鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

我が道を行く。“Young person's guide to トッド・ラングレン”

 

 トッド・ラングレンのベスト盤は山ほどあって、でも、大概がありきたりの選曲でつまんない。たかが120分程度聴いたくらいで、トッドの凄さがわかる訳ゃない。

 今日はそういう既存のベストから零れ落ちがちなナンバーを20曲、思いつくまま並べてみよう。

(いえ、ご心配なく。ちゃんと親しみやすい楽曲に的を絞りましたので。)

 

①「イントロ&ブレスレス」

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 ピーター・バラカン氏は二枚組の「サムシング/エニシング」を「粒ぞろいのA面だけなら大傑作」だとおっしゃっていたが、ぼくはこの万華鏡みたいな一人多重録音インストルメンタルで始まるB面が好きだ。

 

②「チェイン・レター」

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 少し戻って珠玉作目白押しの『バラッド・オブ~』よりA面ラスト。歌詞が面白いのだよ、曲が生まれる過程をそのまま詞にしている。「ただいまミドル(中間部)に差しかかりました」と説明するくだりなんか、サイコーに可笑しい。

 

③「愛することの“動詞”」 

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 えっ、もうそのカードを切るか? とマニアから叱られそうですが、自己言及ソングつながりで選びました。レコードコレクターズ誌の鼎談でホッピー神山氏が「未来の音楽」だと絶賛していたが、同感。間奏、ロジャー・パウエルのピアノソロに、ため息。

 

④「ドント・ユー・エヴァー・ラーン?」

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 出し惜しみはしない。トッドの壮大な実験作『トッド』にそそり立つ高峰。言ってるのはオレだけだと思うけど、シェーンベルクの12音技法オクターブの12音をぜんぶ経過する)を意識したと思われる和声構造である。トッドの十八番、ド(C)のルートにラ・レ・ファ♯(D)、ソ・シ・レ(G)の分数コードでジャー・ジャ・ジャーンのイントロもコレが初出だろう。

 

⑤「フェア・ウォーニング(美しき前ぶれ)」

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 フィラデルフィア出身トッド少年の、フィーリー・ソウル・コンプレックス丸出しのナンバー。バックのメンツはエドガー・ウインター・グループ。たぶんダン・ハートマンbは、このセッションでサウンド作りの奥義を掴んだんじゃないかな? と妄想。

(イワシは説明不足だという指摘をいただきましたので付け加えますと、ダン・ハートマンは「インスタント・リプレイ」Dan Hartman - Instant Replay - YouTube のヒットを皮切りに、数多のヒット曲をチャートに送りこんだソングライター/プロデューサーであります。)

 

⑥「ユーアー・マッチ・トゥ・スーン」(ホール・アンド・オーツ)

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 ここでプロデュース作から一曲。同郷フィラデルフィアの後輩に手を貸したアルバムより、コーダ部の遁走コーラスが美しいナンバーを。トッドのマニアは、ダリル・ホールの作風をトッドの真似っこだと揶揄する傾向があるけど、なあにトッドもこのレコーディングセッションで、シーグラーb&ウィルコックスDrのリズム隊をパクッた(自身のバンド、ユートピアに引き入れた)んだから、お互いさま。(⑮を参照のこと)

 

⑦「アイコン」

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 トッドは何でもやりたがり屋で、初期ユートピアは「明るいプログレ」とも言うべきアンサンブルの限界に挑戦していた。これはアルバム片面を占める長尺曲だが、全編つきあう必要はありません。最初の3分半でじゅうぶん。当のトッドがライブじゃ割愛してますもん。

 

⑧「永遠の愛」

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 ユートピアの傑作『太陽神(RA)』から、歌えるベーシスト、カシム・サルトンが加入。この華麗なバラードはその最大の収穫。しかし間奏のコーラスワークの浮遊感はどうだ。いつ聴いても息を呑む。

 

⑨「オール・ザ・チルドレン・シング」 

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 一人多重録音だとはとても思えない引き締まった演奏だね。個人的に感じるのだけど、捨て曲ナシの『ミンクホロウの世捨て人』から、トッドはヘルシー志向に切り替わったような気がする。ぼくは冒頭曲のコレを、リトマス試験紙がわりに使っていた。これを聴いて「あ、いいね」という人とは、その日から友達になれた。

 

⑩「セカンド・ネイチャー」

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 これはぼくがリュウジから送ってもらったカセットで最初に好きになった曲。この時期のトッドはソロとユートピアの両方をもの凄い勢いで量産しており、玉石混交の感は免れないが、こういう宝石がどの盤にも何曲か潜んでいるので、トッドをベスト盤で好きになった貴方は必ずユートピアもチェックすること

 

⑪「ヒーラー」

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『ヒーリング』、世評はさほどでもないが傑作だと思う。たとえばこのオープニング曲なんか、わりかし楽に聞き流せると思うが、しかし、音を取ってみるとわかるけどムチャクチャ難しい。そのことはトッドをトリビュートしたアルバムで無名のアーティストがズタボロにカヴァーしていたのを聴いて痛感した。とんでもなく複雑な和音を平気で使ってる!

 

⑫「アンブレラ・マン」

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 なぜコレを当時お蔵にしたのか真意がつかめない、それほど私的には愛着がある。トッドが深くブライアン・ウィルソンを私淑しているってことがよくわかるナンバー。

 

⑬「失われた地平線」

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  全編一人多重録音コーラスで埋め尽くした『ア・カペラ』に収録。マーヴィン・ゲイの影響下にある作風だが、トッドはインタビューで、「カトマンズでふと思いついた楽想を、帰国して録音するまでずっと覚えていたんだ」と語っていた。恐るべき記憶力の持ち主である。

 

⑭「セカンド・ウインド」

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 80年代、一発録りに魅せられたロックアーティストが二人いる。トッドと、ジョー・ジャクソン。『セカンド・ウインド』はジョーの『ビッグ・ワールド』と共通した緊張感と疾走感がある。不惑を迎えたトッドが世に問うたシンフォニックなメッセージソング。

 

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 こないだ入手したアルバム。「Todd Rundgren - Obvious List/Less Obv List」というタイトルの、日本盤である。ライナーを読むと(翻訳がヒドい)どうやらトッド自身の選曲である。「瞳の中の愛」や「友達でいさせて」や「夢は果てしなく」や「一日中ドラムを叩け」などの有名どころを一応押さえてはいるが、「ハロー・イッツ・ミー」や「所詮は同じ事」といった人気ナンバーが省かれている不可解なセレクトだ。代わりに「一般人の恋愛」や「タイニー・ディーモンズ」といった、個人的に親しい曲が幾つか収められていた。この裏ベスト盤を聴いて、もしオレだったらどんな選曲をするだろうと考えたのが、この記事を書いたきっかけなのです。

 

⑮「タイニー・ディーモンズ」

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  あーこれは沁みるなあ。TVドラマ『マイアミバイス』でかかってから一般にも知られるようになったそうだけど、その前からトッドファンの間では名曲と讃えられていた。このギターの簡素なアルペジオは「美しい」としか言いようがないね。

 

⑯「一般人の恋愛」

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 これもギターの響きに特徴がある。トッドの音の重ね方、エフェクトのあしらい方は他が真似できない秘訣がありそうだ。コレクターズの加藤ひさし氏はトッドを、「1975年あたりで止まっているヒト」だと評していたが(悪口ではない)、2015年の今日に至っても、トッドのかけた魔法はまだ解けていない、少なくとも、ぼくは。

 

⑰「誰のためにおしゃれするの?」

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 たとえば、こんな小曲を他に誰が書ける? 歌詞に耳を傾けてくれよ、「醜いもの同士の愛ほど、美しいものはない」だぜ。ぼくはトッドの揺らぎ・あやふやさ・どっちつかずな感情などを描くところに、いちばん惹かれているんだと思う。

 

⑱「ザ・バラード(デニーとジーン)」

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But we don't always know what to say
When they ask you, what do you say?
No one can tell what's in a heart, people just drift apart


 せつない歌だ。訳してみろとせっつかれても訳せるもんじゃないよ、的なココロ。

 

⑲「所詮は同じ事~友達でいさせて~夢は果てしなく」(ピアノ弾き語り)

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 もちろん、ぼくだって上に掲げた「トッドの代表的なバラード」が大好きだ。何千回聴いたって飽きやしない。でも、当の本人は「もう飽きた、こりごりだ」と思っているかもしれないね。

 よければ、この記事も読んでください。

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

 

 おやおや、もう20曲か。「トゥー・ファー・ゴーン」やら「ゼア・ゴーズ・マイ・インスピレーション」やら「アフターライフ」やらの隠れた名曲をもっと紹介したいのだけど、きりがないから、このへんでおしまいにしましょう。

 ラストナンバーはやっぱりコレ、⑳「ザ・ラスト・ライド」www.youtube.com

 

 ん? 上級編は書けないよ。おっかねえもん。トッドのハードでへヴィーな側面やマッドな側面、思わず苦笑するしょうもない側面については、他を当たってください。

  しかし、読み直してみたら、これは“Young person's guide to Todd Rundgren”の趣だな。中級者向きにはやや甘い選曲だった。もうちょっとスパイス利かせるべきだった。というわけで、タイトルをちょっぴり変更しました。

 と反省しつつも、これは書いた日の、やや感傷的な気分が選ばせたんだろうと思う。今日だったらたぶん、「ザ・ホイール」とか「サンセット・ブルーバード」とか「へヴィ・メタル・キッズ」とか「マジック・ドラゴン・シアター」とか「キャラバン」とか「フィート・ドント・フェル・ミー・ナウ」とか「クライベイビー」とか、きりがないけど、そういったポップかつダイナミックなナンバーを選んだかもしれないな。

 

 

 

 

 【追記】

 いちばん好きな曲は何? という質問をいただきました。どれか一つを選ぶのは、とても難しいんだけど、強いてあげるとすれば、ぼくは「嘆きの壁」です。

 Todd Rundgren - Wailing Wall - YouTube

 

 ※2016年2月26日に発売の「ベアズヴィルコレクション」を購入しました。トッドがベアズヴィル(レーベル)時代に残したソロアルバム11作が1BOXに収められています。

 1枚あたり564円。これはお買い得でしょう。一家に一枚の必需品。買いなさい。