先日、ジノ・ヴァネリの全盛期を60分に収めたライブ映像を見つけた。
以前からYoutubeの投稿画像をブツ切りで楽しんではいたが、こうして纏まったかたちで観ると、また格別である。
実兄ジョー・ヴァネリによるよく練られたアレンジメント、故マーク・カーニーの手数の多いドラムス、この頃ジェネシスのサポートに参入するダリル・スチューマーのギターなど、演奏者の見所も多いが、なんといっても主役はジノのパワフルなステージアクトだ。
圧倒的な歌唱力をいかんなく見せつけてくれる。
観客の殆どは女性。隙あらばステージにかけ上り、ジノに抱きつこうと試みる。かれがアイドル、いやズバリ言ってセックス・シンボルだったことがうかがえる。
この映像を先に観ていたら、ジノ・ヴァネリに対するぼくの見方も変わっただろう。
正直なところ若い頃はどこが良いのかさっぱり分からなかった。
ヒット曲、「アイ・ジャスト・ウォナ・ストップ」を耳にしたとき、あーエーオーアールの典型ねと鼻で笑ったし、「ブラザー・トゥ・ブラザー」におけるカルロス・リオスのギターソロは凄いとフュージョン小僧が絶賛しているのを横目に、ケッと鼻白んでいたものだ。
Gino Vannelli - Brother To Brother (1978)
要するに、気に食わなかったんである。
後にぼくはフランキー・ヴァリとフォー・シーズンズの進化系※と位置づけた。それは当たらずといえども遠からずといったところだった。ジャンルとしてはロックのカテゴリーに属するだろうが、ジノ自身はポップスの王道を歩んでいたつもりだろうし、ジャズやソウル・ミュージックとの親和性も無視できない。
分からないモヤモヤを払拭したのはツイッターだった。
ぼくがThe Enid*を好きだとつぶやいたら、それなら『ジスト・オブ・ジェミニ』を聴くべきだという意見が寄せられたのである。どうして?と問うと、エニドと同様にトリプルキーボードでぶ厚い音の壁を構築しているからだとの答えが返ってきた。
さっそく聴いてみた。で、認識を新たにした。
GINO VANNELLI a new fix for '76
どうしてここまで作りこめるのか?と感心するより呆れたのである。アレンジの緻密さは当時のポピュラー音楽の中でも群を抜いている。スティーリー・ダン並みに細部まで拵えが行き届いている。それはジノ自身の意思であり、ジョーによるペンの統制である。
今回『ブラザー・トゥ・ブラザー』時のライブ画像を観て、その思いを新たにした。そして、何ゆえジノ・ヴァネリの音楽に「キメ」や「ハッタリ」が多発するのか、その理由もようやく分かってきた。
ステージアクションと音が連動しているのだ。ジノの手の乱舞や奔放なステップがシンコペーションの符点とぴたり重なっている。それは、音をよく聞いているというレベルではない。もっとこう、音楽そのものに操られている感じがする。その正体は、モントリオール育ちのイタリア系であり、メイナード・ファーガソン楽団の一員だった父親を持つ、ジョーとジノ兄弟の(苦手な言葉なんだけど)絆のようなものかもしれない。
だけど……とぼくは思う。
この過剰さがなければ、バニー・マニロウとクイーンの中間点に着地し、その時代を象徴する大スターになれただろうに、と。
音楽があまりにも雄弁すぎる。ほんの少しだけ仕込みが余分なのだ。歌唱も楽曲もアレンジも、ヒットチャートを席巻するにははみだしが多すぎる。もっとシンプルでなくては、一般大衆には難しい。
もちろん当時、ジノ・ヴァネリがそれなりにヒットしたのを前提にしている。
が、かれとかれの兄弟たちは、もっと成功してもよかった。
なぜなら、ジノ・ヴァネリの音楽は反抗のそぶりとはまるで無縁だからだ。社会に対する批評性も少ない(前述『ジスト・オブ・ジェミニ』には戦争反対を訴える組曲もあるけれど)。ただストレートに「愛と情熱」についてを歌いあげていた。それは「ロック」のアティチュードではなく、やはり「ポップス」の文脈で語られるべきであった。
“LIVING INSIDE MYSELF”
数年前、ツイッターのやりとりで知ったジノ・ヴァネリの魅力。以来ぼくの中では別腹二位の座を確保している。が、あい変らず語るには難しい。ただ楽しめばいい音楽だのに、ムキになって言及したくなるのは何故なんだろう。
次回の記事に書く材料を揃えているうちに、小難しい路地に入りこんでしまったよ。
ええい締めくくりにもう一曲、やり過ぎの頂点「サンタ・ローザ」を。
Gino Vannelli - Santa Rosa.wmv
けれども、この仕込みを凝らしたアレンジ、たとえばダーティ・ループス(Dirty Loops)あたりのハイパーサウンドを好む今どきのリスナーの耳には、違和感なくフィットしそうな気もする。
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