're nothing, Alfie
When you walk let your heart lead the way
And you'll find love any day, Alfie, Alfie

 ラスト近くの、で示したフェルマータの部分で、ピアノが(ドビュッシーが多用する)全音音階で駆けあがっていくとき、ぼくは確かに、愛を見失ってさ迷うアルフィの後姿と、それを見つめる「この男」の横顔を認められる。それは錯覚かもしれないけれども、その儚げなビジョンを見せてくれるのは、シラ・ブラックでもディオンヌ・ワーウィックでもなく、歌を作った張本人であるバートにしかできないことだ。

 

 バート・バカラックの音楽を聴くということは、自分の裡に秘めた感情を取りだして眺めることだ。喜びや哀しみや楽しみや慈しみが幾重にも綴られた複雑な旋律の移ろいを辿っていく旅だ。さて、ハル・デヴィッドの歌詞に込められた問いかけにきみは答えられるだろうか?いつの日かぼくたちは愛を探しあてることができるだろうか?

 

 

【アンコール】

 バート・バカラックのソングクラフトについては、バート自らが「水平的に音型を捉える」と語っている。つまり、あらかじめ定められた 8小節、16小節単位のヴァースに音符を当てはめるのではなく、楽想の求めるにしたがって小節線に跨がる旋律を自由連想的に紡いでいくことかな?と想像している。このデボノ式ともいえる水平思考は、バカラック作曲術の極意ともいえるだろうが、それに魅せられたアーティストは数えきれない。

 たとえばフランク・ザッパは、「バカラックはポピュラー音楽の領域を押しひろげてくれた。複数の旋律が同時に進行するようなヒット曲はそれまでに存在しなかったからね」と称賛しているし、スティーリー・ダンドナルド・フェイゲンは、「フェバリットソングを一つ挙げろといわれたら『ワン・レス・ベル・トゥ・アンサー』だね」と語っている[要出典]。こういったクセ者や「うるさがた」をも唸らせるバカラックの楽曲を、甘ったるいの一言で片づけるのはもったいない話です。

 ONE LESS BELL TO ANSWER / THE FIFTH DIMENSION - YouTube

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 ところで、80年代のバカラックは、当時のパートナーだったキャロル・ベイヤー・セイガーとの諸作品で、楽節の区画整理を試みていた。クリストファー・クロスが歌った「アーサーのテーマ(クレジットはバカラックとセイガ―&ピーター・アレン)」が代表例だが、小節線にきっかりと収める作風に変化している。それを再び「水平」にまで引き戻したのが、タテノリ番長エルヴィス・コステロだったから面白いんである。

 Christopher Cross - Arthur's Theme (Best That You Can Do) - YouTube

 

 たじろぐほど傍に寄りそう、バーブラ・ストライサンドの歌う「遥かなる影」を観てみよう。続いて歌われる「ビー・アウェア」で使われる複雑玄妙な和声に注意してごらん。この曖昧な響きにコーティングされれば、率直な思いは煙に巻かれ、うやむやに終わってしまう。素っ気ない態度を表す代わりに音楽に答えさす。指揮台の男を見つめるバーブラの寂しそうな後姿。ニクい演出だこと、バート・バカラックはお好き?

 Singer Presents Burt Bacharach with Barbra Streisand - YouTube