鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

男気に感ず

 
これは5年前に作られた熊本県のキャンペーン用ポスター。

f:id:kp4323w3255b5t267:20150722175631j:image 画:高浜寛 2010年

 いいでしょう? 伏せた瞼、長い睫、無精ひげ、顎から喉のライン、二の腕に生えた腕毛、トマトを握った指の節、 なんとも色っぽいではないか。日ごろマンガには縁のなさそうな、男尊女卑なクマモトのオヤジどもですら、「これは武者ンよか画ねー」と感嘆するほど、天草出身の女性漫画家の描いた、キマった絵柄のポスターだ(障子に映る影にも注目ね)。

 

 じつはおれ、このことを書くのに、ずいぶん迷った。なぜかというと、イワシもまたルッキズムの虜であると思われるのが不本意だったから。カッコいいものを見て、カッコいいって無邪気にはしゃげなくなってしまったのよね。

 自粛するムードに呑まれてしまったわけだ。

 知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているんじゃないかって、必要以上に身がまえていた気がする。

 だからといって、開き直る気にもなれなかった。

「価値体系というものはつまるところ、差別化を図ることに尽きる」なんて、わざとのように唱えることが、潔いとは思えなかったし、

「ポピュラー文化の波打ち際では、より美しいものが優先される。いかに他より秀でているかの競争であり、それに血道をあげているのが、資本主義社会に生きるボクたちの生命線なのだ」とクリエーターみたいなことをほざくのがイヤでした。

「フライヤーが洗練されているのは当然でしょ、だってそうもしないと『一般大衆』は見向きもしないんだから。きみたち『草の根』とはレイヤーが違うのさ、こっちはマジョリティーの喚起が目的なんだから」と喧伝している連中みたいに、

「カッコいい? 当然じゃん」とは、開き直りたくなかったんだよ。

『かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう』by.早川義夫

 だけど、かといって、世の中に蔓延する「カッコいい」や「かわいい」や「ステキ」や「きれいだ」に抗うほど、理念先行型ではないし、徹底もしていない。

 このブログのエントリーを見れば分かるだろう? おれの書いた記事のほとんどは「自分が好ましいと思ったもの」を羅列しているだけなんだもの。だから世のセクシズムやルッキズムを指摘し、論う側に立てる資格はないことくらい、自覚している。

 でも、どっちかというと、心情を寄せたいんだよね。

 だからうっかり、ムロヤネイさんに、「グレーゾーンです」とか打ち明けちゃったりしたんだ(迷惑な話ですね)。

 正直、揺れ動いています、今もなお。

 

 SNSの世界に長く棲んでいると、発信者の意図や、いろいろと組織だった動きが(ある程度)見えてくる。

 たとえば、《ああこの人は、自分がこうむった言いがかりをあべこべに利用している、なんともしたたかだなあ。でもちょっと拘りすぎじゃないかしら? 一発ガツンとかましておいて、あとは黙っているほうが効果的だろうに……》とか、

《反論のタイミングが鮮やかすぎやしないか? どうしてこうも素早く「潰し」にかかれるんだろ? ひょっとしたら想定問答集とか作成しているのかな? それともあらかじめ自分(ら)に不都合な論陣を張りそうな人物を「サーチ・アンド・デストロイ」とばかりにピックアップしているんじゃないか?》とか。

 末端でガヤガヤやっている身としては、いろいろと思うところはあるけれど、こっちに火の粉がかかってくるのは厄介だから、どうしても静観するかたちとなる。

 するといきおい、〈自由にもの言えない感じ〉がつきまとってくる。

 自分で、自分のことばに、リミッターをかけはじめるわけね。

 沈黙もまた一つの意思ではあろうけれども、沈黙の理由が、他者からの批判を恐れてというのなら、それはおれ自身の自由意志が萎縮しちゃっている証拠であるわけで。

 ここ何日か、なんとも歯がゆかった。

 

 その、男らしくない(あえて言ってます)、おれのウジウジ状態を一掃してくれたのが、7月29日の参議院・平和安全特別委員会における山本太郎議員の質疑だった。

 それはもう、多くの人が絶賛しているように、安保関連法案の欺瞞、致命的な根拠のなさをあばく、鋭くも頼もしい質問だった。

 おれもまた、臆面もなく賞賛した。『あしたのジョー』の名シーン、力石徹が「本物だった」と三度もつぶやくシーンを拝借してまで、ぼくは山本太郎の果敢なツッコミに拍手を送った。

 イワシ タケ イスケ on Twitter: "山本太郎は。 http://t.co/KHnZggMm08"

 冷めた態度でいたくなかった。

 これを、ヒロイズムに心酔する「生活」信者の典型的症状だと思われてもかまわない。

 ときの政権が推し進めようとする、安保関連法案の暴挙を食いとめるという目的はもちろんのこと、それ以上におれは、山本太郎の「冷静な向こう見ず」に惚れ惚れしちゃったのである。

 男が男に惚れるってやつさ。

 その気持ちを隠したくなかった。

 ともすれば、とばっちりを被りたくないおのれの臆病さを、山本太郎は蹴り飛ばしてくれたのだ。

(たぶんおれは、男とか女とかの性別よりも、人間そのものが好きなんだ。)

 

山本太郎についてのツイート】

 http://twilog.org/cohen_kanrinin/search?word=%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E5%A4%AA%E9%83%8E%20%E5%B1%B1%E6%9C%AC%E8%AD%B0%E5%93%A1&ao=o

【7月30日のツイート】

 http://twilog.org/cohen_kanrinin/date-150730

 

 最後に。できればこんなみっともない記事に、このすばらしいポスターの画像を使うべきじゃなかったなというのが、おれの今回の反省材料です、はい。