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鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

例のクラプトン記事を添削してみた。

 
 
 
 
 産経新聞の、エリック・クラプトンの記事が、あまりにも酷いというので話題になっている。どんなものかと読んでみたら、なるほどこりゃヒドい(笑)。熊本弁でいうところの、「なんとんつくれん」悪文である。ロック的な要素がまったく感じられないという意見が多いが、ぼくは単に文章が下手くそなだけだという気がする。
 というわけで、不肖シロウトのワタクシめが、該当記事を添削してみます。
  

エリック・クラプトン 日本ツアー 日本人に訴える奏法  産経新聞 3月8日)

↑ まず見出しから酷い。「日本人に訴える奏法?」意味不明。見出し再考。
 
1974年の初来日から今回で20回目。日本で最も親しまれている洋楽ロックスターの一人で、年齢的にもこれが最後の来日になるのではとも言われている英のロックギター奏者兼歌手、エリック・クラプトン(68)。

  ↑  文章は簡潔に。余計な修飾は不要。

 
【添削例】
1974年の初来日から数えて今年で20回目。日本にも数多くのファンがいるイギリス出身のロック歌手/ギター奏者、エリック・クラプトン(68)。

*この程度でじゅうぶん。

 
初来日から40周年の節目となる今回の日本ツアーだが、長きにわたり、なぜここまで日本人を魅了し続けたのか。2月26日の大阪城ホール大阪市中央区)での公演を観て、その理由がおぼろげに理解できた気がした。
 ↑ 冗漫な言いまわしは避けたい。
 
【添削例】
年齢を考えると、今回の日本ツアーのコンサートが最後かもしれない。2月26日の大阪城ホール大阪市中央区)に集まったファンは、そんな思いを抱いていたのではないか。
*コンサートはライブでも可。が、産経新聞の購読者を考えると、コンサートが妥当かもしれない。 
 
公演は80年代のヒット作「ジャーニーマン」収録の「プリテンディング」でスタート。ラフな服装で直立したまま、トレードマークの米フェンダー社のストラトキャスターで激しい弾き語りを始める。
↑ ラフな格好で直立したまま、という言い回しはおかしい。
 激しい弾き語り、も不適当。
 
【添削例】
コンサートの幕開けは、80年代のヒット曲「プリテンティング」(アルバム『ジャーニーマン』収録)。ラフないでたちで、愛用のストラトキャスターフェンダー社製のエレクトリックギター)を掻き鳴らしながら歌うエリック。その歌声は意外なほど激しかった。
 *( )内は省略してもよい。 
 
約80年前、十字路(クロスロード)で悪魔に魂を売り、無敵の演奏技術を入手したとの伝説を持つ米ブルーズギター奏者、ロバート・ジョンソンが生み出した演奏法をスマートな現代風に改変した演奏スタイルは、相変わらず破綻もなく冷たく燃え上がる。日本人好みの絶妙のバランス感覚といっていい。

 ↑ 「無敵の」「日本人好み」をトルと文がスッキリする。

 
【添削例】
アメリカのブルース歌手/ギター奏者のロバート・ジョンソンは、十字路で魂を売り、悪魔的な演奏技術をものにしたという伝説がある。彼の代表作「クロスロード」をスマートな解釈で継承したエリックのギター奏法は、日本人にも理解しやすいクールなたたずまいを備えている。
 *どうしても日本人を入れたいなら、このくらい謙虚に。
  
中盤、アコースティックギターに持ち替えて代表曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」(92年)などを披露するが、60年代末、山ごもりで独自の演奏技術を確立後、重度の薬物中毒に陥り、仲間のジョージ・ハリスン(元ビートルズ)の嫁を略奪…。波瀾万丈の復活劇も日本人の心に響く。

 ↑ 嫁の略奪、はマズいだろう。山ごもり、も滑稽。修行になぞらえたいのだろうが。

 
【添削例】
中盤では、アコースティックギターに持ち替え、日本で大ヒットした「ティアーズ・イン・ヘブン」の弾き語り。愛息をなくした悲しみを切々と歌う枯淡の境地が日本人の琴線にも触れる。思えば、ジョージ・ハリスンビートルズ)夫人だったパディに横恋慕したころに発表した「レイラ」も、日本人の好む不倫を題材にしていた。
 *上の解釈がご不満なら、以下のような書き方でもよい。ただし、新聞コラムにはそぐわないが。
 
【添削例⑵】
ギターの奥義を究めんと山小屋に籠り修行に明け暮れる若きエリック。数多のギタリストを凌駕した腕前。しかしその代償としてエリックは重度の麻薬依存に陥る。その窮状を救ったのは、盟友ジョージ・ハリソンの愛妻パディ・アン・ボイドであった。
 *とかね。ま、このくらいの潤色ならギリギリ許される範囲だろう。 
 
再びエレキを手に、白人ブルーズギター奏法の代表曲「クロスロード」(68年)を亡き師匠にささげ、薬物中毒も昔のことさと「コカイン」(77年)を熱唱。これまで以上に日本人的メンタリティーを感じさせるステージだった。(岡田敏一)

 ↑ 日本人的メンタリティー、とはいかなる意味を持つのか。この記事から導きだせる結論は、「過去を反省しないこと」としか読めないが、いいのかそれで?

 
【添削例】
ハイライトでは、心の師匠ともいえるロバート・ジョンソンの「クロスロード」を披露。さらには往年の薬物中毒をセルフパロディしたかのような「コカイン」(77年、アルバム『スローハンド』収録)も熱唱。定番曲が目白押しの今回の日本ツアー、生きながら伝説と呼ばれるエリック・クラプトンの現在を示すものであった。
  
 さて、ぼくが【添削】した文章をまとめてみると、以下 ↓ のようになる。
 
 1974年の初来日から数えて今年で20回目。日本にも数多くのファンがいるイギリス出身のロック歌手/ギター奏者、エリック・クラプトン(68)。
 年齢を考えると、今回の日本ツアーのコンサートが最後かもしれない。2月26日の大阪城ホール大阪市中央区)に集まったファンは、そんな思いを抱いていたのではないか。
 コンサートの幕開けは、80年代のヒット曲「プリテンティング」(アルバム『ジャーニーマン』収録)。ラフないでたちで、愛用のストラトキャスターフェンダー社製のエレクトリックギター)を掻き鳴らしながら歌うエリック。その歌声は意外なほど激しかった。
 アメリカのブルース歌手/ギター奏者のロバート・ジョンソンは、十字路で魂を売り、悪魔的な演奏技術をものにしたという伝説がある。彼の代表作「クロスロード」をスマートな解釈で継承したエリックのギター奏法は、日本人にも理解しやすいクールなたたずまいを備えている。
 中盤では、アコースティックギターに持ち替え、日本で大ヒットした「ティアーズ・イン・ヘブン」の弾き語り。愛息をなくした悲しみを切々と歌う枯淡の境地が日本人の琴線にも触れる。思えば、ジョージ・ハリスンビートルズ)夫人だったパディに横恋慕したころに発表した「レイラ」も、日本人の好む不倫を題材にしていた。
 ハイライトでは、心の師匠ともいえるロバート・ジョンソンの「クロスロード」を披露。さらには往年の薬物中毒をセルフパロディしたかのような「コカイン」(77年、アルバム『スローハンド』収録)も熱唱。定番曲が目白押しの今回の日本ツアー、生きながら伝説と呼ばれるエリック・クラプトンの現在を示すものであった。(イワシ タケ イスケ)

 

 
 
 産経記事のほうが、ゴツゴツしていて読み応えがある、という方もいらっしゃるだろう。読み返してみると、ぼくのはツルンとしていて、どことなく朝日新聞っぽい(笑)。限られた文字数の中で、いかに情報を圧縮するかが、新聞記者の腕の見せ所であろう。そういった意味で、岡田敏一氏の原稿は、産経新聞の読者の好みにピッタリと合致した、訴求力の高い文章だとも言えるだろう。
 ――が、しかし。
 エリック・クラプトンの今回のライブを観てないから、良し悪しの判断はつかない。だけど、シロウトのぼくにだってこの程度の文章は書ける。産経新聞の記者なら、もっと練った記事が書けるはずだ。「日本人メンタリティー」なる結論に無理やり持ってこようとするから、文章が消化不良を起こすんだと思う。
 
 
 確かに、エリック・クラプトンの音楽は、日本人に好まれる。その分析に枚数を重ねるつもりはないが、ひとことでまとめるなら、それは「抒情性」である。他のブルースをベースにしたロックと比べれば、それは一層顕著になる。エリックの表現は、繊細かつセンチメンタルである。悪いことではない。それはかれが生来もっている資質であるのだから。
 
 締めくくりに1曲貼っておく。「キャント・ファインド・マイ・ウェイ・ホーム」。ぼくは、ブラインドフェイスのオリジナルヴァージョンよりも、『ワズ・ヒア』に収録されていたクラプトン(&イヴォンヌ・エリマン)のライブヴァージョンのほうが好きだ。なぜなら、頼りなさげなエリックの歌声が、寄る辺をなくした者の心情を、上手く表現しているように思えるからだ。
 
  
『ワズ・ヒア』版が見あたらなかったので、最近の豪華メンツのヴァージョンをご紹介しておく。
  あ、ちなみに、リードヴォーカルをとっているのは、(この佳曲の作者でもあり、英米ではクラプトンと並び称される)スティーヴ・ウィンウッド、という人です。
 エリックのアレンジと歌い方を踏襲しているね。
 
【付記】
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 この写真は、ぼくがひそかに畏怖する作家、山口泉さんのブログに載っていたものである。勝手に拝借したうえに、リンクを貼るのもおこがましいが、以前に一度だけこの方にリツイートしていただいた。ぼくはかつて、『オーロラ交響曲の冬』(河出書房新社・97年)という美しい作品を、子どもに買ってあげたことがある。だから、嬉しかった。
 ぜひ読んでみていただきたい。ぼくのようなおちゃらけたブログではなく、背筋がひやりとする鋭利な文章が読める。こういうのを「ホンモノのコンサートレポート」というのだ。


セシウムまぶしの夜気を顫(ふる)わす、エリック・クラプトン〔前 篇〕 音楽全般(第1信) : 山口泉 精神の戒厳令下に