木曜日の
明けがた近く
新聞配達のバイクが次第に遠ざかる
町はまだ 微睡みのなか
誰かが裏庭の閂をこっそり抜いている
書きさしの手紙 破棄されたシナリオ
親しげな笑みは 誰かれとなく
振りまくものじゃない
田舎紳士の 気まぐれや感傷に
いちいちつきあうこともない
外はまだ暗い 心なしか寒い
パートナー不在のワルツ
報われぬ見せかけの合図
興醒めなフォックストロット
浅葱色のコートの
裾をひるがえして
鮮やかに舞うはピルエット
薄明に浮かぶシルエット
みっともない真似は およしなさいと
忠告する者もなく
歪んだ口の端に くすぶり続ける
ついに果たしえぬ夢
儚く散りゆく 老いらくの花弁
教養もなく経験も乏しい
野暮天の出る幕じゃない
棒立ちのまま滞った台詞
見るにたえない田舎芝居
息切れのゆくたて あっけない幕切れ
ジェーンはぶどうを一房
かれの傍に置いた
平等に訪れる眠りの枕もとに
美しいと思うものと
美しいとされるものの
違いを教えてくれた
パートナー不在のワルツ
踊り場のシャドーダンス
窓際から見つめた
浅葱色のコートの裾が
今も眼に焼きついている
ささやかに贈るアプローズ
Sincerely, Cohen