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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

パワーハラスメント

 
 
 
 先日、ある女性から相談を受けた。相談の中身をここで詳らかにすることはできないが、一言でいえば、上司からの圧迫に耐えきれないということだった。気丈にふるまおうとしていても、ふとしたはずみで、心のつっかえ棒が折れてしまうのだと。
 事情を聞いて、ぼくは愕然とした。彼女の訴えを聞いているうちに、ふつふつと、怒りが湧いてきた。なんてデリカシーのないやつだろうと。その上司は、こう開き直ったそうだ。「パワーハラスメントは、感じる側でまちまちなんだよ。ひどいと感じる人もいれば、たいしたことないと感じる人もいる。要するに、人それぞれなんだ」と。
 なにが、人それぞれだ。現に、いまこうして、おまえのことばに傷つき、泣いている女性がいるじゃないか。それがすべてだ。おまえの放つことばには、あきらかに毒がある。その毒性を、悪意を、自覚もしない、検証もしない、ましてや反省もしない。「言いたいことをいってなにが悪い、思ったことを口にすることの、どこがいけないのだ」とうそぶく。そういう傲岸不遜な態度こそが、罪深さの根源であるというのに!
 3つほど、例をあげようか。
「あんたは家に帰って、まともに主婦のつとめをしてるの? おれにはそう思えんがね」
「風邪ぎみだったら、マスクをしておけ。他の者に移ったらどうする。あんたのせいだぞ」
「強情な女だね。可愛げがない。お宅の亭主は、よほど我慢強いんだなあ」

 え、どこが問題なの? たいしたことないじゃん、と思ったあなた。あなたは、感度が、鈍い。思いやりの気持ちが、まったく欠落している。それを、上に示した3点は、職場のみならず、一般的にみても、絶対にNGだ。なぜならば、女性蔑視の意識が、ことばの底に潜んでいるからだ。いや違う、あからさまに女性の人格を蔑ろにしており、それを隠そうともしていないからだ。プライバシーの領域に、遠慮なく土足で踏みこんでくる、おそるべきデリカシーの欠如。

 もちろん、仕事の内容に関しては、これ以上にきつい罵詈雑言を、彼女は件の上司から毎日のように浴びせかけられて、いる。

 これが、21世紀の、今を生きる男の、平均的な意識とは思えないし、思いたくない。だが、現にいるのだ、そういう人権意識のかけらもない輩が。そんな酷いことばを放ったその口で、口先だけで、平等だのおもてなしマインドだの顧客満足だのを吐かしやがるんだから、もう最低だ。そういう奴らは平気で二枚舌を使う。そんな気持ちなどさらさらないくせに、しれっと美辞麗句を語る。意思はない。慮る気持ちなどない。ただ、機械的にことばを発しているだけだ。自分の本性を隠し通しているつもりで。だが、平素の態度を知っているものからすれば、それは嘘まやかしの羅列でしかない。そんな口先の公式見解なぞ、すぐにお里が知れる。足元を見られる。それが、いまの日本の、50歳代の管理職を中心とした社会の、いびつな現状だ。
 
 ……話を戻そう。
 さて、彼女の言い分が、不平不満の、単なるわがままだと思うかね? 思うんだったら、ぼくは、あなたと口を聞きたくないな。
 彼女はこう言った、「わたしが我慢すればいいんですよね」と。「でも、我慢できないときが、たまに訪れるんです」と。「どう考えたって、『ここまで言われる筋合いはない』と思ってしまうんですよ。これ、わがままでしょうか」と、涙ながらに打ち明けた。
「女性は信用ならない」「涙を武器にして同情を誘おうとする」「騙されるな」などという意見もあるだろう。そう指摘した時点で、ぼくはあなたを軽蔑する。理由は不要。説明もナシだ。
 ぼくは、なんの権力も財力も精神力も持ち合わせちゃいないけど、それらの「力」よりも、ずっと大切なものを備えているつもりだ。それは、人の痛みを感じることのできる力、だ。甘っちょろいのは百も承知さ。「おまえのほうこそきれいごとじゃないか」と言わばいえ。だったらば、おまえらのもっとも苦手そうなことばで言いかえしてやる。
 優しさは、男の、勲章だ。
 ぼくはいくつかのアドヴァイスをしてみたけれども、それが適切なものかどうかはわからない。気休めにもならなかったかもしれないし、有益な対抗策を打ちだせたとも思えない。
 だけど最後に彼女は言った、わたしの愚痴を聞いてくれてありがとう、と。
 泣き腫らした目をしてね。それに同情できないようなら、男性失格、だぜ。
 
f:id:kp4323w3255b5t267:20150226133125j:plain とりあえずこっちへ。
 
 あーまた書きなぐっちまったい。腹にすえかねて。
 この歌を聴いて怒りを鎮めよう。
 Tears for Fears (ft.Oleta Adams)の、Woman in Chains を。
 
 
 無意識なことば。無自覚な圧迫。人権侵害にたいする無知・無関心、そして機微の欠落。それは自分の裡にも潜んでいるやもしれぬ。パワーハラスメント。女性を縛りつける愚かさの連鎖を、ぼくたちは解かねばならない、今すぐに!