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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

エルヴィス、プリンス、エスペランサ

 

最近ユーチューブで観た音楽ヴィデオで秀逸なものを3つご紹介したい(順不同)。

 

① プリンス


Prince Beautiful Night

プリンスの訃報は、まだ余震が続く日々の最中に、追い打ちをかけるような、つらい出来事だった。亡くなってしまってはじめて存在の偉大さに気づき、喪失の事実にうろたえる。そんな感じだった。

プリンスはYouTubeを嫌っていたから、かれの映像は片っ端から削除されていたが、かれの死去以来、堰を切ったようにたくさんアップされている。どれを選んでも間違いはないが、一本だけと言われたら、ぼくは映画『サイン“オー”ザ・タイム』のハイライトシーンである「ビューティフル・ナイト」を選ぶ。この演奏の密度は半端ではない。誰も超えられない高みに達している。そしてプリンスが「一日の朝から晩まで」を二枚組に収めた同タイトルのアルバムは、人生=音楽であったかれの最高傑作(の一つ)であり、四半世紀が経った今でも色褪せることのない金字塔である。

各パートとの緊密な絡み、とりわけシーラ・Eとドラムスを交代するあたりに注目したまえ。何度目を凝らして観ても、集中して耳を凝らして聴いても、いったいどうなっているのか、ぼくにはまったく解明できない。生演奏だとは信じがたいレヴェルのパフォーマンスである。マジックとしか言いようがない。

 

② エスペランサ・スポルティング

エスペランサは現在(2010年代)を代表するアーティストの一人として、より人口に膾炙するべき存在である。かの女の発表する作品は常に最高水準を維持している。ジョニ・ミッチェルジャコ・パストリアスが個人に同居しているような、驚異的な歌唱力と演奏能力を備えているが、悲壮さは微塵も感じられない。かの女の立ち振る舞いは自然体であり、終始しなやかな動作と穏やかな表情を見せてくれる。

このライブを観れば、エスペランサのアプローチが如何に知的で思索に満ちたものであるかが一目瞭然である。学校の先生みたいに怜悧な統率力でステージを完璧に制御している。まるでピーター・ガブリエルケイト・ブッシュのように(高橋健太郎氏の指摘を借りれば)シアトリカルなパフォーマンスなのだけど、ぼくはアネット・ピーコックやカーラ・ブレイ、あるいはローリー・アンダーソンといった、かつてジャンルを横断し、越境した女性たちの姿を同時に想起した。

欲を言うなら破綻する場面があってもいい。自らを凌駕したい向こう見ずな欲求や、かの女自身が思いがけない領域に突入する瞬間を見てみたい気もする。が、もっともそれは今の時代に於いてはたいへん難しいことで、無いものねだりなのかもしれない。

 

エルヴィス・プレスリー

1972年、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンにおけるライブステージの模様である。エルヴィスのこの種のコンサートフィルムは『イン・ラスベガス』やら『イン・ハワイ』やら、山のように残されているが、数ある中からこの画質がイマイチでブツ切りな映像を選んだ理由は、演奏が一番粗削りで、一番テンポが速く、一番力強いから。とにかく一瞬も弛むことなく、約20分を馬車馬みたいに駈けぬける(何曲かは完奏した映像が個別にアップされているので、ダイジェストではなく完全版を拝みたいものだ)。

Elvis presley - That's All Right (New Madison Square Garden Footage) 72 - YouTube

とくに3人の従者たちに目を奪われる。変幻自在なリックでテレキャスターをギャロップさせるジェームス・バートン。「ポーク・サラダ・アニー」では何とディストーションを効かせたベースソロまで聞かせるジェリー・シェフ。そして冒頭の「ザッツ・オーライ・マ」から怒涛のパンチを炸裂さすロニー・タットの暴れ太鼓っぷり。この3人が生みだすうねりは強靭である。72年当時のポピュラーシーンに、これほどヘヴィーでダイナミックなリズムセクションを擁したバンドは他に見当たらない。強いて挙げればザ・フーか(考えてみると『フーズ・バイ・ナンバーズ』はエルヴィスぽかった)。とにかく凡百のハードロックを蹴散らす勢いがある。

Elvis Presley Polk Salad Annie 1972 HQ - YouTube

そしてロンに煽られ、甘さをかなぐり捨てたエルヴィスのシャウトはどうだ。向かうところ敵なし、まさにキングの風格。かれが如何にバックを、ことにロンを信頼していたかは、「サスピシャス・マインド」を観ればわかる。エルヴィスの空手アクションとロンのフィルインが完璧に一致している。これは理屈ぬきのロックン・ロールであり、かつ極上のエンターテインメントである。

Elvis Presley & Ronnie Tutt in action (on stage @ Madison Square Garden 1972) - YouTube

 

以上3点、どれも観ても損はない。自分の手柄みたく誇らしげに、自信を持ってお勧めします。だけどホンネは、なまのライブを観たいよね。

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キャッチアップ写真は、とりあえず「朝明けの阿蘇に消える飛行機雲」を載っけときました。(5月22日)