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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

黒い犬 その後(迷子犬情報つき)

 

  

 先週の金曜日、職場に犬が迷いこんできたことは、Twitterですでに述べた。

 黒い大きな犬で、犬の種類にうといぼくにも、ラブラドールレトリバーだなと推測できた。かれはおとなしく、吠えもしないで、公園の回廊をよたよたした足取りで歩いていた。ぼくが呼びかけると、ん? といった表情をし、傍によってきた。人怖じしない様子から判断するに、飼い犬だったことは明らかだった。

 

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 前日が雨だったので、かれの全身は濡れていた。何も食べていないのか、胴回りは細くくびれていた。ラブラドールレトリバーとはいえ、みすぼらしい感じは否めなかった。ぼくは業務に追われており、持ち場を離れられなかったから、かれを見守ることはできなかった。が、気がかりでしょうがなく、手が空いたら、かれに何か食べさせたい、濡れたからだを拭いてあげたいと思っていた。

 しかし公園での動物の飼育は、認められないことだった。

 ぼくの上司が、最寄りの保険所に、迷い犬を引きとってくださいと連絡したのだ。保健所の対応は素早かった。ぼくがかれと出くわしてから1時間もたたないうちに、派遣された職員が2名到着した。ぼくは彼らの持っていた太い針金の輪っかを見とがめた。そんなものはいりません、おとなしいですからというのがせいいっぱいだった。

 保険所の職員に、こういう迷い犬がいますとインターネットで報せたいのですが、と申し出た。彼らはべつにかまいませんよといったので、ぼくはTwitterで【拡散希望】と呼びかけた。あせっていたのでハッシュタグ(#をつけて検索しやすくする方法)を付け忘れた。それでも10数名の方々が、ぼくの投稿した情報をリツイートしてくれた。

 かれが連れて行かれた瞬間を、ぼくは見ていない。他の業務の対応をしており、抜けるに抜けだせなかった。かれが保険所の職員に促されてトラックの檻に収められる瞬間を、この目に焼きつけるべきだったと、いまでも悔やんでいる。

 その後、上司に訊いた。どうしてすぐさま保健所に連絡したのですか、何日かうちで保管して、呼びかけてみてもいいじゃないですかと。すると上司は、ばかたれ、何を甘いこと言ってるんだと、ぼくを諌めた。

「うちで保管するって、どうやって?」

「犬小屋があります」

「あれは、持ち込み禁止にもかかわらず、連れてきたお客様の犬猫を、一時的に預かる施設だよ。お客に持ち込みを禁止しているのに、当公園が飼っているわけにはいくまい? だいいち、誰が世話するんだ。それともイワシさんが、休みの日も来て餌をあげるかね?」

「しかし、保険所に預けるというのは、どうも……」

「気持ちはわかるがね。それは優しさじゃないよ。こういうことは、その道のプロに任せるのがいちばんだ。迷い犬を預かっていますという広報にしたって、そうだよ。保健所のホームページをみてごらん。あれと同じような対応を、うちが出来ると思う?」

「……」

「それにね。むかしはね、この公園にも動物がいたんだ」

「知っています」

「ポニーやらウサギやらヤギやら。職員が交代で世話をしていた。しかし、それができなくなったのは、なぜだか知っているか?」

「『知事の直行便』に、クレームがきたからだと聞いてます。ウサギ同士が傷つけあうのが残酷で、子どもには見せられない、という意見の投書があったと」

「それもあるがね。

 もう一つの理由はね、口蹄疫からだよ。うちに隣接しているセンターが伝染病に冒されるリスクは、最小限にとどめなくちゃならない。鳥インフルエンザもそうだけど、あの件があってから、動物を飼わなくなったんだ。」

 それなら、たまに来る野良猫はどうなんだ、モグラやイタチや野ネズミもいるじゃないか、カラスや野鳥は? そう食いさがろうと一瞬思ったが、やめた。

 もう、黒い犬は、保健所へ連れ去られてしまった。あとでいくら何事かを付け加えようと、それは言い訳にすぎない。ぼくは身を挺して、連れて行くなとは言わなかったし、ぼくが飼いますとも言えなかった。結論を、先延ばしにしようとしてたのにすぎない。

 自責の念にかられて、ぼくはそのあとすごく落ちこんだ。

 

 

 今日、休みなので、かれに会いに行こうと思った。三連休のあいだ、気がかりできがかりで、しょうがなかった。該当保険所のある市まで足を運んで、面会しようと思った。面会して、どうなるものでもないが、かれがちゃんと食べているか、毛が汚れたままでいないかを、この目で確かめたかったのだ。

 だが、面会はかなわなかった。保健所に問い合わせると、飼い主でもないし、かりに譲渡する条件も満たしていないのであれば、会わないほうがよろしいでしょうと、やんわり断られたのだ。

 電話に出たのは、男性の職員だった。丁寧な応対から、誠実そうな印象を受けた。

「告知から2日間、つまり今日から26日までは、迷子犬として扱います。そのあいだに飼い主が現われなかったら、今度は、譲渡犬として扱われます。譲渡するには、責任をもって飼えるかどうかのチェックがあります。とくにこういった大型犬だと、飼うには相当の覚悟が要りますね。とにかく、飼えない状況の方でしたら、会わないほうがいいと思います。お気になさる気持ちは、お察ししますけれど」

「……わかりました。

 では、譲渡犬として、どれくらい保護していただけるのでしょう?」

「それはこちらの判断によりますね。期間はまちまちです。すぐに貰われていくワンちゃんもいれば、そうでもないワンちゃんもおりますし。職員が、適宜判断しています」

「そうなると、その、処分ということに」

「すぐにはなりませんが、譲渡の宛てがなく、年齢や体力等を考慮したうえで、処分が適当であると判断した場合は、その措置をとります。もっとも、県下では動物愛護のボランティア活動も盛んですし、熊本市をはじめとして、殺処分ゼロの方向を目指しています。ここ何年かで、ずいぶん減りました。そういう取り組みで努力していることを、ぜひご承知ください」

 

 

 黒い犬と面会することは、かなわなかった。しかしかれはまだ生きている。3月26日までは、迷子犬として登録されている。それまでに、飼い主の方が探し当ててくれたらいいと、こころから願っている。

 また、かりに飼い主だった方が、飼育を放棄していたとしても、できれば悔い改めて、もう一度もとの関係に戻っていただきたい。それは動物を飼うものの責任であり、義務だ。

 そしてかりに、飼い主が見つからなかったら、かれは譲渡犬として扱われるけれども、「熊本県動物愛護管理」のホームページを見ると、かれは11歳以上、それほど若くはない。処分の決定は、遠くないかもしれない。それまでになんとかして、かれを生き延びさせてやりたい。

 ぼくは、飼えない。ぼくは両親と猫の世話で手一杯だし、飼える環境にもない。ぼくは無力だ。この件に関して、なんと非難されても仕方ないと思っている。どんな批判を浴びても、甘んじるつもりでいる。

 だから、頼みます。もしも飼い主が現われなかったら、誰か、かれの面倒をみてやってくれませんか?

 きっとかれは、保健所の施設のなかで、じゅうぶんな食餌を与えられているだろう(と想像する)、ちゃんと毛づくろいされているだろう(と信じている)。野良犬として、野山をさまよって、ひもじい思いをしているよりは、いくぶんかはましなのかもしれない。

 が、しかし、かれのいのちは、期限つきなのである。

 飼ってもいいかな、うちには飼える余裕があるからと思った方がいらっしゃったら。 

 救ってやってくれませんか、おとなしくて、優しそうな犬でしたから。

 

 

 熊本県動物愛護管理のホームページを掲げておきます。

(註:後日リンクを外しています)

 ページの左端にある「迷子犬情報」をクリックすると、3月24日現在、かれが筆頭に現われる。収容日:3月20日、保管期間:3月26日、ナンバー:03100783、性別:オス。詳細は表の右側の詳細ボタンをクリックしてください(無断転載は不可)。

 

 

【追記】

   その後、上記のページにアクセスすると、かれは2ページ目に表示されている。つまり、昨日一日で、 5匹の犬が新たに捕獲されているのだ。

    この現実にたいして、ぼく(たち)は何をすればいいのだろう。より有効な方法とは一体なんだろう。

     動物愛護にかんして、今回の出来事を機に、いろいろと調べてみて、全国的にさまざまな取り組みが成されていることを知った。

    微力ながら、自分にできることを考えて、実行していく他にない。