鰯の独白

鰯は、鮪よりも栄養価が高いのです、たぶん。

Back to 90'sの趣き/トッド・ラングレン『ホワイト・ナイト』

 

『ホワイト・ナイト』は、トッド・ラングレンが2017年に発表したアルバムである。

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トッドと誕生日が1日違いの)リュウジが持ってきてくれたCDを、ぼくはクルマの中で何回も聴きながら、感想を書かなきゃなと焦りつつ6月をすぎ、7月に入ってしまった。

『ホワイト・ナイト』とは英語で「白騎士」の意味。日本においては「白馬の騎士」と意訳される場合が多い。M&A(企業の買収や合併)における「敵対的買収を受ける企業にとって友好的な第三者(企業もしくは人)」を指す。2005年のライブドアによるニッポン放送買収問題でフジテレビのホワイトナイトだと北尾吉孝氏が評されたことで、日本でも普及した経済用語である(経済に疎いイワシ、付け焼刃の解説)。

トッドがアルバムのタイトルに定めた理由は、狭義の意味ではなく、コラボレーション・アルバムであることを婉曲に表明したかったのだろう。窮地を救ってもらったというよりも「友だちにちょっと手伝ってもらった(With a Little Help from My Friends)」くらいのニュアンスではなかろうか。

というわけで、これはワンマンなトッドのキャリアでも珍しい、他者を招き入れた作品集である。クレジットは下記参照。

1. Come
2. I Got Your Back feat. KK Watson with Dam Funk
3. Chance For Us feat. Daryl Hall with Bobby Strickland
4. Fiction
5. Beginning Of The End feat. John Boutte
6. Tin Foil Hat feat. Donald Fagen
7. Look At Me feat. Michael Holman
8. Let’s Do This with Moe Berg
9. Sleep with Joe Walsh
10. That Could Have Been Me feat. Robyn
11. Deaf Ears feat. Trent Reznor & Atticus Ross
12. Naked & Afraid feat. Bettye LaVette
13. Buy My T
14. Wouldn’t You Like To Know feat. Rebop Rundgren
15. This Is Not A Drill feat. Joe Satriani with Prairie Prince & Kasim Sulton

トッドのファンには馴染みの名前もちらほら見かけるが、やはり話題の中心は、かのスティーリー・ダンを率いたドナルド・フェイゲンをヴォーカルに起用した、6曲目の「ティン・フォイル・ハット」だろう。先日も偶さか民放エフエムでかかっているのを聞いたが、二人のヴェテランが久しぶりの(ポテン)ヒットを放ったって感じだ。

聴いてみようか?


Todd - Rundgren - Tin Foil Hat (feat. Donald Fagen) [Official Video]

Because the man in the tin foil hat
Is gonna drain the swamp tonight
And fill it up with alternative facts
And it's gonna be great, tremendous, amazing, and all that

まあ、ドナルドがドナルド(トランプ)を歌うという、タイムリーだけど何の捻りもない企画ではあるが、ぼくはこれ、曲が先に出来てしまったんではないかと睨んでる。で、トッドのことだ、「しまった、これじゃまんまスティーリー・ダンじゃん」と舌を打ちつつも、にわかにプロデューサー根性を発揮、「だったらドナルド本人に歌わせりゃいいんじゃ?」とアイディアが閃いたのではなかろうか。ちなみに二人の初顔合わせは2006年で、名ソウル歌手アル・グリーンの“Rhymes”をカヴァーしている(アルバム“Morph The Cat”のアウトテイク。2012年の“Cheap Xmas:Donald Fagen Complete”に収録。今年8/23に日本盤が発売)。

話が脱線してしまったが、トッドの割りきった粗めのアレンジが、いささか高級すぎてアウト・オヴ・デートになりがちなドナルドのパブリック・イメージに、いい感じの今日性をもたらしている。なんでもワイアード誌によれば最近の全米ヒットは、

イントロ短く(5秒前後)、曲名短く、唐突にリフ(開始後30秒以内)、間奏はなく、曲自体短く、ミックスは安っぽく、認識しやすい。

という特徴があるのだそうだが、この歌は、最新型ポップの条件を(結果的にだが)見事にクリアーしている。職人気質で、どちらかといえば冷笑派の二人も、思わぬ出来映えに苦笑いしただろう。

ちなみに「錫の・ホイルの・帽子」とは「陰謀論者」のスラングだというブログ記事を見かけた。真相は分からないが、トッドはインタビューでトランプ大統領の政策を烈しく非難していたから、ヴィデオを確かめるまでもなく、オルタナ・ファクトを振りかざす「誇大妄想狂・ドナルド」を徹底的に茶化した歌詞であることは間違いあるまい。

 

でもリュウジ、この調子で一曲ずつ解説していたら日が暮れちまうよ。あとは大まかな印象でお茶を濁してもいいかな?

 

『ホワイト・ナイト』は全体的にリラックスした曲調が多いから、旧知のファンにも新参のリスナーにもとっつきやすい作品だといえる。

今のところベストトラックと思うのは2曲めの「アイ・ガット・ユア・バック」。トッド唯一無二の浮遊感あふれるコードによる抑制された4小節ループ。元祖テクノ男がデトロイトテクノ的な要素をようやく自家薬籠中のものとした感じがする。これは前作『グローバル』のツアーで身につけたセンスだろう。EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)とトッド流ソウルテイストが良い塩梅に融合していて、裏切りがない。

それはアルバム前半の旧友ダリル・ホールとの共演や、続く女性ヴォーカルによるお得意の3連バラードにも言えることだが、衰えた部分を他人に補ってもらうことで、無理なくメロディーに没入できる。トッドはなんでも一人でやれるし、一人でやりたがる人だったけど、ときにそれは聴く際の負担にもなりかねなかった。

しかし、このスムージーな感覚はなんだろう?誰かが80年代洋楽ポップス的だと評していたけど、EDMをトッドなりに咀嚼したサウンドの肌触りは、むしろ90年代のそれに通じないだろうか。具体的に誰みたいだとは言わないが、あの物議をかもしたインタラクティヴCD、“TR-i”の前後に、今回の『ホワイト・ナイト』みたいなトッド流R&Bがリリースされていたら、より広範囲な支持を獲得できたかもしれないと想像してしまう。もちろん四半世紀前に戻れるはずもなく、トッドは安直な道を選ばないチャレンジャーだから、その夢は果てしなくもはかないものだが。

アルバムも後半になると少々だれる。CDのフォーマットでは仕方ないことだが、それでもナイン・インチ・ネイルズトレント・レズナーが参加した「デフ・イヤーズ」は後半のハイライトともいえる秀逸な仕上がりだ。ただ、その音響デザインは、どちらかといえばNINとよく比較されるレディオヘッド(それも“Kid-A”)により近い。ひょっとしたらトッドは「絶対にありえない共演」を、デスクトップに仮構したのかもしれない。

あと、ラストナンバーだけど。「トッドくんのかんがえたさいきょうメンバー」による演奏はあまりにも予定調和的で面白くなかった。この3人ならこれくらい楽勝だよねーと聞き流してしまう。もっと10分ぐらいの長尺で、転調&リズムチェンジしまくりの、陽気なプログレハード・ロックを展開してほしかった。もっともトッドも御年68歳、あんまり無理はきかない齢だから、ま、健在ぶりを確かめられただけでも良しとしなくっちゃなあ……

 

ああそうだ。日本盤にはもう一曲、『グローバル』ツアー時のハイライトナンバー、「ワン・ワールド」が収められている。

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 「オハイオ・トゥ・トキオー」じゃなくて「クリーヴランド・トゥ・トキオー」だけども。「ワン・ワールド」ってシンプルだけど飽きがこない、トッドの代表曲だね。

 

さて、そろそろ不出来なエントリーをリリースしようか。トッド、それからリュウジ、遅ればせながら「誕生日おめでとう」。

 

ホワイト・ナイト

ホワイト・ナイト

 

 

 

身も蓋もなく

 

今回のエントリーは我ながらとりとめないと思うよ(と予防線を張っておく)。

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「ちょいオヤジ」の編集者が新雑誌を創刊し、その紹介記事がひどいと話題になっている。ちょい長いが、一部をまるっと引用してみよう。

🔗 「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ | ニコニコニュース

 女性を誘うなら、自分の趣味や知識を活かせる場所を選ぶのが賢い「ちょいワルジジ」の策です。

 創刊号では「きっかけは美術館」という企画を予定しています。「美術館なんて出会いの場所になり得ない」と思うかもしれませんが、実は1人で美術館に訪れている女性は多い。しかも、美術館なら一人1500円程度だからコストもかからない。

 まずは行きたい美術館の、そのときに公開されている作品や画家に関する蘊蓄を頭に叩き込んでおくこと。

 熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと、ガイドのように次々と知識を披露する。そんな「アートジジ」になりきれば、自然と会話が生まれます。美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多いので、特に狙い目です。

 会話が始まりさえすれば、絵を鑑賞し終わった後、自然な流れで「ここの近くに良さそうなお店があったんだけど、一緒にランチでもどう?」と誘うこともできる。もちろん周辺の“ツウ好み”の飲食店を押さえておくことは必須です。

カンベンしてくれよ~と頭を抱えたくなる最低の記事だ。私的には、美術館でのナンパ術を得意げに指南するちょいワル爺の断末魔が、安倍政権を擁護するリフレ派経済評論家や政治アナリストの口調とみごとに連動しているようで失笑を禁じえないが、いずれにせよ、美術館では静かに絵画鑑賞に浸りたいぼくとしては、こういう回春に勤しむばかりの煩悩爺さんの存在は迷惑千万きわまりなく、早いとこ萎んでほしいと切に願う。

 

 

ところで先日、このニュースを観ていて環七さん(仮名)がポツリとこんな感想を漏らした。

www3.nhk.or.jp

「汚染した部屋に3時間待機しろ、出てくるなって命令されたて、作業員がかわいそうじゃなかや。シロウトにでも深刻な健康被害が想像できる。原子力利用は自然の摂理に反しておる」

「や、いいこといいますね。まったくそのとおりです」とぼくは大いに相槌を打った。

「だけど環七さんは前に言ってましたよね? 原発がないと日本経済は立ち行かんと。あの意見、撤回するんですか?」

ぼくの意地悪な質問に、環七さんはなんともいえないばつの悪そうな表情を浮かべた。

「そりゃ原発が稼動せんと、日本株式会社の経営は成り立ってゆかんだろ。それが現実ですばい?」

「でも、それが現実ちゅうならば、日本海側に原発がズラリと並んでおるのは、国家の防衛という観点から見て、はなはだ危険ではなかですか?」

「そりゃそうたい」環七さんは麻生太郎のように口の端を歪めて笑った。

「ばってんミサイルは落ちてこんよ。いくら北朝鮮でも、そぎゃん莫迦なことはせんど。だけん、あんまり挑発するようなメッセージを発信してはいかんね」

安倍総理が、ですか?」

「……日本政府として、な」

ぼくはそこで追及をやめた。ここまで言えば、ぼくの言わんとしていることが伝わっているだろうと踏んだからだ。

 (※環七さんは以下の過去記事に出演してます)

kp4323w3255b5t267.hatenablog.com

 

 

歳をとるごとに、人は身も蓋もなくなる。婉曲な言いかたを避け、「ボス!と言う」ようになる。そのストレートさは、時として粗暴さに変わる。だけど、もうちょいスマートに表出できないものかしら、日本の殿方は。

さて、ここで唐突に、ドゥービー・ブラザーズのギタリストとして有名な、ジェフ・“スカンク”・バクスター氏の「ギター教則ヴィデオ」をご覧いただきたい。辛らつなアメリカンジョークが満載の、愉快な映像である。


Jeff Baxter American Guitar technique 1/9

ジェフ・バクスターの教則ヴィデオはプロのギタリストから教わった。彼いわく、「身も蓋もないし、ちっとも役に立たないけど、言ってることはぜんぶ正しいんだ」。


Jeff Baxter American Guitar technique 2/9

エフェクター(ギターの音色を変化させるアタッチメント)に振り回されるな、使いこなせと説く。エフェクターなしでは弾けないとぬかすギタリストをこき下ろし、機材の高騰には「せっかく稼いだのに何千ドルも支払わなくちゃいけない、頭にくる」と。


Jeff Baxter American Guitar technique 3/9

ところが、スポンサーに気をつかってか当時の流行機器、ギター・シンセサイザーを紹介。

「ぼくはちゃんとテクノロジーを活用してるぞ。ディレクターが、何かやってくれと要求したら、もちろんさと答える。(演奏)OK、ありがとうといって、彼は小切手を切ってくれるのさ。(違う音色で演奏)ほら、これでまた別の小切手だ。シンセを使いこなせれば、新車のローンだって軽く払えるようになるんだぜ」


Jeff Baxter American Guitar technique 4/9

この教則ヴィデオで一番ためになる部分、リズムギターの弾き方。「リズムを弾けりゃ皆きみと一緒にプレイしたがるぞ。B.B.キングにほめられたんだ、きみのリズムは絶妙だよって」。なんだ、それを自慢したかったのか。


Jeff Baxter American Guitar technique 5/9

これも大事なバックビートについて。ジェフ・バクスターは4ピース・バンドにおけるリズムの構造を分かりやすく分析してくれる。「グルーヴを生み出すのはカッコいいんだぜ、きみもやりたくないか?」って言いながら、「完璧なリズム・ギターというものは、いないともの足りなくて、いても分からないというものだ。誰にも気づいちゃもらえないのは残念だけど、反対に最高なのは誰かが気づくと、『凄いな、明日も来てくれよ、二倍払うからさ』ってことになる」、そこかよー。


Jeff Baxter American Guitar technique 6/9

R&Bにおける「ポップコーン」奏法を中心にシンコペーションとグルーヴの極意を伝授。「やらなくてはできないし、やっても分からない」と禅問答みたいだが、いいこと言ってんだよなあ、「いいリズムギタリストの条件は透明なギタリストになることだ」。でも、そのあとやっぱり「二倍稼げるようになるぞ」ってオチになる。


Jeff Baxter American Guitar technique 7/9

アコースティック・ギターにおける音の響きに注目を促す。「3rd(3度)はなくても1と5でたいていのことができる」と、西洋音楽における完全5度の重要さを説明。


Jeff Baxter American Guitar technique 8/9

ピッキングの違いでさまざまな音色をだせるぞと実例を挙げているけど、正直いってジェフ本人が説明に飽きてきているのがもろバレ。真剣に観る価値がある部分は4/9~6/9にかけて。


Jeff Baxter American Guitar technique 9/9

「ぼくはレス・ポールの“Lover”を凄い曲だと思って、三ヶ月かけて練習しまくって弾き方をマスターした。でも、あとで誰かから『あれは三倍速で録音しているんだよ』と教えられて『うそだろ?』と嘆いた。けど、弾き方を覚えたから結果オーライさ。ありがとう、レス」

 

ジェフ・バクスターは居るだけで楽しくなるヤツだろう。あんたの要求はこれだよね?と即座に弾いて雇い主の期待に応える。まさにスカンク。調子いいけど仕事か捗るとの評価はスタジオで働く演奏家には必要不可欠な要素だ。軽薄そうなふるまいとあけすけな物言いは、百戦錬磨のミリオタギタリストに相応しい。

(註:彼は軍事アナリストアメリカ国防総省の軍事顧問を務めている。)

愛称の「スカンク」は「いやつ」って意味だそうだ。ちょいって形容、ぼくはあまり好きではない。けど、何かにつけ『儲かるぞ、評判になるぞ』と身も蓋もないことを言いながらプレイしていく実行力というか逞しさは、ジェフから見習ってもいいかなと思っている。

では最後に、ぼくの大好きなYoutubeの映像を掲げよう。ギターをアンドリュー・ゴールドに任せ、ジェフ自らはコンガを叩いた(リトル・フィートのリチャード・ヘイワードがドラマーだ!)、ホセ・フェリシアーノの紹介するリンダ・ロンシュタットの出世ナンバー「いあなた」。


Linda Ronstadt - You're No Good

これほど充実したTVでのライブ演奏は、そうそうないよね?

 

 

 

ギター・ワークショップ・コンプリート・ワークス

ギター・ワークショップ・コンプリート・ワークス

 

 

ジェネシス━━また下らない名前のバンドだ。

 

ジェネシス━━また下らない名前のバンドだ。 でも彼女がそのネーム入りのシャツを着ていると、それはひどく象徴的な言葉であるように思えてきた。起源。>

村上春樹ダンス・ダンス・ダンス』(上)講談社文庫、旧版72-73ページより抜粋

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ピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスのアルバム群。上から2枚めの『侵入』、『怪奇骨董音楽箱』、『フォックストロット』、『月影の騎士』。

 

①「ミュージカル・ボックス」デモ


anthony phillips - musical box demo (1969)

創世記。先鞭をつけたのは初代ギタリストのアンソニー・フィリップスであることを忘れてはいけない。彼の整えた滑走路に導かれてこそ、初期ジェネシスは無事に離陸できたのだ。

 

②「ナイフ」/初出『侵入』


Genesis - The Knife - (HD HIGHEST RES ON YT) Bataclan 1973 - SIX DOLLARS LIVE

この「ナイフ」が全ジェネシスの映像では一番凶暴。まだ未熟なアンサンブルがパンキッシュだ。フィルは警笛をピーピー鳴らすわ、ピーター最後はマイクスタンドを投げつけるわ。

 

③「ウォッチャー・オヴ・ザ・スカイズ」/初出『フォックストロット』 


Genesis - Watcher Of The Skies - Midnight Special - 20/12/1973

前にも書いたが米TV番組ミッドナイト・スペシャル出演時のジェネシスは素晴らしい。ピーター・ガブリエルとは何者か?後奏におけるマントのひるがえしから取り乱した振る舞い、鏡を外した瞬間に見せる虚無の視線まで。人類に絶望した監視者の演技が観るものにショックを与えただろうことは想像に難くない。

 

④「ミュージカル・ボックス」/初出『怪奇骨董音楽箱』


Genesis - The Musical Box - Midnight Special - 20/12/1973

同上ミッドナイト・スペシャルより。この番組のピーターがエロ爺の強慾を最も達者に演じている。「フレ〜ッシュ」と舌舐めずりする箇所の手つきのイヤらしさったら格別だ。

 

⑤「ゲッテム・アウト・バイ・フライデー」/『フォックストロット』


Genesis - Get 'Em Out By Friday, Live In Reggio Emilia, Italy 1973

ジェネシス在籍時のピーターが書いた歌詞で見逃せない側面は、SFや寓話を装った社会批評である。「金曜日までに追いだせ!」は国家による「地上げ」の歌。ロマンティックなおとぎ話の世界が次第にグロテスクなディストピアへと変貌してゆく。つまりガブリエルは「プログレに政治を持ちこんだ」のだ。

例えば『月影の騎士』の原題である、“ Selling England by the Pound ”(英国をポンドで売ります)は、当時の労働党のスローガンから採られた。

 

⑥「ピーター七変化」


The Many Costumes of Peter Gabriel

これをアップした人は私と同じ趣味だ(笑)。意味不コスプレイヤー・ピーターは正しく「変態」。低予算でも創意工夫で最高の演出家。

ただのタンブリンも、ピーター・ガブリエルが手にした途端、それは神器と化す。

「音楽箱」の爺さんは“Creepy Geezer”、「666」の(エヴァンゲリオンに出てくる使徒みたいな)プリズムは“Magog”、「スリッパーマン」は「ハロウィンパーティから追い出されること確実」と記されている。で、一番人気はやはり赤いドレスの“Sexy Fox”。

 

⑦「サパーズ・レディ」/『フォックストロット』


Genesis - Supper's Ready (Live 1972)

英国人の意識に潜むものを暴きだしたかったんだピーター・ガブリエル談。それを一言で表せば「エロス」である。ピーターの過剰なコスチュームは抑圧されたエロスを開放するための手段であり、ジェネシスの歌詞には「卵」やら「花」やら「蛇」やら、エロスの暗喩があちこちに認められる。

「晩餐の準備」の場合、72年のピーターが歌うと、まさに大天使ガブリエルが地上に降臨したって図になるけど、76年のフィルが歌う姿は、約束の地に導く(レンブラント描くところの)モーゼのように見えるね。


Genesis Live 1976 with Bill Bruford: Supper's Ready (Pt. II)

ビル・ブルフォード在籍時の76年はフィルの誠実な歌い方がとても好き。そして観客の真剣な眼差しとウェーブに心打たれる(静止画では約2名が寝てますが)。

陽の光の中に天使が立っている。大声で叫んでいる、「これが大いなるお方の晩餐です」と 。君主の中の君主、王の中の王が、子らを家へと導くために帰ってきた。彼らを新しいエルサレムへ連れて行こうと。

ウィリアム・ブレイクの詩や図版に出てきそうな場面だ。

 

⑧「エピング森の戦い」/初出『月影の騎士』


Genesis - The Battle Of Epping Forest - In Concert 1974 2DVD set

私が(トニー・)バンクスはショスタコ的だと評した理由は「森の歌」からの連想だけではない。これなど随所にショスタコーヴィッチの影響を見出せるではないか。「おしゃれ」とはほど遠い「♪ピ~クニック」。

マイケル・ラザフォードの貢献、とくにコーラスでの活躍も挙げておきたい。

 

⑨「ファース・オヴ・フィフス」/初出『月影の騎士』


Genesis - Firth Of Fifth

YouTubeの再生回数が飛び抜けて多い曲。ジェネシスの全レパートリーでも指折りに数えられる。作曲者バンクスの構築的なフレーズとスティーヴ・ハケットの叙情的なギターソロと、山場が二つも三つもある。

 

⑩『眩惑のブロードウェイ』(全)

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じつはCDを購入したのは初めて。帯のオレンジが色あせていたけど、かまうもんか。

ぶっ通しで聴くと分かるけど、前作までとの違いはロマンチックの入る隙がまるでないってとこ。うっとりさせない「リアル」にひりひりする。


The Lamb Lies Down On Broadway - Genesis [Full Remastered Album] (1974)

ちょうど『眩惑のブロードウェイ』を聴きながら筒井康隆のインタビュー記事を読んでいたところ(あのウルトラヘイトスピーチの約一か月前)、マルクス兄弟におけるシュールレアリズム云々のくだりで「さっぱり笑いの受けないグルーチョ」の歌詞が耳に飛びこむという、シンクロニシティを経験した。

Groucho, with his movies trailing, stands alone with his punchline failing.
"Broadway Melody Of 1974"

CD1枚め後半、レコードだとB面の「カウンティング・タイム」などのポップな曲調ではマイケル・ラザフォードのベースが冴える。CD2枚め、ブライアン・イーノのSEが大活躍する「待合室」では、後半のいわゆる「ジャム」がどことなくレディオヘッドの『OKコンピューター』を思わせる。とくにスティーヴ・ハケットのきらきらしたアルペジオが降り注ぐところなんか。さらに「エニウェイ」から「ラミア」にいたる三連打では、これぞハケットの真髄ともいうべき捻った旋律をたどるソロが堪能できる。とくに「超人的麻酔医師」のテンポ・ルバートで雪崩をうつ下降フレーズには、他のギタリストでは味わえぬカタルシスがある。

それにしても「ラミア」!ピーターはエロスの根源を描くのに長けた作家だ。これほど性愛の快楽と射精後の空虚を的確に表した歌詞がはたしてあるだろうか?(もちろん表層的な解釈である。詩の内容はむしろ……いや頓珍漢な説明はやめておこう。)

でも『眩惑のブロードウェイ』についてなら、いつまでも語っていられる。


Tony Banks the colonny of slippermen "genesis keyboard"

「スリッパーマン」の鍵盤パートを「弾いてみた」この映像を観ると、『眩惑のブロードウェイ』がなぜ飽きないのかが分かる。トニーの和声の工夫の複雑にして巧妙なこと。動画をアップしたオルガン奏者にも拍手。

さて、スティーヴン・キングの小説と同じタイトルの奇妙な最終曲“It”には、

'cos it's only knock and knowall, but I like it.

という必殺リフレインがあるけれど、元ネタであるローリング・ストーンズ、『イッツ・オンリー・ロックンロール』とのタイムラグはどれくらいだろうか?

リリース時を調べてみたらストーンズは1974年10月、ジェネシスの『ブロードウェイ』は1974年11月。1か月後とは、早い!まさに「新聞読み(Paperlate!)」の面目躍如である。

 

しかし、過酷なツアーに倦み、家族との平穏な生活を望んだピーター・ガブリエルは、ザ・フーの『トミー』、ピンク・フロイドの『壁~ウォール』と並ぶ三大ロック・オペラ(と呼んでもさしつかえないだろう?)をものにしたジェネシスを突如として去ってしまう。 取り残された四人の心境をトニー・バンクスは(上流階級独特の婉曲さで)こう語った、

許されることではないと思った」。フィル・コリンズ編につづく?たぶん)

 

 

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