鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

Review

秋刀魚の味

秋日和の空の下、小津安二郎最後の監督作品、『秋刀魚の味』のことを想う。 平山周平(笠智衆)は、ひとり娘の路子(岩下志麻)を嫁に出さなければならないと決心する。なぜ嫁に出さないとならないかというと、同窓会で会った恩師(東野英治郎)が、娘(杉村…

ドラムス/ステッカー 森脇真末味

森脇真末味の「ドラムス」は1980年、小学館プチコミック3月号に掲載された。手元にある単行本、『緑茶夢(グリーンティードリーム)』第1巻(昭和55年8月20日初版)によると、シリーズ第2作と記されている。前作「緑茶夢」に漂っていた「少女マンガらしさ」…

絲山秋子著『小松とうさちゃん』の、うさちゃんへエールを贈る 

うさちゃん。 ぼくは小松さんと同世代なんだけどさ、読んだあとどちらかといえば年下の宇佐美さんに肩入れしたくなったんだよね。だから親しみをこめて、うさちゃんと呼ばせてもらうよ。 うさちゃん、がんばったね。なかなかできることじゃないよ。小松さん…

見えない「 」 絲山秋子『薄情』

震災後、久しぶりに購入した二冊の書籍について語りたい。絲山秋子チクルスである。まずは『薄情』から。 主人公の宇田川静生は降り積もった雪にコンベックススケールを突き刺す。スチール製の巻尺、メジャーのことである。現場ではコンベと略称されるが、正…

ぼくがいちばん好きなブログ、narajin.net

前の記事でブログについてあれこれ書いたので、今日はぼくのいちばん好きなブログをご紹介しようと思う。 narajin.net 奈良 仁さんが約10年間かけて育てた、ブログのお手本ともいうべきブログである。 home ぼくがnarajin.net を知ったのは2008年4月のこと…

デヴィッド・ボウイと大島弓子

2016年1月10日、デヴィッド・ボウイが69歳で亡くなった。訃報とお悔みがインターネットを飛びかうなか、ぼくも一つだけ、かれの墓碑に花をたむけようかと思う。 かれの音楽、舞台、映画、表現活動に於ける諸々の業績は、誰か他の方が詳細に語ってく…

『アンダーカレント(豊田徹也)』 底流の暗示

『アンダーカレント』は2005年に講談社より刊行された豊田徹也の中編マンガである(全1巻)。 表紙の絵を見るだけで一目瞭然であるが、ビル・エヴァンスとジム・ホールの傑作アルバム、『Undercurrent』Undercurrent - Bill Evans and Jim Hall (Full Album…

ギャラリー 『深紅の帆』 さし絵・金子国義

今日は、ぼくの初恋のひとを紹介しよう。 アッソーリ。 ソ連(当時)の作家、アレクサンドル・グリーンの小説、『深紅の帆』のヒロイン。訳は原卓也、さし絵は金子国義(國義・1936年7月23日 ‐ 2015年3月16日)である。 箱の表。石坂洋次郎と吉永小百合が推…

『Soliiste〔ソリスト〕』 寺田和代の描いた線

小さな、薄い本である。機内持ち込みバッグに詰めこめるくらいの。現代詩文庫と同じサイズだ。簡潔明瞭な文章だから一気に読みおおせる。だけども中身はぎっしり詰まっている。情報量が半端ない。 もしきみが漠然と、旅行に行きたい、国外に出てみたいと考…

なにも描かれていない部分こそを読め 『海街diary』

吉田秋生の作品が好きである。 とりわけ鎌倉を舞台にした『海街diary』(小学館・現在6巻)は、近年まれに見る傑作である。 映画の宣伝になるみたいでちょいとシャクだけど、連載誌『月刊フラワーズ』7月号の表紙をみればわかるとおり、今週の6月13日(…

玉井勝則の手紙

南京に滞在したことがある。抗日記念館(南京大虐殺記念館)にも初日に足を運んだ。通訳のかたに案内されたのである。翌日訪問した小学校の講堂には「抗日」と書かれた、日本兵が中国の家族に銃を向けている絵が何枚も掲げられていた。そんな中で「鰯老師・…

北岡自然公園と「阿部一族」

先週の葬儀の帰り、熊本駅の近くに風情のある公園を発見したので、気になっていた。一週間後にもう一度、九州新幹線の高架沿いにクルマを走らせていたところ、紅葉が見事に染まっていたので下車し、白い塀に囲まれた公園へと足を踏みいれてみた。 北岡自然公…

田中康夫 『33年後』に聞こえる音楽

田中康夫の小説「なんとなく、クリスタル」でいちばん笑ったのは、ビリー・ジョエルを「ニューヨークの松山千春」と一刀両断していたことである。 あの本を読んだのはいつごろだったか記憶はあやふやけど、ぼくは筋書きをちっとも覚えてなくて、あの膨大な数…

『火山のふもとで』に描かれた「ユートピア」

今年4月に彩の国から送られてきたこの本を、しばらく読まずにほったらかしにしておいた。冒頭の2ページほどで、くじけてしまったのである。テンポがあわないというか、こういった文芸作品を読むためのチューニングができていないというか、とにかく、読ま…

『翼のない鳥』 (二度目のファンレター)

『翼のない鳥』 表紙 1975年 たくさんのものを捨ててきた。いままでに読んできた書物の大半は、たいてい売っ払ってしまった。部屋に残した本は、往年の文学全集ばかりである。 けれども、どうしても手離せないものがある。十代のころ夢中になって読んだ、少…