好きだったなあ、かれのベースプレイ。
押すところは押す、引くところは引く。
弾かないで済むなら、弾かないでいる。
べつに怠けているわけではない。
必要がない場所に音を置かないだけだ。
「フリー」は、その名が示すとおり自由だった。
空間(スペース)を押し広げる志向が常にあった。
音の配置には、侘び寂びというか、「シブさ」があった。
とくに日本のロックファンの琴線に触れた所以でもある。
ポール・ロジャースの抑制した唸りと、雄叫びのようなシャウト。
ポール・コゾフのレスポール。泣きのチョーキング・ビブラート。
サイモン・カークはふつう8つで刻むべきハットを4つで刻んだ。
そしてアンディ・フレイザー。
しっかりとボトムを支えつつつも、一瞬のすきをついて浮上する。
フリーのアンサンブルは出現したとき既に完成の域に達していた。
今朝、アンディの訃報をTwitterで知った。
フリーのベーシスト、アンディ・フレイザー、死去 | Free | BARKS音楽ニュース
たくさんの人たち(Every Kinda People ※)がかれの逝去を悼んだ。
ぼくはフリー以降のアンディの動向にさほど詳しくない。
昨年に来日していた、なんてことも知らなかった。
だから、かれの軌跡を語る資格はない。
ただ、『FREE・LIVE』というアルバムはほんとうによく聴いた。
4人だけのアンサンブルの豊穣に固唾を呑んだ十代のころ。
ロックを離れ、クラシックに親しみだして、再認識したこと。
室内楽(チェンバー・ミュージック)の緊張と共通していたのだ。
アンディのベースは三重奏曲のチェロのような動線を描いていた。
「Mr.Big」という曲を聴けば、そのことがよくわかる*。
コゾフのギターソロが徐々にアルペジオに移り変わる。
隙間を縫うようにしてアンディのベースが浮上する。
ぼくはこれからも何度もなんども口酸っぱく唱えつづける。
その瞬間こそがロックミュージックの到達した頂点の一つだと。
ぼくの大好きな映像をここに掲げたい。
英グラナダTV、70年の放送だ。
フリーが如何に優れたアンサンブルを誇ったバンドかがわかる。
そしていつでも。
18歳になったばかりの、凄腕でキュートなベーシストに会える。
FREE- "Doing Their Thing" - Live at Granada Studios - 1970 HQ
25分間、黙ってこれを観てほしい。
ぼくの言っていることがウソじゃないってわかるだろう。
詰めこむより、抜く。音数も力も。
そんなことを、かれからは学んだ。
追悼、アンディ・フレイザー。
【補足】
※アンディ作曲のこの歌は、故ロバート・パーマーの出世作となった。田中康夫氏もお気に入りの一曲。
Robert Palmer - Every Kinda People - YouTube
【追記】
*「Mr.Big」を3ヴァージョン聞き比べてみよう。これらを観れば、Freeがいかに卓越したアンサンブルだったかが、お分かりいただけるだろう。その礎は、サイモン・カークの安定したドラムにある。かれが要となっているからこそ、他の三人は縦横無尽に暴れまわれるのだ。
① ワイト島ロックフェスティバル。コゾフの完全燃焼を聴きたいならこれがマスト。
FREE - MR.BIG(LIVE 1970) - YouTube
② 独のTV番組「ビートクラブ」より。ポール・ロジャースの歌のコクはこれが一番。
FREE - Mr Big ( Live BEATCLUB Germany ) . *HQ Audio* - YouTube
③ 上掲のグラナダTVより抜粋。アンディのベースプレイを堪能したいならこれかな。
【さらに】
フリーのマストアイテムとなると、やはりこのアルバムになるだろう。表題曲「Fire and Water」は冒頭に、ヒット曲「All Right Now」はラストに、「Mr.Big」は5曲目に収録されている。
Free - Fire And Water (Remastered) FULL ALBUM - YouTube
【リンク】
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